hirax.net::Keywords::「時系列」のブログ



1999-07-08[n年前へ]

走査線の狭間 

1/60秒の世界を目指せ

 あぁ、今回は(今回も)めちゃくちゃマニアックな話である。トップページには「身近な疑問を調べる」、と書いてあるが、他の人にはぜんぜん身近ではないだろう。最近、妙に忙しいので、身近な疑問がおろそかにされているのだ。身近な疑問の解決は結構難しいのである。そのため小難しい話が続くのだ。困ったことだ。

 さて、今回やったことを結論から言えば(*)、AVIファイルをフィールド毎に分解してBitmapファイルに落とすプログラムを作ったのだ。「このソフトはとても便利だ」と言ってくれる人がいたならば、感謝感激雨あられだ。とりあえず、私には欠かすのことのできないソフトである。なぜ、このソフトがそんなに便利なのかを、これから手短に(**)語りたい。

* 「結論から言えば」、とか、「要するに」という人は必ず結論を言わなかったり、全く要約されていない話をするのはなぜだろうか?

** 同じく、「手短に」ときたら、必ず話は長くなる。

 一般的なTVで使われている信号はNTSCと呼ばれる。1秒あたり約30フレームからなり、1フレームは2フィールドにわけられる。というと、複雑に聞こえるが実はとても単純だ(***)。単に1フレームが奇数フィールドと偶数フィールドに分かれているだけである。フィールドというとわかりにくいので走査線と考えればわかりやすい、と思う。

*** 当然のごとく、単純ではない。

 NTSCの信号を時系列で追うとこのような画像の集合になっている。例えば、こういう具合だ。

1フレーム目の奇数フィールド(走査線)
1フレーム目の偶数フィールド(走査線)
2フレーム目の奇数フィールド(走査線)
2フレーム目の偶数フィールド(走査線)
.
.
.
29フレーム目の奇数フィールド(走査線)
29フレーム目の偶数フィールド(走査線)
30フレーム目の奇数フィールド(走査線)
30フレーム目の偶数フィールド(走査線)

 30フレームで約1秒であるから、1枚の画像(フレーム)は約1/30秒である。だから、普通のビデオカメラで撮影した画像は1/30分の1秒毎の画像を示しているのである。しかし、もっと高速度撮影したいと思うときがある。ウン百万出せば、1万分の1秒の撮影でも可能な高速度カメラが買えるが、個人ではとても買えない。また、そもそもやりたい用途向けの高速度撮影用のカメラが存在しない場合というのもままあるのだ。そういった場合には、時間軸に対しては1/30秒までの撮影にしか使うことはできない、と思えるだろう。

 しかし、NTSCの信号もフィールド毎に分解すれば、1/30秒の半分、すなわち1/60秒毎の画像を示しているのである。たかだか2倍ではあるが、されど2倍である。1/30秒では見えていなくても、1/60秒では見える世界というのもあるのだ。

 画像例を用いて説明しよう。左の1/30秒間の画像を奇数フィールドと偶数フィールドに分解したのが右の画像(a),(b)だ。(a),(b)を比べると、黒い矩形が左から右に移動しているのがわかるだろう。今回のソフトウェアはそういった計測には非常に便利なのだ。このソフトウェアを使えば、普通のビデオカメラの性能を2倍にすることができるのだ。スポーツをやる方などは自分のフォームをチェックするのに使うといいだろう(画像解析までしてフォームチェックはしないか、普通...)。これで、フォームチェックはプロ級だ。

1/30の画像を1/60に分解した例
1/30のままの例1/60のフィールドに分解した例
1/30間の画像
(a) 最初の1/60間の画像
(b) 次の1/60秒間の画像

 1/30と1/60がたかだか2倍でも結構違うという良い例は、1/30秒のシャッタースピードではブレた写真になってしまう人でも、1/60秒なら大丈夫、とか、ゲームを作る際に1/60秒以内に人間からの入力に対して反応を返してやれば、プレーヤーはスムーズに感じるが、1/30秒ではダメだ、とかいう話がある。

