hirax.net::Keywords::「拡散方程式」のブログ



2008-08-05[n年前へ]

エクセルでシミュレーション Vol.6 「夏にフライパンで卵焼き 編」 

 「表計算ソフトウェアでシミュレーションをする」という講習を見続け、何よりも面白かったのが「非定常の3次元熱計算を簡単に、それでいて、できる限りきちんと計算をやってみよう」という(I氏が講師の)シリーズです。

 一次元非定常の熱拡散問題を陰的解法で解く「熱伝導方程式を表計算ソフトで解くサンプル」は多いように思いますが、「非定常の3次元熱計算を表計算ソフトウェアで解く簡単にやるテクニック・サンプル」は、(私は)他では見たことがありません。しかも、このシリーズは本当に簡単で、なおかつ、できる限り精度を保証して解く、というとても稀有な例です。「難しい問題」を「簡単に」「きちんと」「精度を保証して」解く…といったようなものたちは相反することが多いわけですから、そういったものを兼ね備えているというのは、とても珍しいと思うわけです。

 下の例は、そのテキストを利用して、陽的解法で安定性条件が成り立つようにして、「夏の朝に、角型フライパンをコンロで加熱した際のフライパン温度分布」を計算した例になります。ある厚みを持ったフライパンが、コンロのガスの炎が当たっている部分が「100度」に(熱)されているような条件の時、フライパンの温度分布が時々刻々と変わっていくようすを計算した結果です。こんな計算をエクセルで数回しておけば、「美味しい卵焼きを作るための最適条件・最適なやり方」を導き出すことだってできるかも、と思わされるのです。エクセル上で、フライパンの厚みや熱伝導度を変え、コンロの炎分布を色々変えてみたりしたならば、究極・至高の卵焼きを作るための最適・必須条件が見つかるかもしれない、と楽しく思えてきたりします。

 ところで、この「非定常3次元熱計算」のエクセルシートは、本当に簡単に作ることができるのですが、その一方で、このシートは(簡単なのに)実に巧みに作られています。だからこそ、「難しい問題」を「簡単に」「きちんと」「精度を保証して」解くことができるわけです。

 その「巧みさ」を紐解いてみると、これが実に綺麗なパズルのようで、とても面白いのです。・・・というわけで、その「巧みさ」「面白さ」についての感想文は、また後ほど書いてみようと思います。

2010-04-08[n年前へ]

あみだくじ方程式を1次元拡散方程式を使ってエクセルで解いてみる 

 あみだくじを作ったとき、「アタリ」がどのような分布になるかは、大雑把には、拡散方程式で解くことができます。もし、あみだくじに横線があれば、右へ行ったり・左に行ったり、酔った人がさまよい歩く酔歩(ランダムウォーク)のように「アタリ」を選ぶことができる場所が、推移するわけです。

 たとえば、拡散方程式を横軸を縦線感覚で離散化し、縦軸は…これまた適当に離散化し、縦方向単位長さ移動するときに、どれだけ左右への移動が生じるか(=横線が縦線に対して、どの程度の頻度で存在するか)を考えてやり、そしてその離散化された拡散方程式を解いてやれば「あみだくじ」のアタリ分布を計算することができます。

 左端と右端の「境界条件」では、そこで「折り返されたような」動きをするわけですから、ノイマン条件を適用してやればよいことになります。また、時間ステップは、いつものように「循環参照による手動再計算」を用いて実現してやれば良い、ということになります。

 というわけで、エクセルでプロトタイピングして、作ってみたのが下の計算シートです(作成したエクセルシートはここに置いておきます)。たとえば、下のグラフは、アタリが左から3番目縦下部にあった場合に、一体、どの縦線を選ぶの良いかを示す確率分布になっています。今のこの状態なら、左から1番目、2番目、3番目が大体同じアタリ確率になっていて、もう少し細かく眺めてみると、左から2番目を選ぶのが一番アタリをひく可能性が高い、ということがわかります。

 上の例の場合には、一番アタリをひく可能性が高い線が、アタリのある真上より少し端側に寄りました。この「アタリをひく確率が高い線が端に寄る」傾向は、横線が多いほど激しくなります。…とはいえ、あみだくじを作る時のことを考えると、実際にはあまり横線の数が多くないように、つまり、手抜きあみだくじが多いように思います。

 そんな時は、手抜きあみだくじをするときは、アタリの真上近くを選び、そうでない場合にはアタリに近い端っこを選ぶ、というのが、あみだくじ方程式から導き出されるおトク知識と言えるのかもしれませんね。

あみだくじ方程式を拡散方程式を使ってエクセルで解いてみる






2010-04-12[n年前へ]

拡散方程式で考える「あみだくじ空間」と「空間ワープ」 

 「あみだくじ方程式を1次元拡散方程式を使ってエクセルで解いてみる」で、あみだくじの(平均的な)動き方を1次元の拡散方程式で解き、アタリを引く確率分布を考えてみました。

