2000-05-02[n年前へ]
■モアレがタネの科学のふろく
うれし、懐かし、学研の科学
先日、友人夫妻で面白いものを見せてもらった。そこで、すかさずオネダリをして手に入れてきた。それが下の写真のものである。
これは学研の科学の学習教材である。「科学の学習教材」というよりは、「科学のふろく」といった方が通りが良いかもしれない。この写真のものは「6年の科学 1998年1号 トリックトランプ「マル秘」超魔術13」である。これを私にくれた友人(妻の方)は「学研教室」の「先生」をやっているので、こういう面白いものを持っているのである。
残念ながら、付録の一部だけで、中身が全部揃っているわけではない。それに加えて、本誌もない。そこで、手元にある材料からトランプトリックを想像しなければならない。しかし、その想像しなければならないところが、また面白いのである。手品の「タネ」を想像し、実際に検証できるのだから、楽しくないわけがない。
こういう理系心をくすぐる、懐かしいものというのは色々ある。以前登場した、学研の電子ブロックもそうであるし、雑誌の「子供の科学」もそうだ。そういった中でも、この学研の科学のふろく(学習教材)はその最たるものだろう。こういった、科学の付録は学研のサイト内の
- 科学の付録 (http://kids.gakken.co.jp/kagaku/furoku/index.html )
さて、今回の「6年の科学 1998年1号 トリックトランプ「マル秘」超魔術13」のネタ探しをしていると、面白いものを見つけた。それが下の写真である。何にも書いてないトランプに半透明シートをかけると、アラ不思議、ハートの5が現れるのである。
この「魔法のトランプ」のタネはもちろん「アレ」だ。「できるかな?」にもよく登場してきた「モアレ」である。これまで、
- モアレはデバイスに依存するか?(1998.11.20)
- OHPによるモアレと光の干渉の相似について考える。 -ヒラックス・ディザの提案 - (1998.11.22)
- モアレ、デバイス、2項分布の三題話- 淡色インクの副作用 - (1999.09.17)
このトランプの表面の模様を拡大してみるとこんな感じになる。これは「ハートの先端部分の拡大写真」だ。赤い線によるハーフトーンパターンが変化している部分(実はハートマークの先端部分)があるのがわかる。この模様は結構細かく、400線/inchくらいである。
このようなトランプに、黒い斜線が描かれた半透明シートをかぶせると、モアレが発生して模様が見えるわけである。下の写真が、トランプに半透明シートをかぶせたところである。半透明シートには実は黒い斜線模様が描かれていることがわかる。
そして、トランプの模様と半透明シートの模様の間でモアレが発生して、その結果として「5」
の文字が浮かび上がっているのがわかると思う。
このトランプのタネのような画像を自分でも適当に作ってみることにする。やり方はとても簡単である。ハーフトーン模様を作成して、模様を書いて、模様部分だけハーフトーンを変化させてやればいいだけである。そして、元のハーフトーンと重ね合わせてやれば、模様が浮き上がるのである。こういう細工をしないと読めない画像を使って、何か面白いことをできるかもしれない。
一応、モアレはデバイスに依存するか?(1998.11.20)の時のように今回も二つの画像の重ね合わせの時に、線形性が成り立つ場合と、成り立たない場合の比較をしておく。
先のAとBを重ね合わせてみたもの |
線形性が成り立つ場合には、モアレが発生していないのがわかる |
つまり、非線形性を持つ場合 この場合にはモアレが発生する |
今回の場合も当然、線形性が成り立つ場合にはモアレが発生しないのがわかると思う。今回のトランプ手品も、半透明シートとトランプの模様の間の重ね合わせの非線形性を利用していたわけである。
この線形性と非線形性の重ね合わせの違いも利用してみれば、もっと新しい何か面白い手品やおもちゃのネタになるかもしれない。インクジェットプリンターの淡色インクと、濃いインクの違いを利用して何か面白いトリックはできないだろうか?
さて、先の知人夫妻は共に「先生」である。なので、時折子供に「どうやって教えるか」という話になることがある。子供という「タネ」をどうやって育てていくか、という話である。子どもが人から言われたことでなく、自分で調べて何かを覚えるにはどうしたら良いか、などだ。もちろん、それは「先生」もまた同じである。人に言われたことを鵜呑みにするのではなく、自分で「実感する」のはむしろ子どもより「先生」の方が難しいかもしれない。
私も先日あるメーリングリストで
「先々」のある(製造業に携わる)子ども・青年などわずかでしょうという言葉を見てしまって以来、そういったことについて色々と考えてしまうことが多いのであるが、こういう「タネ」つながりについて考えているのも面白いかもしれないな、と思うのである。
2001-01-27[n年前へ]
■オッパイ星人の力学 仏の手にも煩悩編
時速60kmの風はおっぱいと同じ感触か?