 というわけで(****)、AVIで記録された動画ファイルを1/60毎の画像に分解するプログラムが今回作成したものである。

avi2still.lzh 473KB

avi2stillの動作画面

 奇数フィールドと偶数フィールドを分けることにより2枚の画像に分解し、それぞれの画像内で失われたフィールドを単純補間により復元することができる。奇数フィールドが先頭か、あるいは、偶数フィールドが先頭かは選ぶことができるし(奇数フィールドと偶数フィールドのどちらが先か選べるということでもわかるように、どちらが先であるか必ずしも決まっているわけではないらしい。そこらへんは、各映像機器によって変えなければならない。)、インターレースでなくノンインターレースの場合、つまり、単にAVIファイルの各画像を静止画におとすことだけもできる。

**** 「というわけで」は話を強引に次へつなげるときに使う。

このプログラムを使ったあとはScion ImagePCを使うのがお勧めだ。Macintoshの世界で一般的なNH-imageのWindows版である。今回のプログラムで作成した静止画群をスタック化して使うのがいいと思う。そうそう、Scion ImagePCに読む込むときには静止画を8bit(gray)画像へと前処理しておくことがお勧めだ。

1999-07-14[n年前へ]

夏目漱石は温泉がお好き? 

文章構造を可視化するソフトをつくる


 先週は新宿で開催されていた可視化情報シンポジウム'99を見ていた。参加者の世界が狭い(ジャンルが狭いという意味ではない)し、学生の発表が多すぎるように思ったが、少なくとも本WEBのようなサイトで遊ぶには面白い話もあった。というわけで、これから何回か「可視化情報シンポジウム'99」記念の話が続くかもしれない。とりあえず、今回は「小説構造を可視化しよう」という話だ。

 まずは、「可視化情報シンポジウム'99」の発表の中から一番笑わせて(笑ったのはいい意味ですよ。決して皮肉ではないですよ。しつこいようですが、ホントホント。私のツボに見事にはまったのだからしょうがない。)もらった発表のタイトルはこれである。
文学作品における文体構造の可視化 - 宮沢賢治「銀河鉄道の夜」の解析-
白百合女子大学大学院の金田氏らによる発表だ。予稿集から、その面白さを抜き出してみよう。まずは過去の研究の紹介をしている部分だ。

作品(hirax注:夏目漱石の「虞美人草」と「草枕」)の始まりから終わりまでを時系列で捉えると(hirax注:話法に関する解析をすると)、二作品はともに円環構造、つまり螺旋構造を描きながら、物語が進行していくことが、四次元空間上に表現された。
中略
これは、作品の解析結果を可視化することで、夏目漱石の思考パターンと内面の揺れが明らかにされたことを意味する。
 

 なんて、面白いんだ。この文章自体がファンタジーである。こういうネタでタノシメル人にワタシハナリタイ。おっと、つい宮沢賢治口調になってしまった。そして、今回の発表の内容自体は、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の中に出てくる単語、「ジョバンニ・カンパネルラ・二」という三つの出現分布を調べて構成を可視化してみよう、そしてその文学的観点を探ろう、という内容だ。

 本サイトは実践するのを基本としている。同じように遊んでみたい。まずは、そのためのプログラムを作りたい。名づけて"WordFreq"。文章中の単語の出現分布を解析し可視化するソフトウェアである。単語検索ルーチンにはbmonkey氏の正規表現を使った文字列探索/操作コンポーネント集ver0.16を使用している。

ダウンロードはこちらだ。もちろんフリーウェアだ。しかし、バグがまだある。例えば出現平均値の計算がおかしい。時間が出来次第直すつもりだ。平均睡眠時間5時間が一月続いた頭の中は、どうやらバグにとって居心地が良いようなのだ。
wordfreq.lzh 336kB  バグ有り版

バグ取りをしたものは以下だ(1999.07.22)。とりあえず、まだ上のプログラムは削除しないでおく。

失楽園殺人事件の犯人を探せ - 文章構造可視化ソフトのバグを取れ - (1999.07.22)

