1999-02-28[n年前へ]
■分数階微分に基づく画像特性を考えてみたい
同じ年齢でも大違い
前回、分数階微分の謎 - 線形代数、分数階微分、シュレディンガー方程式の三題話- で分数階微分について調べた。例えば、0.7階微分といった、整数階でない微分である。今回はそれを使った応用を考えてみたい。
人間の視覚というものは明るいものは強く感じることができる。これは当たり前である。そして、それだけでなく、強さが変化している所にも(興味を)強く感じ取るようになっている。岡本安春氏の「Delphiでエンジョイプログラミング」によれば、そのような考えはLaming(1986)がdifferential coupling(差動結合)として発表しているらしい。
ということは、人間が画像を感じる特性というものは、画像強度と画像強度変化(画像強度の一階微分)の中間的なものであると言うことができるかもしれない。とすれば、分数階微分を導入すれば面白い表現ができるかもしれない。
今回は、そういう考えのもとに分数階微分を用いて人間の画像特性について考えてみたい。
まずは、元画像を示す。元画像はガウス分布に基づいて作成されたものである。
まずは、左の元画像を見て欲しい。どこに強い感じを受けるだろうか?白い部分はもちろんであるが、白と黒の境界部にも強い感じを受けるだろう。ギザギザになっているのはデータが少ないからなので、無視して欲しい。というわけで、人間の視覚画像特性は
- 画像強度
- 画像強度変化(画像強度の一階微分)
元画像 | |
1/2階微分画像 | |
15/20階微分画像 | |
1階微分画像 |
白地に黒画像バージョンも示しておく。紙の上の画像に慣れた人にはこちらの方が良いだろう。
元画像 |
1/2階微分画像 |
15/20階微分画像 |
1階微分画像 |
なお、今回の画像の作成は次のような手順で行っている。
- 1次元のガウス分布を作成する。
- 微分値が正であるような半分の領域を線対称に回転させ、2次元画像を作成する。
今回は
- 画像強度
- 画像強度変化(画像強度の一階微分)
- 電位
- 電界(電位の微分、といっても本来は電位が電界の積分か)
- 人口密度
- 人口密度変化(人口密度の微分)
さて、分数階微分を調べる中で、バナッハ空間についても調べた。調べ始めた時には、聞き覚えもなかったが、調べてみるとヒルベルト空間の導入で登場していた。きれいさっぱり忘れていたようである。
京大数学教室 徳永健一氏のWEB (http://www.kusm.kyoto-u.ac.jp/~kenichi/)
から辿れる「「年齢の本」数学者版」によれば
バナッハがバナッハ空間を提唱したのは30歳の時であるらしい。(http://www.kusm.kyoto-u.ac.jp/~kenichi/age/30.html)
うーん...
■分数階微分の謎
線形代数、分数階微分、シュレディンガー方程式の三題話
分数階微分?
InterLabの1999No.5を読んでいると面白い記事があった。いわき明星大学理工学部の榊原教授の「Waveletと数式処理ツール」という記事である。といっても、興味を持ったのはWaveletのことではない。もちろん、Waveletに興味がないわけではない。この榊原教授が講師を務めたWavelet講習にも参加したこともある。しかし、今回興味を惹かれたのはその記事中にあった「分数階微分の解析」である。InterLabの榊原教授の記事を引用すると、-通常微分・積分は整数回実行できるが、分数階微分はこれを分数に一般化したものである。さまざまな物理や工学の現象の記述に使われるようになった-とある。一階微分とか二階微分というものはよく使うが、0.5階微分などというものは使ったことがない。どのようなモノなのかさえよくわからない。
参考:
一体、どんな物理や工学の現象の記述に使われているのか知りたくなったので、infoseekで調べてみる。すると、いわき明星大学の清水・榊原研究室の「粘弾性動モデル」が引っ掛かる。
参考:
衝撃吸収・シリコーンの弾性率などに興味を持っている人には面白いかもしれない。もう少し調べてみると「バナッハ空間バナッハスケールにおける分数階積分作用素」というようなキーワードも引っ掛かる。
そこで、まずは勝手に分数階微分について考えてみた。
分数階微分・積分の勝手な想像図
まずは、イメージを考えるためにグラフを作成してみる。x^2の関数、および、それを微分・積分した関数である。微分は3階まで、積分は2階まで行っている。
このグラフ形式の表示をちょっとだけ変えてみる。
ここまでくると、平面グラフにしてみたくなる。つまり、微分・積分の階数を離散的な整数値でなく、連続的な値としてのイメージに変えたくなる。
これで、微分・積分が整数階でない場合のイメージ(勝手な)ができた。微分・積分が離散的なものではなくスムーズにつながっているものであるというイメージである。図.2から図.3への変化をよく覚えていてほしい。
といっても、これは数学的なイメージのみで物理的なイメージはまだここでは持っていない。位置、速度、加速度などの微分・積分で選られるものに対して同じようなイメージを適用すると、位置なんだけれどちょっと加速度っぽいもの、とか、速度と加速度の「合いの子」みたいなものというような感じだろうか?