本サイトhirax.netは「実験サイト」というジャンルに分類されることが多いようである。何が実験で、何が実験でないのかは私にはよくわからないのだが、とにかく「実験サイト」と呼ばれるサイトは数多くある。そして、その数ある実験サイトの中でも、人間そして愛について日夜取り組んでいるサイトの一つが「性と愛研究所」である。その「性と愛研究所」を読んでいると興味深いことが書いてあった。テレビ番組の「めちゃめちゃイケてる!」の中で何でも「時速60キロの風圧はおっぱいの感触である」と言っていたらしい。そしてまた、「性と愛研究所」では「おっぱいの感触と風圧に関する考察」の中で、「時速60kmでは全然おっぱいの感触ではなくて、ちょうど時速100kmを境に急におっぱいの感触を感じます。」というメールを紹介しながら、
「時速100kmの風では、本物は触れないけどお手軽に疑似体験、名付けて『プリンに醤油でウニ』ではなくなってしまう。それでは、まるで『キャビアにフォアグラでトリュフの味』だ。青少年のために疑似おっぱいを探してあげる必要があるな。」と結論づけている。
この「時速60kmの風」現象は「できるかな?」的にとても興味深いと思われるので、今回じっくりと考えてみることにしてみた。そして、この結論に何らかのプラスαをしてみたいと思う。
そう、前回「オッパイ星人の力学 第四回- バスト曲線方程式 編- (2001.01.13)」でオッパイの表面で働いている力について考えてみたのは、実は単に今回・そしてさらに次回の話のための準備だったのである。(さて、ちなみに今回は会話文体をメインに話が進む。「性と愛研究所」ではないが、この手の話は会話文体の方が書きやすいように思うし、私のバイブル「物理の散歩道」でも「困ったときの会話文体」と言われていたので挑戦してみた次第である。言うまでもないが、AもBも私が書いてはいるが、私自身ではない。)
A : 「東名高速で出勤途中に確認してみたんだが、やはり時速100kmあたりが妥当な感じだったな。」
B : 「何を根拠に妥当なのかがよくわからないが、確かに時速60kmでは手に何かが触っているという感触すらないな。それにしても、哀しい出勤の景色だぞ、それ。」A : 「ほっとけ!だけど、少し考えてみると、このおっぱい(ニセモノ)の感触問題は結構面白く、技術的にもなかなかに深い話だと思うんだよ。」
B : 「はぁそうですか…、としか言いようがないな。」A : 「まぁ、聞け。何しろこのおっぱい(ニセモノ)の感触問題には流体力学のエッセンスがぎっしりと詰まっているんだからな。」
B : 「そんな話は聞いたことはないが、とりあえず聞かせてもらおうか。」A : 「このおっぱい(ニセモノ)の感触問題を解くためには、とりあえず車の窓から手を出したときの指の周りの空気流を計算すれば良いわけだ。」
B : 「ちょっと待て。何で指の周りなんだ。手のひらじゃなくて?」A : 「簡単なことさ。試しにおっぱいを揉む仕草をしてみろよ。」
B : 「こ、こうか?あぁっ?手のひらじゃなくて指で揉んでるっ!」A : 「そうだろ。何故かわからないが、おっぱいを揉む仕草=Mr.マリックが超魔術をかける時のような指使いらしいんだよ。」
B : 「うむ、確かにそのようだな。」A : 「だから、時速60kmの風からおっぱいの感触を受けているのは指先だと考えるのが自然だろ。それなら、とりあえず下の図のような「指の間を抜けていく空気の流れ」を計算してみれば、おっぱい(ニセモノ)の感触問題が解けるわけだ。」
B : 「実写の手に二次元の計算結果を三次元的に合成するという凝った処理が、実にクダラナイことに使われている例だな…」
高速で走る車の窓から手を出して、その手の指の間を抜けていく空気の流れを計算しよう。 鉛直方向の指の等方性を考えて、右の図に示すような指を輪切りにするような水平面のみを考える。 こんな写真を撮るときに、自己嫌悪に陥りがちなのは何故だか知りたい今日この頃。 |