 動作画面はこんな感じだ。「ファイル読みこみ」ボタンでテキストファイルを読みこんで、検索単語を指定して、「解析」ボタンを押すだけだ。そうすれば、赤いマークでキーワードの出現個所が示される。左の縦軸は1行(改行まで)辺りの出現個数だ。そして、横軸は文章の行番号である。すなわち、左が文章の始めであり、右が文章の終わりだ。一文ではなく一行(しかもコンピュータ内部の物理的な)単位の解析であることに注意が必要だ。あくまで、改行までが一行である。表示としての一行を意味するものではない。なお、後述の木村功氏から、「それは国語的にいうとパラグラフ(段落)である。」という助言を頂いている。であるから、国語用の解析を行うときには「行」は「段落」と読み替えて欲しい。また、改行だけの個所には注意が必要だ。それも「一行」と解釈するからである。

WordFreqの動作画面

 「スムージング解析」ボタンを押せば、その出現分布をスムージングした上で、1行辺りに「キーワード」がどの程度出現しているかを解析する。
 そう、この文章は長い文章の中でどのように特定の単語が出現するか解析してくれるのである。

 それでは、試しに使ってみよう。まずは、結構好きな夏目漱石の小説で試してみたい。
電脳居士@木村功のホームページ 
から、「ホトトギス」版 「坊っちやん」のテキストを手に入れる。そして解析をしてみよう。まずは、この画面は夏目漱石の「坊っちやん」の中で「マドンナ」という単語がどのような出現分布であるかを解析したものである。

夏目漱石の「坊っちやん」の中の「マドンナ」という単語の出現分布

 文章の中ほどで「マドンナ」は登場してくるが、それほど重要なキャラクターでないことがわかる(このソフトがそう言っているんで、私が言っているのではない。だから、文句メールは送らないで欲しい)。

 それでは、「湯」というキーワードで解析してみよう。「坊っちやん」と言えば道後温泉であるからだ。

夏目漱石の「坊っちやん」の中の「湯」という単語の出現分布

 おやおや、「マドンナ」よりもよっぽどコンスタント(安定して、という意味で)に「湯」という単語は出現するではないか。出現平均値は「マドンナ」の方が多いが、安定度では「湯」の方が上だ。夏目漱石は「マドンナ」よりも「湯」すなわち温泉によっぽど興味があるようだ。

 主人公を育てた重要人物「清」を調べてみると、こんな感じだ。

夏目漱石の「坊っちやん」の中の「清」という単語の出現分布

 小説の初めなんか出ずっぱりである。あと小説のラストにも登場している。

 どうだろうか。見事に小説の可視化に成功しているだろう。結構、この解析は面白い。すごく簡単なのである。
 これから新聞、WEB、小説、ありとあらゆる文章を可視化し、構造解析していくつもりだ。みなさんも、このソフトを使って面白い解析をしてみるとよいのではないだろうか? とりあえず、高校(もしかしたら大学の教養)の文学のレポートくらいは簡単に書けそうである。もし、それで単位が取れたならば、メールの一本でも送って欲しい。

 というわけで、今回はソフトの紹介入門編というわけで、この辺りで終わりにしたいと思う。

2000-01-13[n年前へ]

WEBサイトの絆 

WEBの世界を可視化しよう




 目に見えないものを実感できるものにしようと思うことは多い。「直接感じることが出来ないものを感じられる形にする」という作業とその結果には非常にわくわくさせられる。それは、きっと私だけではないと思う。

 目に見えないものは色々ある。可視化して見てみたいものは多々あるのだが、以前、

の時に扱った、WEBのトポロジーなどもその最たるものである。WEBページはもちろん目に見えるわけではあるが、それらがどう繋がっているか、すなわち、WEB[= クモの巣(状の物);織物 ]そのものは目には見えない。

 ネットワークという目に見えない世界でWEBサイト同士がどう繋がっているか、それは企業のWEBサイト同士であれば企業間の繋がりを示すかもしれないし、公的機関のWEBであれば公的機関内部の繋がりが見えてくるかもしれない。そして、個人WEBであれば、個人どうしの繋がりが見えてくるだろう。そして、さらに考えを進めるならば、それが「WEBの繋がりだ」と端的に言い切ってしまっても良いと思う。

