2008-01-21[n年前へ]
■「ちりとてちん」と「臭豆腐」
「ちりとてちん」に出てくる人物はみな小さい、せこい、しょうもない人間だ。落語に出てくる人間は皆そうだ。おかしな人間が一生懸命生きている。
徒然亭草々 「ちりとてちん」
少女マンガ風に話が流れるNHK朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」が、なかなか面白い。この「ちりとてちん」というタイトルは、暑い盛りに「腐った豆腐を情けない男に食べさせる落語」からとられている。この「ちりとてちん」に瓜二つな料理に「臭豆腐」というものがある。臭豆腐は、発酵汁に豆腐を漬け込んだものである。臭豆腐は、腐った豆腐ではないのだけれど、表面に薄緑色のカビが生えた豆腐状のものが強烈に「臭い」を放つ、というとんでもない食べ物である。以前、「料理の科学」を考えるために(通信販売で手に入れた臭豆腐を)食べたことがある。食べようとする瞬間に臭いだけでなく、食べたあともその匂いが意図せず鼻の奥に蘇る…という思わずポロリ涙がこぼれてくる「リアクション芸人養成ギブス」のような匂いだった。
情けなくてもええねん
苦い涙もええねん
ポロリこぼれてええねん
ちょっと休めばええねん
フッと笑えばええねん
意味が無くてもええねん
それでええねん
それだけでええねん
トータス松本 「ええねん」
2008-01-23[n年前へ]
■落語の「人情噺」にオチ(サゲ)がない理由
落語の原名である「落とし噺」に「オチ」がある一方、落語の「人情噺」は多くの場合、オチ(サゲ)がない。その理由を「落語の言語学」(野村雅昭 平凡社選書)はこう書く。
人情噺の終わりでは、(中略)聞き手はほっとする。それが全部作りごとだったとしても、聴衆はそれが事実であることを信じたいのであり、わざわざ種明かしされることを望みをしない。
NHK朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」が、「立ち切れ線香」に入った。立ち切れ線香は人情噺だけれど、これ以上ないくらい悲しく、複雑であると同時に短く澄んだオチで、日常に戻る。
「わしの好きな唄、何で終いまで弾いてくれんのやろ?」「三味線弾かしません」言葉を、「芸者としてさまざまなものに縛られているから、三味線を(弾きたいけれど)弾けない」と聞いても良いし、日本語の「可能・受身・自発」は繋がっていて、決して分けることができない同一のものだ、とする聞き方もあるだろう。「線香が、立ち切りました」と繋がるというオチ、その関西弁を眺め直してみても、また深く感じることができる。たくさんの混じり合っているものを、味わいのもよい。
「もうなんぼ言うたかて、小糸、三味線弾かしません」
「何でやねん?」
「お仏壇の線香が、ちょうど立ち切りました」
2008-01-26[n年前へ]
2008-01-30[n年前へ]
■「ひかへん」v.s.「ひけへん」アンケート
「立ち切れ線香」の「三味線弾かしません」のニュアンスをどんな感じに聞くかを知りたくなって、アンケートをしてみた。聞いてみたのは大阪人1人と京都人2人、答えは少しづつ違うけれど、やっぱり、似たような結果でもあった。下に貼り付けたのが、その3人のアンケート結果だ。「ひけへん」は「不可能な事実(と表裏一体の残念さ)」で「ひかへん」は「意思と事実が混じり合ったようす」だ。
「わしの好きな唄、何で終いまで弾いてくれんのやろ?」
「もうなんぼ言うたかて、小糸、三味線弾かしません」
こんなアンケート結果を目にすると、「立ち切れ線香」には「三味線弾かしません」こそがピタリとはまるように見えてくる。朱色と藍色が複雑に混じり合う夕暮れの空のように、事実と意思が複雑に混じりあった言葉で、緞帳が下ろされる方がふさわしいような気がしてくる。
たくさんの混じり合っているものを、味わいのもよい。
2008-02-13[n年前へ]
■若狭 小浜の海 に行く
米大統領選の民主党候補選で知名度を上げたオバマ上院議員と似てる名前、NHK連続テレビ小説「ちりとてちん」の舞台、そんなこんなで「小浜」の名前をよく聞く。
学生時代、よく小浜へ行った。京都市は太平洋からも日本海からも、そのどちらにも同じくらいの距離に位置している。南の海も北の海も同じくらいの距離にあるけれど、太平洋を見に大阪湾を眺めに行くよりも、日本海をの波を見に若狭湾へ行く方がいい。だから、京都から海を見に若狭湾へ行く人は多かった、と思う。
京都から比叡山の麓、大原を抜け、若狭街道を車で3時間も走れば、小浜に着く。京都の北部の山中を走る若狭街道を、ただ走るだけで小浜に着く。 この小浜と京都を結ぶ若狭街道は、「鯖街道」とも呼ばれる。かつて若狭湾から京都へと鯖を運んだ道を鯖街道と呼び、若狭街道はそんな鯖街道の一つだ。 だから、京都から小浜へ行くまでの間には、時折、昔ながらの町並みが姿を現す。
若狭小浜は、海沿いに道があって、その道沿いに家が並んでいて、それが繋がり集まり小さな町になっている、そんな海に面した小さな町だ。曲がりくねった道の隣にはいつも海が見え、その海の先にはいつも走る道の先が見える。そんなよくある日本の海沿いの町だ。
冬から春先にかけての若狭湾の海は、とても澄んでいて綺麗な青碧色をしている。暖かい夏になるともう少し濁った色になる。いつかまた小浜の町に行ってみよう。