さらに、これから先は、f(x)という関数が示す無限個の値を位置ベクトルと考えて、f(x)というのは無限次元空間の一つの点だというイメージを持つことにする。線形代数を考えるならそれが一番わかりやすいだろう。任意の階で微分された関数群が集まって、さらに高次元の空間をなしているというイメージである。
分数階微分を調べる
勝手なイメージはここまでにして、手元にある数学の参考書の中から手がかりを探してみた。すると、大学院入試問題解説 - 理学・工学への数学の応用 - 梶原壌二 現代数学社ISBN4-7687-0190-6
の中に手がかりがあった。あれ、ということは以前にやったはずなのか...そう言えばおぼろげな記憶がちょっと...
その中の言葉を少し引くと、
フーリエ変換は等距離作用素である、関数空間L^2(R)における回転といえる。結局、
ここで、fは元の関数であり、Fはフーリエ変換となる。そして、古典力学におけるハミルトン関数において、運動量を微分演算子で置き換えれば、量子力学や量子化学のハミルトン演算子が得られ、シュレディンガー方程式などにつながるのである、とある。他の資料を眺めてみると、どうやら量子力学などの分野からの要請に応じてここらへんの微分演算子の分野が発展しているようだ。理論物理などをやった方ならよくご存知のことだろう。例えば、水素原子の基底状態の波動関数へ運動エネルギーの演算子を作用させるというような、基本的な所でも、このフーリエ変換を用いた微分演算が用いられてる。
さて、この式自体は非常に簡単である。それにイメージも湧きやすい。
i を掛ける演算、私のイメージでは複素数空間の中で90度回転をする(言い換えれば、位相が90度ずれる)演算、が微分・積分であるというイメージはスムーズに受け入れやすい(それが正しいかどうかは知らないが)。なぜなら、微分が空間の中での回転であるとすると、三角関数の微分・積分に関する性質(例えば、Sinを微分するとCosに、Sinを2階微分すると-Sinになる、すなわち、一回の微分につき位相が90°ずつ回転する(位相がずれる)というような性質)が納得でき、それがフーリエ変換という形で登場してくることがスムーズに受け入れられるのである。また、微分といえばとりあえず三角関数の登場というイメージもある。
もう少しわかりやすく書くと、
- 三角関数では一階微分の結果は90度位相がずれる(回転する)。
- ならば、(例えば)0.5階微分は45度位相をずらせば良い。
- 任意の関数もフーリエ変換により、三角関数に分解される。
- ならば、任意の関数に任意の実数値の微分が成立する。
任意の関数をフーリエ変換し三角関数に分解した時の位相、言い換えれば、周波数領域での位相ずらし、で分数階微分が定義されるということは、物理的実用的に大きな意味を持つ。例えば、電磁波、弾塑性運動などの物理現象の中での位相変化を分数階微分で解けることになる。例えば、複素貯蔵弾性率などについて分数階微分との関係は深そうである。あるいは、媒体中の電磁波の位相などについて適用するのも面白そうである。
分数階微分を使ってみる
よく分からないところも多いが、とりあえず、
それでは、今回の方法による一階微分の結果と、それと解析解との比較を示す。なお、本来無限領域のフーリエ変換を有限の領域で行っているため、端部近くで変なことが生じるのはしかたがないだろう。また、色々な事情により係数の違いは無視して欲しい。
ちょっとずれが生じているが、こんなものだろう。しかし、これだけでは今回のフーリエ変換を用いた微分の面白さはでてこないので、0から2の範囲で連続的に分数階微分をしてみる。
1/10 (=0.1)階微分 | 1/2 (=0.5)階微分 | 7/10 (=0.7)階微分 | 1階微分 |
13/10 (=1.3)階微分 | 15/10 (=1.5)階微分 | 17/10 (=1.7)階微分 | 2階微分 |
モーフィングのようで面白い。
さて、今回は分数階微分を勉強してみる所までで、これの応用は別に行ってみたい。もちろん、言うまでもないと思うが、間違いは多々あると思う。いや、田舎に住んでいるもので資料がないんですよ。
1999-03-28[n年前へ]
■ハードディスクのエントロピーは増大するか?