A : 「こういう「空気の流れ」ような流体の力学は、ニュートンのプリンキピアに始まり、オイラーとベルヌーイにより非圧縮・非粘性の理想流体の運動方程式とエネルギー保存則が導かれた。それがオイラーの運動方程式とベルヌーイの式だ。オイラーの運動方程式はちなみにこんな感じだ。」
加速度 = 外力 + 圧力勾配力 v : 速度 |
A : 「基本的には「加速度 = 外力 + 圧力勾配力」という形だな。この非圧縮・非粘性の理想流体の場合はラプラシアンがゼロのポテンシャル流れと呼ばれる単純な流れになる。試しに、そんな場合をNast2Dを元にしたプログラムで計算してみた結果はこんな感じになる。ホントはこの計算自体は完全な理想流体ではないのだが、まぁ大体はこんな感じだ。」
B : 「おっ、あっという間に計算したな。」A : 「まぁ、ポテンシャル流れならエクセルでもちょちょいと計算できるくらいだからな。ちなみに、これは窓から手を出してしばらくしてからの空気の流れだ。」
A : 「で、どうだ?」
B : 「いや、どうだ、と言われても困るが、なんかキレイだな。だけどちょっと小さくて見にくいなぁ。」A : 「そう言われれば確かにそうだ。じゃぁ拡大してみるか。」
B : 「で、この結果から何がわかるんだ?」A : 「この図で空気は左から右へ流れているわけだが、左端の空気の速度と右端の空気の速度は、実は同じなんだ。」
B : 「そう言われても、よくわからないが?」A : 「指を通り過ぎてく空気は、指をとおる前後で運動量がそのまま変わってないってことさ。つまり、空気は指を通り過ぎる時になんら抵抗を受けてないってことだ。」
B : 「えっ?おかしいじゃないか、それなら逆に言えば指も空気から何の抵抗を受けないってことか?」A : 「そういうことだ。これがダランベールのパラドックスだ。」
B : 「じゃぁ、何か?この指先に感じるまぎれもないおっぱいの感触は幻だとでもいうのか!? そんなのオレは認めないぞ!」A : 「まぎれもない、っていうほどのものでもないし、ニセモノおっぱい自体は何か一種の幻のような気もするが、もちろん感触自体は幻であるハズはない。そもそも、空気をサラサラな理想流体として取り扱ったところが間違っているわけだ。そこで、登場するのがナヴィエとストークスだ。彼らはオイラーの運動方程式に粘性を導入した。全てはおっぱいの感触を説明するために、だ。」
B : 「それウソだろ。ナヴィエとストークスが聞いたら怒るぞ。」
加速度 = 外力 + 圧力勾配力 + 粘性力 v : 速度 |
A : 「見ればすぐわかるだろうが、この非圧縮流体に対するナヴィエ・ストークスの方程式は、最後に粘性項が入っている以外はオイラーの運動方程式と全く同じだ。」
B : 「なるほど。こうしてみると意外に簡単な式だな。」A : 「あぁ、オイラーの運動方程式に粘性項が入っただけだからな。そのせいで計算はちょっと複雑になるが、最近のパソコンならノープロブレムだ。というわけで、粘性を考慮して計算してみた結果が次の図だ。」
B : 「おっ、ちょっと様子が違うな。何か、ジェットエンジンみたいに尾を引いてるぞ。」A : 「そうだろ。指の後ろのl様子がずいぶんと違うだろう。で、これを拡大してみたのが次の図だ。」
B : 「左端の空気の速度はもちろんさっきと同じだが、指の後ろでは空気が渦巻いているし、右端の空気の速度は全然違うな。」A : 「もっとリアルに、窓の外に手を出したときの、指の周りの空気の動きを時間を追って計算してみた計算結果のアニメーションが次の図だ。指の周りに空気が渦巻いていく様子がよくわかるハズだ。」
窓の外に手を出したときの、指の周りの空気の動きを時間を追って計算してみたもの。指の周りに空気が渦巻いていく様子がよくわかる。 メッシュを細かく切ったおかげで、計算結果は1GB弱。なんてこったい。 |
B : 「指が空気の中を走り抜いていく様子がよくわかるな。確かにこれなら、空気の抵抗を受けまくりだな。」A : 「そうだ。空気は指から力を受けるし、逆に、指は空気からしっかりと力を受けるわけだ。」
