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2009-03-27[n年前へ]

数学好きの日本人を作り出した「塵劫記」 

 京都新聞のソフィアで、「誰が数学嫌いにしたのか 」の著者上野健爾の回、「江戸文化理解のために和算研究を」より。

 江戸時代、多くの人たちが数学の難問を作りそれを解くことに夢中になっていた。津々浦々に数学の愛好者がいて、老若男女が身分を超えて数学を楽しんでいた。こうした現象を生んだ要因は1627年に初版が出た「塵劫記」によるところが大きい。
 「塵劫記」は江戸時代を通してベストセラーとなった数学の教科書であり、美しい図と遊び心をくすぐる問題が多数含まれていた。

ソフィア 「京都新聞文化会議」 上野健璽氏 153

2010-11-25[n年前へ]

心斎橋で「数学パズル」デートをしてみよう!? 

 東京や大阪といった大都市を歩くとき、その足下に川が流れていることも多いものです。かつて地上を流れていた川の上が、今では道となり、その上を私たちが歩いていたりします。たとえば、大阪の心斎橋近くも、昔はいくつもの川が流れていたのに、今では、それらの川が流れていた場所には道路が建設されて、そして、その上を車が走っていたりします。

 いつか、そんな心斎橋近くに行く時、いつか「浪華二十八橋智慧渡」の町並みを実際に歩いてみたいと思っています。「浪華二十八橋智慧渡」というのは、江戸時代 水野忠邦が老中だった頃に出された和算書「算元算法」の中に書かれている数学の問題で、つまりは、日本版「ケーニヒスベルグの橋」問題です。心斎橋近くにかかる二十八の橋すべてを一筆書き状に渡ることができるか?という問題です。

 「ケーニヒスベルグの橋」は数学者オイラーが解いてしまっているので、その変形でもある浪華二十八橋智慧渡は一目でその答え「一筆書きで通ることができるか」はすぐわかります。けれど、江戸時代の最先端の数学に描かれた町並みの上を自分の足で歩くことができると思うと、何だかゾクゾクしてきます。

 大阪近くに住んでいて、時間だけはたくさんあるという人がいたら、心斎橋近くで「数学パズル」デートをしてみると面白いかもしれません。浪華の二十八の橋(があった場所)を、昔の景色を想像しながら歩き眺めてみるのです。そして、「一筆書きできない」ということを実感しつつ、一度歩いた場所を逆方向から歩いてみたりする・・・そんな、時間だけは贅沢に使う「数学パズル」デートはいかがでしょう?それは、とても得難い貴重な一日になるような気もします。

 万城目学「ホルモー六景 」の中の一話「ローマ風の休日」は、京都鴨川沿いを舞台に、一人の男子高校生が自分では気づかないうちに年上の女子大生に抱いていた淡い恋心と、”デート風に見えるけれどもデートではない”一日、鴨川の始まりとなる出町柳辺りから、御池大橋までを舞台に、オイラーが解いた「ケーニヒストベルグ橋の問題」をなぞる数時間(と数ヶ月)を描いた懐かしく切ない一話です。

 大阪版「ケーニヒスベルグの橋」に限らず、あなたのいる街にそれぞれの「ケーニヒスベルグの橋」があることと思います。たとえば、京都なら右の絵のような「鴨川 DE ケーニヒスベルグの橋」といった具合です。そんな、ご当地「ケーニヒスベルグの橋」を見つけて、「数学パズル」デートをしてみるのはいかがでしょうか?

心斎橋で「数学パズル」デートをしてみよう!?






2018-09-30[n年前へ]

「和算小説のたのしみ(鳴海 風)」が面白い。 

 「和算小説のたのしみ(鳴海 風)」が面白かった。「和算小説」を専門と決めた著者が、さまざまな「和算を題材にした小説」の解説をしたのが本書である。これまでに書かれた和算小説の解説を通して、人(歴史)と和算(科学)が交差する「和算の歴史」も浮かび上がるし、何人もの作家たちが描いた物語を知ることができる。

 右下図は、本書冒頭に掲げられている「和算小説分類マップ」である。数学というX軸と人間・物語というY軸が形作る「和算小説平面」は、一見すると不可解に思われるかもしれないが、本書を読むと少し納得できると同時に、こういう散布図を冒頭頁に掲げる著者にとても興味を感じてしまう。

 読んで面白かったのが、初期の和算小説の素晴らしい代表作として挙げられていたのが、新田次郎の「算士秘伝」だったことだ。…そうか、新田次郎( 現在で言うと、電通大・東京電機大を出て、富士山気象レーダー建設責任者だった)の息子が、数学エッセイを書く藤原正彦だが、新田次郎は和算という数学についても昭和32年(1957年)に物語を描いていたのか!…つまりは、 藤原正彦はそういう環境で育ったのだな、と合点がいった。

 もうひとつ、医師である浅田晃彦(浅田光彦を連想させる)が書いた「乾坤独算民(けんこんどくさんみん)」は、1968年に第60回直木賞候補作にノミネートされた小説であるが、これはNHKの朝の連続テレビ小説にピッタリの気がする。江戸時代、数学に才能ある少女が、いけすかない数学に(だけ)才能ある年長の男性と出会い弟子入りするが…なんて、もう見事なくらいに朝ドラ趣向だと思う。

「和算小説のたのしみ(鳴海 風)」が面白い。








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