 そういう色々なWEBサイト同士が互いに結びつき合う、つまりWEBそのものを今回は可視化してみたい。その結果はきっと「WEBサイトの絆」を私に見せてくれるはずだ。

 例えば、ファイルシステムを可視化するものであれば、

  • xcruise( http://tanaka-www.cs.titech.ac.jp/~euske/index-j.html )
といったファイルシステムを宇宙空間に見たてて、表示するようなものがある。また、そこまで派手でなくても通常のファイラーやエクスプローラのツリー表示などもファイルシステムの構造を可視化しているといっても良いだろう。(そういえば、かつて富士XeroxがWindowsのファイルシステム中のドキュメントを色々面白い3次元表示で表示、検索してくれるソフトを扱っていた。なかなか面白いソフトだったと思うのだが、今ではどうなっているのか?)

 そして、今回の本題のWEBサイトのHyperlink構造を可視化するソフトウェアも、少し探しただけでも結構ある。例えば、

といったところだ。確かappleもこういったツールの開発を行っていたように思うが、どこに情報があるのか忘れてしまった。
 しかし、よく調べていないので間違っているかもしれないが、この辺りのソフト(appleを除く)はWEBサイト内のリンクのみに限られるようである。それでは、今回の目的とは違う。何しろ、今回知りたいのはWEBサイト同士のリンクの度合いである。WEBのトポロジーなのである。

 そこで、もう少し探してみる。すると、今回の目的にかなり近い情報が

に見つかった。perlでWeb Robotを作成し、"*.go.jp"のサイトに放ち、ハイパーリンクのデータベースを作成し、それを解析・可視化したものである。その結果のハイパーリンクの具合を可視化した図が、リンク切れで見ることができないのが実に残念だが、非常に役に立つ情報が満載である。ほとんど、私のしてみたいことそのものである。しかし悔しいことに、その結果の図を見ることが出来ない。そこで、同じようなことを自分でやってみることにした。

 やり方はどうしたら良いだろうか?宮久地氏と同じようにWeb Robotを作成して、データを集めるのが理想的だろう。しかし、「perl入門」を昨日やっと買ったばかりの私にはとても難しそうである。いや、もしそんなことをしたらとんでもないことになるに違いない。

 そこで、perlのlwp-rgetを用いて各WEBの内容をローカルのPC内にダウンロードした上で、勉強がてらperlで解析を行うことにした。と、思ったのだが、lwp-rgetが上手く動いてくれない。まだドキュメントをちゃんと読んでいないせいだろうか?何故か、ダウンロードの途中で終了してしまう。仕方がないので、急遽作戦を変更し、ダウンロード作業はlwp-rgetではなくてwgetを用いることにした。

 行った手順は以下のようになる。

  1. 5つのWEBサイトを広いWEB内から適当に選択する
  2. 選んだ各WEBサイト内のファイルについて、相互のハイパーリンクを抽出し、その数を解析する
  3. その結果を可視化する
 今回選択したWEBサイトはA,B,C,D,Eという5つのサイトである。A〜Dについては、サイト内の全てのページについて解析を行った。Eに関しては、サイト内の特定の1ページについてのみ解析を行った。A〜Dのサイトに関しては、名前は伏せておく。サイトEに関してのみ名前を明らかにしよう。Eは日記猿人というサイトの中の「今月の得票数」を示すページである。そう、今回選択したWEBは全て「日記猿人」という一風変わったコミュニティー内のサイト群から抽出したのである。

以下に、解析を行った結果、すなわちサイトA,B,C,D,Eの相互に対するリンク数を示す。

A,B,C,D,Eの相互に対するリンク数
↓から→へのリンク数
A
B
C
D
E
A
-
0
2
0
27
B
1
-
0
13
273
C
20
2
-
0
43
D
0
11
0
-
285
E
1
1
1
1
-
合計
22
14
3
14
/

