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1999-02-27[n年前へ]

画像ノイズ解析について考える 

考える理由

 画像ノイズ解析を目的として、2次元フーリエ変換を用いて周波数解析をすることが多い。かねがね、このやり方について疑問を感じていたので少し考えてみたい。

 その疑問とは次のようなことである。

  • 通常の2D-FTでは、入力データ全領域での周波数解析を行う。従って、単発のパルスのようなノイズはバックグラウンドに埋もれてしまい、結果にはなかなか出てこない。
  • 同じ理由で、2D-FTでは位置と周波数解析を同時に行うことができない。(もちろん、短時間フーリエ関数を使えば、そのような測定は行うことができる。)
  • また、ホワイトノイズのようなフラットな周波数特性を持つノイズもバックグラウンドを押し上げるだけの効果しか持たないため、解析をしづらい。
 そこで、今回は単純な画像に対して、2D-FTと2D-離散Waveletの比較を行うことで、2D-FTを用いた「画像ノイズ解析」の問題について考える。

2D-FTと2D-Waveletの例

 はじめに、2D-FTと2DWaveletの例を挙げる。まずは2D-FTである。
2D-FTの例(左から原画像、2D-FT結果、2D-FT結果の鳥瞰図)
 左の原画像は45度のスクリーン角のラインである。2DFTの結果にはその角度方向にピークがいくつか並んでいる。それぞれのピークの中央からの距離が周波数を示している。それはX,Y方向いずれについても言える。今回の場合はX,Y方向のスクリーンの周期が等しいため、2DFTの結果でも45度方向になっているのである。
このように、2D-FTの結果というのは周波数(X,Y両方向)と振幅がわかる。ここでのスクリーン角のような周期性を持つものの解析にはフーリエ解析というのは極めて有効である。店で見かけるインクジェットプリンターもヘッドの移動による周期ムラが激しいが、このようなムラに対してフーリエ変換を用いた周波数解析を行うのは正当であり、有効だろう。

 それでは、同じ画像に2D-Waveletをかけてみる。2D-Waveletの結果は位置と周波数強度分布情報(ホントは違うのだが)が両方出てくる。位置情報が2次元で周波数強度分布情報が1次元であるから、合わせて3次元である。そのため、表示に一工夫いる。
 第一段階として高周波成分から調べてみる。すぐにこの結果の意味がわかるだろうか?

2D-Wavelet例(左が原画像、右が一段階Waveletをかけた結果)
かなり判りづらい。この右の結果は4つの領域にわかれているが、以下の表のような意味を表している。また、いずれも灰色の部分は強度が弱く、白と黒が強度が強いことを示している。
高周波のX成分高周波成分
低周波成分高周波のY成分
 低周波成分が原画像と同じようであるのがわかると思う。これは2DFTと違い、Waveletでは位置情報もそのまま保持されているからである。次に、この低周波成分に対して、もう一段Waveletをかけるとこうなる。
 右上から左下への対角線上のが周波数成分を示し、これで周波数成分にして3分解できたことになる。右上が一番高周波成分。その左下が次の高周波成分。右下が低周波成分である。
 もう何分割かしてみる
 このようにして、画像内での位置と周波数成分が両方ともわかる。

 なお、フーリエ変換では基底関数としてSinが用いられるが、Wavelet変換では基底関数としていろいろな関数を使うことができる。今回はDaubechiesの4次のものを用いている。下がその形である。

