hirax.net::Keywords::「熱伝導」のブログ



2016-03-12[n年前へ]

掛け布団と毛布…上下の順番を決める「暖かく寝るための法則」 

ベッドルームで熱伝導を考える!?

 冬の寒い夜、「掛け布団と毛布、一体そのどちらを上にすると暖かく寝ることができるのか?」という疑問をよく耳にします。そして、その疑問に続いて「実は、掛け布団の毛布が上の方が暖かい」という答えがあったりすると、少し意外に感じたりします。…そこで、今日は「掛け布団と毛布の上下順番は、一体どう決めれば良いのか」を考えてみることにしましょう。

 まず、話を単純にするために、「暖かさ」を「温度」だけで考えることにします。たとえば、体から放出された汗により感じる「蒸し暑さ」や「冷え」は無視することにします。つまり、掛け布団や毛布と外気と体の間の熱移動(熱伝導)問題を考えて、暖かく寝るための「最適な順番」を考えることにします。また、これも単純のために、毛布や空気を体に掛けたとき、その一番外側は外気の温度になっている…ということにします。また、「布団に入った時の”暖かさ”は、寝入るまでの短期的なものなので、布団に入った直後からの短期的な熱量の流れに着目する(=それを寝入りしなの暖かさ定義と考える)」ということにしましょう。

 熱の移動(伝導)を表す熱伝導方程式を単純に言葉で表すと、「移動する熱量は、温度差に熱伝導率を掛けたものに等しい」「移動した熱量を比熱で割った分だけ、温度が上がる(もしくは下がる)」ということになります。

 たとえば、体に掛け布団を掛けた場合には、掛け布団の中を移動していく熱量は(掛け布団を挟む両端である)外気と体温の温度差に掛け布団の熱伝導率を掛けたものになります。これを言い換えると、体を包むものの熱伝導率が大きいと体から急激に多量の熱が奪われるし、熱伝導率が小さければ奪われる熱量は比較的(時間毎には)少ない、ということになります。…どういうことかというと、「体と触れるような側には、熱伝導率が低いものがあった方が暖かく感じる(急激に熱を奪われて寒く感じたりすることがない)」ということです。

 そしてまた、体から奪われた熱は体を包む掛け布団や毛布を温め、最期には体の周りはほぼ体温近くまで温度が高くなり、外気に近い方は(外気より少し暖かい程度の)温度になりますが、その温度にするために必要な熱量は比熱に比例します。すると、体に近い側=温度を高く上げないといけない側の比熱が高いと、体の周りのものを(外気の温度から)そこまで温度を高めるために必要な熱量が大きくなってしまいます。…言い換えれば「体の近くには比熱が小さいものがあった方が、奪われる熱量は小さくなりやすい」ということになります。

 つまり、掛け布団と毛布のどちらが上下にあると暖かいか、そのどちらが体に近い側(もしくは遠い側)にあると良いかというと…熱伝導率が低く・比熱が小さなものが体に近い側(下側)にあれば暖かい、ということになります。そこで、さまざまな掛け毛布や毛布に関して、熱伝導率と比熱を比較してみると、まずダントツに熱伝導率も低く・比熱も小さいのが「羽毛掛け布団」です。つまり、羽毛掛け布団を使っているなら、まず体の周りには羽毛掛け毛布を掛けて、その周りを毛布で覆った方が暖かく(寒くなく)感じることになります。また、羊毛掛け布団も(羽毛ほどではありませんが)比較的熱伝導率が低く・比熱も小さいので、(熱伝導率が高い)アクリル繊維の毛布を使っていたりしたならば、羊毛掛け布団の方を下(体に近い側)にした方が暖かくなります。

 ところが、たとえば、綿掛け布団と羊毛毛布の組み合わせでは、比熱は同じ程度ですが、羊毛毛布の方が熱伝導率が小さくなります。つまり、体近くには綿掛け布団ではなくて羊毛毛布の方を配置した方が暖かく感じることになります。そして、綿掛け布団とアクリル繊維製の毛布の組み合わせだと、微妙ですが綿掛け布団の方を下(体に近い側)にした方が寒くない関係になります。

 というわけで、掛け布団と毛布…上下の順番を決めるのは「熱伝導率と比熱が小さいものを下(体に近い方)にする」で、自分が使っている掛け布団と毛布の材質によって、その最適順番は変わる…というのが今日の「暖かく寝るための法則」です。

掛け布団と毛布…上下の順番を決める「暖かく寝るための法則」ベッドルームで熱伝導を考える!?  

