2000-08-16[n年前へ]
■エアコンの風は心地よく吹くか?
真夏の夜の夢 流体力学入門編
私は長野県の野辺山という高原で幼い時期を過ごしたせいか、暑さにとても弱い体である。なので、真夏の夜はエアコンが欠かせない体と根性になってしまった。エアコン無しではろくな夢が見られ無いどころか、眠れなかったりするのである。気持ちの良い「真夏の夜の夢」を見るためには、エアコンがとっても重要なのである。
つい先日、そんなエアコンの話題が「今日の必ずトクする一言」に載っていた。それが、
- エアコン用流体素子(PATPEND.)のナゾ
- ( http://www.bekkoame.ne.jp/~jh6bha/higawari.html#000819 )
- 復活する冷蔵庫脱臭剤のナゾ(1/f揺らぎと活性炭編)
- ( http://www.bekkoame.ne.jp/~jh6bha/higawari.html#000901)
(おそらくhiraxさんあたりがやってくれるのではなかろうか)と話題のパスまでされている。いきなり、ボーとしているところを授業で当てられた気分である。
とはいえ、「エアコンの流体力学」というのもちょっと興味のある話題でもあるし、パスされたからにはやってみなければなるまい。そういうわけで、真夏の眠れない夜のパズル代わりに挑戦してみることにした。
さて、部屋の中の「エアコンから送られる風の様子」を計算するということは、流体力学の計算をするということになる。流体力学の運動方程式(ナビエ・ストークス式)に代表されるような方程式群を解かなければならないのである。そこで、以前
の時にいじりかけたMichael Griebel氏らによる非圧縮性流体のNast2Dのコードをもう一度引っ張り出して使ってみることにした。このNast2Dは非圧縮性二次元流れを計算する教育用のソースコードである。詳しくは- TUM INFO V- Homepage - ( http://www5.informatik.tu-muenchen.de/home_us.html )
- Numerical Simulation in Fluid Dynamics A Practical IntroductionISBN 0-89871-398-6
計算するモデルは次の図に示すような部屋である。四畳半一間であるかもしれないし、100畳以上の大きな広間かもしれないが、とにかく正方形の部屋だ。向かって左の青い丸部分にはエアコンがあり、そこから冷たい空気が送られてくるのである。そして、この部屋には何故かタンスがおいてある。「やっぱり、この部屋は四畳半一間じゃないの」というツッコミは言ってはいけない約束である。とりあえず、このタンスが向かって下側にある紫の部分である。このタンスが、エアコンから送られてくる冷た〜い空気流の障害物となるのである。
暑い真夏の夜に、こんな部屋をエアコンで涼しくする時のことを考えてみよう。気持ちよく眠るために、何はともあれエアコンのスイッチを入れるわけだ。そうしないと、暑くて眠れないから当然である。
そして、そのエアコンには送風モードが何故か三つあるのだ。次のような三種類の送風、
- 真っ直ぐ送風するモード
- 単純な首振り送風をするモード
- 山本式エアコン用流体素子を用いた送風をするモード
空気流の速度分布の計算結果を次に示してみよう。
を用いた送風の場合 |
また、これらの場合の計算結果を動画で示したものをMPEG4形式のAVIファイルとReal形式のファイルにしたものを以下に置いておく。エアコンから空気が送られる様子を知るには、何はともあれこの動画を見て頂きたい。なお、手元のRealProducerの制限のために、このReal形式のファイルは古いバージョンのRealPlayerだとアップデートが必要になってしまった。また、MPEG4のCodecが導入されていない場合には、DivXなどをインストールする必要がある。
とりあえず
- 真っ直ぐ送風している場合 MPEG4 AVI ( 289KB ) Real形式( 73KB )
- 単純な首振り送風の場合 MPEG4 AVI ( 577KB ) Real形式( 89KB )
- 山本式エアコン用流体素子を用いた送風の場合 MPEG4 AVI( 693KB ) Real形式 ( 92KB )
また、それぞれのMPEG4形式の動画のファイルサイズを見れば、それぞれの場合の送風による空気流の速度分布の複雑さは一目瞭然である、と思う。真っ直ぐ送風している場合はとにかく単純な速度分布であって動画ファイルサイズも結果的に小さくなっているのに対して、山本式エアコン用流体素子を用いた送風の場合はかなり複雑な速度分布になっていて動画ファイルも結果的に大きくなっているのである。
動画を見ることができない人のために、それぞれの場合の連続した3つの瞬間における部屋内の空気流の速度分布の静止画も示しておく。
1 | 1 | を用いた送風の場合 1 |
これを見ると、「真っ直ぐ送風している場合」にはエアコンの正面は強烈に風が当たっている(つまり冷えまくっている)ことがわかるが、タンスの陰になっている部屋の隅などはほとんど空気が動いていないことがわかる。また、「単純な首振り送風の場合」は送風方向を動かしているとはいえ、その送風方向の変化はかなりゆっくりであって部屋の中の空気流の速度分布はそれほど急激には変化していないことも判ると思う(そういう風に計算しただけではあるが...)。いずれにせよ、もしもこの部屋の中にあなたがいたとしたら、体の決まった部分にのみ冷た〜い風があたることになるわけだ。それは体にはちょっとよろしくなさそうである。
一方、「山本式エアコン用流体素子を用いた送風の場合」は時々刻々と送風方向が変化しており、まるで部屋を舐め回すかのように、冷た〜い空気が送られていることがわかると思う。この部屋の中にもしあなたがいたとしても、体のごく一部分だけに冷たい風が当たるようなことはなく、それほど体に悪くないことが予想されるわけである。
さて、このページもかなり重いページになってきた。本来はこのタンスの裏側の空気が澱みやすい場所の「空気の入れ替わり」を、送風の具合を変えた上で調べてみたいわけであるが、それは次回のお楽しみ、ということにしておきたい。とりあえず、「真夏の夜の夢 流体力学入門編」はここら辺で終わりにしたい。
さて、夏休というわけでこんな景色のところで気持ちの良い風に吹かれてみたりするわけである。この写真の先の方の海の向こうに見えているのは左が伊豆半島で、右が三保の松原の辺である。
暑い夏の夜はエアコンが欠かせない体ではあるけれど、気持ちの上で言えばエアコンよりはおんぼろの扇風機の方が好きだし、扇風機よりも山の上の風の方がずっと好きだ。いつか、山の上を吹き抜ける風の音を録音して、その1/f揺らぎでも調べてみようかなと思うのである... それとも、そんなことをしてもツマラナイだけかな?
