2007-11-12[n年前へ]
■使いこなしにくい「不揃い」は美味しい。
ハインツのトマトケチャップが人気があるという。 そのハインツの美味しさの秘密は、ケチャップに含まれるトマト果肉の粒径が大きく不揃いなことにある(かもしれない)、という話を聞いたことがある。 多分、上田隆宣氏によるレオロジー講義中で聞いた話だったと思う。 カゴメトマトケチャップの平均果肉粒径が5μmほどであるのに対し、ハインツは15μm程度だったというデータとともに、「だから美味しい。もっとも、その特性がために瓶からケチャップが出にくくて苦労する」というようなことを聞いた。その後、ハインツのトマトケチャップとカゴメトマトケチャップを比べてみたら、ハインツの方がむしろシャバシャバとしていて、粘性が低く「あれっ?」と思ったのだが、「美味しさには不均一が大切だ」という言葉はとても自然に納得できた。
同じようなことを、「おいしさ科学館」の館長氏も言っていた。「甘辛い」や「濃厚だけれどしつこくない」といった、相反するものや不均一なものを両方含んでいるものが美味しい。たとえば、ラーメンにせよスパゲッティでも「堅くて柔らかい」という不均一で単調でないことに美味しさを感じる。アイスクリームも大量生産品は空気やアイスクリームの混合状態が極めて均一だが、名人が作る手作りアイスクリームはそれが不均一だ。けれど、だからこそ美味しいのではないか、という話だった。
さらに「不均一な状態は美味しい」が、「不均一な状態」では保存などがしにくいので、大量生産・大量流通はさせづらい、という話も聞いた。たとえば、賞味期限などを考えた場合、一番劣化しやすい箇所からダメになってしまう。分散状態が不均一だと(そのバラツキがゆえに)「容易に劣してしまう箇所」がある。そのため、大量生産・長期保存などを考えると、どうしても均一な状態として製造せざるをえない。その結果、「美味しさを生む不均一・不揃い」と「均一にすることで大量生産・遠距離運送を可能とする使いこなし」は両立しがたい相反する項目、ということになる。
この「使いこなしにくい不揃いは美味しい」という話は汎用性の高い話で面白い、と思う。
2007-11-13[n年前へ]
■「醤油マヨネーズ」と「星形口」を繋ぐ粘性の秘密
「美味しさ・料理の科学」と言えば、上田氏によるレオロジー講座中で聞いた、色々なマヨネーズの粘性違いに関する話も面白かった。 たとえば、キューピーのマヨネーズに比べて、以前の味の素のマヨネーズは醤油とマヨネーズが作りにくかったという。 マヨネーズと醤油を混ぜ合わせようとしてかき混ぜても、なかなか上手く混じり合わなかったらしい。
そこで、マヨネーズの粘度測定、つまりマヨネーズの「粘っこさ・流動しにくさ」を計り、「剪断応力(かき混ぜにくさ)の定常値の平方根」と「剪断速度(かき混ぜる速さ)の平方根」による散布図 "Casson Plot" (キャッソンプロット)にしてみると、その違いが切片、すなわち、降伏値(剪断速度を0にしたときの応力の平方根)の違いとして現れたという。味の素マヨネーズの方が、キューピーのものよりも、降伏値が大きく、剪断速度が遅い~停止状態の「流動しにくさ」が高かったらしい。なるほど、かき混ぜる速度が遅いときや、かき混ぜるのを止めたときの流動性が低ければ、確かに混ぜ合わすことは難しくなりそうだ。
この「かき混ぜる速さ」に対する「かき混ぜにくさ」の違い、味の素マヨネーズとキューピーマヨネーズの違い、を生む原因は「マヨネーズに白身が使われているかどうか」であったという。
現在と違って、かつては、
- キューピーマヨネーズ(黄身だけ)
- 味の素マヨネーズ(黄身+白身)
- 味の素マヨネーズ ピュアセレクト(黄身だけ)
味の素マヨネーズが「降伏値」が大きいために醤油マヨネーズが作りにくい一方で、「降伏値」≒「剪断速度を0にしたときの応力」が大きいということは、容器から出てきたマヨネーズの形がなかなか崩れない、ということでもある。 つまり、容器の口が星形になっている容器から出されたマヨネーズであれば、星形断面のチューブ構造(のような姿)をなかなか変えない。 その結果、綺麗に映えるデコレーションをかつての味の素マヨネーズなら作りやすい、ということになる。たとえば、色とりどりのサラダを優雅に結ぶマヨネーズによる星型紐も、そんな原料・粘性の違いから生じることになる(のかもしれない)。『使いこなしにくい「不揃い」は美味しい。』と同じように言うならば、『かき混ぜにくいマヨネーズは形が崩れにくい』というわけだ。となると、結局のところ、よくある「長所と短所は同じこと」の1例である。
醤油マヨネーズに向く「マヨネーズの粘性」や、サラダを綺麗に彩る「マヨネーズの粘性」など、食材物性や製造技術も勉強してみるととても面白く奥深いのだろう。 「醤油マヨネーズ」と「星形口」を繋ぐ味の素マヨネーズの粘性の秘密から、「長所と短所は同じこと」なんていうことも浮かび上がってくるように。
2008-09-09[n年前へ]
■ハインツのケチャップの粘性のナゾ?
『使いこなしにくい「不揃い」は美味しい。』で書いたように、ハインツのトマトケチャップは平均果肉粒径が大きく、また粘性が高い、という話を聞いたことがあります。
そういった話を聞いたことがある一方で、(その話を聞いた後に)色々な会社のトマトケチャップを買い、容器からケチャップが出るようすを観察したり、ケチャップを舐めて果肉の大きさを味わってみたりした結果では、ハインツのケチャップは決して粘性が高いというようにも感じませんでしたし、また、果肉も他社に比べて大きいというようには感じなかったのです。ですから、いつか答えを知りたいことの1つが、この「ハインツのケチャップの粘性が本当に高いのか?」「ハインツのケチャップの果肉粒径は本当に大きいのか?」というナゾ・疑問です。
ハインツのケチャップは「容器からケチャップから出にくい」ことを見せつつ、(下に貼り付けた動画のような)"It's slow good!"と謳うコマーシャルで有名です。このコマーシャルは、"slow"を"so"に掛けた現象的には特に根拠がないコマーシャルなのか、それとも実際の現象と相関がある”科学的”なコマーシャルなのか・・・それが知りたくてたまりません。「ハインツのケチャップは瓶から出にくくて、粘性が本当に高いのか」・・・それが「知りたいナゾ」のTOP10に必ず入る疑問なのです。
2008-09-11[n年前へ]
■ハインツとデルモンテのトマトケチャップの疑問
疑問か愚問はわからないけれど、ハインツのトマトケチャップに関する疑問はまだまだある。その一つが、「ハインツとデルモンテは、現在、どんなトマトケチャップを作っているのだろう?」という疑問だ。ハインツとデルモンテが部門合併したと聞いたけれど、ハインツとデルモンテは今は一体どんなケチャップをどんな風に売っているのだろうか。
ハインツの本社のほど近くに、ハインツが名付けたハインツ・フィールドというアメリカンフットボール場がある。しかし、そのハインツ・フィールドの隣にあるのは、デルモンテのビルだ。そして、そこにはハインツのケチャップが並んでいる。
一体、ハインツとデルモンテはどんなケチャップをどのように売り分けているのだろうか。世界各国の色々なケチャップメーカとどのように提携し、どういった味のケチャップを製造販売しているのだろうか。そして、それらのケチャップはどんな粘性でどんな風に果肉が入っていて、そしてどんな味なのだろうか。