hirax.net::モアレはデバイスに依存するか?::(1998.11.20)

モアレはデバイスに依存するか? 

 まず、以下のような2つの同心円画像をつくる。(なお、このような画像を簡単に作るために、Photoshop用のフィルターを作った。詳しくは「Photoshopの同心円フィルターを作る。」を参照して頂きたい。)
 以下の2つの画像は少し中心位置がずれている。また白く見えるところは255の値を持ち、黒く見えるところは0の値を持っている。(画像自体は512x512であり、表示の際に128x128に変換している。だから、この画像をそのまま保存して頂ければ、512x512のサイズで保存することができる。)
2つの同心円画像、画像1と画像2。上と下は少し中心位置がずれている。
 次に画像1と画像2をPhotoshopで重ね合わせる。ただし、 Photoshopでは黒=0であり、白=255である。すると、
  1. 黒(0)+黒(0)=0(すなわち黒)
  2. 白(255)+白(255)=255(すなわち白)
  3. 黒(0)+白(255)=255(すなわち白)
となってしまう。最初の2つはLBPで出力したOHPの場合と同じだが、最後の(黒+白=白)が違う。黒の方が白より値として小さいのが原因である。そこで、次のようにしてやればよい。
  1. 画像1を白黒反転し、画像1'を作る。
  2. 画像2を白黒反転、画像2'を作る。
  3. 画像1'と画像2'を加算し、画像3を作成する。
  4. 画像3を白黒反転し、画像3'を作成する。
 この画像3'が求める画像である。物理学的には波の干渉などの説明に使うと便利なOHPである。
OHPの重ね合わせをPhotoshopで真似た画像3'

 それでは、以上の画像変換を小さい画像でまとめて表示してみる。
計算実験A:同心円のOHP風重ね合わせ(画像1+画像2=画像3')
画像1
画像2
画像3'
 点光源から発される単波長光の干渉の説明にはちょうどいいOHPである。

 ところで、上の3つの画像をそれぞれ平滑化してみる。すると、以下のようになる。

画像1,2,3'をそれぞれ平滑化したもの
画像1を平滑化したもの
画像2を平滑化したもの
画像3'を平滑化したもの
 かなり平滑な、画像1と画像2を重ね合わせた画像3が平滑でなく、明確な模様を持つのは不可解である。レーザーの干渉であれば当然このような干渉縞ができるが、これはレーザー光の重ね合わせなどではない。それでは、一体なぜこのような現象が生じるのだろうか。なぜ、平均値が保存されていないのだろうか。
 以下でもう少し詳しく考えてみる。

重ね合わせにおける加算演算

 下のような画像A、画像Bを考える。拡大してあるが、画像自体は1x2ピクセルのサイズである。また、白=255、黒=0とすれば、いずれも平均値は128程度である。
画像A、画像B
 ここで、
  1. 黒+黒=黒
  2. 白+白=白
  3. 黒+白=黒
という加算演算がなりたつとして、いくつか演算をしてみる。

加算演算の例(左+中央=右)
画像A
画像A
画像A
画像A
画像B
画像C
画像B
画像B
画像B

 これに平均値も示すと以下のようになる。ここでは、LBPなどの紙に出力する際によく使われる、白=0、黒=255という表記をする。

加算演算の例(左+中央=右)
下段は平均値の加算における変化を示す。
画像A
画像A
画像A
128
+ 128
= 128
画像A
画像B
画像C
128
+ 128
= 256
画像B
画像B
画像B
128
+ 128
= 128

 同じ128+128でも、結果は128になるか256になるかの2種類ある。同じもの同士であれば、結果は128であるし、そうでなければ256になる。そのために、平均値が保存されないのである。このように、平均値が保存されない、言い換えれば、加算演算の結果が線形でない場合にはモアレが発生することになる。もしも、マクロに見て「128+128=256」が多い領域があれば、それはモアレの黒い部分であり、そうでない所は比較的明るい部分であるということになる。

ロゲルギストの-モアレが生じる理由は黒さの非線形性による-という言葉はこの「128+128=128、と128+128=256という結果の違いがあり、それがモアレの原因である」ということを示している。

 それでは、そのような現象「128+128=128という非線形性」が起きない状態を作ってみる。それには加算の結果である黒がサチらないようにすれば良い。

サチらない加算演算の例(左+中央=右)
下段は平均値の加算における変化を示す。
画像A
画像A
画像A
64
+ 64
= 128
画像A
画像B
画像C
64
+ 64
= 128
画像B
画像B
画像B
64
+ 64
= 128


 これでは、いずれの状態でもグレー+グレー=黒、すなわち、64+64=128という風になっている。これは黒がサチっていないからである。すなわち、-モアレが生じる理由である黒さの非線形性さ-がない状態になっている。
 それでは、この状態で計算実験Aと同じことをしてみる。それを計算実験Bとする。念のため、計算実験Aをもう一度示す。

計算実験A:同心円のOHP風重ね合わせ(画像1+画像2=画像3')
画像1
画像2
画像3'
 
計算実験A:画像1,2,3'をそれぞれ平滑化したもの
画像1を平滑化したもの
画像2を平滑化したもの
画像3'を平滑化したもの



計算実験B:グレー+グレー=黒 の場合
画像1の黒=0を128にした画像4を平滑化したもの画像2の黒=0を128にした画像5を平滑化したもの 画像4,5を加算したもの

 モアレができていないのがわかるだろうか。これはグレー(128)+グレー(128)=256(もっと黒)で線形な関係が成り立っているからである。平均化された画像で濃度がどこも倍近くになっているのがわかると思う。

モアレのデバイス依存性

 LBPではトナーが有る所、すなわち、画像が有る所はほぼ完全に影になる。例え、2枚重ねてもやはり影のままである。しかし、インクジェットならどうだろうか。OHPで使うと、黒といってもLBPに比べて薄い。1枚のOHPの黒よりも、2枚のOHPの黒を重ねた方がかなり黒い。ということは、「黒+黒=もっと黒」と同じである。したがって、OHPを重ね合わせても濃度が保存されている。すなわち、モアレが比較的に出来にくいことになる。ということは、OHPを何で作るかによってモアレの具合が変わることになる。付け加えれば、実際のOHPの場合には透過率を考えなければならない。透過率というものは単なる重ね合わせでない、具体的に言えば、加算演算でなく乗算演算である。それでも、話としては大体は同じことである。

 今回はOHPの話に絞ったが、透過原稿でなく反射原稿についても同じである。むしろ、反射原稿の方が乗算演算でなく、加算演算である分、今回の話そのままである。したがって、一般的なモアレについてインク(もしくはそれに相当するもの)の加算演算の具合によって、モアレの発生具合が違うと考えられる。

 また、話の単純のために白黒の話に限ったが、カラーのモアレなどについてもほぼ同じであろう。トナーとインク、また、混ざりやすいものと混ざりにくい物の違いなどでも面白い結果が出そうである。TVや液晶のようにほぼ線形の重ね合わせが成り立つであろうものと比較するのも面白そうである。

 今回の話を考えている途中で、OHPの重ね合わせと干渉の共通点については、結構奥が深いような気がしてきた。そのため、別の回でもう少し詳しく考えたい。


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