hirax.net::Keywords::「計測」のブログ



2000-01-03[n年前へ]

音場の定位を見てみたい 

立体音感を考える その2


 前回(といっても間に他の話も挟まっているのだが)、

で「音の立体感」について考え始めた。今回はその続きである。「音の立体感」を考えるための道具を作る準備をしてみたい。

 色々なことを考えるには、その目的にあった測定器が必要である。何か新しいことをしようと思ったら、そのための新しい測定器を作成しなければならない(と思うだけだが)。そして、何より私は計測器なんてほとんど持っていない。だからといって、計測器を買うお金があるわけではない。というわけで、困ってしまうのだ。

 そこで、立体音感を考えるための測定器を作っていくことにした。といっても、すぐにできるとも思えないので、色々実験をしながらボチボチとやってみることにした。勉強がてら、ボチボチやってみるのである。オーディオ関連のことにはかなり疎いので勉強にはちょうど良いだろう。

 資料をいくつか眺めてみたが、特に

  • 「立体視の不思議を探る」 井上 弘著 オプトロニクス社
の中に簡単に音の立体感に関する因子が簡単にまとめられている。それは
  • 音像定位の因子
    • 両耳差因子 (音響信号)
      • 音の強さ(振幅)の差
      • 位相の差
    • 周波数スペクトル因子
というものである。今回はこの中の「音の強さ(振幅)の差」というものに注目してみることにした。よくある2スピーカ方式の「音の立体感」を考えるとき一番メジャーである、と思うからだ。左のスピーカーと右のスピーカーから聞こえる音の大きさが違う、というヤツである。

 そこで、いきなりだが今回作成した解析ソフト「音場くん一号」のアルゴリズムは以下のようになる。

  1. PCのサウンド入力から、サンプリング周波数 22.05kHz、Stereo 各チャンネル8bitで取り込みを行う。
  2. 取り込んだデータを4096点毎にウィンドウ(Hamming or無し)処理をかける。
  3. 高速フーリエ変換(FFT)を行う
  4. FFTの結果の実部について、左右のチャンネルの差分を計算する
 このようにすることで、各周波数成分それぞれについて、左と右のチャンネルに記録されている「音の大きさ(音圧)」の差がわかるといいな、と考えたのである。

 次に示すのが、「音場くん(仮名)一号」の動作画面である。「音場くん(仮名)一号」の画面構成は、

  • 右側->制御部
  • 左側->計測データ表示部
である。そして、左側の計測データ表示部は上から、
  • 音声波形データ(赤=左、緑=右)
  • 周波数(横軸)vs左右での音圧の差(縦軸)
  • 時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)
となっている。ちなみに下の画面は種ともこの「うれしいひとこと」の中から、「安売り水着を結局買ったアタシの歌」のイントロ部を計測したものだ。
「音場くん(仮名)一号」の画面
「安売り水着を結局買ったアタシの歌」イントロ部

(黒字に赤、緑の色構成は変更の予定)

 計測データ表示部の拡大図を下に示す。

  • 音声波形データ(赤=左、緑=右)
  • 周波数(横軸)vs左右での音圧の差(縦軸)
  • 時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)
というのが判るだろうか?かなりわかりにくい表示系であるのが残念だ。また、色もみにくい表示色になっていると思うので、近く変更する予定である。

 この表示計の意味を例を挙げて説明したい。例えば、下の画面では左の方に定位している音が鳴ったときの状態を示している。一番上の音声波形データでは緑(右)の波形は小さいのに対して、赤(左)の大きな波形が見えている。
 また、真ん中の「周波数(横軸)vs左右での音圧の差(縦軸)」では横軸100(任意単位)程度の高さの辺りで左チャンネルに位置する音が発生しているのがわかる。
 また、一番下の「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」では時間的に一番最後(横軸で右側)の方の横軸560、縦軸100位の位置に白い(すなわち左チャンネルに定位する)音が発生しているのがわかると思う。

「音場くん(仮名)一号」の画面の拡大図
「安売り水着を結局買ったアタシの歌」イントロ部

 この曲のイントロでは、「ポンッ」という音が高さを変えつつ、左右にパンニング(定位位置を変化させること)する。
 一番下の「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」を示したグラフ中で白・黄色(左に定位)と青・黒(右に定位)する音が時間的にずれながら現れているのが判ると思う。

 このようにして、この「音場くん(仮名)一号」では音の定位状態についての「極めて大雑把な」計測が可能である(保証はしないけど)。「音場くん(仮名)一号」を使った他の例を示してみる。

