2000-01-31[n年前へ]
■落ちゆくエレベーターの中…で悩みます?
無重力の理想と現実(仮)
今日もまた「ちゃろん日記(仮)」を読みに行くと、何とも面白い話があった。
である。この「ちゃろん日記(仮)」は「疑問とそこに隠れている真実を見つけだす感覚」に満ち溢れている、と私は思うのである。面白すぎである。さて、今回の話は、エンパイアステートビルでエレベーターが落ちたっていうけど、落ちていくエレベーターの中の人は
- 床に張り付く
- 天井に張り付く
- 宙に浮かぶ
「ほんとう〜にそうか? ほんとう〜にそうか?」
こういういかにも教科書に載っていそうな話には、時として落とし穴がある。教科書に書いてあるのは理想的で単純化した場合の結果である。それを鵜呑みにすると間違えてしまうことになる。極端に言えば、教科書に書いてあるような理想的な状態はほとんど存在しないので、教科書に書いてあるような現象はそうそう再現しない、ということになる。
ピサの斜塔から「落下の実験」を行ったのはガリレオ・ガリレイであると思っていると間違いである、というのは少し違う例になってしまうか。
久しぶりに思い出したが、私の所属していた研究室では重力測定は大きな柱であった。そして、確か大学院の入試問題の内の一題は、まさに
「落ちていくエレベーターの中の人達に働く力を精密に論ぜよ」であった(簡単に大雑把に言えば)。私はちゃんとこの問題を解けた覚えがない。いや、はっきり言えばずいぶん悩んだ覚えしかない。ってことはいまいち解けなかったのだろう。なので、「落ちていくエレベーターの中の人達は無重力状態である」と聞くと、「ほんとう〜にそうか? ほんとう〜にそうか?」と歌いたくなる。
研究室関連では、絶対重力測定を行う研究をする人達もいたわけである。絶対重力(加速度)測定は自由落下する物体の運動を測定して、重力加速度を測定するわけであるが、そう簡単に物体は自由落下してくれないのである。簡単な実験で物体を自由落下させて重力加速度を測定してみるとわかるが、大雑把な実験(自分の家ですぐできる程度の)では一桁ちょいの精度しか出ない。一桁ちょいの精度しかでないということは、(例えば)体重が10%弱程度になったように感じるかもしれないが、それは無重力ではない。体重が60kgの人であれば、6kgも感じてしまうのである。(雑な話だが。)
空気中を落ちてくる雨だってそうだ。もし、雨が自由落下を続けていたらものすごいスピードになって、雨に打たれるのは命がけになってしまう。しかし、実際にはそんなことはない。空気抵抗で速度は飽和してしまい、自由落下状態ではないからである。
さて、本題である。果たして、
例えば、
- 若井研究室の研究概要
- http://mech.gifu-u.ac.jp/~wakailab/research/Basic/base_h.html
北海道の上砂川町にある施設(JAMIC)で、490m落下させることにより、10秒の無重量環境が得られます。落下中は空気抵抗を受けるので、落下カプセルを二重構造にし、空気抵抗を無視できるように工夫してあります。と、記述されているように、実際には工夫をこらさなければ無重力状態は実現できないのである。絶対重力系などでも空気抵抗を無視するために、投げ上げて往復運動を測定するなどの工夫がいるのである。
と、言葉だけで書いてもしょうがないので、適当な計算でもしてみる。いや、もちろん、実験をするのが良いわけであるが、面倒だし…
まずはエレベーターには、
- 何の抵抗も働かない
- 空気抵抗とワイヤーの抵抗が働く
そして、エレベーターの中の人には空気抵抗は働かないとした。エレベーターの中の空気と人の速度差はほとんどないからである。また、エレベーターは人よりもはるかに重く、人の重さはエレベーターの運動に何の影響も及ぼさないと近似した。
