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1999-02-28[n年前へ]

分数階微分の謎 

線形代数、分数階微分、シュレディンガー方程式の三題話

分数階微分?

InterLabの1999No.5を読んでいると面白い記事があった。いわき明星大学理工学部の榊原教授の「Waveletと数式処理ツール」という記事である。といっても、興味を持ったのはWaveletのことではない。もちろん、Waveletに興味がないわけではない。この榊原教授が講師を務めたWavelet講習にも参加したこともある。しかし、今回興味を惹かれたのはその記事中にあった「分数階微分の解析」である。

InterLabの榊原教授の記事を引用すると、-通常微分・積分は整数回実行できるが、分数階微分はこれを分数に一般化したものである。さまざまな物理や工学の現象の記述に使われるようになった-とある。一階微分とか二階微分というものはよく使うが、0.5階微分などというものは使ったことがない。どのようなモノなのかさえよくわからない。

参考:

一体、どんな物理や工学の現象の記述に使われているのか知りたくなったので、infoseekで調べてみる。すると、

いわき明星大学の清水・榊原研究室の「粘弾性動モデル」が引っ掛かる。

参考:

衝撃吸収・シリコーンの弾性率などに興味を持っている人には面白いかもしれない。

もう少し調べてみると「バナッハ空間バナッハスケールにおける分数階積分作用素」というようなキーワードも引っ掛かる。

そこで、まずは勝手に分数階微分について考えてみた。

分数階微分・積分の勝手な想像図


まずは、イメージを考えるためにグラフを作成してみる。x^2の関数、および、それを微分・積分した関数である。微分は3階まで、積分は2階まで行っている。

図.1:x^2を微分(3階まで)したものと、2階まで積分したもの

このグラフ形式の表示をちょっとだけ変えてみる。

図.2:x^2を微分(3階まで)したものと、2階まで積分したもの

ここまでくると、平面グラフにしてみたくなる。つまり、微分・積分の階数を離散的な整数値でなく、連続的な値としてのイメージに変えたくなる。

図.3:x^2を微分(3階まで)したものと、2階まで積分したもの

これで、微分・積分が整数階でない場合のイメージ(勝手な)ができた。微分・積分が離散的なものではなくスムーズにつながっているものであるというイメージである。図.2から図.3への変化をよく覚えていてほしい。

といっても、これは数学的なイメージのみで物理的なイメージはまだここでは持っていない。位置、速度、加速度などの微分・積分で選られるものに対して同じようなイメージを適用すると、位置なんだけれどちょっと加速度っぽいもの、とか、速度と加速度の「合いの子」みたいなものというような感じだろうか?

さらに、これから先は、f(x)という関数が示す無限個の値を位置ベクトルと考えて、f(x)というのは無限次元空間の一つの点だというイメージを持つことにする。線形代数を考えるならそれが一番わかりやすいだろう。任意の階で微分された関数群が集まって、さらに高次元の空間をなしているというイメージである。

分数階微分を調べる

勝手なイメージはここまでにして、手元にある数学の参考書の中から手がかりを探してみた。すると、
大学院入試問題解説 - 理学・工学への数学の応用 - 梶原壌二 現代数学社ISBN4-7687-0190-6
の中に手がかりがあった。あれ、ということは以前にやったはずなのか...そう言えばおぼろげな記憶がちょっと...

その中の言葉を少し引くと、
フーリエ変換は等距離作用素である、関数空間L^2(R)における回転といえる。結局、

ここで、fは元の関数であり、Fはフーリエ変換
となる。そして、古典力学におけるハミルトン関数において、運動量を微分演算子で置き換えれば、量子力学や量子化学のハミルトン演算子が得られ、シュレディンガー方程式などにつながるのである、とある。他の資料を眺めてみると、どうやら量子力学などの分野からの要請に応じてここらへんの微分演算子の分野が発展しているようだ。理論物理などをやった方ならよくご存知のことだろう。例えば、水素原子の基底状態の波動関数へ運動エネルギーの演算子を作用させるというような、基本的な所でも、このフーリエ変換を用いた微分演算が用いられてる。

さて、この式自体は非常に簡単である。それにイメージも湧きやすい。
i を掛ける演算、私のイメージでは複素数空間の中で90度回転をする(言い換えれば、位相が90度ずれる)演算、が微分・積分であるというイメージはスムーズに受け入れやすい(それが正しいかどうかは知らないが)。なぜなら、微分が空間の中での回転であるとすると、三角関数の微分・積分に関する性質(例えば、Sinを微分するとCosに、Sinを2階微分すると-Sinになる、すなわち、一回の微分につき位相が90°ずつ回転する(位相がずれる)というような性質)が納得でき、それがフーリエ変換という形で登場してくることがスムーズに受け入れられるのである。また、微分といえばとりあえず三角関数の登場というイメージもある。

 もう少しわかりやすく書くと、

  • 三角関数では一階微分の結果は90度位相がずれる(回転する)。
  • ならば、(例えば)0.5階微分は45度位相をずらせば良い。
  • 任意の関数もフーリエ変換により、三角関数に分解される。
  • ならば、任意の関数に任意の実数値の微分が成立する。
ということである。

 任意の関数をフーリエ変換し三角関数に分解した時の位相、言い換えれば、周波数領域での位相ずらし、で分数階微分が定義されるということは、物理的実用的に大きな意味を持つ。例えば、電磁波、弾塑性運動などの物理現象の中での位相変化を分数階微分で解けることになる。例えば、複素貯蔵弾性率などについて分数階微分との関係は深そうである。あるいは、媒体中の電磁波の位相などについて適用するのも面白そうである。

分数階微分を使ってみる


よく分からないところも多いが、とりあえず、

という式を使ってみる。まずは、使ってみないとわからない。とりあえず、1次元の関数を作成して、この式を適用してみる。まずは、よく出てくるガウス分布で適用してみる。まずはガウス分布とそれの通常の一階微分の解析解を求める。
ガウス分布(左)とその一階微分の解析解(右)

それでは、今回の方法による一階微分の結果と、それと解析解との比較を示す。なお、本来無限領域のフーリエ変換を有限の領域で行っているため、端部近くで変なことが生じるのはしかたがないだろう。また、色々な事情により係数の違いは無視して欲しい。

フーリエ変換を用いた方法(左)と解析解(右)の比較

ちょっとずれが生じているが、こんなものだろう。しかし、これだけでは今回のフーリエ変換を用いた微分の面白さはでてこないので、0から2の範囲で連続的に分数階微分をしてみる。

ガウス分布の0から2の範囲における連続的な分数階微分

1/10 (=0.1)階微分

1/2 (=0.5)階微分

7/10 (=0.7)階微分

1階微分

13/10 (=1.3)階微分

15/10 (=1.5)階微分

17/10 (=1.7)階微分

2階微分

モーフィングのようで面白い。

さて、今回は分数階微分を勉強してみる所までで、これの応用は別に行ってみたい。もちろん、言うまでもないと思うが、間違いは多々あると思う。いや、田舎に住んでいるもので資料がないんですよ。



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