2007-05-04[n年前へ]
■「現実世界」をコミック調にする
撮影映像のアニメーション化
実際の映像を、絵画・イラストレーション・コミック調に加工処理した映像がたまにあります。たとえば、古いところでは、A-haの「Take on me」のPVなどがありますし、最近では、キアヌ・リーブスが主演したアニメーション映画「A Scanner Darkly」などもそうです。好き嫌いがわかれそうですが、画像が単純化されたイラスト・マンガ風に映し出された世界にはやはり目が惹かれてしまう、という人も多いことでしょう。
かつては、カメラで撮影した映像を1コマごと手作業でなぞる(参考:ロトスコープ)ことも多かったと言いますが、A Scanner Darkly の場合などでは、ボブ・サビストンが開発した Rotoshop が、実写をアニメーション化する際に活用され、撮影・作業工程がいくぶん楽になったとも言われています。
デジカメで撮影した写真といった静止画像を各種イラストレーション調にするソフトウェアは数多くあります。また、動画処理ソフトウェアでも、ポスタリゼーション(減色処理)などの特殊効果を組み合わせれば、動画をイラスト風にすることができるものもいくつかあります。先日作成した、画像加工サービス Imagination You Make でも、各種絵画調に画像を変えるような処理が含まれていましたが、その中のイラストレーション調に画像を加工する部分などは、実は動画にも対応しています。Imagination You Make というWEBサービス 自体はJPEG画像のアップロード・加工にしか対応していないのですが、画像を処理・加工する部分に関しては動画の入出力(もちろん加工処理も)もできるようになっています。
「二次元レッシグ」を作る
Imagination You Make の「イラストレーション処理」の使用例は、たとえば次の2枚の画像です。
左の1枚目の写真が実際の画像で、それに対して「イラストレーション化」をかけたものが右の2枚目の画像です(*)。「イラストレーション化」処理は、「カラー版画化」処理などと違って、輪郭線強調の度合いが小さいので、コミック調という感じではありませんが、それなりにイラストレーション風になっているのがわかります。
動画映像に「イラストレーション化処理」をかけてみた時に、どのような映像に見えるか・映像に対してどのような印象を持つかを知るために、今回、スタンフォード大学ロー・スクールのレッシグ教授のインタビュー映像に対してイラストレーション化処理をかけてみました。右のGIF画像はその結果です。QuickTime形式の動画ファイルは le.mov (16MB) になります(*)。ほんの数秒のアニメーションですが、実際の映像よりもずいぶん単純化されて、実写とは異なった雰囲気を感じます。長時間眺めると目が疲れてしまうそうな気もしますが、たとえばCM映像のようなごく短時間の映像であれば、一種独特に抽象化された世界を味わうことができるかもしれません。
現実世界のコミック化
Podcast の音声部分をテキスト化するサービスはすでにあります。また、Imagination You Make のように、デジカメで撮影された画像中をコミック調にしたり、顔抽出を行い、適切な部分に吹き出しをつけることができるWEBサービスもすでにあります。こういった技術を組み合わせることで、Podcast などで配信されている実写映像をマンガ風・コミック調アニメーションにしたりするといったことは、ごく近いうちに実現できることでしょう。
よくある街並みを撮影した映像や、よく知っている人たちが写っている映像をコミック調・イラストレーション化したら、どのような世界が見えるのでしょうか。そんな世界を眺めたら、どう感じるのでしょうか。アニメーション・映画作成会社でない普通の人でも、「ちょっとアニメーションを作ってみる」ということができたら面白いかもしれません。ちょっと作ってみたたくさんのアニメーション中から、いくつかの新しいものが生まれてくるかもしれません。商業的な映像を作り上げることは難しいかもしれませんが、「ちょっとアニメーションを作ってみる」ということは、もう簡単にできるようになっているのかもしれません。
* 使った素材は、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]によるHIVE インタヴュー・シリーズ 01:ローレンス・レッシグ のインタビュー映像です。そのため、上記映像をもとに作成された3枚の画像、および、QuickTime 映像はクリエイティブ・コモンズ 非営利-継承ライセンス になります。
2009-09-20[n年前へ]
■「映画版長編アニメ」と「グランドツアー」
かつてイギリスの裕福な家に生まれた若者たちは、大人になる儀式として「グランドツアー(Grand Tour)」に出たという。その長い旅行で使われた馬車の略称は、現代の日本でも"GT"という(車の)略称として残っている。