 下は種ともこの「O・HA・YO」の中から「The Morning Dew」のイントロ部を示したものだ。

  • 左(白・黄)チャンネル方向に定位するピアノ
  • 右(黒・青)チャンネル方向に定位するガットギター
がつくる旋律が絡み合っているのがわかると思う。
「The Morning Dew」のイントロ部での
「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」
を示したもの

 これはまるでオルゴールのピンを見ているようだ。あるいは、シーケンサーや昔の自動演奏ピアノのロール譜のようである。対位法などの効果をこれで確認したくなってしまう。

 さて、ここまでの例は楽器も少なく、比較的自然な定位状態であった。しかし、以下に示すような場合には不自然なくらいの「音の壁」状態の場合である。かなり状態が異なる場合だ。

「KI・REI」のラストのラストコーラス部での
「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」
を示したもの

 これは、種ともこの「O・HA・YO」の中から「KI・REI」のラストのラストコーラス部を示したものである。人のコーラスが重なり合っていく部分である。色々な高さの声が重なり合っていく様子がわかるだろう。
 ところが、このグラフをよくみると、同じ音が時間的に持続しているにも関わらず、時間毎に定位位置が左右で入れ替わっているのがわかる。

 これはきっとエフェクターで言うところのコーラスなどをかけたせいだろう(素人判断だけど)。人工的にフィルタ処理をしているためにこのようになるのだろう。こういう結果を見ると、「音場くん(仮名)一号」をプログレ系の音の壁を解析してみたくなる。

 さて今回は、音声の定位状態を解析する「音場くん(仮名)一号」を作成し、いくつかの音楽に対して使ってみた。まだまだ「音場くん(仮名)一号」は作成途中である。これから続く立体音感シリーズとともに「音場くん(仮名)」も成長していく予定である。

 さて、一番先の画面中に"Re"という選択肢があるのがわかると思う。もちろん、これと対になるのは"Im"である。FFTをかけた結果の"実部"と"虚部"である。"実部"の方が左右の耳の間での音の大きさの違いを示すのに対して、"虚部"の方は左右の耳の間での位相差を示すものだ。つまり、ある周波数の音が左右の耳の間でどのような位相差を示すものか、測定しようとするものである。

 左右の耳に対する音の位相差というものは、立体音感を考える上では避けては通れないのだろう。しかし、位相差を処理しようとすると、どうしたらいいものかかなり迷う部分がある。また、今回のようなFFT処理をかけたときに得られる位相を用いて良いものかどうかもよくわからない。というわけで、今回は位相解析処理は後回し、ということにした。

2000-02-13[n年前へ]

競馬の写真判定とパノラマ写真 

パノラマ写真と画像処理 Part.2

 前回 、

の時にi_matさんから頂いたメールを紹介した。i_matさんはというWEBページを公開されており、WEBの中で面白いQuicktimeVRファイルなども公開されている。そう言えば、QuicktimeVRといえばの時に紹介したは必見である。Esherの「上昇と下降」をQuicktimeVRで実感できる。

 さて、前回

 これらのソフトのStack-Slice機能を用いれば「複数画像(動画)からの走査線抽出」ができる。その使用例と、その面白い座標軸変換について考えてみたい。

 しかし、このページは少々重くなってきた。まして、走査線の抽出の話は使用画像が多くならざるをえない。そこで、次回、詳しく使用例を紹介することにする。

 よく、次回登場と言ったまま数ヶ月経つことがあるが、今回は大丈夫である。少なくとも数日後には登場することと思う(多分)。

と書いた。今回もまた「数日後には登場」と言った割には時間が経っているような気もする。しかし、ここのところ文字通り忙殺されていたのである。と、言い訳をしながら今回この作業をやってみることにした。
 
 まずは、
  • 「複数画像(動画)からの走査線抽出」
  • 「座標軸変換」
について考えてみたい。これが、実になんとも面白いのである。例えば、競馬のゴール地点を固定カメラで撮影することを考えてみる。

 以下に示す連続の画像は競馬のゴール地点に競走馬が到着した瞬間である。「馬に見えない」という人がいたら、それは目がおかしい。誰がなんと言おうとこれは馬である。馬と鹿の区別がつかない人は馬鹿と呼ばれるが、これはとにかく馬なのである。

競馬のゴール地点を固定カメラで撮影する
ビデオカメラの視野に馬が入ってくる。

視野の中に馬がもっと入ってくる。




視野の中に馬がものすごく入ってる。

 さて、このビデオカメラで撮影された画像は例えば以下のようなものである。

ビデオカメラで撮影された画像

 撮影された各時間の画像から、この画像の赤で囲んだところを抽出し、並べたらどのようになるだろうか?

