2009-05-23[n年前へ]
■登山の下着の科学を「システム」として考えてみたい・・・!?
「新しい衣服衛生 」を読んでいると、こんな一節がありました。
水は1g当たり、たとえば25℃で583calと大量の気化熱を奪う。よく登山のときには羊毛の肌着を着ると良いといわれる。この理由は、濡れた時の熱伝導率がほかに比して小さい*ということと縮れ構造のかさ高性による保温効果もあり、さらに湿感も少ないが、もっとも重要なことは、繊維中最大の吸湿性(20℃,相対湿度65%で16%)があるため、汗をよく吸いとってくれるということ、そして同時にその吸湿時に発生する多大の湿潤熱により加温されるということがある。この説明には図が付けられていて、布の水分率(%)が上昇すると通常有効熱伝導率(W/m・K)は上昇するが、他の布に比べて羊毛は、全水分率にわたってかなり低い有効熱伝導率であることが示されています。
ちなみに、湿潤熱というのは、熱測定学会の説明をひいてみると、「浸漬熱(現在では"しんせきねつ"とも読むが"しんしねつ"が正しい読み方)あるいは湿潤熱=DHimmは、固体が液体に浸漬した際の固体表面エンタルピーの消失と、それと同時に起きる固-液界面の生成に伴う固液界面エンタルピー発生によるエネルギー変化により生じ、固体表面のエンタルピーhSと固液界面のエンタルピーhSLの差に等しい(DHimm=hSL-hS)」とあります。
登山の下着ひとつを考えるだけで、そこには色々な科学が隠れているものだ、と驚かされます。
ところで、いちばん最初の「登山のときには羊毛の肌着を着ると良い」という説明を読んで、システム・ダイナミクス的に考えてみると、果たして本当に「羊毛の肌着が良い」のかわからなくなったのです。湿度・汗・熱(温度)などを考えた時、果たして「多大の湿潤熱は果たして良いものなのか」がよくわからなくなりました。
下着を湿らすのは周りの湿気や、登山者の汗だと思います。湿気が高い時、登山者が汗をかいた時、湿潤熱が発生することが良いか・悪いかは、その時の気温にも依存する話のように思えます。汗をかいた時に、ますます熱くなってしまうと、もっと汗をかいてしまうことになり、何だか困るような気がします。その登山中の全過程における、気化熱や周りの気温とのバランス次第で、「多大の湿潤熱」が良い・悪いは変わるでしょう。
私は気軽な登山はしますが、本格的な登山というものをしたことがありません。発熱や湿度や発汗の関係、あらゆる作用を考えた動的なシステムとして考えてみると、一体「最適な登山の下着」はどういうようになるのでしょうか?
2009-05-26[n年前へ]
■「静電気体質」を「衣服生地と人体皮膚の摩擦帯電系列」から眺めてみよう
もうすぐ梅雨が始まります。私のような静電気体質の人は、湿気を感じる季節になると、ちょっと気楽になったりします。それは、湿度が高いと摩擦帯電しにくくなるからです。などと書くと、「静電気体質」って何だろう?という疑問が湧いてきます。
床や靴裏が摩擦され合うと、摩擦帯電が生じて、片方が+(プラス)にもう片方が-(マイナス)に帯電したりします(たとえば右上の写真は、そういったことを防止するための静電気帯電防止機能付きカジュアルシューズ です)。あるいは、来ている服と座っている椅子などの間でも摩擦帯電が起きたりします。「静電気体質」というのは、そういう靴や服選びによるものなのでしょうか?
「新しい衣服衛生 」の頁をめくると、「衣服生地と人体皮膚の摩擦帯電系列」のデータがありました。そこに書かれていた内容を大雑把に図・グラフにしたものが、下図になります。
意外なことに、人体皮膚は(人によっても違うようですが)およそ羊毛からテトロンの間に広く分布していることがわかります。それぞれの人の、その時の状態によるのかもしれませんが、ひとことで同じ「皮膚」といっても、帯電性には人それぞれ差があるようです。摩擦帯電系列上での、来ている服と皮膚との関係にもよりますが、服と皮膚間の摩擦帯電では、摩擦帯電しやすい人、しにくい人という「体質」がある、のかもしれません。
さて、とりあえずは、皮膚と衣服の摩擦帯電をさせたくない、と思う「静電気体質」の人は、自分の皮膚と衣服生地の摩擦帯電序列を合わせてみるのはどうでしょうか。つまり、ビニロン・やレーヨンや羊毛あたりと皮膚を擦り合わせてみて、静電気が発生しない組み合わせを探し、それを(摩擦帯電的に)自分にあった生地・繊維と覚えておくのです。そして、服を買いに行った際には、その生地や繊維で作られた下着や服を買うようにすることで、「静電気体質の人に優しいファッション」ができる、というわけです。
もちろん、服と服、あるいは服と他の生地、あるは靴裏と床・・・といった他の摩擦帯電の方が、あの痛い「静電気のバチッ」を作り出している、のでしょう。けれど、自分の皮膚と他の人の皮膚を触れ合わせてみた時に、片方がプラスに、もう片方がマイナスに摩擦帯電する、なんて考えてみると、何だかとても面白いような気がします。