 サイトE「日記猿人」へのリンクがムチャクチャ多いのは投票ボタンという形で、他のサイトからリンクがなされているからである。

 さて、上の表からではWEBの絆を実感できないので、「WEBの絆」を3次元空間に可視化するJavaアプレットを以下に張り付けておく。WEBサイトが5つあるので、それぞれのサイトをピラミッド構造(四角柱状)に配置した。
 各WEBサイトの表示色は、

  • A = 赤
  • B = 緑
  • C = 青
  • D = 黄
  • E = 灰
という五色を用いた。そういつぞやと同じ五色である。imacも五色(6?)だが、今回のターゲットサイトも五色なのである。

 それぞれのサイトから伸びる直線の長さは、そのサイトから他のサイトへ向かうリンク数に比例したものにしている。また、直線の太さもリンク数に比例させている。また、それぞれのWEBサイトを示す立方体の大きさは自分へ向かうリンク数に比例させている。ただし、サイトEの大きさはあまりにも巨大なため、リンク数に比例したものにはなっていない。また、サイトE、すなわち「日記猿人」、へのリンクは省略し、全てサイトEからの直線リンクを表示するだけにした。

 さぁ、WEBサイトの構造を自分の目でみて、そしてグリグリ動かして見てもらいたい。このグラフの操作方法は

  • 操作 = 作用
  • マウス左ボタンドラッグ = 回転
  • シフトキー + 垂直ドラッグ = ズームイン・アウト
  • シフトキー + 水平ドラッグ = 垂直軸についての回転
  • コントロールキー + 垂直ドラッグ = 焦点距離の変更
  • マウス右ボタン垂直ドラッグ = 部品除去
  • "s"キー = ステレオ画像作成
である。表示をステレオ画像にして、WEBの世界へダイビングしてみよう。

 Java表示が上手く動かない人のために、静止画も一応張り込んでおく。

WEB構造を可視化したもの

 どうだろう?この5つのWEB間のWEB構造から何が見えるだろうか?こういう解析を数多くのサイトに行うと非常に面白い結果が得られそうである。特に「日記猿人」のようなコミュニティーに対して行うと興味深い結果が得られるはずだ。
 私のような「日記猿人」の日記はほとんど読まない(サイトAに関しては大ファンであるが)人間にとっても興味深いのであるから、関係者にとってはきっと...の筈だ。

 さて、今回はテストのためにごく少数(5つ)のWEBの解析を行ってみた。いつか、こういった解析を広い範囲で行い、そして、時系列的な変化をも調べようと思う。銀河のvoid構造が観測され、可視化されたものを見たときもとてもわくわくしたものだが、WEBの構造・変化ならばどうだろうか?

 不思議なことに、そういうことを考えていると、「新宿都庁」と「思い出横町」が頭の中に浮かんできてしまうのは何故だろうか?押井守の影響だろうか。謎である。

 そして、こうも思う。WEBネットワークの中でWEBサイトは何を感じているのだろうか?これらのWEBサイトはもしかしたら孤独を感じているのだろうか、それとも繋がりを感じているのだろうか?あの時のページの中の一フレーズがその答えの一つなのかもしれない。

2000-04-01[n年前へ]

恋の力学 恋の相関分析編 

「明暗」の登場人物達の行方

 「恋の力学」シリーズである。前書き編が登場したきりで、なかなか本編に入らない「恋の固体物理学」シリーズではない。今回は、

の続き、ということになる。

 以前、

の中で書いたように、恋の力学シリーズは夏目漱石の影響を多大に受けている。そして、同様に夏目漱石の影響を受けているシリーズがある。それは「文章構造可視化シリーズ」である。

 何しろ、「文章構造可視化シリーズ」は夏目漱石をきっかけとして、始まっているのである。また、シリーズの中の話を見ればわかるように、

この「文章構造可視化シリーズ」の半分は「漱石」に関係しているのである。そこで、今回はこの「文章構造可視化シリーズ」と「恋の力学シリーズ」を繋げてみたい、と思う。文学も科学も「ごった煮」にしてみたいのである。