 それはこのようになるだろう。よくある競馬の着順判定写真である。

よくある競馬の着順判定写真

 一見、これまで眺めてきたビデオカメラで撮影された画像と同じように見えるが、全く違う。ビデオカメラの撮影画像の動画中における、複数画像間の「位置」は全く変化していない。変化しているのは「時間」だけである。
 だから、このような赤い長方形の画像を並べた方向というものは「時間軸」を意味しているのである。それを、下の画像に示してみる。

よくある競馬の着順判定写真

 この画像は縦方向は「空間軸」であるが、横方向は「時間軸」なのである。ビデオカメラの画像が縦横共に「空間軸」を示しているのに対し、その一軸を「空間軸」から「時間軸」に変換したものなのである

 この競馬の着順判定写真の場合、カメラは空間に固定され「時間軸に変化するもの」を撮影していた。だから、このように各画像から一部を抽出して並べると、それは「時間軸」に対する変化を示すものを得ることができる。

 また、例えば実験条件を変えたときの計測画像に対して「各画像から一部を抽出して並べる」ということをするならば、それは「空間軸」x「実験条件」というものを表す画像を得ることができる。

 それでは、時間的には変化しないものを、ビデオカメラで撮影する方向を変化させながら撮影したらどうなるだろうか?例えば、ビデオカメラを下のようにして360度回転させながら撮影をしてみるのである。

i_matさんが自作したパノラマヘッド

 この場合撮影画像の各画像は撮影方向角度が異なるわけである。従って、先ほどのように一部分を抽出して並べると、一方向は「空間軸」であり、もう片方の軸は「撮影方向角度」になる。結局当たり前ではあるが、ある位置から眺めた周りの景色が得られるわけだ。
 これが、前回i_matさんの要望していた

  1. 8ミリビデオを横倒しにして、 モーター回転するヘッドでぐるりと360度撮影し、
  2. その撮影した動画ファイルの、各フレームから走査線にして数本分を抽出し(インターレースで256本のうちセンター128本目の前後数本の走査線分)、
  3. それを貯めて1枚のjpgファイルにする、
  4. そのJPEG画像をMakeQTVRPanoramaの入力にして、パノラマムービーを作る、
ということである。

 それでは、その作業を実際にしてみようと思う。i_matさんから送って頂いた動画ファイル

を使い
  1. 動画から静止画に変換し(走査線の狭間-1/60秒の世界を目指せ- (1999.07.08) 参照)、
  2. Image PC(NIH-imageをWindowsに移植したもの)で、走査線の一部を抽出し並べた静止画を作成する
のである。その結果はパノラマ写真になっているハズである。

 もういきなり結果を出してしまおう。これが、「動画ファイルから走査線を抽出し、パノラマ写真にしたもの」である。

動画ファイルから走査線を抽出し、パノラマ写真にしたもの

 おや?何が何だかわからない画像になってしまっている。変なモザイクがかかったみたいな画像になっているし、グレイ画像である。参考までに、先ほどの動画から手作業でパノラマ画像を作成したものを以下に示す。上の画像と比較してみると画像の示すものの対応がわかるだろう。

よくある競馬の着順判定写真

 さて、今回の実験結果が

  • 変なモザイクがかかったみたいな画像になっている
  • グレイ画像である
になったのには色々と理由があるのである。
 まず、
  • 「グレイ画像」になっている理由
はNIH-imageが256色画像しか取り扱えないからである。フルカラー画像を上手く取り扱うことができないのである(今回の目的のような場合)。それで、簡易的にグレイ画像として処理してしまった(私が)のである。もしかしたら、動画ファイルのパレットの種類によっては上手く処理できるかもしれないが、これは少し難しい(私には)問題である。

 そして、「変なモザイクがかかったみたいな画像になっている」のは(動画中の)各画像から走査線をそれぞれ一本しか抽出しなかったからである。だから、横方向(カメラの撮影方向角度)のデータが足りないのである。そのため、モザイク画像のようになってしまったのである。
 本来、抽出する走査線の数は、カメラの回転速度に応じて増やしてやらなければならないわけであるが、それが上手く合っていなかったのである。また、今回の画像を見て頂くと判ると思うが、動画ファイル自体も、実は一秒辺りのフレーム数が間引かれたものとなっている。それにより、抽出する走査線の数が一本ではますます足りなくなってしまっていたのである。

 というわけで、今回は「失敗した」と言わざるをえない。何か、前回は「簡単である」などと言い切ったような気もするが、それはきっと気のせいであろう。
 やはり、これは適当にあるもので間に合わせ仕事をしようとしたせいかもしれない。いつの日か「mov2panorama.exe」を作成し、必ずや必ずや再挑戦をするつもりである(Macでやるのは少しあきらめモード)。

2000-02-19[n年前へ]

携帯電話の同時性? 

