hirax.net::Keywords::「カムチャッカ」のブログ



1999-01-30[n年前へ]

渡り鳥の秘密 

3000kmの彼方へ

 先日、福島のいわき市の近くに友人を訪ねた。その近くで、はるか海を渡ってきた白鳥の群れを見た。そこでどこから来るのかとか、どうやって来るのかなどの話をした。大体、以下のような疑問である。

  • Q.1:海を渡るのにどの位の時間がかかるのか?
  • Q.2:位置(あるいは方向)はどのように認識するのか?
  • Q.3:どこから来るのか?
  • Q.4:なぜ渡るのか?
 Q.4の「なぜ渡るのか?」については不問にしておく。「進化の過程で渡った方が有利(安全性、食料獲得面)だったから」というような答えもあるだろうが、実証は困難だろう。確かめようがないのなら、しょうがない。

Q.3のどこから来るのかについては、仙台市科学館の中のGooseSchool(http://www.smus.city.sendai.jp/goose/home.html)に簡単な説明があった。そこにガンの「渡り」の地図が示してあった。その図を引用させて頂く。いや、もちろん「白鳥でなくガンであるし、そもそも飛んでくる場所が違う」のはわかっている。しかし、先の疑問の「どこから来るのか」はべつにいわき周辺の白鳥にこだわった疑問ではないのだから、他の場所の他の動物でもいいのだ。

(画像リンク先は仙台市科学館 http://www.smus.city.sendai.jp/)
右のガンの到着地(あるいは出発地)は伊豆沼(仙台と一関の中心辺りに位置する)という場所である。ちなみにいわき市は伊豆沼の下の地図の下端あたりである。
さて、残る疑問は、
  • Q.1: 海を渡るのにどの位の時間がかかるのか?
  • Q.2: 位置(あるいは方向)はどのように認識するのか?
である。
このGooseSchool(http://www.smus.city.sendai.jp/goose/home.html)には「渡り」をどのように行うかという簡単な説明がある。それによれば、
  • A.1: 人工衛星用位置送信機を取り付け経路を追跡した結果では2日間で2000kmをノンストップで渡り続ける。
  • A.2: 時間は体内時計で知り,方向は星や太陽で分かる。鳥はコンパスや六分儀のような能力を両方持っている。
と記述されている。2000kmというのがどこからどこまでとは記述されていないが、右の地図のそれぞれの起点であるシベリアのチュコト地方と伊豆沼は200kmより遥かに離れていることから、北海道からカムチャッカ半島の間を指しているのだろう。おそらく、北海道とカムチャッカ半島の間の海上ではノンストップで渡るということだろう。ガンと白鳥の間にそれほどスピードの違いはないだろうから、Q1:海を渡るのにどの位の時間がかかるのか? に関しては疑問は解けた。しかし、Q2:に関しては簡単な答えすぎて、まだまだ知りたくなる。私は測地学講座という名前の研究室に在籍していたので、当然の疑問だ。

 そこで、簡単に手に入った

  1. 「鳥の渡りの謎」 (ロビン・ベーカー著 網野ゆき子訳 平凡社発行 ISBN4-582-52717-5)
  2. 「鳥学の世界へようこそ」 (ディヴィッド・ラック著 蓮尾純子 訳 平河出版社ISBN4-89203-192-5)
という本で調べてみる。「鳥の渡りの謎」は Robin, Baker, Bird Navigation: the solution of a mystery? (1984) を訳したものであり、「鳥学の世界へようこそ」はDavidLack, Enjoying Ornithology (1965)を訳したものである。原著の発行時期の違いなどから、「鳥学の世界へようこそ」はかなり資料としては古い。それでも、とても面白い。高校、大学の教養課程、あるいは専門課程の入門書としてはとても良さそうだ。

 「鳥の渡りの謎」の原著の表現では「渡り」を"navigation"と表現し、「鳥学の世界へようこそ」の原著の表現では"migration"と表現しているのも視点の違いとして面白い。

 さて、この2冊の本はいろいろな実験を行った論文を引いて、「渡り」に関しての実証を行っている。動物が絡んだ実験は、実験の精度を高めることがなかなか困難に思えるが、そこはしょうがないだろう。というわけで、必ずしも実験が信用できるわけでもない。特に磁気に関する実験に関して精度の低さを感じる。

 しかし、今回は自分で実験も解析もしていないので、簡単なまとめだけにしておく。

  • 鳥(種類、地域、条件)により「渡り」の際に使用する航法(navigation)は異なる。
  • 方位を頼りにするやり方も、位置を頼りにするやり方もある。使用されるのはどちらか片方のみというわけでもない。
  • 位置のセンサーとしては、目印、音、におい、磁場*、重力*
  • 方位のセンサーとしては、太陽の位置、光の偏光パターン、星、月などの位置、地磁気*
*ここらへんは個人的には疑問に思う。

 さて、今回は下調べばかりであった。これでは、いけない。いけない。自分で実験もしなければ意味が無い。というわけで、近日中にある実験をする予定である。



■Powered by yagm.net