Daubechiesの4次のフィルター

ドットのノイズを解析してみる

 それでは、今回の本題に入る。以下が原画像である。左が「2つの大きなドットからなる」画像であり、右がそれにノイズの加わった「ノイズ」画像である。ここでノイズはホワイトノイズを加えているつもりである。ドットは周期性を持つデータだが、ノイズ自体は周期性を持たない所がミソである。また、ここで言う「ノイズ」とは現実の現象とは何ら関係がない。単なる例えである。
ドット画像(左が原画像、右がノイズを加えた画像)
 まず、この2つの画像に対して、それぞれ2D-FTをかける。
2次元離散フーリエ変換を行った結果
 このグラフではXY軸とも-πからπまでの領域で示している。中央からの距離が周波数を示しており、明るいほどその周波数帯の振幅が大きいことを示している。つまり、任意の周波数帯の強度がわかる。
 右のノイズの加わった画像の2DFTの結果では、広い周波数領域で強度が上がっている。しかし、下の鳥瞰図で示した(私は立体が好きなのだ)方でもわかると思うが、バックグラウンドが持ち上がっているだけである。いずれにせよ、あまり左右の間で違いはない。今回のような64x64の画像ではなく、もっと大きい画像ではその違いははより識別不能になる。
2次元離散フーリエ変換の結果を鳥瞰図で示したもの
 さて、次に2D-Waveletで同じように計算をしてみる。下が計算結果である。どうだろうか、ノイズ(位置も周波数も)が一目で判るようには思えないだろうか?
2D-Waveletによる解析結果(左がノイズ無し、右がノイズ有り)
 今回は、自分の頭を整理するために、ただ2D-wavelet変換をかけてみた。まだまだ話しは続くのである。

1999-02-28[n年前へ]

分数階微分の謎 

線形代数、分数階微分、シュレディンガー方程式の三題話

分数階微分?

InterLabの1999No.5を読んでいると面白い記事があった。いわき明星大学理工学部の榊原教授の「Waveletと数式処理ツール」という記事である。といっても、興味を持ったのはWaveletのことではない。もちろん、Waveletに興味がないわけではない。この榊原教授が講師を務めたWavelet講習にも参加したこともある。しかし、今回興味を惹かれたのはその記事中にあった「分数階微分の解析」である。

InterLabの榊原教授の記事を引用すると、-通常微分・積分は整数回実行できるが、分数階微分はこれを分数に一般化したものである。さまざまな物理や工学の現象の記述に使われるようになった-とある。一階微分とか二階微分というものはよく使うが、0.5階微分などというものは使ったことがない。どのようなモノなのかさえよくわからない。

参考:

一体、どんな物理や工学の現象の記述に使われているのか知りたくなったので、infoseekで調べてみる。すると、

いわき明星大学の清水・榊原研究室の「粘弾性動モデル」が引っ掛かる。

参考:

衝撃吸収・シリコーンの弾性率などに興味を持っている人には面白いかもしれない。

もう少し調べてみると「バナッハ空間バナッハスケールにおける分数階積分作用素」というようなキーワードも引っ掛かる。

そこで、まずは勝手に分数階微分について考えてみた。

分数階微分・積分の勝手な想像図


まずは、イメージを考えるためにグラフを作成してみる。x^2の関数、および、それを微分・積分した関数である。微分は3階まで、積分は2階まで行っている。

図.1:x^2を微分(3階まで)したものと、2階まで積分したもの

このグラフ形式の表示をちょっとだけ変えてみる。

図.2:x^2を微分(3階まで)したものと、2階まで積分したもの

ここまでくると、平面グラフにしてみたくなる。つまり、微分・積分の階数を離散的な整数値でなく、連続的な値としてのイメージに変えたくなる。

図.3:x^2を微分(3階まで)したものと、2階まで積分したもの

これで、微分・積分が整数階でない場合のイメージ(勝手な)ができた。微分・積分が離散的なものではなくスムーズにつながっているものであるというイメージである。図.2から図.3への変化をよく覚えていてほしい。

といっても、これは数学的なイメージのみで物理的なイメージはまだここでは持っていない。位置、速度、加速度などの微分・積分で選られるものに対して同じようなイメージを適用すると、位置なんだけれどちょっと加速度っぽいもの、とか、速度と加速度の「合いの子」みたいなものというような感じだろうか?

