■恋の力学 三角関係編
恋の三体問題
今回はもちろん、
の続きである。前回は、恋の力学を二体間の単純問題に適用したが、今回は複雑系の入門編である三体問題に適用してみたい。二体間の単純問題から三体問題になることで、現実問題に近くなる。また、物語性も大幅にアップする(当社比)。その物語性のいい例があるので、簡単に紹介しておく。小山慶太の「漱石とあたたかな科学」講談社学術文庫の第七章に面白い話がある。- 「明暗」とポアンカレの「偶然」 - である。漱石が、明暗の中でのモチーフにしている「ポアンカレの説明する偶然」について、
- ラプラス -> ポアンカレ -> 漱石
「明暗」の中での登場人物
- 津田
- お延
- 清子
前回の「二体間の単純問題」というのは、「無人島で男と女が二人きり」という舞台設定である。現実にはあり得ない。あぁ、しまった。こう書くと、まるで今回の「三体問題」は「無人島で男二人と女一人」という舞台設定に思えてしまう。これだって現実問題としてあり得ないような気がしてしまう(関係ない話ではあるが、「無人島で男二人と女一人」という舞台設定で始まるジョークは「アメリカ人なら男同士が殺し合い、イギリス人なら紹介されるまで口をきかないから何も起きず、フランス人なら片方は恋人で片方は愛人になり問題は起きず、日本人ならホンシャにどうしたらいいか訊く。」というオチだったように思う。うーん、言い返せない。)。
だが、都会という砂漠が舞台であると思えば、東京砂漠に「男二人と女一人」、あるいは「男一人と女二人」といったような舞台設定は無理がないだろう。そう舞台は東京砂漠ということにしておこう。
それでは、考察を行ってみることにする。まずは解析の条件である。「男」と「女」に関する「恋の力」は前回と同じく、
- 「恋の力」 = 「相手の魅力」 * 「二人の間の距離ベクトル」 / 「二人の間の距離スカラー」
- 「同性に対する反発心」 = 「相手の魅力」 * 「二人の間の距離ベクトル」/ 「二人の間の距離スカラー」
- 「恋の力」-「同性に対する反発心」 = 優柔不断度 * 「恋の加速度」
それでは、以下に計算結果をグラフにして示してみる。まずは、「女」「男1」「男2」全員が同じ資質を持つ場合である。この場合、「三すくみ」状態に陥る。
- 「女=赤」 位置=0, 速度=0,魅力=10,優柔不断度=10
- 「男1=黒」 位置=5, 速度=0,魅力=10,優柔不断度=10
- 「男2=青」 位置=-5, 速度=0,魅力=10,優柔不断度=10
この「女」を中心にして、「男」達が身動きが出来なくなった状態はよく見かけると思う。ねるとんなどでよく見かける風景である。ただし、この状態が発生している理由は「男1」と「男2」そして「女」の魅力が全く同じ状態であるからだ。
ほんの少しでも「男1」と「男2」に有利な点があれば、この状態は一変する。次に示すのは「男1」が「男2」よりも1%だけ魅力がある場合である。その1%は理由は何であっても良い。例えば、偶然駅で出会ったなどでも良いだろう。
- 「女=赤」 位置=0, 速度=0,魅力=10,優柔不断度=10
- 「男1=黒」 位置=5, 速度=0,魅力=10.1,優柔不断度=10
- 「男2=青」 位置=-5, 速度=0,魅力=10,優柔不断度=10
その一方、「男1」と「女」は幸せイッパイだろう。クヤシイくらいである。全く...
また、「女」に大きな魅力があった場合には、先の「三すくみ」状態ではなく、見事な「三角関係」に陥る。これは、三すくみ状態を打破するのに十分な魅力が「女」にあるからである。
- 「女=赤」 位置=0, 速度=0,魅力=20,優柔不断度=10
- 「男1=黒」 位置=5, 速度=0,魅力=10,優柔不断度=10
- 「男2=青」 位置=-5, 速度=0,魅力=10,優柔不断度=10
「女」を中心にして「男1」と「男2」が右往左往する様子が手に取るように分かる。これも世の中にはよくあるケースだろう。涙無しには見ることのできないグラフである。いや、もしかしたら、私の周りだけかもしれないが...
もちろん、この場合も「男1」と「男2」の魅力にほんの少しでも違いがあれば、状態は一変する。今度は「男2」に「男1」よりも1%魅力が多くあるものとしてみよう。
- 「女=赤」 位置=0, 速度=0,魅力=20,優柔不断度=10
- 「男1=黒」 位置=5, 速度=0,魅力=10,優柔不断度=10
- 「男2=青」 位置=-5, 速度=0,魅力=10.1,優柔不断度=10
「女」の心が「男1」と「男2」の間で揺れ動いている様子がわかると思う。「男」は「恋の力」と「同性に対する反発心の力」により、右往左往状態である。これぞ、リアルな三角関係である。この場合、果たして「男1」が勝つのか「男2」が勝つのか、よくわからない。どの時点で「勝ち」を決めるかで大違いである。また、「女」にすらその結末は予想できないのではないだろうか。「女」自身も相手を決めた本当の理由はわからないと思われる。
これは、もう複雑の極致であるが故に、何の予想もできないのである。
ここまでの話はまるで天文学者が頭を悩ます三体問題のようである(いや、もちろんあちらが本家だが)。天文学者は天体の三体問題に頭を悩まし、我々は恋の三体問題に頭を悩ますのだ。どちらも、実にロマンチックである。
こうして、今回の話の結末はよくわからないままになってしまった。やはり、ここは「明暗」の津田のつぶやき、
「偶然? ポアンカレのいわゆる複雑の極致?なんだかわからない」という言葉で締めくくろうと思う。漱石は偉大である。
さて、「恋の力学」シリーズはまだまだ続く。近日公開とはならないかもしれないが、次回作の予告をしておこう。
- 恋の力学 運命の人編 - 偶然と必然の境界線 - (仮称)