■人静月同照
ぼくらが旅に出る理由
この写真は奈良の橿原のはずれ辺りで撮影したものである。、車のボンネットの上で30秒の露出を行ったものだったと思う。まるで太陽のように輝いているのは、月だ。夜に京都を出発し、和歌山の海の近くで日の出を迎えたのだから、この写真を撮ったのは深夜だったはずだ。
和辻哲郎の随筆によれば、夏目漱石は李白の「人静月同眠」という詩を「人静月同照」だと思っていたそうだ。「人静かにして月同じく眠る」では単なる情景であるが、「人静かにして月同じく照らす」ならば思想である。和辻哲郎は、「人静かにして月同じく照らす」という言葉に漱石の人間に対する態度や、自ら到達しようと努めていた理想がこもっていたと言う。