さらに、これから先は、f(x)という関数が示す無限個の値を位置ベクトルと考えて、f(x)というのは無限次元空間の一つの点だというイメージを持つことにする。線形代数を考えるならそれが一番わかりやすいだろう。任意の階で微分された関数群が集まって、さらに高次元の空間をなしているというイメージである。

分数階微分を調べる

勝手なイメージはここまでにして、手元にある数学の参考書の中から手がかりを探してみた。すると、
大学院入試問題解説 - 理学・工学への数学の応用 - 梶原壌二 現代数学社ISBN4-7687-0190-6
の中に手がかりがあった。あれ、ということは以前にやったはずなのか...そう言えばおぼろげな記憶がちょっと...

その中の言葉を少し引くと、
フーリエ変換は等距離作用素である、関数空間L^2(R)における回転といえる。結局、

ここで、fは元の関数であり、Fはフーリエ変換
となる。そして、古典力学におけるハミルトン関数において、運動量を微分演算子で置き換えれば、量子力学や量子化学のハミルトン演算子が得られ、シュレディンガー方程式などにつながるのである、とある。他の資料を眺めてみると、どうやら量子力学などの分野からの要請に応じてここらへんの微分演算子の分野が発展しているようだ。理論物理などをやった方ならよくご存知のことだろう。例えば、水素原子の基底状態の波動関数へ運動エネルギーの演算子を作用させるというような、基本的な所でも、このフーリエ変換を用いた微分演算が用いられてる。

さて、この式自体は非常に簡単である。それにイメージも湧きやすい。
i を掛ける演算、私のイメージでは複素数空間の中で90度回転をする(言い換えれば、位相が90度ずれる)演算、が微分・積分であるというイメージはスムーズに受け入れやすい(それが正しいかどうかは知らないが)。なぜなら、微分が空間の中での回転であるとすると、三角関数の微分・積分に関する性質(例えば、Sinを微分するとCosに、Sinを2階微分すると-Sinになる、すなわち、一回の微分につき位相が90°ずつ回転する(位相がずれる)というような性質)が納得でき、それがフーリエ変換という形で登場してくることがスムーズに受け入れられるのである。また、微分といえばとりあえず三角関数の登場というイメージもある。

 もう少しわかりやすく書くと、

  • 三角関数では一階微分の結果は90度位相がずれる(回転する)。
  • ならば、(例えば)0.5階微分は45度位相をずらせば良い。
  • 任意の関数もフーリエ変換により、三角関数に分解される。
  • ならば、任意の関数に任意の実数値の微分が成立する。
ということである。

 任意の関数をフーリエ変換し三角関数に分解した時の位相、言い換えれば、周波数領域での位相ずらし、で分数階微分が定義されるということは、物理的実用的に大きな意味を持つ。例えば、電磁波、弾塑性運動などの物理現象の中での位相変化を分数階微分で解けることになる。例えば、複素貯蔵弾性率などについて分数階微分との関係は深そうである。あるいは、媒体中の電磁波の位相などについて適用するのも面白そうである。

分数階微分を使ってみる


よく分からないところも多いが、とりあえず、

という式を使ってみる。まずは、使ってみないとわからない。とりあえず、1次元の関数を作成して、この式を適用してみる。まずは、よく出てくるガウス分布で適用してみる。まずはガウス分布とそれの通常の一階微分の解析解を求める。
ガウス分布(左)とその一階微分の解析解(右)

それでは、今回の方法による一階微分の結果と、それと解析解との比較を示す。なお、本来無限領域のフーリエ変換を有限の領域で行っているため、端部近くで変なことが生じるのはしかたがないだろう。また、色々な事情により係数の違いは無視して欲しい。

フーリエ変換を用いた方法(左)と解析解(右)の比較

ちょっとずれが生じているが、こんなものだろう。しかし、これだけでは今回のフーリエ変換を用いた微分の面白さはでてこないので、0から2の範囲で連続的に分数階微分をしてみる。