競馬の写真判定とパノラマ写真 その後

 先日

を書いてから面白いメールを頂いた。その一部を抜粋すると、
 小生は超音波を利用した新しい流体場測定を行っていますが、この方法で得られるDataは空間1次元時間1次元の2次元データです。従って得られるのは、このページにあったような画像が直接得られるわけです。

 この方法といくつかの結果を発表してから、あちこちからコンタクトがありましたが、その中の一つが、NYのSirovichという高名な流体力学者からの手紙でした。彼はいわゆるSnapShotを、逆に小生のデータから構築できないか、というのです。

 今このWebでされたことの逆をしたいというわけです。流れの空間構造を解析するために使いたいのです。残念ながらこれは、以下に少々説明するように、原理的に無理な話で断らざるをえませんでした。

 つまり、時間軸に速度をかけて空間軸に変換できればよいのですが、流体場はそれ自身が速度分布を持っていますから、一体何を使えば良いのかが定まらない。

 電磁波の場合には光速が一定ですから、時間情報から空間情報を得ることができますが、古典流体力学では不可能なのです。工学的には平均流速を使って、時間-空間の変換をしますが、それはインチキとまでは言わないまでも、便宜的なも
のでしかありません。

 このWEBの中での例では、馬?の速度のみであとは静止しているので、可能でし
ょう。

とある。

 「馬?」という箇所に、私との意見の相違があるようだ。私が明らかに「馬」であると言い張っているものに疑問を持たれているような気がするのであるが、今回そこは気にしないでおく。

 なるほど、音波や電磁波などを使って計測を行い、得られた

  • 空間(あるいは量)-時間
のグラフから、音波や電磁波の速度を用いて
  • 空間(あるいは量)-空間
のデータを再構成する計測というのは多い。例えば、
  • 海の中の魚を探知する「魚群探知機」
  • 気象状況を計測する「気象レーダー」
  • 固体の中の電荷分布を計測する「電荷分布測定装置」
などもそうである。いずれも、音波や電磁波が計測される時間のズレから、音波や電磁波の速度を用いて、空間位置に変換して解析を行うものである。

「魚群探知機」は超音波を水中に発信して、その反射波が刻々と帰ってくる様子から、(超音波の速度を用いて、空間位置に変換した後に)障害物(ここでは魚群)の様子を計測するものである。「気象レーダー」も電波を使って同様に雲の分布などを測定する。
「電荷分布測定装置」の場合は、(例えば外部電界を印加し)電荷を持つ個所を振動させてやり、その振動がセンサー部に刻々と伝わってくる様子から(あぁ、なんて大雑把な説明なんだ)、(固体中の弾性波の速度を用いて、空間位置に変換した後に)固体の中にどのように電荷分布が存在しているかを計測するものである。

と、文章だけでは何なので、WEB上から、それらの計測器を用いた場合の計測例を示してみる。

 下が魚群探知機である。リンク先は

である。
魚群探知機
リンク先はhttp://www.taiyomusen.co.jp/gyogun.html

 また、この下は空間電荷測定装置である。これなども、とても面白いものだ。リンク先は

である。
空間電荷測定装置の計測結果
リンク先はhttp://www.crl.go.jp/ys/ys221/charge/PEA_3D.html

さて、こういうことを、調べてみるだけではしょうがない。自分でもそういう計測をしてみたい。
そこで、次のような実験をしてみようとした。

  1. 部屋の中に複数の「音の発信源」を配置する。
  2. 複数の「音の発信源」から同時に音を発する。
  3. それをPCで収録する。
  4. 音声が「音の発信源」からPCに到達するまでの時間を解析する
  5. 複数の「音の発信源」の位置を計測する。
 しかし、複数の「音の発信源」で同時に音を発するにはどうしたら良いだろうか?電子ブザーなどを複数制作して、部屋の中に配置しようかとも考えたが、それも少し面倒である。