 そのための準備として、まずは「文章構造可視化シリーズ」で作成した"wordfreq"をバージョンアップしてみた。その動作画面を以下に示す。
 

ファイル出力をつけたwordfreqの動作画面

 赤丸で示したボタンに「ファイル出力」と書いてあるのがわかると思う。つまり、文章中に「任意の単語」が出現した出現頻度を解析した結果をファイル出力する機能を持たせたのだ。1段落中に「任意の単語」が出現した数をテキスト形式で出力するようにしてある。このファイル出力結果を他のソフトに読み込めば、色々な解析ができるわけだ。いつものように、このソフトはここ

においておく。言うまでもないが、アルファ版の中のアルファ版だ。

 さて、今回用いるテキストは

でも登場した「明暗」である。そこで、「青空文庫」から「明暗」の電子テキストをダウンロードした。そして、バージョンアップした"wordfreq"で
  1. 津田
  2. お延
  3. 清子
  4. 吉川
という4つの名前の出現分布を解析してみた。その出力結果をExcelに読み込んでグラフにしたのが次のグラフである。「明暗」の中の「津田」、「お延」、「清子」、「吉川」の出現分布を示したものである。つまり、主人公「津田」と、彼をめぐる三人の女性の出現の状況を示したものだ。
 
「明暗」の中の「津田」、「お延」、「清子」、「吉川」の出現分布

 しかし、これだけでは、よくわからない。せいぜい「清子」が小説の後半(といっても、未完であるが)に登場しているなぁ、という位だろう。しかし、さらに解析を加えてみると、もう少し面白いことがわかる。

 今回は、これらの登場人物間のお互いの関わりを調べたいのである。であるならば、これらの「登場人物」の出現分布の間の相関を調べてみると面白いだろう。互いの関係を示す「相関」を調べてみるのである。異なる「登場人物」が同じような出現をしているならば、それは無関係ではない。きっと、その登場人物の間には何らかの関係があるに違いないのだ。

 そこで、「明暗」を時系列的に6つの部分に分けて、津田と他の登場人物の出現分布間の相関を調べてみたのが次のグラフである。
 

津田と他の登場人物の出現分布間の相関
横軸->時系列、縦軸->相関

 このグラフでは、横軸が時系列であり、縦軸が相関を示している。縦軸で上になればなるほど相関が高い、すなわち、「関係がある」のだ。「相関」は本人の場合で「1」である。だから、例えば最後の部分の清子の「0.6」という結果は関係がアリアリということを示しているわけだ。
 また、「清子」と「吉川(ここでは夫人を意図している)」の相関が逆であることが面白いだろう。「吉川」が活躍(暗躍?)した後に、「清子」が登場するわけだ。

 そして、この「明暗」が盛り上がっていくようすすら、見えてはこないだろうか?全く血の通っていないPCが解析した結果が、漱石の描こうとした「こころ」の動きを読みとっているような気が(少しは)しはしないだろうか?そして、このグラフの延長線上に、漱石の描くはずだった、「明暗」の結末はあるはずなのだ。

 さて、このグラフを見ていると、

で計算した恋の多体(三体)問題の計算結果を思い出してしまう。
 
恋の多体(三体)問題の計算結果の一例

 漱石は、きっと恋の三体問題を意識しながら「明暗」を書いたのである。だから、ある意味当然なのではあるが、科学と文学の一体化した世界が感じられ、とても面白い気分である。さて、この解析結果を元にして、まだまだ色々とやってみたのであるが、それは次回である。
 

2000-05-17[n年前へ]

恋の形を見た人は 

恋の相対性理論

 さて、前回

では、三人の登場人物
A子 : 「瞬間」的に燃え上がるタイプの女の人
B子 : 「ゆっくり」燃えるタイプの女の人
C男 : いつも、とっても良い男
達の間で繰りひろげられる色々な「出来事・きっかけ」と、それにより発生する「恋する心」を「恋のインパルス応答」を用いて計算してみた。その結果、C男とB子がカップルになれば「ほのぼの」とした幸せな生活をしそうだ、というところまで考察した。

 今回は、その三人に加えて

  • D男 : ほとんどの場合、悪い男
が登場する。このD男により、A子、B子、C男達の運命はどのように変化していくのだろうか?果たして、C男とB子は幸せな結末を迎えるのだろうか?それとも...