ガウス分布の0から2の範囲における連続的な分数階微分

1/10 (=0.1)階微分

1/2 (=0.5)階微分

7/10 (=0.7)階微分

1階微分

13/10 (=1.3)階微分

15/10 (=1.5)階微分

17/10 (=1.7)階微分

2階微分

モーフィングのようで面白い。

さて、今回は分数階微分を勉強してみる所までで、これの応用は別に行ってみたい。もちろん、言うまでもないと思うが、間違いは多々あると思う。いや、田舎に住んでいるもので資料がないんですよ。

1999-10-15[n年前へ]

続々ACIIアートの秘密 

階調変換 その2

 前々回の

の時にASCIIアートに関する情報を探したの清竹氏にQ02TEXT(Take氏作)のドキュメントの記述を教えて頂いた。引用してみると、
「限られた出力階調を有効に利用するため、画像の濃度ヒストグラムの補正を行ないます。1パス目で、濃度ヒストグラムをカウントし、そこからヒストグラムが平坦になるような濃度変換関数を生成します。(ヒストグラムを平坦にするのは、情報のエントロピーをなるべく保存するためです。)」
とある。Q02TEXTはimage2asciiと同様のテキストアート作成プログラムである。前回のの最後で(3).情報量を最大にするモデル というのを導入したが、これがそのエントロピー最大化アルゴリズムに近いものを導入してみたものである。何しろ、この考えを使っていくのは乏しい階調性の出力機器には非常に有効なのだ。今回は、この「エントロピー最大化アルゴリズム」について考えてみたい。

 Q02TEXTは「 .:|/(%YVO8D@0#$」の16階調を使用するテキストアート作成プログラムである。それに対して、「ASCIIアートの秘密」で作成したimage2asciiが使用可能な階調数は一定ではない。指定されたフォントを一旦出力してみて、その結果を計測することにより、出力可能な階調数を決定している。したがって、指定したフォントでしか階調の確かさは保証されない。その代わりに、指定されたフォントを使えば割に豊かな階調性を使用できることになる。
 また、得られる階調は一般的に滑らかではないので、Q02TEXTが使っているアルゴリズムとは少し違うものを導入している。

 通常ASCIIアートは色々な環境で見ることができるのがメリットの一つである。しかし、image2asciiはフォントを限定してしまっている。これは、目的が通常のASCIIアートとは異なるからである。私がimage2asciiを作った目的は、それを仮想的な出力デバイスとしてみたいからである。その出力で生じる様々な問題を調べたり、解決してみたいのである。

 さて、前回の最後に示した3種類の画像変換は

  1. 単純な階調重視モデル
    • オリジナルの0を出力画像の最小値に
    • オリジナルの255を出力画像の最大値にする
  2. 拡大した単純な階調重視モデル
    • オリジナルの最小値を出力画像の最小値に
    • オリジナルの最大値を出力画像の最大値にする
  3. 情報量を最大にするモデル
    1. エントロピーを最大にするための階調変換を行う
というものである。

 これら3つの変換方法の違いにより出力画像にどのような違いが生じていたかを、まずはもう一度見てみる。まずは、オリジナル画像である。これは、「私の尊敬する」S大先生である。私は尊敬とともに「ロボコップSさん」あるいは、「ロボSさん」と呼ぶのだ。いや、本当に。

人物写真(ロボコップS氏)

 以下にオリジナル画像及びimage2asciiを用いて変換したものを示す。

オリジナルと変換後画像
オリジナル
(1)
(2)
(3)
これらの変換画像の感想(私の)は、
  • (1).単純な階調重視モデルが比較的白い個所では一番オリジナルに忠実な濃度であることはわかるだろう。ただし、黒い部分に関しての表現力は極めて低い。
  • (2).階調性を少しだけ改善したものではそれより視認性が改善している。
  • (3).視認度の高い画像ではあるが、オリジナルとは濃度などは異なる?
という感じだろうか。
 
 それでは、これらの画像のヒストグラムを調べてみる。先の「(ヒストグラムを平坦にするのは、情報のエントロピーをなるべく保存するためです。)」というのとの関係を調べたいわけである。
オリジナルと変換後画像のヒストグラム
オリジナル
(1)
(2)
(3)