 そこで、安易にも時報を使おうかと考えてしまった。しかも、数があって手軽ということで、携帯電話を使おうとしたのである。

 しかし、複数の携帯電話を集めて、117に電話して時報を同時に聞いてみると、とても同時どころではない。てんでばらばらなのである。電話のスピーカーから流れてくる時報のタイミングには結構ズレがあるのである。

 携帯電話の間には結構同時性がないのだ。また、固定電話とも比較したが、固定電話よりも時報が速いものもあれば、遅いものもあった。

 そこで、複数の携帯電話を聞き比べた結果を以下に示してみたい。この写真中で左の携帯電話ほど時報が先に流れており、右になるほど時報が遅れているのである。一番早い左と、一番遅い右では一秒弱の違いがあった。

左の携帯電話ほど時報が先に流れており、右になるほど時報が遅れている

 また、参考までに、家の固定電話と携帯電話の時報を一緒に聞いたサウンドファイルを示しておく。

この携帯電話は先に示した画像の一番左である。つまり、先の携帯電話群では一番時報が早かったものなのである。しかし、家の電話よりは一秒弱遅かった。ということは、家の固定電話と先の一番遅い携帯電話では時報の時間にして2秒弱の違いがあることになる。

 そして、「家の固定電話と携帯電話の時報を一緒に聞いた音の変化」をスペクトログラムにしたものを以下に示す。

「家の固定電話と携帯電話の時報を一緒に聞いた音の変化」のスペクトログラム

水平軸が時間軸であり、時間は左から右へ流れている。また、縦軸は音の周波数を示している。ここでは、「1」で示したのが家の固定電話の時報であり、少し遅れて「2」の携帯電話の時報が聞こえているのが見てとれる。

 よく時報を確認することはあるが(実は私はほとんどないのだが...)、携帯電話・PHSで時報を聞く限り、秒の精度はそれほどないようである。また、勤務先の固定電話は先の携帯電話群と比べても遅い方であった。それは少し意外な結果であった。

 今回調べた「携帯電話の同時性のなさは」は常識なのかもしれないが、電話の時報で時計を合わせるのはあまり精度が出ないやり方であることがわかっただけでもよしとしよう(別に実験を途中で投げ出した言い訳ではないけれど)。

 今度、TV(衛星TVなども遅延時間を考慮した時報の放送を行っていると聞くし)やラジオを用いて当初計画していた実験を行おうと思う。その際には、時報がPCに到達する時間のズレで「音の発信源」までの距離を計測し、左右のマイクでの違いを計測することにより、「立体音感シリーズ」のように「音の方向」を得てみたい。

 というわけで、話が「立体音感シリーズ」に繋がったところで、今回は終わりにしようと思う。

2000-03-26[n年前へ]

透け透け水着の物理学 入門編 

透過率の波長依存を探れ


 少し前のことだった。舞台は妙高高原の露天風呂である。同じ職場の人とある話をしていた。話題は仕事に関する話で、主な話題は色々な物質の光の透過率や吸収の話だった。ずいぶん長いこと、そういった話題をしていた。

 しかし、ふと気づくとなにかがおかしい。会話中に出てくる言葉が変なのである。さっきまで話していた「吸収波長」とか、「感度」とかいう言葉は依然として出てくるのだが、それに加えて変な言葉がどうも出ている。「透け透け水着」とか「丸見え」とか「ナイトショット」といった類の言葉である。これは一体どうしたことだ?これは非常にマズイ。

 私たちがいるのは露天風呂である。私たちの数m横の壁の向こうは女性用の露天風呂だ。そこで、私たちは「透け透け水着」と「丸見え撮影」の話題をしているのである。非常に危険なシチュエーションである。逆に、隣の女性用露天風呂に入浴している人がいたならば、とてもイヤなシチュエーションである。隣が「変態さんいらっしゃい」状態だと思ってしまうだろう。

 もちろん、心ある人が聞けば、私達が極めて誠実に「透け透け水着」と「丸見え撮影」の「科学」について論じているのはわかるはずだ。ましてや、私という人間を知っていたならば、なおさらである。
 しかし、周りはもちろん私達の知り合いではないわけで、誤解されても何らおかしくない。いや、誤解されないのが不自然な位である。
 もちろん、私は見えないものを可視化するのが大好きであるし、「32cmの攻防戦」について論じたこともあるが、誤解はしないで欲しい、とあの時周りにいた人達にひとこと言っておきたい。