 さて、今回登場する「D男  =  ほとんどの場合、悪い男」はかなり酷い男である。D男がA子とB子に対して何をしたか時系列を追ってみてみることにしよう。
 

ほとんどの場合「悪い男」であるD男の色々な「出来事・きっかけ」
  1. お金をせびり、
  2. 浮気をするし、
  3. それを追求すると殴る蹴るの暴行を働き、
  4. せっせと貯めたヘソクリを奪いパチンコに行ってしまう、
という最低な男である。それでも「本当に」たまに優しいことをするのであるが、それは例外中の例外。普段は暴れまくりである。いやはや、自分で登場させておいてなんだが実にとんでもない男だ。悪い印象しか残さないはずの男である。私が女なら近くに寄りたくないタイプの男である。

 それに対して、前回のC男は次のグラフのように悪いことは何一つしない良い男だ。
 

いつも良い男であるC男の色々な「出来事・きっかけ」

 悪いことは何一つしない。良いことばかりをしてくれるのである。何とも良い人である。普通に考えれば、女の人の「ハート」はC男ががっちり掴み、D男は警察官にでもがっちり掴まれているのが当然であろう。掴まれたが最後、シャバには二度と出てきてこないで欲しい位である。しかし、そう単純な話ではないのだ。

 人の感覚には「順応」というものがある。簡単に言えば「慣れ」である。ひどいことしかしない男と普段接していると、それが当たり前に思えてしまうのである。相対化してしまうのだ。普段のD男に対する印象が「当たり前」に思えてしまうのである。

 さて、その「恋する心」の「順応」を計算するにはどうしたら良いだろうか?そう、普段の印象を基準にすれば良いのだ。普段の印象、すなわち「印象の平均値」を「恋する心」から引けば良いのである。例えば、A子のC男に対する「恋する心」を計算してみることにする。次のグラフで黒字が「色々な出来事」と「恋のインパルス応答」の畳み込みであり、本来のあるべき「恋する心」である。そして、緑字が環境順応後、すなわち、本来のあるべき「恋する心」から「印象の平均値」を引いた「恋する心」である。
 

A子のC男に対する「恋する心」
黒字 : 本来の「恋する心」
緑字 : 環境順応後の「恋する心」

 この図で、環境順応後の「恋する心」が本来の「恋する心」よりいい印象であることがわかると思う。何故かというと、環境に順応するということは普段の印象が当たり前の状態と思ってしまうことである。普段「悪い」男を相手にする場合は、「悪い」のが当たり前だと思ってしまうのである。数学的には、「悪い」のを引くのであるから、「マイナスを引くとプラスになる」のと同じである。それを式で表してみると、

 環境順応後の「恋する心」 = 本来の「恋する心」 - 普段の態度

なのであるから、普段の行動が極めて悪いD男の場合は

環境順応後の「恋する心」 = 本来の「恋する心」 - (  悪い印象)
 
 ここで「悪い印象」が「良い印象」の反対であることから、( 悪い印象 ) =( -良い印象 )とおくと、
環境順応後の「恋する心」 = 本来の「恋する心」 - ( -良い印象)
 
であるから、
環境順応後の「恋する心」 = 本来の「恋する心」 + ( 良い印象)
となる。なんと、「悪い印象」が「良い印象」にすり替わるのである。恐るべし、「環境順応」である。スイカに塩をかけると、ショッパイどころか逆に甘く感じられるのと同じく、ひどいD男がちょっとでも良いことをすると、「ものすごく良いこと」に感じられてしまうのである。前回、
 「恋の印象の平均化効果」というものを武器に、「辛(つらい)」が「幸(幸せ)」にすりかわる様子を見てみることにしたい。「辛(つらい)」が「幸(幸せ)」は紙一重なのだ。「辛(つらい)」は「幸(幸せ)」で、「幸(幸せ)」は「辛(つらい)」なのである。
と書いたが、これがそうだ。普段の「辛(つらい)」を引くと、マイナスをマイナスすることでプラスに変わり、「辛(つらい)」が「幸(幸せ)」にすりかわるのである。

