hirax.net::Keywords::「黒谷明美」のブログ



2001-07-07[n年前へ]

七夕の夜に願うこと 

ベガとアルタイルと一通のメール


 今日は七月七日、七夕だ。その夜、天の川の両岸で光る織女星と彦星が一年に一度だけ逢う。織女星は琴座(Lyra)のα星ベガ(Vega)で、彦星は鷲座(Aquila)のα星アルタイル(Altair)である。
 

天の川の両側で光るベガとアルタイル
(ステラナビゲータの画像から)

 ベガは地球から25光年離れた場所にあり、その明るさは0等のとても明るい星だ。もう一方のアルタイルは地球から17光年離れている。そして、ベガとアルタイルの間の距離は15光年離れている。それを15光年「も」離れていると思うか、15光年「しか」離れていないと思うか、それは人によって違うだろう。15光年「も」離れていると思う人は、ベガとアルタイルの間で言葉を交わしても、その言葉が往復するのに15×2= 30年もかかる、と考える。そして、15光年「しか」離れていないと思う人は、たった30年で言葉が通い合う、と考えることだろう。人それぞれだ。

 誰かと待ち合わせている時、遅れた相手を例え5分間でも待つのも耐えられない人もいる。そして、1時間も相手を待つことが苦にならない人もいる。もちろん、それは誰を待っているかとかどんな状況かとかにもよるところが大きいだろうけれど、とにかく人それぞれの時間感覚があるわけだ。

 人にもそれぞれの時間感覚があるように、生物にはその生物それぞれの固有の時間間隔がある。しかも、それだけでなくて、

で考えたように、生物に限らずあらゆる系でその系固有の時間感覚があることだろう。だったら、ベガとアルタイルの間で信号が伝わりあう30年という時間はベガとアルタイル自身の時間感覚からすると、それは長いのだろうか、それとも短いのだろうか。一体、どんなものなのだろう?

 まずは、星の寿命を普通に考えてみれば、ベガもアルタイルも主系列星で、それぞれの重さから寿命を計算することができる。ベガとアルタイルと体重は本当はちょっと違っていて、女性のベガの方が実はちょっと太っているのだけど、あまり女性のベガの重さを正確に言ってしまうと、当然機嫌を悪くするだろう。だから、ちょっと大雑把に言うとベガもアルタイルも大体太陽の3倍位である。それを使って寿命を計算してみると、彼らの寿命は100億年位になる。人間の寿命の1億倍である。逆に言えば、ベガとアルタイルの時間感覚は人間の一億倍ゆっくりだということになる。それだけ、人間に比べて二人は気が長〜いのである。

 ところで、寺田寅彦・ロゲルギストなどが考えたように「系の寿命はそのものの大きさに比例し、それに応じた固有の時間感覚を持つ」として、ベガとアルタイルの時間感覚を適当に考えてみると、これが実はちょっと面白い。ベガとアルタイルの大きさはそれぞれ太陽の3倍、1.7倍なのだが、その程度の大きさの生物だと、その寿命は大体20億年位だという計算結果になる。これらの数字のオーダーからすれば、もうさっきの100億年という数字と全く同じだと言っても良いくらいである。まぁ、いずれにせよベガとアルタイルの時間感覚は人間の1億倍近く「気長」ということに変わりはない。

 すると、ベガとアルタイルの間の30光年- 信号が往復するのに30年かかかる-という距離は、彼ら二人にとってはどの程度の時間だろうか?人間より一億倍気が長いベガとアルタイルにとって、人間にとっての15年はどの程度の時間だろうか? 試しに計算してみると、

30年×365日×24時間×60分×60秒 / 1億 = 9.5秒
で、10秒弱ということになる。10秒というと、電話で話すというには無理があるかもしれないけれど、e-mailのやりとりよりにかかる時間よりはずっと短い。月に着陸しているアポロ宇宙船と地球との会話だって実は3秒近くかかる。ベガとアルタイルの間の「10秒(ベガ・アルタイル体感時間)」というのは、電話をしたり実際にベガとアルタイルが会って話をしたりするのには負けるだろうけれど、それでもメールをやりとりするのに比べたら、ずっと近い距離(時間)なのである。ベガとアルタイルはとても「近い」のだ。天の川の両側に離れていはいるけれど、やっぱり「近い」のである。
 
 

 そういえばベガというと、地球の歳差運動により、一万二千年後にはベガは地球から見て天の真北に位置することになる。つまり、一万二千年後には織女星ベガは北の空の中央で輝いて、その時彦星アルタイルは織女星ベガの周りを回り続けることになる。ずっと先のことに思えるかもしれないけれど、一万二千年後なんてベガとアルタイルの時間で言えばたったの一時間後である。一時間後(ベガ・アルタイル時間)には、アルタイルはベガの周りをクルクルと回っていることになる。なんだか、そんなベガとアルタイルがほほえましく思えてしまうのは私だけだろうか。何か、そんなベガとアルタイルをちょっとからかってみたくなるくらいに思えてしまう。
 

 ところで、そんな風にベガとアルタイルをからかうためではないけれど、アルタイルにかつて地球からメールが出されたことがある。スタンフォードの46mのパラボラアンテナからアルタイルに向けて、13枚の画像が送り出された。その13枚の画像は本当に子供の落書きのような過去の生物の画や人間の姿が描かれていた。そんな子供心いっぱいの画像もあるかと思えば、差出人(平林・森本)が二人とも飲むのが大好きだったので、メッセージの最後はアルコール分子の組成式で締めくくられていた。本当に、ちょっと間違えるとベガとアルタイルをからかうヨッパライになってしまいそうである。
 