 さて、その時に話していたのは、ビデオカメラで水着が透けて見える話についてであった。あの有名なSONYの「ナイトショット」機能付きのHandyCamのことである。そのカメラでどうして水着が透けて見えるのかについて論じていたのである。その見える理由を聞かれた私は「透け透け水着は赤外線の透過率が高いから、と言われていますね。」と答えた。

 例えば、「水着、透ける、ビデオ」で検索すれば、そういう解説が数多くある。それに、私は赤外線フィルムを使って風景撮影をするのが好きだったので、いくらか知識もある。しかし、それはあくまでも知識である。実際に水着の赤外線の透過率を調べたことがあるわけでもないし、可視光との差を比較したことがあるわけでもない。それはあくまで知識だけ、である。実証の伴わない知識というのは今ひとつ好きではない(いや、盗撮を実証するわけじゃないけど)。

 そこで、今回は「水着が透ける理由」を実証してみたい、と思うのである。 透ける理由として、よく言われている

  1. 水着の色や生地によって波長毎の光の透過率が異なる
  2. 水着によっては、赤外光は屈折・散乱しにくく、透過率も可視光に比べて高いものがある
  3. 簡単に言えば、その水着は赤外光は透過しやすい、ということである
  4. ということは、赤外光で撮影をする限りにおいて、その水着は半透明であるようなものである
  5. また、可視光の影響を防ぐため、可視光をカットするフィルターを用いて、赤外光のみで撮影をする
  6. すると、なんと水着が透けて見える
というのを実証してみたいのだ。題して、「透け透け水着の物理学」である。一つ一つデータを重ねて、「透け透け水着の物理学」を構築したいと思うのだ。

 さて、先ほどの「透け透け水着は赤外線の透過率が高いから、と言われていますね。」という言葉を実証するためには、色々な生地の透過率を波長毎に調べなければならない。そのためには、光を波長毎に分解する分光器が必要である。そこで、私は

で分光器を作ったわけである。

 前回は、分光器の出力をデジカメで撮影した。しかし、これでは赤外光の計測もしづらい。そこで、秋月で可視・赤外対応のCCDボードを買ってきた。これを前回作成したHIRAX一型分光器に取り付けて、計測を行った。名付けて、「HIRAX一型分光器CCD+」である。
 

秋月で買ったCCDボード 4000円なり

 まずは、その分校計測出力例を示してみたい。下の写真は「CCDカメラで計測したスペクトルに、可視光の色対応を示すカラーバーを上に示したもの」である。これは前回と同じく、太陽光のスペクトルだ。水平軸が波長を示している。左が波長が短い領域であり、右が波長が長い領域である。可視光領域は左の1/3くらいの領域である。
 

太陽光のスペクトル
CCDカメラで計測したスペクトルに、色対応を示すカラーバーを上に示したもの

鮮鋭化処理をかけたもの

 今回は、縦線状に見えるフラウンホーファー線が明らかに数多く見えるのがわかると思う。HIRAX一型分光器自体もスリット幅の改良などで性能がアップしてるのである。

 それでは、まずはいくつかの材料の波長毎の透過率を計測してみたい。まず、使う材料は下に示すような色フィルターである。もちろん、こんな透け透けの材料で作った水着を着ている人なんているわけはない。これは、あくまで例である。
 

色フィルター

 それでは、次に「HIRAX一型分光器CCD+」で計測した波長毎の透過性を示してみよう。まずは、赤色フィルタである。赤色フィルタを使用している部分は、使用していない部分に比べて、赤色(そして赤外領域)以外の波長がカットされているのがわかる。
 

赤色フィルタの透過性を示したもの
(上部がフィルタ使用、下部がフィルタ未使用)
CCDカメラで計測したスペクトルに、色対応を示すカラーバーを上に示したもの

 例えば、赤色が見えづらい人であれば、このフィルターは透過性が非常に低く、「透け透け度」が低いフィルターである、ということになる。また、赤外光は透過しているが、すごく長波長側では透過率がかなり低いことがわかる。

 また、次が黄色であり、赤色フィルタよりも短波長側まで透過性が高くなっていることがわかる。そして、赤外光の透過性は赤色フィルタよりも高い。
 

黄色フィルタの透過性を示したもの
(上部がフィルタ使用、下部がフィルタ未使用)
CCDカメラで計測したスペクトルに、色対応を示すカラーバーを上に示したもの

 次に示す緑色のフィルタの場合は、緑の辺りの波長と赤外領域辺りの透過性が高いことがわかる。よく、ビデオカメラで赤外リモコンなどの赤外光を撮影すると、緑色に写ることがあるが、あれはこういった緑色のフィルタを使用しているのだろうか?
 