ASCII ARTには濃度の表現領域には限度がある。そのため、(1),(2),(3)はいずれも濃度が最大を示す個所でもオリジナルよりかなり濃度が低い。また、(1),(2)はオリジナルとヒストグラムの形状も少しは「似ている」が、(3)においては、かなり異なっているのがわかると思う。(3)はヒストグラムの形状はかなり異なるにも関わらず、視認度は高くなっている。これが、エントロピーを最大化(すなわち情報量を最大化)しているおかげである。ヒストグラムがかなり平坦になっているのがわかるだろう。

 というならば、エントロピーの計算もしなければならないだろう。もちろんエントロピーと言えば、

でも登場している。「エントロピーは増大するのみ...」というフレーズで有名なアレである。情報量を示す値だといっても良いだろう。せっかく、「ハードディスク...」の回で計算をしたのだから、今回もその計算を流用してエントロピーを計算してみたい。といっても、無記憶情報源(Zero-memorySource)モデルに基づけば、ヒストグラムが平坦すなわち各濃度の出現確率が等確率に近いほどエントロピーは高いのが当たり前であるが...

 この前作成したMathematicaのNotebookを流用するために、オリジナルと3つの変換画像を合体させる。そして、そのヒストグラムを見てみよう。このヒストグラムが非常にわかりにくいと思うので、一応説明しておく。あるY軸の値で水平に1ライン抽出して、その部分のヒストグラムを右のグラフに示しているのである。

あるY軸方向の断面におけるヒストグラム
オリジナルと3つの変換画像を合体させたもの
ヒストグラム(横軸=濃度,縦軸=走査軸)

 例えば、オリジナルの画像では髪の毛がある辺り(Y軸で10から30位)では、ヒストグラムを見ればレベルが50位の黒い所が多いところがわかる。それに対して、変換後の画像では、一番濃度の高い所でも150前後であることがわかるだろう。

 それでは、それぞれ、Y軸でスライスしてその断面におけるエントロピーを計算したものを次に示してみる。

それぞれのY軸スライス断面におけるエントロピー
オリジナルと3つの変換画像を合体させたもの
エントロピー(縦軸=走査軸)

本来は、画像全面におけるエントロピーを計算するのが、望ましい。しかし、ここで使っているような、Y軸でスライスしてその断面におけるエントロピーでも、オリジナルの画像が一番エントロピーが高く、(3)の変換画像(つまり一番上)のものが次にエントロピーが高いのがわかると思う。つまり、情報量が高いのである。

 エントロピー量とあなたの感じる「視認度」とが相関があるかどうかは非常に興味があるところだ(私にとって)。エントロピーが多くても(すなわち情報量が多くても)オレはちっともいいと思わないよ、とか、おれは断然エントロピー派だね、とか色々な意見があったらぜひ私まで教えてほしい。

  「お遊び」に見えるASCIIアートも、調べていくと実は奥が深いのだなぁ、とつくづく思う。といっても、もちろん本WEBはお遊びである。なかなか、奥までは辿りつかない(し、辿りつけない)と思うが、この「ASCIIアートの秘密」シリーズはまだまだ続くのである。

1999-12-04[n年前へ]

WEBの世界の「力の法則」 

「ReadMe!JAPAN」と「日記猿人」に見るWEBアクセス数分布

 以前、

の中で書いたように、「Webの成長のダイナミクスとトポロジは,物理学の世界のPower(累乗)Lawとして知られている法則に従っている」という面白い話が世の中にはある。これは、「ごく少数のWEBサイトへのアクセス、あるいはリンクが他を圧倒する程の割合を示す。」ということである。「インターネットのほとんどのアクセスというものは、ごく少数の特定のサイトへのものである。」ということだ。宇多田ヒカルの売り上げが演歌の総売上をはるかに超えるという話とよく似ている。実社会でもそういうことは実に多い。

