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2010-03-09[n年前へ]

「電子ペーパー」でもあるエクセルは、プロトタイピングに向いている。 

 オライリーの「Excelプロトタイピング ―表計算ソフトで共有するデザインコンセプト・設計・アイデア 」を読みました。この本は、Excelを代表とする表計算(スプレッド・シート)ソフトで、アプリケーションやWEBページの「見た目」や「大まかな動作」の試作品(プロトタイプ)を簡単に作る方法を解説したものです。一番最初は、「えっ?これがオライリーの本!?」と驚くくらい、カラーページが多く、画面キャプチャをふんだんに使いつつ「やり方の説明」が書かれている本です。

 「エクセル=時間泥棒」という等式が成り立つ、と私は感じています。ただし、この等式が成立するのはある条件下においてであるとも思っています。その条件とは、「定型的な作業で、とても簡単に自動化できることのはずなのに、それを人が繰り返し似たような作業を時間をかけて行っている場合」「(エクセルでない)違う道具を使えば、簡単に(作成した)道具の再利用が可能になるだろう場合」というものです。

 そういった場合でないならば、たとえば、「一回こっきりの作業」や「一番最初のアイデアスケッチ」をするような時であるならば、エクセルを使うのは悪くない選択肢だと思っています。だから、「(とっても簡単な)プロトタイピング」であれば、Excelを使って「やってみる」こともあります。

 エクセルは、良くも悪くも、まさに「見たまま」に作業をすることができます。その「特徴」は、「(非常に簡単な)プロトタイピング」をする時には、「特長」すなわち長所になります。ところが、複雑なものを作ろうとする場合になると、その特徴はまさに短所になってしまうのです。たとえば、画面内にとても収まらないような巨大なスプレッド・シートを作る羽目(はめ)になってしまったりします。

 あくまで、比較的簡単で小さなものを作るという条件下において、見た目そのままに思いつくままに作業することができるエクセルは、なかなか現実的な「プロトタイピング開発環境」になると感じているです。

 私は、エクセルは「電子ペーパー」だと思っています。もともと、紙上で行っていた集計作業を楽にするために作られたのが表計算ソフト(VisiCalc)であって、エクセルはその流れから生まれたものです。「プロトタイピング」という作業には、一番「紙=ペーパー」が最適だと(より正確にいえば、ホワイトボード+記録媒体という組み合わせが一番良いと思っています)、旧ザクならぬ旧世代の私は思っています。だから…というのも変ですが、「電子(処理機能を備えた)ペーパー」でもあるエクセルは、プロトタイピングに向いているように感じられます。

 ところで、本書のタイトル「Excelプロトタイピング」には、「やられた」と思いました。なぜなら、私が編集者だったとしたら、そういうタイトルの(シリーズ)本を作ってみたいと思っていたからです。「Excelでプロトタイピング~○×編~」という本をいくつか、編集者として作ってみたかったのです。そして、自分自身、そこから学んでみたかったのです。

 その思いは、たぶん自動的に下に出てくるだろう、この記事の「関連お勧め記事」を読む、を眺めればわかるだろうと思います。

2011-08-22[n年前へ]

「知る・把握する」「見つけ出す」「選ぶ(捨てる)」ための87のテクニック 

 「ゲームストーミング ―会議、チーム、プロジェクトを成功へと導く87のゲーム」という本を読みました。この本は、古くはKJ法やSWOT分析、あるいは、さまざまなブレインストーミング手法や優先順位をわかりやすく決める方法などを解説した本です。不明確で・不確実なことばかりに感じられるこの時代にふさわしい、「何を」「どのように行えば良いか」ということを、自分(たち)で見つけ出すためにはどのようにすれば良いか(道具ややり方を含めて)具体的に解説した本です。

 この本に書かれていることを、私なりに大雑把に分類してしまえば、それは

  • "現状"を整理し・把握するためのテクニック
  • ”できること”を見つけ出すテクニック
  • ”やること”を選び出すテクニック
という3種類のテクニックです。混沌とした現状をいくつかの視点から整理し・描き出し、その現状の中で”できること”を見つけ・拾い出すノウハウと、そして限られた時間・リソースの中で何をすべきかを見つける87の技術です。それら3つの技術を、さらにもっと短い言葉へと縮めてしまうと、それは「把握する技術」「見つけ出す技術」「選ぶ(捨てる)技術」です。

 足りないこと=すべきことが見えづらくなり、多様化の中で何を選んでいくかがわかりづらく、未来が不透明で不確実になりつつある現在、他の誰かが「何をすべきか」「どのようにすれば良いか」を教え・与えてくれるわけではないだろう、と思います。「何を・どのように行うか」という「プロセス」を与えられる時代は、もう終焉を迎えています。しかし、それにも関わらず、「何をするか」「どのようにするか」ということを見つけ(あるいは生み出し)・選ぶことを、悲しいくらい、不得手な人がいる(あるいは多い)のかもしれません。

 だとするならば、「把握するテクニック」「見つけ出すテクニック」「選ぶ(捨てる)テクニック」という3つの技術は、「足りないこと=すべきこと」を容易には見つけられない、生み出すことが難しいようにも思われる不確実なこの時代の中で、欠かすことができないサバイバル技術であるように思われます。”現状”をさまざまな視点から(容易に)整理し・描き出すにはどのようにしたら(たとえばどのようなイラストとして整理すれば)良いか、”できること”を創造的に見つけ出すにはどのようにすれば良いか、そして、限られた力の中で”すべきこと”を選び出すにはどうすれば良いか…こうしたことに悩んだことがある人にとっては、十徳ナイフならぬ八十七徳ナイフともいうべき欠かせない貴重なサバイバルナイフとなるかもしれない、と思います。

 この本は、「何を・どのようにすべきかというプロセス」を自分(たち)で見つけ・選ばなければならない時代において、その前に横たわる「見つけ・選ぶまでのプロセス」をまとめた本である、ということになります。



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