■偵察衛星の「視力」はいくつ!?
30倍の双眼鏡で覗くアフリカ人
ほんの何週間か前、米軍がイラクへ侵攻し始めた頃、テレビのワイドショーでは米軍の偵察能力の話題がよく取り上げられていた。なんでも、10cm前後の分解能があって飛行場に止まっている車の車種まで判別することができるとか、歩いている人を認識できるとか、そりゃまたビックリの偵察衛星の性能を事細かに報じていた。
そしてまた同じ頃、北朝鮮の軍事施設の監視などを目的として打ち上げられた日本初の「偵察衛星」の話題もワイドショーで取り上げられていて、こちらの方は分解能1mという性能を挙げながら、米軍の偵察衛星との能力比較などが行われていた。
とはいえ、日本の偵察衛星が高度約490kmから地表1mの物体を見分けるとか言われても、あるいは米軍の偵察衛星のように250kmの上空から10cm程度のものを見分けるとか言われても、それだけではワタシにはどうもピンとこないのである。どのくらい「よく見えているか」がなかなかワタシにはピンとこないのである。少なくとも、ワタシにとっては「どのくらいよく見えるか」ということは、もう片目を隠す「黒いしゃもじ」とあのCの形と切り離して考えることはできないのである。つまりは、昔学校で受けた視力検査の「視力」というものが「どのくらいよく見えるか」の尺度になってしまっているのである。偵察衛星がスゴイと言われても、じゃぁどの位の「視力」なの?と思ってしまうわけである。視力4.0というアフリカ人の何倍スゴイ、と言われなければワタシにはどうも今ひとつピンとこないのである。
というわけで、今回は偵察衛星の視力を計算してみることにした。まずは視力の定義である。視力の定義は、「識別できる最小視角(単位は分)の逆数を視力とする」となっている。だから、例えば視力1.0の場合には、直径7.5mmのCの形に刻まれた幅1.5mmの切り込みの場所を5mの位置から認識できるということになる。もし、10mの距離からその1.5mmの切り込みを識別できれば、視力は2.0であるし、21mの距離から識別できるなら、おっとビックリのアフリカ人と同じ視力4.0ということになるわけである。
それでは、偵察衛星の場合で計算してみることにしよう。とりあえず、識別できる最小サイズをS(m),識別する物体までの距離をd(km)とすると、上の定義から視力は
1/(360*60*ArcTan[S/(d*1000)/ 2 * π])と表される。そして、先のワイドショーで知った数字などをこの式に入れてみると、
- 高度約490kmから地表1mの物体を見分ける日本の偵察衛星 = 視力 143
- 高度約250kmの上空から10cm程度のものを見分ける米軍の偵察衛星 = 727
さてさて、目がいい人が高倍率の双眼鏡を覗いていれば、私たちは当然「何が見える?」と聞くに違いない。ましてや、それが偵察衛星で、軍事行動に走る前であるならば偵察衛星から何が見えるかを丹念に調べるに違いない。もしも、私たちが高度250km偵察衛星に
「そこの街には誰かが居る?」と訊けば、それが15cmの精度の偵察衛星ならきっとちゃんと答えてくれるに違いない。
- 今、そこには人が何人か歩いていますそこで、私たちは偵察衛星にもう少し詳しく聞いてみる。
「その人達はどんな表情を浮かべてる?」15cmの精度では人の表情までは判らない。人が居ることは判ったとしても、今の偵察衛星では人の顔までは写らない。近くで眺めてみないことには、人の表情は判らない。
「悲しんでる?それとも、笑ってる?」