B : 「なるほど、この計算結果は指先に感じるまぎれもないおっぱいの感触を説明しているわけだな。いい感じじゃないか。流体力学そして粘性項さまさまじゃないか!」A : 「あぁ、それも全てナヴィエとストークスのおかげだ。」
B : 「おやっ?ちょっと待てよ!これでは、ただ現実を説明してみただけで、何の解決にもなってないぞ!時速60kmと時速100kmの風の感触の差を説明しているわけでもないし、青少年のためのもっと安全な擬似おっぱいを提供しているわけでもない!」A : 「いや、それがそういうわけでもない。実はこの先があるんだ。このナヴィエ・ストークスの方程式の解はレイノルズ数という無次元数によって決定されるんだ。今回の場合で言うと、レイノルズ数は「指の直径x 車の速度 / 流体の運動粘性率」という形になる。そして、このレイノルズ数が大きくなるほど渦が延びていくんだ。」
B : 「なるほど、わかってきたぞ。つまりあれだな。時速60kmから時速100kmに速度を上げれば、それに応じてレイノルズ数が大きくなって、空気の渦もおおきくなるし、おっぱいの感触も確実なものになるわけだな。勉強になるな。」A : 「う〜ん、実際には密度の違いの方が大きいんだが、ナヴィエ・ストークスの方程式の理解としてはそれでいいかもな。あと、単にレイノルズ数を大きくしたかったら指を太くする、っていうのでもいいわけだ。」
B : 「そう言われても指の太さはなかなか変えられないしなぁ。」A : 「指サックとか色々手はあると思うが、もっといい方法がある。さっきの式を眺めてみれば流体の運動粘性率が小さくなれば、レイノルズ数は大きくなる。例えば、水の運動粘性率は空気のそれの十五分の一だ。」
B : 「ってことは、水の中だったら、レイノルズ数も大きいし、密度も大きいし、指先に抵抗を受けまくりってことだな。すると、水中で手を動かしてみれば、それは空気中の高速クルージングと同じってことになるな!」A : 「そうさ、風呂の中で手をひとかきすれば良いだけの話さ。何もわざわざ時速100kmの車の窓から手を出す必要はないんだ。実際、風呂の中で確かめてみたけど、なかなかイイ感じだ!」
B : 「時速100kmで走る車の窓から手を出すのに較べれば、風呂の中で手をひとかきすれば良いだけなんて、まさに青少年のためのもっと安全な擬似おっぱいだな!」A : 「あぁ、それも全てナヴィエとストークスのおかげだ。」
B : 「それはもういいっ言ってるだろ。」A : 「ところで、ふと考えてみたことがあるんだ。さっき、指を太くすれば遅い速度でもレイノルズ数が大きくなるって言っただろ。東大寺の大仏なんかかなり指が太いじゃないか。」
B : 「確かに、そうだな。」
A : 「今調べてみると、大仏の掌の長さは256cmだ。つまり普通の人間の10倍くらいある。だったら、指の太さも10倍はあるだろう。ってことは、ほんのそよ風が吹いただけでも、大仏の手にはしっかりとしたおっぱいの感触が感じられているんじゃないのかな?」
B : 「単に手が大きいから空気の抵抗も大きいだけどいう気がしないでもないが、指の長さもでかいしさぞかし超巨乳の感触かもしれんな!そう考えると、あの大仏の手も何か実にイヤラシイ手つきに見えてくるから不思議だな!」A : 「う〜ん、悟りを開いているから、指先のヘンな感触なんかには惑わされないんだとは思うけどな。しかし、案外と仏もそんな煩悩と日夜闘っていたりするのかもしれないなぁ。しかも、その煩悩がホントーにあるのかもよくわからない幻のような擬似おっぱいってところが面白くないか?大仏の指先は二十一世紀の煩悩そのものを暗示しているのかもしれん。仏の手にも煩悩ってところだな!」
B : 「言いたい放題だな、全く。」
さて、今回は「オッパイ星人の力学第四回 - バスト曲線方程式 編- (2001.01.13)」と繋がるところまで話が辿り着かなかった。おっぱいの表面張力、マボロシのような指先の流体力学、そして大仏の煩悩をめぐる大河ドラマは人生そのもののようにまだまだ続くのである。