hirax.net::Keywords::「山田大隆」のブログ



2009-10-17[n年前へ]

ライト兄弟の飛行機が実用化されなかった理由 

 山田大隆「心にしみる天才の逸話20―天才科学者の人柄、生活、発想のエピソード (ブルーバックス) 」のライト兄弟に関する章から。

 ライト兄弟の飛行機には二つの謎がある。それは、ライト機に一貫してついていた「先翼」と「チェーンドライブ」である。先翼はいわゆる昇降舵で、チェーンドライブはエンジンからプロペラへの駆動系である。なぜ、これらが謎であるかというと、この二つの技術だけは、じつに効率の悪い不自然な技術だったのである。(先翼は主翼前で乱流を発生させ、飛行が不安定になる。チェーンは、外れ・切れ・エネルギーロスも大きい)
 この二つの技術をよく見ると、先翼は「舵取りが前」、チェーンドライブは「動力伝達はチェーン」ということである。つまり、これらは自転車の発想なのだ。もともと自転車屋であった兄弟は、最後まで自転車の発想から抜けられなかったのである。

2009-10-20[n年前へ]

「キュリー夫人の運命の一夜」 

思わず内容をメモしたくなる内容を「技術」という分野に分けるか「人文」という言葉で表現するのか、=悩むことがある。けれど、そんな風に悩むことは少ない。

 けれど、山田大隆「心にしみる天才の逸話20―天才科学者の人柄、生活、発想のエピソード (ブルーバックス) 」を読んだときには、そんな悩みを感じた。なぜ、この人は「技術を確かに見る視点」と「人を冷徹に眺める視点」を共に兼ね備えているのだろう・・・と感じ、そこに書かれている内容を「技術」に分類するのか、「人を表す言葉」に分類するのか悩んだ。この山田大隆氏の行う授業を聞いてみたい、と悩んでしまった。つまり、このサイトでいえば、Tech-logsに分類するのか、Logosに悩んだ、というわけである。

 今日書き写すメモは、「人を表す言葉」に分類しておこうと思う。その対象は、山田大隆「心にしみる天才の逸話20―天才科学者の人柄、生活、発想のエピソード (ブルーバックス) 」の中のキュリー夫人に関する部分だ。節で言うと、「キュリー夫人の運命の一夜」である。

 人は単純ではない。さまざまな本を読んで感じるキュリー夫人も、一言ではいえない綺麗な色も・濁った色も、それらをすべて兼ね備えた複雑なものを見せる。それでも、私の好きな人のひとりだ。

 しかし、「一度、遊びに来ないか」といわれて相手の実家までついて行けばどういう状況になるか、はたまた、誘いを受けること自体どういうことか、いくら勉強一筋で世間知らずとはいえ、マリーに考えがおよばなかったはずはない。
 マリーは、故郷ポーランドで一介のさえない物理教師で終わるより、天下のパリで研究者として自分の能力をためす道を選んだ、と考えたほうがよい。
 この文章だけでなく、そのあとに繋がる文章、そしてさらにその他に描かれている人物に関する文章も含めて、この本の一番感銘する部分は「人」と「技術」の両面を「深く」考察している点にあると思う。

2009-10-21[n年前へ]

「ジェームズ・ワット」のひとつの横顔 

 山田大隆「心にしみる天才の逸話20―天才科学者の人柄、生活、発想のエピソード (ブルーバックス) 」から。

 蒸気機関の改良と普及で、功なり名を遂げたワットだったが、やがて彼を追い抜く若者が出てきた。ウェールズの鉱山機械技師の息子、トレビシックである。(中略)ワットが本質的な恐怖を感じたトレビシックの着想は、高圧蒸気機関をつくろうというものだった。
 彼はトレビシックに対してさまざまな嫌がらせを開始する。(中略)「殺すぞ」と書かれた嫌がらせの手紙も数通におよび、用心棒がトレビシックに直接暴力をふるうこともあった。

 ワットのトレビシック潰しに見られる、競争者を徹底的に抹殺する陰湿なところは、一時代を実力で築いた実力者にしばしば散見される。
 ところで、ニューコメン、ワット、トレビシックと続く流れを見てつくづく思うのは、旧技術は後発の新技術に発展解消するのではなく、旧技術のまま朽ち果て、それを破壊する新技術がつぎの時代を築くということである。これが、技術の歴史において過酷なまでにつらぬかれている真実である。



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