hirax.net::Keywords::「呼吸」のブログ



1999-10-18[n年前へ]

沸点と数学の挑戦状 

みつからない「解決編」


 いったい、いつから疑問に思うことをやめてしまったのでしょうか? いつから、与えられたものに納得し、状況に納得し、色々なこと全てに納得してしまうようになってしまったのでしょうか?
 いつだって、どこでだって、謎はすぐ近くにあったのです。
 何もスフィンクスの深遠な謎などではなくても、例えばどうしてリンゴは落ちるのか、どうしてカラスは鳴くのか、そんなささやかで、だけど本当は大切な謎はいくらでも日常にあふれていて、そして誰かが答えてくれるのを待っていたのです....。
加納朋子 ななつのこ より

 加納朋子の「ななつのこ」という小説を読んだ。創元推理文庫から出ているのだから、ミステリといっても良いだろう。私の好きな北村薫の「空飛ぶ馬」に始まる「円紫さんと私」シリーズによく似た雰囲気を持つ本である。

 それを読んで、ふと思い出した。

 私が通っていたM高校の話だ。M高校は武蔵野の玉川上水のほとりにある。

 そのことを聞いたのは月曜の朝だ。日曜日の昼間に変質者が現れたというのである。目撃した人によれば、変質者は生徒用の上履きを履いていて、手には白い布を持っていたという。顔などはよくわからなかったそうだ。目撃者に驚いた変質者は逃げてしまい、白い布を落としていった、というのだ。
 
 それだけなら、「単なる変な奴がいた」ということで話は終わった筈だ。問題は、その白い布に麻酔薬が含ませてあったという点だった。悪ふざけではすまない。

 私は友人の鴨志田とその事件について話をしていた。気になることがあったからだ。変質者が目撃された場所が問題だったのだ。図に描くとこんな感じだ。

M高校2F平面図
現場写真

 そこは2階の中では職員室から一番遠い。一番校門に近い玄関を揚がった所である。そして、生物室の隣だった。
 生物室は、普通の教室とは違う。通常は鍵がかかっているし、それは鍵がかけられるということでもある。

 生物部の部長・副部長は生物室の鍵を使える立場にあった。そして、鴨志田は生物部の部長だった。

「変質者は生物室に出入りできる奴かな?」
「生物の部長・副部長経験者ってこと?」
「うーん。」
これはどうにも重大な問題だったのである。

「麻酔薬ってクロロホルムとか、かな?」と鴨志田にぼくが言うと、「立て板に水」状態で、彼の推論を聞かせてくれた。

「いや、きっとエーテルだね。」
「今時、クロロホルムなんて使われていないんだよ。」
「副作用もあるしさ。」
「あと、沸点を考えてみろよ。」
「エーテル、つまりジエチルエーテルDiethyl Ether ( (C2H5)2O )は沸点が34.6℃だ。」
「それに対して、クロロホルムChloroform ( CHCl3 )は沸点が61.7℃だ。」
「ハンカチにクロロホルムを含ませて顔に当ててもなにもおきない。」
「だけど、エーテルは人間の顔にあてたら、体温のせいで瞬間的に気化するんだよ。」
「つまり、エーテルの気体で顔の周りが覆われるわけだ。」
「呼吸なんかしたらエーテルを吸わざるをえないだろ。」
「だから、クロロホルムとかよりエーテルのほうが、変な用途には向いているんじゃないかな。」
「もっとも、即座に気を失うとは思えないけどね。」
 なるほど説得力はある。いや、ありすぎるといっても良い程だ。コイツ、むちゃくちゃ怪しいヤツである。犯人候補No.1である。一朝一夕で考えた理屈とは思えない。
「そういうことって生物部の部員ならみんなわかるもの?」と聞くと、
「部長・副部長をやるくらいの人は確実にわかる。けど、他の人でもわかるやつはきっと多いよ。」
また、部長・副部長経験者である。

「ところで、生物室にエーテルはある?」と訊くと、

「うん、あるよ。」
「生物室に入れる人なら手に入ると思うよ。」
とのお答え。やはり、生物室の「鍵」である。
「せめて靴の先の色がわかれば。」
「学年がわかるね。」
そう靴の先の色は赤・黄・緑と色分けされており、それで1,2,3年生の区別がつくのだ。もっとも、それと関係ないサンダルを履いている人のほうが実際は多いのであるが。それに、靴を履いていたから学内の生徒とは限らないが。

 次に、ぼくらは覚えたばかりの数学の知識をひけらかす(まだ高校生だから)話をしていた。

犯人(変質者)の条件

  • 生徒用の上履きを履いてた。
  • 麻酔薬に関する知識がある。
  • 麻酔薬を手に入れられる。
  • 生物室に入れる。
  • 一人
これは犯人の「必要条件」といえる。

