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2010-03-13[n年前へ]

「時間と場所をわきまえた(TPO)」予測(日本語)変換入力システム (初出:2005年11月01日) 

 下の記事を書いたのは、もう5年近く前のことになります。この記事を書いた時には、1,2年もしないうちに、文字入力システムは、この記事で書いたような”「時間と場所をわきまえた(TPO)」予測変換入力システム”になっているだろう、と思っていました。しかし、現実には、そういう製品を未だ見かけていないのが、私には少し解せません。そういう未来にならなかった理由は、文字入力に必用な速度を実現できないと言った実装上の、問題なのでしょうか。それとも、そもそもそういったニーズがない、というようなことだったのでしょうか・・・それとも、こういう考え方がそもそも間違っていたのでしょうか。


 先月、独立行政法人産業技術総合研究所の増井俊之氏が「携帯端末での文字入力インタフェースの POBox(Predictive Operation Based On eXample)」で第4回ドコモ・モバイル・サイエンス賞」先端技術部門 優秀賞を受賞した。 POBox のようなシステムは、過去に入力した単語・文字の繋がりから、次に入力する文を自動で予測・表示・入力してくれる。つまり、POBoxのようなシステムは「(他の誰でもなく)そのユーザ自身の過去の動作」にもとづいて、「現在・未来に入力する文章を予測」するわけだ。

 類似の文字入力システムは、私の携帯電話にも搭載されており、私もとても重宝している。例えば、私の携帯電話では「も」という文字を入力しただけで、「申し訳ありません」と出てくる。もちろん、「ま」という文字ならば、「誠に申し訳ありません」である。あるいは、それが「い」ならば、「今から送付いたします」である。その「過去に入力した単語・文字の繋がりが謝罪ばかり」という点は実に情けない話のだが、その予測文字を毎回使うというところもさらに情けない。 つまりは、あまりにワンパターンの動作を私はいつもしているわけだ。

 先日、増井氏の「携帯から位置情報を利用」というUNIX MAGAZINEの記事(PDF)に影響されて、自分用に「 (au)携帯電話GPSス位置追跡ページ」を作った。そして、自分が「いつ」「どの場所にいるか」のデータベースを作り始めた。作った理由はいろいろあるのだが、その一つが携帯電話の文字入力をもっと楽にするために、自分用に(自分の時間やいろ場所やその瞬間に書いたメールを把握することで)「時間と場所をわきまえた(TPO)」予測(日本語)変換入力システムを作りたかったのである。時と場所に応じて、書く文章というのは違うのだから、それを考慮した予測(日本語)変換システム(TPO式POBox = TPOBox)が欲しかった、ということである。

 たとえば、8:00 A.M に「お」と私が入力したら、たいていの場合次に続く文字は「おはようございます。」である。そして、9:00 A.M ~7:00 P.M.の間は「遅れて申し訳ありません。」が多い。7:00 P.M.過ぎは「お疲れ様です」という感じだ。つまり、メールを書く時間によって、同じ文字から始まっても「違う文章」を書くことが多い。つまり、(同じ私という人間であっても)それほど「ワンパターン」ではないのである。

 そして、それは場所によっても同じだ。例えば、平日の9:00 A.M.に品川近辺にいる場合、それは打ち合わせ場所に向かう状況が多いので、「い」という文字を入力した場合に次に続く文章は「今、品川におりますので、あと30分ほどで到着します。」という感じのものが多い。そして、それが平日の8:00 A.M.に東京近辺にいる場合には、違う出張先へ行く場合が多いので、「今、東京に着きました。そちらには9:45に到着予定です。」という感じが多い。つまり、時間と場所によって、入力する内容が自動的に決まる、入力する内容は時間や場所に依存しているのが普通だと思う。

 先ほど、「(他の誰でもなく)そのユーザ自身の過去の動作」と書いたが、「同じユーザであっても違う時間にいるなら、それは違うユーザと考えた方が良いこともあるし、(その同じユーザが)違う場所にいればそれも違うユーザと捉えた方が(そして違う文字を予測した方が)良いこともある」ということだ。そして、そんな「時間と場所に応じたユーザの過去の行い」を学習し、「時間と場所をわきまえた(TPO)」予測(日本語)変換入力システムが携帯電話に搭載されたあかつきには、きっと入力がとても楽になるに違いない、と想像している。つまりは、それは「TPOも考えるならば、すごくワンパターンの行い・繰り返しをユーザがしている可能性が高い」という、現実を示すことになってしまうのだが…。



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