その計算の結果を以下に示す。これが落ちていくエレベーターの軌跡である。抵抗のない場合が(赤)で抵抗のある場合が(青)である。エレベーターが落ち始めてから30秒後までの軌跡である。
理想的な場合(赤)に比べて、抵抗のある場合(青)の落ち具合が鈍っているのがわかると思う。それでは、もっと時間が経った場合はどうだろうか?それを次に示す。エレベーターが落ち始めて300秒後までの軌跡である。つまり、五分間もこのエレベーターは落ち続けているのである。落ちた距離は理想的な場合で40kmの深さに達している。すごいエレベーターである。こんなに落ち続けていると、すでに重力加速度が一定とは言っていられなくなる。
ここまでくると、抵抗のない場合(赤)と抵抗のある場合(青)では全然違う軌跡になっている。抵抗のない場合(赤)では放物線そのものであるが、抵抗のある場合(青)では一定の速度になっている。
それでは、エレベーターがこのような状態になった時の、エレベーターの中の人に働く加速度(と実際の加速度の差分)を示してみる。これを見れば、落ちていくエレベーターの中の人が無重力状態であるかどうかがわかる。まずは、300秒後までの変化を見てみる。
理想的な場合(赤)はずっとゼロすなわち無重力状態であるが、抵抗のある場合(青)は無重力状態は最初だけで、50秒後位には通常の状態に戻ってしまっている。最初の部分をもう少し拡大してみる。次に示すのは、3秒後までの落ちていくエレベーターの中の人に働く重力加速度(と実際の加速度の差分)である。
これを見ると、あっという間に人は無重力状態ではなくなっているのがわかると思う。
というわけで、先の三つの選択肢、
- 床に張り付く
- 天井に張り付く
- 宙に浮かぶ
先日みたニュースのエレベーター落下実験の中で、中にいた男性リポーターが、落下しながら「ひぃ?」とアオ向けになった状態で床にハリ付いていたからなのです。という実際の現象が正しいのである(いや、もちろん状況はかなり異なるが)。「頭の中だけ」で考えたことというのは大抵の場合間違ってしまう。(もちろん、今回の「できるかな?」の話もその例外ではない)
そして、その後に、
ありはきっと、速度がそこまで充分でなかったのと、もしやのトキのために、男性リポーターに安全な姿勢をとらせていたタメだと思われます。とあるが、実際問題として「速度がそこまで充分」になることは未来永劫ないわけである。だから、(私の中では)エレベーターの中の男性リポーター氏は床から浮かぶことはないのである。
こういうのは、結局考える人の数だけ答えがあるのだと思う。もし、その内のどれが真実に一番近いかどうか知りたければ、実験すれば良いだけの話だし。
2005-02-20[n年前へ]
■らくがき展覧会
第三回に引き続き、第四回のらくがきボード展覧会です。みきゃこ★さんの見事ならくがきとか、ガリレオガリレイのアニメーション(これは再生して眺めてみましょう)とか、白川静(偽名)さんの漢字シリーズとか色々です。
2012-10-09[n年前へ]
■未来はどうなる? それはガリレオに訊いてみる。
映画を見ると、その映画を見ることで「何か力をもらえる」ような気がします。まるで、宇宙を飛行する探査機が、万有引力を介して天体の運動エネルギーを得て、さらに宇宙の彼方に飛ぶ力を得るように、映画に近づく(そして離れる)中で何かを得ることができたりします。
2009年のタイ映画「Dear ガリレオ」を観ました。 ガリレオがピサの斜塔から落とした2つの玉のように「絶対離れない」と約束をして、ヨーロッパを旅をし始めた2人の(大人になりつつある)女の子の物語です。一人は失恋をして、もう一人は大学を落第をして家族の元を離れてみることにした…そんな2人の青春物語です。
一緒にバンジージャンプをした、そして絶対離れないと誓いつつ旅をし始めた2人にも、世の中に「絶対」なんていう存在がないように、いつか「別れ」が訪れます。