 

アルタイルに送りつけられた画像

(「星と生き物たちの地球」 平林久、黒谷明美から)

 1983年に送ったメッセージはもう昨年にはアルタイルに届いているはずだ。アルタイルからメッセージが帰ってくるとすれば、それは2016年になる。あと15年先だ。15年なんて、アルタイルからすれば5秒弱(彼にとっては)であっという間の時間だし、私達人間にとってもやっぱり15年なんてあっという間の時間に違いない。もちろん、本当のところアルタイルからの返事が帰ってくるわけはないのだけれど、だけどそれでも「 はじめまして、アルタイルです…」なんてメールが帰ってくるときのことを想像するのもとても面白いことに違いない。もしかしたら、2000年にアルタイルから送り返されたメールの返事が宇宙空間を秒速30万kmで走ってくる途中かもしれない、と酔っ払った頭で夢想してみるのも楽しいことだろう。
 

 ところで、本来の七夕は旧暦の七月七日だから、今年の本当の七夕は八月二十五日ということになる。今夜七月七日を過ぎてしまったからといって、七夕が終わってしまうわけではない。これから続く夏の空を眺めつつ、ビールでも飲みながら、天の川とベガとアルタイルのことや、酔っぱらい達が送ったそんなメールのことを思い浮かべてみるのも、きっと風流で気持ち良いはずだ。星空の綺麗な高原で、あるいは星なんて見えないビル屋上のビアガーデンで。
 

2001-12-19[n年前へ]

絵でわかる細胞の世界 黒谷 明美  

 細胞の世界は不思議に満ちた小さな宇宙。知っているようで実は知らない細胞のしくみ。「生命の基本単位」としての重要な働きからそれを利用した応用面までを、イラストを多用してわかりやすく解説。
 イラストレーターデビューしたワタシの父君。(リンク

2002-01-13[n年前へ]

ウチの本棚 

 本棚を整理。で、せっかくなので関係者の棚を作った。ちなみに、平林久はワタシの父で、塩野入忠雄はワタシの母方の祖父になります。ここに漏れてるものもあるかもしれませんが、そういうものは絶対入手不可でしょう。で、ヘンなのも一つ混じっていますが、これはbk1に投書してある書評が実に的確です。何しろ向こうで選んだ基準が「入ってるイラストが少ないのを優先」というものでした…。とはいえ、編集者の方には本当に感謝の念こそあれ、それ以外の何かは全然ありません。
 そう言えば「絵でわかる細胞の本」は見た目の割に結構専門的です。眺めた感じ大学の教養以降くらいの学生さん向き、かと。なかなかお勧めです。LSUB http://www.shinkyo-net.co.jp/~shinkyo-pub/book/book2/book-S/11-rindou/11-9.html 千曲川の地質スケッチ 塩野入忠雄SUB 長野県更埴地方の地質観察 塩野入忠雄LSUB http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9870675379 木曽川・天竜川の地質スケッチ 塩野入忠雄LSUB http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9940254059 昭和の流痕 塩野入忠雄LSUB http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9910561611 千曲川中流地方の岩石の産状と観察 塩野入忠雄LSUB http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9833792685 菅平高原地方の地質 塩野入忠雄LSUB http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9973384598 星と生き物たちの宇宙 平林久・黒谷明美LSUB http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9930710086 宇宙人の条件 平林久LSUB http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9871565623 E.T.からのメッセージ 平林久LSUB http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9830223221 宇宙のわかる本 平林久LSUB http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9975306926 絵でわかる細胞の本 黒谷明美(平林久 絵)LSUB http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3b43857ee3437010034a?aid=&bibid=01957446&volno=0000 できるかな? ひらばやしじゅん

2002-11-05[n年前へ]

hirax.net内のユーザーページご紹介 

黒谷明美さんが描いた少女時代の黒谷明美さん サーバーwww.hirax.net内には実はユーザーページとして黒谷明美さんが作成しているDr.Hiraxのページがあるわけです。で、そちらのページを知らない方のためにそこへのリンクを貼っておきます。
 横に貼り付けてみた絵は黒谷明美さんが描いた「少女時代の黒谷明美さん」です。だんごむしと戯れているようです。小さい頃から生物が好きだったわけですね。これは、「絵でわかる細胞の世界」(講談社)の中で使われた挿絵です。







2009-11-19[n年前へ]

「こころを喜ばす科学」 

 平林久・黒谷明美「星と生き物たちの宇宙―電波天文学/宇宙生物学の世界 (集英社新書) 」の「おわりに」から。

平林:最後のメッセージです。僕は、科学、技術と、一般の人々との遊離を憂います。一般の人々に、科学を率直にみて好きになって欲しいと思います。
 産業、経済、医療等々は僕等の生活を安全で豊かなものにしてくれますが、芸術、スポーツ等がこころを楽しませてくれます。科学は応用を通じて実生活に関わり、知的追求というこころの喜びにも関わる二面を持っています。科学、芸術を愛し、ちゃんと理解する社会は、いい社会だと思います。

黒谷:多くの人に、こころを喜ばす科学を楽しんでもらいたいですね。



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