緑色フィルタの透過性を示したもの
(上部がフィルタ使用、下部がフィルタ未使用)
CCDカメラで計測したスペクトルに、色対応を示すカラーバーを上に示したもの

 次が青色フィルタである。赤外光の透過性は結構低い、こともわかる。
 

青色フィルタの透過性を示したもの
(上部がフィルタ使用、下部がフィルタ未使用)

CCDカメラで計測したスペクトルに、色対応を示すカラーバーを上に示したもの

 色々、面白いこともある。例えば、赤色フィルタの透過特性と緑色フィルタの透過特性を比べると、重なり合う(透過性が高い)領域(波長)がほとんどないことがわかる。
 

赤色フィルタの透過性を示したもの
から透過光の強さを描いたもの

緑色フィルタの透過性を示したもの
から透過光の強さを描いたもの

 だから、赤色フィルタと緑色フィルタを重ねると、全然透けないわけだ。透過可能な波長領域がないワケである。こういうのを見ると、暗記用の赤色ペンと緑色下敷きの組み合わせを思い出してしまう。
 

赤色フィルタと緑色フィルタを重ねると、全然透けない

 さて、こういう風に材料毎の透過性を計測できるようになったわけである。さらに、赤外線フィルタの透過性を見てみたい。赤外線の波長領域をまずは実感してみたい、ということである。赤外フィルタは赤外リモコンの発光部のカバーを使用してみた。下に示すのが、「赤外フィルタ= 赤外リモコンの発光部のカバー」であり、
 

赤外フィルタ = 赤外リモコンの発光部のカバー

 次が、赤外フィルタの透過性を示したものである。可視光はほとんど通さず、波長の長い赤外光のみ通過させているのがわかる。
 

赤外フィルタの透過性を示したもの(全てフィルターをかけたた)

 さて、あまりにも画像が増えてページが重くなってきた。今回は分光計測を行い、赤外線フィルターの分光感度を計測したところまでで終わりにしたい。次回は、色々な生地の透過分光計測を行う予定である。「色々な生地が可視光では透過率が低くても、赤外光では透けて見えることがあるのか」調べてみたい、と思う。
 

2000-04-16[n年前へ]

透け透け水着の物理学 第二回 

水着の生地を手に入れろ


 「透け透け水着の物理学」である。前回、

で「透け透け水着」を調べるための「波長別透過計測システム」を作ってみた。予算は総額4000円である。私からすれば、「透け透け水着」は予算をかけた大プロジェクトであると言っても良い。

 となれば、次は色々な水着の生地における「透け透け度」を調べたくなるわけであるが、その実験がなかなかできなかった。忙しかったせいもあるが、大きな理由は、

  • 手頃な水着の生地が手に入らないので、実験ができない (材料の問題)
ということである。「透け透け水着の生地」をどうやって手に入れるか、という問題である。

 私の持っている水着はトランクスタイプで生地もかなり厚い。これでは、「透け透け」であるわけがない(それに、透け透けでは私も困るし、世間も困るだろう)。きっと、競泳用のビキニタイプのものであれば、薄い生地が使われているのであろう。しかし、私はビキニタイプの水着など持っていない。まして、レオタードなど持っているわけがない。

 もちろん、他の人に借りるという手もないわけではない。しかし、相手が男であれ、女であれ、

「君の水着を少しばかり貸してくれたまえ。」
「いや、変なことをするわけじゃないんだ。」
「ただ、透け透け度を調べてみたいだけだから、気にしないでくれたまえ。」
と言うのは少々危険である。誤解される恐れがなきにしあらずだ。もちろん、実験に協力してくれる方がいらっしゃるならば、私のところまで「透け透け水着」を送っていただけるとありがたい。そういう方がもしいらっしゃれば、メールを頂ければ幸いである。とは一応書いてはおくが、送ってくれる人などきっといないだろう。

 というわけで、なかなか実験をすることができないでいた。もちろん、水着と似てそうな生地を頭の上では探してはいた。しかし、「服の生地」という観点から離れられないでいた。そのため、手近なところでは見つからないでいたのだ。結局、