デフラグと突然変異の共通点
fjでKByteの定義(よく言われる話だが)が話題になっていた。「なんで1024Byteが1KByteなんですか」というものである。そのスレッドの中で、
- 整数値だけでなく、分数値のbitもある
- 1bitのエントロピーも定義できるはずで、それならハードディスクは結構エントロピーを持つかも
初めに、「整数値だけでなく、分数値のbitもある」という方は簡単である。{0,1}どちらかであるような状態は1bitあれば表現できる。{0,1,2,3}の4通りある状態なら2bitあれば表現できる。{0,1,2,3,4,5,6,7}までなら3bitあればいい。それでは、サイコロのような状態が6通りあるものはどうだろうか? これまでの延長で行くならば、2bitと3bitの中間であることはわかる。2進数の仕組みなどを考えれば、答えをNbitとするならば、2^N=6であるから、log_2 ^6で2.58496bitとなる。2.58496bitあれば表現できるわけだ。
後の「1bitのエントロピーも定義できるはず」というのはちょっと違うような気もする。そもそもエントロピーの単位にもbitは使われるからだ。しかし、ハードディスクのエントロピーというのはとても面白い考えだと思う。
そこで、ハードディスクのエントロピーを調べてみたい。
次のような状態を考えていくことにする。
- きれいにハードディスクがフォーマットされている状態。
- ハードディスクの内容が画像、テキストファイル、圧縮ファイル、未使用部分に別れる。
- その上、フラグメントが生じる。
画像ファイル、テキストファイル、圧縮ファイル、未使用部分を1Byteグレイ画像データとして可視化してみる。
ところで、このような可視化をすると、ファイルの種類による差がよくわかる。てんでばらばらに見えるものは冗長性が低いのである。逆に同じ色が続くようなものは冗長性が高い。こうしてみると、LZH圧縮ファイルの冗長性が極めて低いことがよくわかる。逆に日本語テキストデータは冗長性が高い。もちろん、単純な画像はそれ以上である。
それでは、これらのようなファイルがハードディスクに格納された状態を考える。
- きれいにハードディスクがフォーマットされている状態。
- ハードディスクの内容が画像、テキストファイル、圧縮ファイル、未使用部分に別れる。
- その上、フラグメントが生じる。
横方向の1ライン分を一区画と考える。ハードディスクならセクタといったところか。その区画内でのヒストグラムを計算すると以下のようになる。この図では横方向が0から255までの存在量を示し、縦方向は区画を示している。
LZH圧縮ファイル部分では0から255までのデータがかなり均等に出現しているのがわかる。日本語テキストデータなどでは出現頻度の高いものが存在しているのがわかる。
それでは、無記憶情報源(Zero-memory Source)モデルに基づいて、各区画毎のエントロピーを計算してみる。
これを見ると次のようなことがわかる。
- 未使用ハードディスクは全区画にわたりエントロピーは0である
- 3種類のファイルが格納された状態では、それぞれエントロピーの状態が違う。
- 画像ファイルでは複雑な画像部分がエントロピーが高い
- 日本語テキストファイル部分は結構エントロピーが高い。
- LZH圧縮ファイル部分はエントロピーが高い。
- フラグメントが生じると、トータルではエントロピーが高くなる。
- しかし、平均的に先のLZH圧縮ファイル部分の状態よりは低い。
0 | 691.28 | 982.139 |
というわけで、今回の結論
「ハードディスクのエントロピーは増大する。」
が導き出される。もし、ハードディスクのデフラグメントを行えば、エントロピーは減少することになる。
こういった情報理論を作り上げた人と言えば、Shannonなのであろうが、Shannonの本が見つからなかったので、今回はWienerの"CYBERNETICS"を下に示す。もう40年位の昔の本ということになる。その流れを汲む「物理の散歩道」などもその時代の本だ。
生物とエントロピーの関係に初めて言及したのはシュレディンガーだと言う。ハードディスクと同じく、企業や社会の中でもエントロピーは増大するしていくだろう。突然変異(あるいは、ハードディスクで言えばデフラグメント)のような現象が起きて、エントロピーが減少しない限り、熱的死(いや企業や会社であれば画一化、平凡化、そして、衰退だろうか)を迎えてしまうのだろう。
2005-01-08[n年前へ]
■「整数と小数」と「言葉と感情や雰囲気」
「元々はそんなに意味がなかった」という、"point"と"residual"という名前を見て、一番最初に思い浮かべたのは「円周率は約3でいいか(2000/9/28 AM 11:05辺り)」でした。円周率πと(πの小数点"point"以下を切り捨てた、あるいは、円周率πを一番近い整数に整えた"adjust")3の間には、無限に続く少数で表される残差"residual"があるわけですが、この「円周率や誤差」辺りの話を読んで感じたこと(それをなかなか言葉で言い表せなかったりするのですが…)を思い出しました。
点"point"で指し示しされたものと本来の何かとの残差"residual"や、小数点"point"で切り捨てられがちな残り"residual"の何か、あるいは、「厳密な意味からもれてしまいがちなある種の感情や雰囲気」といったものを思い出したわけです。
むしろいとうせいこう氏のような(数式を言葉とみなせない)文科系作家は、言葉の厳密な意味からもれてしまいがちなある種の感情や雰囲気といったものを表現していくのが主たる仕事ではないんだろうか。
お笑いパソコン日誌 「円周率は約3でいいか」