 どうも、マイナー趣味である私には、Power(累乗) Lawというのはいま一つ面白くない話ではあるが、

といった所を眺めていくと、どうやら事実であるようだ。ここらへんのWEBはとても読んでいて面白い。そのせいか、似たようなことで遊んでみたくなった。そこで、今回はその"PowerLaw"、すなわち、「力の法則」について考えてみたい。ところで、本来ここでの意味は"Power"=「累乗の法則」となるが、ここでは「力の法則」としておく。

 まずは、考えるためのデータを採取してることにした。欲しいデータは色々なWEBサイトへのアクセス数である。もちろん、自分のWEBサイトへのアクセスではないのだから、何らかの公開データを探さなければならない。

 そこで、ReadMe!Japan(http://readmej.com/)と日記猿人(http://wafu.netgate.net/ne/)という二つのランキングシステムを用いてみた。ReadMe!Japanは日本語の「読み物」を主体としたWEBランキングである。また、日記猿人は名前の通り「日記」をターゲットとしたWEBランキングである。

 一見、同じように見えるReadMe!Japanと日記猿人のランキングであるが、かなり違ったシステムである。以下に、Readme!Japanと日記猿人のランキングシステムを示してみる。

  • Readme!Japan 登録したWEBページに、一日の間にアクセスしたIPアドレスの数。
  • 日記猿人 「投票」ボタンを押した人(ブラウザー)の数、一日の間に一人の人(ブラウザー)が同一の日記に対して複数回の投票は行うことが出来ない。
 したがって、Readme!Japanに対して、日記猿人は「投票ボタンを押す」という作業が余計に必要となる。単純に「読まれた数=得票」ではないのである。読者に「投票ボタンを押そう」という気持ちを生じさせることが必要とされるのである。
一方、Readme!JapanはIPアドレスベースであるから、同一のProxyなどを経由したアクセスの場合、何人からアクセスがあろうと1pointである。しかし、読者に「投票ボタンを押す」というような作業は要求されない。

それでは、日記猿人とReadMe!JAPANの得票ランキングの例を示してみる。横軸はランク(順位)であり、縦軸が得票数である。ここでは縦軸・横軸共に線形軸を用いている。

日記猿人とReadMe!JAPANの得票ランキングの例 (線形軸)

 なお、 Readme!Japanは11/30日のものであり、日記猿人は(ほぼ)11月分の得票数分である。
このグラフを眺めてみると、日記猿人とReadMe!JAPAN共によく似ている。なるほど、少しランクが下がっただけで、急激に得票数が少なくなっている。もう、縦軸で言うならば下に張りついてしまっている。「ごく少数のWEBサイトへのアクセス、あるいはリンクが他を圧倒する程の割合を示す。」という「WEBの世界の力(累乗)の法則」は日記猿人とReadMe!JAPANでも当てはまるようである。

 さて、ここまでランクに対して得票数が変化するとなると、グラフの軸は線形軸でなくて対数軸の方が良いだろう。そこで、グラフの軸を対数軸に変えたものを以下に示す。

日記猿人とReadMe!JAPANの得票ランキングの例 (対数軸)

 こうすると、日記猿人とReadMe!JAPANのどちらも、

  • 上位のランク(例えば、1位から1000位程度まで)では傾きがほぼ1である。すなわち、ランクが一桁下がると、アクセス数も一桁下がる。
というようなことがわかる。まさに、「力(累乗)の法則」である。確かに"Power"である。

 また、ReadMe!JAPANでは、ランクが極めて大きい所では得票数が0に近い。おそらく、その影響と考えられるが、ランクと得票数の関係が直線でなくなっている。

 それと同じことは日記猿人でも言えるだろう、ただし、「ランクとポイントの関係が直線でなくなる」のがReadMe!JAPANよりも早いような気がする。しかし、それは誤差かもしれない。参加数もかなり異なっているので、誤差の可能性が高いと思われる。