春休みや夏休みには、日常を描いたTVアニメが長編映画として公開されることが多い。そうした映画を見ると、「グランドツアー」を連想してしまう。なぜなら、これまで慣れ親しんだ日常世界から遠く離れ、異世界に混じり試練を乗り越えて大人になりつつ、元いた場所に戻る…という「物語」が多いような気がするからだ。それは、やはり少し「グランドツアー」に似ているように思う。
もといた場所に戻らない「グランドツアー」があるとしたら、それは一体どんなものだろうか。それは、たとえば、 惑星間グランドツアーと呼ばれた無人探査船「ボイジャー」のようなものなのかもしれない。
映画を見た観客も、スタッフロールが流れた後には必ず日常に戻る。もしも、今も宇宙空間を先へ先へと進み続けるボイジャーのように、決して日常生活には戻らない「グランドツアー」映画、観客を二度と帰さない映画版長編アニメがあったたとしたならば、そんな映画を見てみたいと思うものだろうか?それとも、そんな映画は見たくないと思うものだろうか。
2009-12-24[n年前へ]
■現実の物理現象速度を再現してしまうと、違和感のあるアニメになってしまう
画像電子学会研究会予稿 09-03-08 の栗田・青木「リアルバーチャリティー -映像の中のウソー」の中の「アニメーションの中では、現実の物理現象の速度をきちんと再現した映像は現実的に見えなくなってしまう」という話が面白かった。この予稿の内容は、コマーシャル用のアニメーション作成中に、アニメーションを作るプロでない人が感じた興味深かったことをまとめたものである。
木に積もった雪がドスンと落ちる様子や、温泉の湯気が立ち上るようすを実際に撮影し、それをコンピュータ・グラフィクスでアニメーションにしてみると、今一つ感覚と違うという。現実の物理現象速度を再現してしまうと、違和感のあるアニメになってしまうというのである。
現実の速度と同じ湯気では「湯気の動きが早すぎて、寒く感じてしまう」し、現実と同じ速度でドスンと落ちる雪は「遅すぎて、(登場人物が)驚くような感じにはできない」というのだ。つまり、現実とアニメの中での「速度感覚」というものは、何かしら異なっている、という。(自然とは異なる)非等時的なデフォルメがなければ、「自然なアニメーション」にはならない、というのである。
逆に、アニメーション世界の時間感覚を現実に持ち込んだらどう感じるものなのだろうか。もしかしたら、それは「現実よりもさらに現実的に見える世界」になっていたりするのだろうか。
2010-01-30[n年前へ]
■よく知っている物事からスタートすれば…
リチャード ウィリアムズ「アニメーターズ・サバイバルキット 」の最後の頁から。
よく知っている物事からスタートすれば、知らなかった物事が明らかになってくるものだ。アニメーションを作る、アニメーター向けの本を読んでいると、私たちが認識する「世界」とはどういうものであるか、ということを少しだけわかるような気がする。言いかえれば、私たちにとっての世界というものが、一体どんな姿をしているのかを改めて認識することができるように感じる。
レンブラント、1606-1669年
本書は「教科書」というのはこういうものだ、「教科書」を作るというのはこういうことだ、ということを教えてくれる。
アカデミー賞をトリプル受賞した映画『ロジャー・ラビット(Who Framed Roger Rabbit)』のアニメーション監督が自ら解説する、実用的なアニメーション制作マニュアルの決定版。本書は、アメリカおよびヨーロッパ各国で、ウォルト・ディズニー社、PIXAR社、DreamWorks社、Blue Sky社、Warner Bros社のアニメーターたちが参加した「アニメーション・マスタークラス」に基づく内容だ。ウィリアムズは、初心者からエキスパートまで、あるいは古典的な手描きアニメーターからCGアニメの名手まで、すべてのアニメーターが必要とするアニメーションの基本原則を提供してくれる。
2011-10-09[n年前へ]
■「”しおらしくない”(塩らしくない)」女性3人組だった"Sugar"
30年前の今頃、「ウエディング・ベル」という曲が大ヒットしました。コミカルで、それでいてリリカルで、そして一筋縄ではいかない韻書のあった「ウエディング・ベル」を歌っていたのは女性3人組のバンド、Sugarでした。(この曲の作詞・作曲を手がけた古田喜昭氏がこれまた凄いのですが)
祝福の拍手の輪につつまれて(私はしないの)
どんどんあなたが近づいてくるわ。(私はここよ)
お嫁さんの瞳に喜びの涙。(きれいな涙)
悲しい涙にならなきゃいいけど。
(そうね、ならなきゃいいけど)
私のお祝いの言葉よ。(くたばっちまえ。アーメン)
この女性3人からなるバンド"Sugar"の名前の由来は「私たちは”しおらしくない”」「塩らしくない→砂糖→Sugar」というという宣言であったことを知り、「なるほどなぁ…確かに」と、今更ながら納得させられたのです。"Sugar"は「”甘い”私たち」ではなく、「”しおらしくない”私たち」という、そんな名前だったのです。