  • 服の生地を手に入れなければ、実験ができないだろう
というように私は思いこんでいたわけだ。

 しかし、数日前、怪しさ抜群の職場のK藤氏が私に囁いたのである。舞台は、夜の会議室だ。

K藤氏 「いやァ、hirabayashi君。透け透け水着の話なんだけどねェ。」
K藤氏 「ボクもやったことがあるんだけど、結構透ける生地ってあるんだよねェ」
私    「えっ、材料は何を使われました?」
K藤氏 「雨傘の布だよ、hirabayashi君。」
 なるほど、確かに雨傘の生地と水着の生地はよく似ている。水を防ぎ、風を防ぎ、ファッションを重視するのも全く同じだ。気づかなかった。気づかなかったのが恥ずかしい位である。もう、最後のK藤氏の
「雨傘の布だよ、hirabayashi君。」
というセリフなどは、まるでシャーロック・ホームズの
「自明だよ。ワトソン君。」
というセリフのようだ。むちゃくちゃ格好良すぎである。

 しかし、よく考えてみると、何やら変なシャーロック・ホームズである。何故、シャーロック・ホームズが「透け透け水着の物理学」を探求するのだ?(人のことは言えないが…)

私     「ちなみに、K藤さん、どこでその実験をされました?」
K藤氏  「夜、部屋でね。一人でカメラを片手にね。ひッひッひッ。」(誇張無し)
 なるほど、想像するだけでスゴイものがある。色々な意味でスゴイ人だ。拳法の使い手でもあり、実は火星人だというウワサもある位のスゴい人である。いや、もしかしたらヒトですらないかもしれない。
 そしてまた、この二人の会話に「何故、どんなことをするのか?」という疑問がないのが不思議と言えば、不思議である。そういったことは二人とも、不思議に思っていないようなのだ。

 それは、さておき、私もK藤氏のように、雨傘の生地を使ってみたいと思う。その雨傘の生地の赤外線の透過率を確認してみたいと思うのだ。傘なら家にはたくさんある。何しろ、私は傘を持って外出することがない。雨が降ったら、外出先で傘を買うのだ。だから、家には傘が何本もある。

 それでは実験を始めてみる。下の写真が家にあった傘である。どれも外出先で買ったものだ。
 

家にあった傘たち

 そして、前回使ったCCDボードであるが、元々は赤外光投光部が付いていた。前回はその部分をあえて使用しなかったのであるが、今回はそれを使用してみたいと思う。
 

使用するCCDボード(周囲に赤外LEDが付いている)

 それでは、このCCDボードを用いて赤外光を照射しながら撮影したものと、普通のCCDカメラで撮影したものでどの位「透け透け度」が違うものかを見てみたい。下に示す写真は左が普通のCCDカメラで撮影したものであり、右が今回のCCDボードを使って撮影したものである。雨傘の生地の向こうにある冊子(JAFMATE)の表紙の透け具合を見てもらいたい。
 

可視光と赤外光での「透け透け度」の違い
白色
白色
桃色
桃色
茶色
茶色
藍色
藍色
緑色
緑色

 白、桃、藍色の傘の生地は元々透け気味である。だから、普通のCCDカメラでも少し表紙が透けて見えた。しかし、緑色のものなどは普通のCCDカメラや人間の眼ではほとんど透けては見えない。しかし、赤外CCDカメラでは「透け透け」であった。また、茶色のものなども「透け透け度」が高かった。
 もし、こんな生地で出来ている水着を着ている人がいるのであれば、これはもう「裸の王様状態」である(赤外線に感度を持つ眼の生物からすれば)。パラダイスとしか言いようがない。いや、そんなことはないか。

 さて、「透け透け度」と色の相関は、色の波長を考えると、ある意味当然だろう。しかし、具体的な話は次回にしたい。生地の波長別の透過率を調べてから、ということにしておく。本来ならば、まずは先にそれをやらなければならない。白色光を用意して、雨傘の生地の波長別の透過率を調べなければならないところだ。

 しかし、今回はそれができなかった。何故なら、基準光としての白色光、いつも使用している太陽が今日は出ていないからである。平日の昼間は実験ができない。しかし、週末の昼間にもやはり実験はなかなかできない。というわけで、いつか天気が良くて暇な週末が来たら、必ず「雨傘の生地の波長別の透過率」、言い換えれば、「色んな生地の透け透け度」を調べてみたい。

 言うまでもないが、今回もまた「やましい気持ち」で動いているわけでない。私はただ「透け透け水着」に対する純真な好奇心(いや、科学的探求心と言い換えておこう)で動いているのみである。これから、夏に向けて「透け透け水着の物理学」はまだまだ進んでいく予定である。そして、水着を買う際の参考にして頂くことを切に切に望むのみである。
 



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