 さて、これまでは日記猿人とReadMe!JAPANのランキングの数字を直接用いてきたわけである。しかし、得票数の全く違うものをそのまま比較してもしょうがない。ある程度条件をそろえた上で比較をすべきであろう。そこで、縦軸を正規化して比較をしてみることにした。得票数の合計が1であるような単位に変換してみるのである。

 ここで、横軸はランクのLog_10を用いている。本来、ランク(順位)も何らかの正規化の変換をすべきであろうが、今回はやり忘れた。きっと、頭が疲れているせいである。

 また、グラフを見ればわかると思うが、それぞれについて近似曲線を計算している。

日記猿人とReadMe!JAPANの得票ランキングの例
(得票数の合計が1であるような単位に変換したもの)

 次に、ここで得られた「ランクとポイントの関係」を示す近似関数

  • ReadMe!JAPAN  y = -0.001x^5 + 0.0119x^4 - 0.0534x^3 + 0.1186x^2 - 0.1355x+ 0.0683
  • 日記猿人 y = -0.0005x^5 + 0.0054x^4 - 0.0222x^3 + 0.0472x^2 - 0.0589x+ 0.0391
を重ねて示してみる。
ReadMe!JAPANと日記猿人の「ランクとポイントの関係」近似関数の比較

R eadMe!JAPANでも日記猿人でも横軸が2以上(すなわち100位以下)の場所などでは、ほとんどポイントはゼロみたいなものである。すなわち、100位より下のWEBのアクセス(本WEBへのアクセスも含めて)は誤差みたいなものなのだ。何しろ、一位(トップ)のポイントが0.07とか0.04とかなのだ。それは「一位のWEBサイトへのアクセスが全部のサイトへのアクセスの1割弱を占める」ということなのである。20位までのサイトへのアクセスを合計すると全アクセスの50%以上を占めてしまう。これが、恐るべきWEBの世界の"PowerLaw"、すなわち、「力(累乗)の法則」である。

 ところで、日記猿人では上位サイト(すなわち、横軸で0に近いところ)での関係式の傾きがReadMe!JAPANよりも小さい。すなわち、上位サイトの得票数が拮抗している。これは一体何故だろうか?
私はこの理由を、

  • 日記猿人の読者が割と似ている趣味を持っている
  • 日記猿人の参加WEBサイトが似たような内容を持っている
ということではないか、と考えている。

 日記猿人の参加WEBサイトが似ており、読者同士が割と似ている趣味を持っていれば(私も含めて)、得票数というのは当然横並びになるだろう。上位サイトにはほとんどの人が見に行き、そしてほとんどの人が「投票」ボタンを押せば、上位サイトはみな同じような得票数を示すことになる、と思うのである。
 それは、違う傾向を示すReadMe!JAPANの中でも、読者層も作者も似ている「Fast&First」と「今日の必ずトクする一言」はとても近い得票数を示している、ということがその根拠の一つである。

 それに対して、ReadMe!JAPANが比較的広いジャンルの「読み物」が集まっているのでそういう現象が見られないのだろう、と考えるのである。しかも、実際には「読み物」ですらないものも集まっているので、なおさらジャンルとしてはバラけている。だから、「WEBの世界の力(累乗)の法則」を素直に反映していると考えるのである。

 私としては、ごく一部のWEBサイトへの集中が生じるのはツマラナイと感じてしまうのであり、「WEBの世界の力(累乗)の法則」はキライである。だからといって、趣味が似た人ばかりというのもツマラナイように思う。うーん、どういうのがツマラナクナイのだろうか?
それはきっと、「色々な趣味の人が色々なWEBへアクセスする」というのが私の好みだ。実現は難しいのだろうけど...いや、そんなことはないか。

2000-06-08[n年前へ]

フリフリ乙女と超エロ路線の売上カーブ - 好み分布の累積分布 - 

累積分布関数の話を書き始める。モーニング娘に結び付けてみたい気もするが、いいアイデアが思い浮かばない。



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