 掛け布団と毛布…上下の順番を決める「暖かく寝るための法則」ベッドルームで熱伝導を考える!?を書いた。

 冬の寒い夜、「掛け布団と毛布、一体そのどちらを上にすると暖かく寝ることができるのか?」という疑問をよく耳にします。そして、その疑問に続いて「実は、掛け布団の毛布が上の方が暖かい」という答えがあったりすると、少し意外に感じたりします。…そこで、今日は「掛け布団と毛布の上下順番は、一体どう決めれば良いのか」を考えてみることにしましょう。

2016-03-13[n年前へ]

「布団周りの温度変化」と「凍土遮水壁」の科学 

 掛け布団と毛布…上下の順番を決める「暖かく寝るための法則」ベッドルームで熱伝導を考える!?の計算をしてから、関連書籍や論文を色々眺めました。その中のひとつが、布文化の科学・十話―衣服学への誘いです。この書籍中で「興味深い」と感じたグラフが、右の(宮沢モリエほかの「家政学研究、 21, 99, 1974」のデータ、今の季節(春)に布団に入った後の各部分がどんな温度推移を辿ったか…というグラフです。

 気温20度の状態で、体温が36〜37度程度の人間が、(外気温と等しい温度の)布団の中に潜り込むと、およそ1時間ほどで掛け布団も敷き布団も体温に近い温度まで温められます。…そして、それだけでなく、敷き布団の下の床も、外気と体温の中間程度まで温められている(その温度まで床を上昇させる熱流束が、体から周囲へと流れている)ということです。つまり、とても大雑把に、そして単純に言えば、布団が敷かれた床のある程度の内部まで、ある程度温められて温度が高くなっている状態だということになります。

 これは、2011年から5年を経て、未だに続く福島第1原発「凍土遮水壁」のことを思い出させます。つまり、、原子炉建屋群の地下周囲に氷の壁を作ろうと地面を冷やしても、地球内部で天然放射性元素の放射性崩壊が生じさせる圧倒的な熱量とのシーソーゲームをせざるを得ない結果、凍土遮水壁を築くためには非常に広い範囲を冷やし続けなければならないし、そのためには経済的に見合うかどうかわからないコストを掛けなければいけないだろう…という計算です(参考:福島第1原発「凍土遮水壁」の維持電気代は年間30億円…意外に安い?それとも高い!?)。

「布団周りの温度変化」と「凍土遮水壁」の科学






2016-03-27[n年前へ]

「氷と食塩で冷やすアイス作り実験」と「華氏や摂氏の定義」 

 花見に行った先で「(こども向けの)アイスを作る実験」をやっていて、それをとても楽しく興味深く眺めた。「面白かった」一番の理由は、その実験過程を説明するには、どう考えたら良いのだろう?」と考える過程が何より面白かった。
 実験自体は単純で、「ビニール袋に氷と食塩を入れて、そこにビニール袋に入れた牛乳とかアイスの材料を入れて、振ると、アイスができる」というものだった。問題は「塩を入れることがなぜ効果的で必要か」ということだ。TV番組の解説なら、「凝固点降下で温度が下がるから」といった答えが用意されるのだろう。しかし…それはもちろん正解なのだろうけど、それで納得できるのは、「ものわかりが良くて”頭が良い”人」だけに違いない。
 冷凍庫から出した氷はだいたいー18度〜−20度くらい。少し暖まった状態で、−15度くらいというのが普通だろう(実際に冷蔵庫から出した氷の温度を計ってみると−19度だった)。そんな氷に塩化ナトリウムを濃度を高く振りかけたとしても、(溶液の)到達温度はせいぜい−20度強程度…つまり、”氷と水と塩で到達可能な最低温度”という歴史的定義の、ほぼ0ファーレンハイト(華氏)な温度にしかならないだろう(おっと、この問題には温度の定義の歴史まで登場したぞ)。…すると、熱伝導的には−20度弱の氷が−20度強になったところで、アイスの材料を「冷やす効率」に関しては何の違いも生まれそうにない。そこで、もう少し、生じそうな現象を追いかけて想像して・考えてみる。
 まず、必要事項としてありそうなことは「アイスの材料を包むビニール袋の周りにあるのが固体の氷だけだと、ビニール袋の周りに必ず空隙ができてしまい、空気を介しては、(空気の比熱や熱伝導率を踏まえると)熱伝導率的に圧倒的に冷却効率が悪い」ということだ。それに、氷の比熱とアイス原材料の比熱を考えると、アイス原材料のそれの方が2倍程度大きい程度だろう。そして、それらの温度が(単純のために)それぞれ−20度と20度くらいとすると、そして体積というか重量がおそらく同じ程度だとすると、「氷は必ず溶けざるを得ない」ということになる。さらに、これらから「アイスの周りは氷が溶けた液体が(熱伝導の効率的には)いるべきだし&ある時点からは(熱エネルギー的に)必ずいる」ということになる。
 すると、この時点でようやく、ビニールの周りの温度が(氷が溶けつつある水の温度である)摂氏ゼロ度の水か(塩と氷と水が作り出す最低温度である)華氏ゼロ度の食塩水と…そのどちらである方が熱伝導的に好ましいか?という話になりそうだ。すると、当然のごとく、食塩を入れることがアイス実験的に必要だ」ということになる。
 こども向け実験ってあまり見る機会が無いから面白かったけど、…もしも(こども向けでなくて)大人向けのアイス作り実験とかあったなら、一体どんな内容になるんだろうか。



■Powered by yagm.net