ここで、私は
「ぼくは生物室の鍵を持っていないから、必要条件を満たしていないな。」
つまり、「生物室に入れる=鍵を使える=生物の部長・副部長経験者」であるから、「ぼくは必要条件のひとつを満たしていない」と主張したのだが、鴨志田は聞き入れなかった。。
「オマエに鍵なんか必要ないだろう。」
そう、物理部の部長(私のこと)になるには「錠前破りが得意」でなければならなかったのである。すなわち、物理部の部長経験者であると「生物室に入れる。」ということの「十分条件」をもれなく手にしてしまうのである。イヤーなおまけである。もっとも、私は生物・化学は苦手であるので、必要条件を満たしていない。

一方犯人の「十分条件」を考えてみるとこんなものがある。

  • 生物部の部長・副部長
これだけで、全ての必要条件を満たしてしまうのである。といっても、それはやはり単なる「十分条件」である。しかし、上の必要条件は明らかに「生物部の部長・副部長」よりも大きいだろうから、「必要十分条件」にはなりえないだろう。

犯人と生物部の部長・副部長と私に関する関係
「ところで、こんなミステリがあったらどう思う? 探偵がめちゃくちゃ論理的なヤツでさ。」
「コンパクト群の表現論なんかで語られてさ。」
「犯人を指摘する所なんか、数式だらけな話。」
「作家はMathematicaをワープロ代わりにしててさ。」
「......なんか、一般受けしそうにないな...おれにすら面白くないぞ...」
 さてさて、普通ならばここに「読者への挑戦状」が入るところだろう。だから、この話にも入れてみる。ただ、少し定型とは違う。
読者への挑戦状
 ここまでに、犯人を示す証拠が全ての証拠がそろっているとは思わないし、そもそも、犯人が登場しているかどうかすら私にはわからない。いや、実際のところ登場していないと100%確信している。しかし、名探偵のあなたなら、きっと犯人を指摘してくれるに違いない。私と鴨志田の懸念を吹き飛ばしてくれるに違いない、と思うのだ。

 犯人は一体誰なのだ...


2003-07-12[n年前へ]

14ミリグラムの「いろんな気持ち」 

気持ちを軽くする「息抜き」化学式

 小学校の頃、ダンボールのような不思議なものをかぶる人を描いた挿絵とともにこんな話を国語の教科書で読んだ記憶がある。

 みんなの悩み事をさっぱり忘れさせてくれる空色のせんたく機を発明したタンネさん。空色のせんたく機は「みんなの悩み事」を砂に姿を変えさせて、「みんなの悩み事」を消し去ってくれる。だけど、タンネさんは、せんたく機の製造に追い詰められて、砂を吐き出し続けて、空色のせんたく機の中で悲しいロボットになってしまった。

この記憶の隅に残り続けている話は、乙骨淑子の「すなの中に消えたタンネさん」という物語らしい。この物語のように、悩み事を砂に変えて消し去ってくれるなんて機械がもしもあったとしたら、私だって欲しくなってきっと一つ注文してしまうかもしれない。そして、結局は「空色のせんたく機」のバックオーダーをさらに一つ増やしてしまい、タンネさんをさらに追いつめてしまうことだろう。

 発明家タンネさんが作り出した「悩み事を砂に変えてしまう洗濯機」のような、いろんな気持ちを何かの物質に変えてしまうような「気持ち・物質」交換機なんていうものがあるという話は残念ながらまだ聞いたことがない。だけど、もしも、そんなものがこの世の中にあったとしたらそれは一体どんなものなのだろうか?

 それは一体どんなものだろう?と想像してみようと言ってみても、いろんな気持ちを何かの物質に変わるだなんて、何をいきなり荒唐無稽なことを言うのだろうと思われるに違いない。けれど、少し振り返って考えてみたりすれば、悲しい気持ちがいつのまにか涙に変わったりする、なんてことであればそれはとてもよくある話だと思う。そんなふうに、「悲しい気持ちが涙という水に変わったりするなんて」ことが当たり前のようにあるとするならば、「いろんな気持ちが何かの水に姿を変えて、そして気持ちが水とともに消え去っていく」ことが当たり前のようにあったとしても、それは別に不思議な話でもないようにも思われる。

 例えば、人が息を吸いこむと、一呼吸あたり約17ミリリットルの酸素が体の中に取り込まれる。そして、その酸素は体の中で糖分と反応して二酸化炭素と水に変わる。化学式で書いてみれば、C6H12O6+6O2+6H2O→6CO2+12H2Oという反応が起こるわけだから、一回分の呼吸から14ミリグラムの新たな水が体の中で作り出されるわけだ。いろんな気持ちが「涙という水」に姿を変えることがしばしばあるように、この呼吸の中で作り出される「14ミリグラムの新たな水」が実は体の中の「いろんな気持ち」が姿を変えたものだと考えてみるのも少し面白いと思う。呼吸の結果起こるC6H12O6+6O2+6H2O→6CO2+12H2Oという化学反応が実は「気持ち・物質」交換を示す化学式だったと考えてみると、少し面白いことを思いつく。