2007-08-15[n年前へ]
■DX7とジャングル・ジムと夏の日
YAMAHA DX7が全盛のあの頃「ジャングルジムのてっぺんに行けば、別のパラレルワールドに行けるかも」と歌うこの曲はポップでとても好きだった。スパイ大作戦が大好きだった頃、スパイ大作戦に出てきそうなスーツケース状キーボードのYAMAHA CP80の音があふれていた。街中のレコード店には、鈴木英人が描くナイアガラ・トライアングルのLPジャケットが飾ってあって、古ぼけたスタジオには、CP80が鉄琴キーボードのローズが置いてあった。そんな時代、"FM変調"というコトバと新鮮な音とDX7が登場した。
上の空をあおぎ眺めた写真でも、下の路地をうつむき眺めた写真でも、眺めた景色を送って頂けたら幸いです。そういえば、夏の暑い日にレンタルレコード店 You & I(友愛)からレコードを借りた。自転車の前カゴに入れて、花小金井から小金井街道を走って帰ると、レコードがダリの絵のようにゆがんでいた。今日は、その日と同じくらい暑い夏の日。
2011-12-16[n年前へ]
■「”1画素・1フレームのみ”からの動き検出!?」のナゾを解く
画像中の「動き」のようすを「オプティカルフロー」という言葉で表します。そして、「道路をビデオカメラで撮影し、画像中の(各画素の)動き=オプティカルフローから、車の速度を検出する」といったような用途に使われたりします。ちなみに、オプティカルフローを表す方程式は、(そのまんまですが)オプティカルフロー偏微分方程式と呼ばれます。
先日、「画像中の動き=オプティカルフロー」を「単一フレームのみで知ることができる」という技術展示を見て、ん?と首をかしげました。”動き”というのは、時間を経て画像がどう変化(移動)したかということですから、もしも、時間方向に関する何らかの手がかりがなかったとしたら、「動き」というものは知りようがない情報であるからです。
今回展示するシステムは、時間相関イメージセンサを用いることで始めて可能になったもので、1画素、1フレームだけでオプティカルフローを検出できます。フレーム間の移動量の制限はありません。アルゴリズムは数学的に厳密な解を少数回の代数計算だけで生成します。
技術報告パネルに書かれた数式を眺め、動作をイメージしてみて、その疑問を解決する「答」がわかりました。ここで言う「単一フレーム」は、「ある瞬間の画像」を意味する「(いわゆる)フレーム」ではなかったのです。私が首をかしげた技術、「時間相関イメージセンサ(複素正弦波変調撮像)によるオプティカルフロー検出」を(私と同じように)疑問に感じた人もいらっしゃるかもしれませんので、この「単一フレームのヒミツ・トリック」に関するメモを、下に書いておきます。
まず、時間相関イメージセンサ(複素正弦並変調撮像)は、(たとえば1/30秒毎に映像を出力するのであれば)1/30秒の間ずっと各画素への光量を「三角波を掛け合わせた上で」積分し続けます。そのように三角波を掛け続けつつ積分し続けた結果を、1/30秒の後に出力します。これが「1フレーム」です(図中の①「式をイメージしてみる」という部分です)。…勘が鋭い人なら、この時点でもうおわかりでしょうが、この技術報告中での「1フレーム」は「時間を止めた”ある瞬間”の画像」ではない、というところがミソであり、「んっ?」と感じる疑問・謎を解くカギです。
もっと「わかりやすく」するために、三角波を矩形波に変え・1フレーム内の”時々刻々”を”2つ”だけ考えてみることにしましょう。つまり、「本来は1フレーム内で連続的に三角波と画素値を掛け合わせつつ・積分する」という処理を、「1フレーム内の前後2瞬間に矩形波と画素値を掛け合わせて、さらに足す」と単純化してみることにします(図中の②「わかりやすさのために、Sin波を矩形波にしてみる」という部分です)。
すると、話が単純明快に見えてきます。なぜなら、(たとえば)1フレーム内の前半で矩形波の値がマイナス1・後半がプラス1とすると、「1フレーム内の前後2瞬間に矩形波と画素値を掛け合わせて、さらに足す」ということは、「1フレーム内の後半画像から前半画像を引く」という、まさに異なる時間の映像間で「差分画像」を計算する、という処理になっているからです。…それは、まさに普通にオプティカルフローを求める(よくある)手順そのまま、です。
というわけで、「時間相関イメージセンサ(複素正弦波変調撮像)によるオプティカルフロー検出」を「わかりやすく」してみました。
しかし、このカメラの「発想」は意外で面白く感じます。普通のカメラは1フレームの間光を単純に積算し続けていたりするわけですが、このカメラでは単純な積算でなく時間方向に「演算」を行います。他の用途にも色々応用ができそうですね。