 そのことに関して会話をしている中で、「とても新鮮で、着想が面白いな」と感じることがありました。そのアウトラインはいずれ平易な形で紹介させて頂くこととして、ここでは、マニアックで一般受けしそうにない部分を、マニアックで一般受けしそうにない記述で、そのとても面白かった話題を書いてみようと思います。

 といっても、hirax.netを読みに来る人は、これすなわち、一般的ではないとってもニッチ(≠リッチ)な変わりものであるわけですから、そういった方には、ちょっと面白いのではないか・楽しめるのではないか、と思います。

 前回紹介したように、あみだくじのアタリの場所がわかっている時には、その(平均的な)動き方を1次元の拡散方程式で解くことで、(平均的には)ここがアタリやすい場所だ、ということを求めることができます。アタリの場所が中央でなく、横線が十分にたくさんある場合には、アタリが左に寄っているなら左端、アタリが右に寄っているなら、右端がアタリやすい場所になります。横線の数が少なく、アタリが端にそれほど近くない場合には、アタリの真上がアタリの確率が高くなります。

 端っこが確率が高くなるのは、両端がノイマン条件になっていて、両端で折り返される部分多重に重なるから、ということになります。部屋の中のゴミの動きをランダム・ウォークで考えたとき、四隅にゴミが滞留しやすいのと同じ具合です。

 そんな話をしているとき、「じゃぁ、こんな線を引いたら?」「あるいは、こんなのは?」と言いながら、下図のような2つのケースのあみだくじ(の横線)を引かれました。…これは、ちょっと、とても面白い新鮮で面白い着想だと思いませんか? 確かに、そういう線を、私たちはよく引きます。けれど、そういうことを、年を経るうちに、いつの間にか忘れてしまっていたことに気づかされました。

 ちなみに、上図のケースAのような場合、あみだくじを表現した1次元の拡散方程式で言うと、拡散の速さが速くなることになります。短い時間(あみだくじで言うなら、縦方向の距離で)で、アタリの場所が遠くまで移動していくことになります。つまり、遠くと遠くの空間を結び付ける、これは一種の”ワープ”する線です。

 そして、上図 ケースBの場合には、左右の両端が、「ノイマン条件」でなく、「周期境界条件」に(線の数がある分だけ)変化していきます。この場合も、結局は、一種の”ワープ”する線であって、それが空間の「反対側」どうしを結び付けている、という具合です。

 結局、これらの”縦線をまたぐ”ような線は、離れた場所を強引に結びつけ、その空間どうしを”ワープ”できるようにすることで、隣り合った空間にさせてしまう、という恐ろしい効果をもっていることを、その当たり前のことを、空間内の拡散現象を表現する拡散方程式を解く、ということをする中で眺めると、ことさらに強く印象付けられます。

 拡散方程式で考える「あみだくじ空間」と「空間ワープ」…何だか、そんなことを考え始めると、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス 」のように、不思議で魅力的な迷路のような空間中を探検しているようで、とても面白い心地になりませんか?

 この話題、もう少し、続きます。

 だってそうでしょう?箱は開けてみなきゃ、中身はわからない。電話は出てみなきゃ、相手はわからない… 少なくとも、旧式の電話はね。
 人の心だってそうよ。…こうして…ノックしてみないと、わからないの。

加納朋子「螺旋階段のアリス

拡散方程式で考える「あみだくじ空間」と「ワープ現象」






2010-04-13[n年前へ]

拡散方程式で考える「あみだくじ空間」と「(見えない)時空間ループ」 

 拡散方程式で考える「あみだくじ空間」と「空間ワープ」の続きです。前回は、”縦線をまたぐ”ような線が、離れた場所を強引に結びつけ、その空間どうしを”ワープ”できるようにすることで、隣り合った空間にさせてしまう、という何やら不思議な存在であるのかもしれない、ということを考えてみました。

 それでは、次は、こんな場合ならどうしたら良いでしょう?今度は、横線同士が交差していたり(下図のExample1)、同じ縦線同士を繋ぐ線があるような場合(下図のexample2)です。

 あみだくじを拡散方程式で解くときには、縦線の「横方向」が「空間」を意味します。それに対して、「縦方向」はすなわち「時間」を意味することになります。「横線同士が交差する」ということは、異なる縦線の間で「時間」が共通のものでなくなってしまう「奇妙な線」であるように思えますし、「同じ縦線同士を繋ぐ線」はまるで過去や未来へ「タイムトリップ」する「不思議な線」に見えます。

 今回考えてみたいのは、こういったスペシャル技を、ちまり時間軸を捻じ曲げるような「線」をどう扱うか、ということです。「どう扱うか」というのは、「どう考えると、単純に思えるか」ということです。「単純で共通なルールで記述できるか、と言い換えても良いかもしれません。

