■モアレ、デバイス、2項分布の三題話
淡色インクの副作用
今回は、9ヶ月間も寝かせた伏線にまつわる話である。いや、別に寝かせるつもりは無かったのだが、いつのまにかそんなに時間が経ってしまった。
以前、
という話があったが、その2つを結びつけるミッシングリンクについて考えてみたいと思う。「2項分布のムラについて考える(1999.01.08)」の最後に「今回の話はあることの前準備なので、これだけでは話しが全く見えないかもしれない。というわけで、続く...」と書いた。「その続き」というわけである。始めに「2項分布のムラについて考える(1999.01.08)」の要点をまとめると以下のようになる。それは、
- ランダムと呼ばれるものの内で代表的な2項分布においては、当然のごとく「ある領域での平均値はばらつく」。
- そして、そのばらつきは直感的に考える程度よりももっとばらつく。
- 例えば、2値画像で考えるならば、2048dpi程度の解像度でランダムなデータを並べた場合には、人間の目はざらつきを感じてしまう。
そして、「モアレはデバイスに依存するか?(1998.11.20)」での要点は
- モアレにはデバイス依存性がある
- 線形な重ね合わせが成り立たない場合にはモアレが発生する。
最近のインクジェットプリンターはCMYKの4色インクだけでなく、淡色インクも使うものもある。淡色のインクを使うことで階調豊かな画像を印字できるわけだ。4色インクだけではディザなどを使って、解像度を下げて階調を出さなければならないわけであるが、それが不要になるわけだ。
解像度を下げないですむわけであるから、ディザのざらつきを感じないですむわけだ。しかし、淡色のインクを使った場合の効果というのはそれだけではないように思われる。HP(ヒューレッドパッカード)などのWEBのプリンター紹介を読んでいると、「淡色のインクを重ねて濃度を出す」というような記述を目にする。これは「少なくとも淡色インクでは線形性(あるいはそれに近い関係)が成り立つ」ということだ。
インクジェットプリンターの解像度を上げたときに、インク滴が意図しないところへずれてしまうことはきっとあるだろう。その際に他のインク滴と重なったらどうなるだろうか?意図しなくても他のインク滴との重ね合わせは発生してしまうだろう。
重ね合わせが成り立たない、非線型なインクではモアレが発生する。言いかえれば、意図しない濃度のばらつき・ざらつきが発生してしまう。「2項分布のムラについて考える(1999.01.08)」で考えたようにランダムに重ね合わさるから広い領域では一定だろうというのは予想外に成り立たないのである。でたらめというのは私の予想外に大きく効いてくるのである。
しかし、重ね合わせに線形性が成り立つ淡色のインクではモアレが発生しない。すなわち、いくらランダムにインク滴の重ね合わせが生じてしまったとしても、意図した通りの濃度をだすことができ、ばらつき・ざらつきは発生しないことになる。参考までにインクジェットの印字画像の拡大写真を示してみる。
「重ね合わせに線形性が成り立つ淡色のインクではモアレが発生しない。すなわち、いくらランダムにインク滴の重ね合わせが生じてしまったとしても、意図した通りの濃度をだすことができ、ばらつき・ざらつきは発生しない」と、書いただけでは意図するところが伝わらないと思うので、「モアレはデバイスに依存するか?(1998.11.20)」で使った画像を用いて考えてみる。この画像は重ね合わせがある幾何学模様で生じているが、この現象がランダムに起こっているものとして読み替えて欲しい。
下は、淡色のインクで重ね合わせ(インク滴の意図しない重なり)が生じた場合である。
なんの模様も生じていなく、意図した通りの画像出力ができているのがわかると思う。
ということで、今回の話(というか前の2回の話)の繋がりは、
淡色のインクを用いたインクジェットプリンターでは、意図しないインク滴の重ね合わせが生じてしまっても、濃度変化が生じにくく、意図しないインク滴の重ね合わせがでたらめに発生してしまったとしても、画像にはあらわれない可能性があるということである。
うーん、マニアックな内容だ。「身近な疑問を調べる」という看板に偽り有り、である。しかも単なる推論だ。
しかし、もしもインクジェットプリンターを買う人がいるならば、淡色のインクを使っているものを購入するといいかもしれない、ということがわかっただけでも良しとしておこう。