「同じものでできているものならば、たとえ大きさが違っていても、同じように落ちていく。そうガリレオが言ったの」
「たとえ重さが違っても、同じ瞬間に地面に辿り着くの」
主人公たち2人だけでなく、異国の地で「同じものでできている」同胞たちと出会い、けれど時にバラバラに離れていく姿を描き、「ガリレオ」は一体どんなことを伝えたかったのだろう?と考えます。
「理論通りに、同じタイミングで落ちなかったとしたら、それは風が吹いたとか…つまりは運とかタイミングが悪かったってことなの。(だから、そんなことも受け入れるしかないの)」
けれど、映画のラスト・シーン近くで気づかされます。世界という3次元空間の中を、誰もがそれぞれに離れていくように見えても、「時間という軸」にただ並べてみれば、その時間軸上で、みな一直線に並び・同じように動き続けているのだということに気づきます。周りを眺めてみれば、つかず・離れずみな同じように走っている…と思い至るのです。
未来がどうなるにしても、そんな未来に続く時間軸の上で同じ時間を共有し、みな同じように動いてる。そして、ガリレオの言うことは当たったりもするけれど、自分たちの意志はたまにガリレオの予言に縛られなかったりもする…「Dear ガリレオ」は、そんなことを気づかされたりする・そんな「力」を得ることができたりする映画です。
2013-08-10[n年前へ]
■「ゴルゴ13」で学ぶ「サイエンス」!?
「ゴルゴ13のコリオリ力補正エピソード」を探して、今日もゴルゴ13を読み直しています。…頁をめくり続けていると、ゴルゴたちが「理科の授業みたいな解説」をしているシーンを時折見かけます。たとえば、次のシーンは、ゴルゴたちが弾丸の運動エネルギーを計算しているところです。
「おぉ、デューク東郷(ゴルゴ13)がまるでガリレオ湯川先生みたいだ!」と思いつつ考えます。…もしも、ゴルゴ13をTVドラマにするのであれば、一体誰がデューク東郷を演じるのでしょう?
やはりガリレオな福山雅治さんでしょうか、それともゴルゴ13のモノマネ芸で知られるジョーク東郷こそが、何より似合うのでしょうか。
…といったことを考えながら、「ゴルゴ13のコリオリ力補正エピソード」を探したのですが、残念ながら今日も見つけることができませんでした。
2014-07-12[n年前へ]
■[今日見た景色] 西伊豆、田子の造船所のずっと奥にある海
西伊豆、田子の造船所のずっと奥にある海に久しぶりに行ってみた。台風が通り過ぎたばかりの海水はかすかに冷たいけれど、浮かんでいると限りなく心地良い。
このあたりから2kmほど歩くと、映画「ガリレオー真夏の方程式」のメインロケ地にもなった浮島(ふとう)がある。映画「ガリレオー真夏の方程式」はメインストーリーは全然印象に残らなかったけど、「ぼくの夏休み」風のシーンが何だかとても良い感じで面白かった。…というわけで、浮島集落に行き「事件現場」ならぬ「ひと夏」の夏休みの舞台に足を伸ばして行ってみた。十数年前に来たことがあるような気もするけれど、火山が作り出した海辺の風景がスケールが大きくて良い感じ。
ところで、このWEB日記(どうやらもうとっくの昔に死語らしい)の「n年前へ」リンクを眺めてみると、今日のn年前にも、色んな景色を見ていたようだ。新明解国語辞典の「空」の定義や、ちょうど10年間の今日、伊豆長岡の本屋で買った「ザテレビジョン別冊3年B組金八先生25周年メモリアル」や、14ミリグラムの「いろんな気持ち」…日記はある種の実験ノートで、振り返り眺めてみると実に面白い(福山雅治ガリレオ風)。
晴れの日に野外で上を仰ぎ見た時、無限に続いて見える、広い空間。
新明解国語辞典「大空」
12年経つと21世紀がやってきます。世界はより支え合わなければ生きていけない時代であります。
第3シリーズ('88.10-'88.12) 12話