 そして、普段悪いことをしないC男の場合はこれとまったく逆に、普段の良い印象を引いてしまうが故に、環境順応後の「恋する心」には「悪い印象」が加わってしまうのである。「普段良い男」が少しでも悪いことをすると、散々に悪く言われてしまうのと同じである。

 さて、こういった環境順応した状態での、A子のC男に対する「恋する心」とD男に対する「恋する心」を眺めてみることにしよう。次のグラフは黒字がA子のC男に対する「恋する心」を示し、緑字がA子のD男に対する「恋する心」を示している。
 

A子のC男に対する「恋する心」とD男に対する「恋する心」
黒字 : A子のC男に対する「恋する心」
緑字 : A子のD男に対する「恋する心」

 なんと、A子は普段悪いD男の方に強い「恋する心」を感じてしまうのである。「おいおい、それでいいのか?」、と言いたくなるような状況である。「オマエはマゾか!?」と、つい言ってしまいそうである。
 まぁ、じっくり物を考えないA子はおておいて、それではB子はどうだろうか?きっと、C男と上手くいくだろうB子はどうだろうか?もちろん、「人の良い」C男を選んでくれるだろう。というわけで、次のグラフが、A子とB子のD男に対する「恋する心」を比較したものである。緑字がA子のD男に対する「恋する心」を示し、黒字がB子のそれを示している。
 

A子とB子のD男に対する「恋する心」
緑字 : A子
黒字 : B子

 何ということだろう。こともあろうに、B子もD男に恋をしてしまうのだ。哀しいかな、C男は失恋してしまうのである。しかも、こtもあろうにD男にである。なんということだ!もちろん、D男がB子にひどいことをした時、すなわち「B子のD男に対する恋する心」が低下した時にA子とD男が別れるという可能性もある。しかし、残念ながらB子は「ゆっくり」タイプなのである。A子と違って、「すごく恋が冷める瞬間」がないのである。A子の場合はとっさのいきおいでD男と別れるという可能性もあるが、B子の場合はむしろD男にひっかかりやすいと言えるかもしれない。
 このようにして、「普段は悪い男がたまに優しいことをすると、女の人はふと恋に落ちてしまう」という恐怖のストーリーがいたるところで発生するのである。

 私の楽しみ「ちゃろん日記」の2000/03/09の「わしはダメだった」に、「印象の平均化定理」に関するしみじみとした一節があるので、そのまま引用してみたい。

「下僕(仮名)は、不幸な女がどぅやってできるか知っとるか?」
「・・・う?ん」
「不幸な女は、フダンはとんでもない男がたま?にほんのすこしだけ見せる優しさが忘れられないコトにより生産される」
「・・・・・・」
「母ちゃんがそぅだった、こりからもそりは生産されるだろうしそんな女が絶えるコトはないだろう、でもそりでいいのカモ知れんの、本人がそりで幸せだったのなら」
 「一般相対性理論」によれば、完全なる時空間の基準がない。それと全く同じように、絶対的な幸せの基準など存在しない。本人がそれでいいと言うなら、それでいいのかもしれない。強引を承知で言うならば、それが「恋の相対性理論」である。恋の座標軸は本人が決めるしかないのである。

 さて、これまで、「できるかな?では何度も「恋のかたち」を何とか目に見える形にしようとしてきた。きっと、それはこれからも変わらないだろう。とりあえず今回の話は、私の好きな本橋馨子の「兼次おじ様シリーズ」の中のセリフを引用して、締めくくることにしたい。

「なぁ兼次、愛はどんな形をしているか知っているか?」
「見た事ないからわかりません。」
「そうだ、誰も見た者はないのに、誰もが当然のように形づけて受け入れている...」
「もし愛に優劣を決めるものがあればなんだろう?... たとえ、どんな形だろうと選ぶのはおまえ自身だよ。」



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