昨日、東京都現代美術館で開催されている、荒木経惟の「センチメンタルな写真、人生 - Sentimental Photography, Sentimenatal Life - 」を見に行った。今回展示されていたものはかなりの数がコピー機によるものだった。昔から、荒木経惟は写真をコピーしたもので表現を行っていた。そこで、今回はコピー機による映像表現について、技術的な考察も加えて考えてみたい。
今回の写真展の中で「花陰」はインクジェットによるものであったし、「上海」、「台北」は電子写真式コピーによるものだった。もっとも、「台北」の方はもしかしたらインクジェット式のコピーによるものだったかもしれない。その他にも大きいサイズのものはほとんどがカラーコピー機を用いていたようだ。何しろ、協賛の所に、エプソン、富士ゼロックス、キヤノンとコピー・プリンターメーカーが勢ぞろいしていた。しかし、見ていた人はコピーされた画像だとは思っていなかったのではないだろうか。
ところで、電子写真といっても、デジタルカメラのことではない。オフィスのコピー機などで使われている方式のことである。実に勘違いしやすい名前である。荒木経惟は1970年に「ゼロックス写真帳」という私家版の写真集を作っている。名前の通り、ゼロックスの電子写真式コピー(辞書にも載っているくらいだから、すなわちゼロックスといってしまって良いだろう)を用いて作られた写真集である。荒木経惟はゼロックス写真帳について「エッジ強調」された感じを楽しんでいたらしい。
ゼロックス写真帳 | ゼロックス写真帳の中身 | 物事 |
全25巻 |
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技術的な内容であれば、電子写真やインクジェットについては、
ここでも、電子写真について、簡単に説明しておく。下に示すのが電子写真プロセスである。中央の青い円が感光ドラムである。
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(少なくとも昔の)コピーの特徴は、
当初は、その挙動を模してPhotoshopでフィルターを作成してみようかと思ったのだが、Photoshop5にはデフォルトに「コピー」というフィルターがあることに気づいた。これまで気づかなかったが、使ってみると面白い。なかなかできが良いので、それを早速使ってみることにした。今回は、自分でやりすぎるのは少しまずいのである。
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画像のエッジ部分が黒くなりやすいのであるから、画像の全面にエッジを入れてやれば、ちゃんとベタがあっても再現できる。というわけで、昔(といっても数年前に私が大学で使用していたもの)のコピー機には画像コピーの際に用いるOHP状のスクリーン・シートがあった。そのスクリーンと画像を重ねてコピーすれば、きれいに画像がコピーできるのである。
試しに、同じ処理をPhotoshop5で再現してみる。
オリジナル写真(FinePix700により撮影) | コピー後 |
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2. |
3. 上の画像の一部の拡大
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それでは、次はカラーコピーについて考えてみたい。荒木経惟は「カラーコピーの色っていうのは、妙になまめかしい」と言っている(荒木経惟写真全集13後書き)。これは一体どういうことだろうか。技術的に考えてみる。まずは、カラーコピー風な画像テストをしてみる。カラーコピーの場合は、
(CQ出版 洪 博哲著 お話・カラー画像処理より引用) |
それでは、先に上げた3つの項目を念頭において、画像処理を加えることにより、Photoshopでカラーコピーを模した写真を作ってみる。実際にやったのは、彩度を高くして、ガンマカーブを急にして、使用色を128色に制限してみた。それが右下の写真だ。左がオリジナルである。色空間の制限などもするとそれっぽいと思うのだが、あまり具体的にやるのは、諸般の事情により控えておく。
オリジナル写真(FinePix700で撮影) | カラーコピー(風に処理)したもの |
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左上の写真の方が「空気が写っている」と思う。しかし、右の写真はそれに比べて、安手のキャバレーのようである。それが、荒木経惟のいう「カラーコピーの色っていうのは、妙になまめかしい」ということかもしれない。色数が少なく、色が強く、しかも変な色になる、言いかえれば、下品(特に悪い意味ではない)な色になりやすいせいだろう。技術的に言えば、色空間がせまく、ガンマカーブが急であることが、「カラーコピーの色っていうのは、妙になまめかしい」ことの理由なのではないだろうか。荒木経惟は「カラーコピーは未完成だから」とも言っている、いつかカラーコピーが完成品になる日は来るのだろうか。