 例えば、こんな風に考えてみよう。体の中に悲しい気持ちを抱えたまま、息を吸ってそしてため息をつく。すると、その悲しい気持ちが体の中で14ミリグラムの水に姿を変える。そして水に姿を変えた14ミリグラムの悲しい気持ちはいつの間にか体の外に排出されて消えていく、と考えてみる。一回呼吸をすれば、一回ため息をつけば、14ミリグラムの悲しい気持ちが体の中から消えていく、と考えてみるのである。一回の呼吸で14ミリグラムだけ気持ちが軽くなる、と考えてみる。体や心を休めることを「息抜き」と表現するけれど、それは息をするおかげで気持ちが軽くなるこの「気持ち・物質」交換を示す化学式に基づいていたのだ、と空想してみるのだって面白いに違いない。C6H12O6+6O2+6H2O→6CO2+12H2Oという化学式に「息抜き」という言葉が基づいていた、と考えてみるのである。

 あるいは、こんな風にも考えてみる。一回の呼吸で14ミリグラムの色んな気持ちが14ミリグラムの水に姿を変えるのでれば、それは一生を通して考えてみると
14 (mg) * 15 (回/min) * 60 (min/h) *24(h/day) * 365 (day/year) * 60 (year/life) ≒ 7 t
ということだから、7トンもの色んな気持ちが水に姿を変えていくことになる。もしも、一生の間「いろんな気持ち」を抱え続けていたら、7トンもの気持ちを背負うことになってきっと押し潰されてしまうに違いないけれど、息を吸って吐き続けているために、一回の呼吸で14ミリグラムづつ気持ちを軽くし続けているために、一生で7トンものいろんな気持ちを何処かへ消し去って気持ちを軽くしている、と考えてみるのである。だから、押し潰されないでいるのかも、と考えてみるのである。呼吸をして、呼吸の化学反応で「息抜き」をし続けているから「いろんな気持ち」に押し潰されないでいるのかも、と考えてみるのである。


 残念ながら、タンネさんの「空色の洗濯機」はまだ世の中にはない。だけど、こんな風に呼吸が実は「気持ち・物質」交換機かもしれない、と考えてみると少しは息抜きになりそうなことを思いつく。例えば、いつもより色んな気持ちを抱えているときには、いつもより大きく息を吸って、そしていつもより大きく息を吐いてみる。そうすれば、きっといつもより多くの「いろんな気持ち」が水に変わる。いつもより多く、もしかしたらそれは数ミリグラムだけしか多くないかもしれないけれど、いつもより気持ちがほんの少し軽くなるかもしれない。

14ミリグラムの「いろんな気持ち」 

 あるいは-気持ちを軽くする「息抜き」化学式-です。気持ちが落ち込むときには、ため息をつくか、あるいは深呼吸をするしかないかな、というような「息抜き」空想話です。ロボットじゃない人間は呼吸をするしかないのかな、と。

2003-07-20[n年前へ]

緑を生み出す言葉の樹「エコトノハ」 

 「エコトノハ」を訪れ、枝に言葉を書き込みます。あなたの言葉を枝葉にして樹が育ってゆきます。参加者が増えると葉がどんどん増え、「エコトノハ」の樹は大きな言葉の樹に育っていきます。そして、「エコトノハ」プロジェクトで育った樹木は、書き込まれた葉100枚(100クリック)を、植林1本分として換算し、オーストラリアカンガルー島での植林計画にプラスされていきます。

私が眺めた小さな木 という素晴らしくも面白い企画。言葉がネットの中の葉っぱになり、それがいつか何処かの場所で本当の葉っぱに変わるなんてとても不思議だ。
エコトノハ」に「コトバ」を書くと、コトバがいつしかみどりに変わって「言葉の光合成」を始めるというのは、何だか「14ミリグラムのいろんな気持ち」の呼吸みたいだ。いろんな気持ちが光合成の呼吸で変化していったら良いのにな、と。
 ちなみに、音もキレイなのでちゃんとスピーカーのスイッチを入れておくこと。
from www.textfile.org

2004-07-22[n年前へ]

「テンション」と「サーチエンジンはやぶさ」 

 「テンションがなかなか…」という方への伝言。「どうしたって私たちは呼吸をするしかないわけですから、せっかくなら深呼吸で何かが軽くなった方が…いいですものね?」 というわけで、こちらこそありがとうございます。

 「サーチエンジンはやぶさとの関連性は?」という質問をされた方へのお返事。「手作業検索エンジンを装った方が読んでいる人からの反応が(直メールや単なるメール送信フォームよりも)多い」と思って、前に「サーチエンジンはやぶさ」をパクって手作業検索エンジンを作りました。実際、同じような内容でも「メール送信フォーム」よりは「手作業検索エンジン」の方が圧倒的に多いようです。

 ちなみに、ここ二三日では「愛」とか「世界平和」が検索されていたりします。そんな検索への「ぐるぐる」からの答えは、こんな感じらしいです。「どこにあるのか、私が聞きたいくらいです。もしかしたら、そういうものは何処かから探すものじゃなくて、自分で作り出すものなのかもしれません」 また、「샐꓈꒢꒿꒿꒫꓊닊돘」を検索した方は、本屋へ行ってみて下さいな。



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