 なぜかというと、この「線」について考え出すと、少し「スッキリしない」というか「気持ちが悪い」ことが出てくるからです。具体的には、「どの経路を考えてみても、通らない線がある」とか「横線に対して、(両方向に進む経路があって欲しいのに)片方向に進む経路しかない」、あるいは、「線を追いかけていくと、下から上に遡らなければいけない部分がある」ということです(下図参照)。

 この「時空間を歪ませるようなスペシャル線」は一体どう扱う・どう考えれば良いのでしょうか?そんなに考え込むことでもないのかもしれませんが、あみだくじというものを考えるとき、「通らない線がある」「横線に対して、(両方向に進む経路があって欲しいのに)片方向に進む経路しかない」「線を追いかけていくと、下から上に遡らなければいけない部分がある」というのは、あまりに「おさまりが悪いこと」であるように思われます。

 そこで、こう考えてみることにしました。下図のように、時間を捻じ曲げるているような線の部分には実は「縦線が隠されている(そういう仮想縦線を考えてみる)」と考えてみるのです。そして、その(仮想)縦線は最下部と最上部が繋がっていて、最下部からさらに下にさがると…アラ不思議、最上部にワープして、そこから下に降りていく、という具合に考えてみるのです。それが、下の図です。

 すると、例外的な現象に思えていた不思議なことが、ごく当たり前の普通のあみだくじに見えてきます。あみだくじを辿る線は、いつでも下方向にしか移動しません、つまり、「線を追いかけていくと、下から上に遡らなければいけない部分がある」という現象は消えますし(仮想線の最下部でも、(仮想線の最下部と最上部が連結されているだけで)その空間上は下に落ち続けているのみです。)、「(いろいろな経路を考えたとき)通らない線」というものもなくなりますし、「横線に対しては、両方向に進む経路が必ずある」という、ごくあたりまえのあみだくじに思えてきます。(下図参照)

 というわけで、横線同士が交差していたり、同じ縦線同士を繋ぐ線がある時には、そこには実は見えない縦線が隠されていて、その縦線はたとえるなら上下両端が繋がったことで「明確な端を持たない」ということだけが特殊だ、と考えてみるのです。「実は目には見えづらい空間(縦線)があり、そこでは時間軸は永遠のようでなぜかループしている」というわけです。

 こんな風にあみだくじを、あみだくじの「スペシャル線」から考えてみると、何だか不思議なくらい惹かれます。そして、考えていくうちに、変に思えていたものが、いつの間にか、ひとつの綺麗な星座のように見えてきます。それは、とても面白い感覚です。

 数字がバラバラに書いてあって、その数字を順番になぞっていくと最後に絵ができる"Connecting Dot"ってパズルがあるじゃない? バラバラだったりしても、途中で間違っているように思えたりしても、色々と続けていたら最後に何か浮かび上がってきたりしたら、それで良かったりするのかな?って時々思ったりするの。

種ともこ 「どこかの学園祭コンサートで」
 (目の前にいる人・目の前にある悩みを)ボーと見ていると、おもしろいものが見えてくる。その面白いものが見えてくることを"コンステレーション"と呼びます。"コンステレーション"というのは「星座(を意味する言葉)」です。

河合隼雄 「河合隼雄 その多様な世界―講演とシンポジウム
 
 星が散らばっている時、その星を結んだ瞬間が一番楽しい。

浅草キッド 水道橋博士
 

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2010-04-16[n年前へ]

「あみだくじ無限ループ」を生み出す「(見えない)時空間ループ」 

 「なぁ、あみだくじで無限ループって作れるとおもうか?」という面白いスレッドを読みました。

 なぁ、あみだくじで無限ループって作れるとおもうか?
 このスレッドの中では、結局、「終わらないあみだくじは存在しない」という結論になっています。

 けれど、普通のあみだくじでなく、拡散方程式で考える「あみだくじ空間」と「(見えない)時空間ループ」で扱ったような、横線同士が交差していたり、同じ縦線同士を繋ぐ線があるような、普通ではないけれど「よくやりがちな」あみだくじなら、どうでしょうか。しかも、前回考えたように、そういう特殊線には実はゴールとスタート地点が繋がっている縦線が隠れているとしたら、どうでしょうか?たとえば、前回描いた下のような例です。

 「ゴールとスタート地点が繋がっている縦線」があるとするならば、「終わらないあみだくじ」は存在する。けれど、そのスタート地点もゴール地点も表には出てこない(隠されている)からその存在を意識しないだけ、ということになります。具体的には、上図に緑色の線で描いた経路です。この経路は、「終わらない」「無限ループ」になっています。ただし、その経路は(あみだくじの参加者にはスタート地点が)見えない「仮想縦線」なので、その存在に気付かないだけ、という具合です。

横線同士が交差していたり、同じ縦線同士を繋ぐ線の後ろに「仮想縦線」が隠れていると考えてみると、あみだくじの「(スタート地点とゴールとの)一対一対応といった特性はそのままに(それ以外の特性も前回考えたようにそのままに)、「あみだくじの無限ループ線」が存在しうる、ということになります。

 何だか、ちょっと面白いと思いませんか?



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