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2003-11-20[n年前へ]

続々・桜雷さんの特許申請の話 - 二通目のメール - 

 人に書くメールというものはやはり丁寧に書きたいので、桜雷さんへの返事は日曜日にでも書くつもりですが、先に今朝届いた二通目のメールで述べられていた内容の概略を紹介しておきます。

(2003.11.22追記)
「私信として送ったメールなので、公開するのは止めて欲しい」と桜雷さんからの要望を頂きました。とりあえず、できるだけ文脈を保持しつつメールの元の文章は削除しておこうと思います。なお、削除作業以前の以前の文章も記録として別途保存してあります。

二通目のメールの概略現在、該当する特許申請については申請中であるため、公開停止を求める通知を取り消す。もし特許の申請が通れば、申請日までさかのぼり問題となる。別のアルゴリズムによる同機能のソフトを開発する場合には問題はない。

 とりあえず、特許の仕組みに対する認識が前回のメールからは変わられたようで何よりです。ところで、以前に質問メールを頂いたときに、
> hirax.netに「ご理解いただけましたら、私が同じ原理で特許を出している旨を> 掲示していただけたらと思います」ということを目立つように書いた場合には、> 異議申し立てをする会社や人が現れる可能性が高くなると思います。> なので、それは必ずしも桜雷さんに対して良い方向に向かうとは限らない> です。これは桜雷さんの好きな選択を尊重したいと思います。
と書いて、桜雷さんにとって望ましい選択を尊重したいと考えました。そして、「面倒なことになるのは避けたい」「そのままにしておいて欲しい」という希望に添いたいと考えました。

 それに加えて、「広くソフトが人に渡って安価で標準的に使えるようにしたい」「個人で作っている物には文句をつけない」という言葉があったことで、「桜雷さんの好きな選択を尊重したい」とお返事を書きました。請求項が狭いので特にその特許が何かの妨げにはならない、と判断したこともあります。

 とはいえ、前回のメールのような対応はあまり歓迎できるものではないので、とりあえず今回は公知資料を集めて特許庁への資料提供を行うつもりでいます。そんなわけで、公知資料提供を引き続き募集しております。また、あまりこの手の話を書くのもつまらないことですから、この記事を書くのもこれで終了したいと思っています。もちろん経過の報告は逐次させて頂きますが、「IrisFilterの特許とは? 」なんていうスレッドもできているようですし、この場では何か他のもっと楽しい話題でも書いていきたいと思います。

 個人的には、桜雷さんが今回のような対応をせずにこれからもただ良い製品を作っていかれることを期待しています。

(2003.11.21補足) 下記のメールを桜雷さんに返事として出させて頂いたことを報告しておきます。
(前記の理由により、なるべく文脈を保持しつつ桜雷さんからのメールの元文章は削除してあります)
 お久しぶりです。平林@hirax.netです。お問い合わせを頂いた件からまず先に回答させて頂きます。また、以前メールを頂いたときの記録が桜雷さんの手元に残っていないということなので、以前の返事と重なる部分はそのメールをなるべく引用しながらお答えさせて頂きます。> http://www.hirax.net/dekirukana5/bokeboke1/index.html> http://www.hirax.net/dekirukana6/rin/index.html> > は当方の出願中の特許に重なるもだと思います。> 日本とアメリカで申請中(アメリカは現在審査中)です。> アメリカの方は日本の申請のものを基本に、範囲を広げて申請しています。(中略)> これらの特許に抵触しないと確信された上でソフトの公開をされているのでし> ょうか、お考えをお聞かせください。 JP(日本特許)に関しては請求項に規定されているような対数変換の式は使っておらず、(仮に特許が成立したとしても)特許には抵触しないように配慮してあります。そのため、> 当方としましては、これにあたるものだと判断していますので、という判断の具体的な理由を参考までにお聞かせ頂ければ幸いです。> また、これらの記事を見て私の出願を知らずにこのアルゴリズムでソフトを作> っている人もでてきていますので、もしアルゴリズムに関する記事を公開され> る場合には、当方が特許を申請中であることを明記してください。 桜雷さんが特許を申請中であるということは、以前桜雷さんが「同じ原理で特許を出している旨を掲示して欲しい」という同様の要望を書かれてきた際に、その後「よくページを読むと特許の記述も書いてあった」とご自身でご確認されているようにこの記事を書いた時点から記載しておりますので、この点については再度よく確認頂きたいと思います。 さて、ここから先は以前メールでお知らせした事項と重なる部分も多いですが、桜雷さんの参考にもなると思いますので、若干書かせて頂きます。 最初に桜雷さんから頂いたメールは「画像処理ソフトで、自然対数を使う数式を使ってピンボケを作り出すソフトやアルゴリズムが存在したか教えて欲しい」というという内容のお問い合わせでした。それに対して、>  さて、特開2001−216513をざっと眺めてみました。> 処理の流れは、画像データに対して、>1.コンボリューションを行う(ただし限られたコンボリューションカーネルを用いる)> 2.その際特許内で示された非線形変換を行う> という感じでしょうか。>  特許という観点で見ると、> 1、2ともに公知の技術であって、その組み合わせ自体もおそらく画像処理関連の> 学会誌・レポートなどを探れば、通常の写真・レンズの研究の一環で既に発表されて> いそうなので、公知資料があるのではないか、と思います。> > ただし、公開された特許に対して、審査が通り、また、どこからか異議申し立て>が無ければ、特許は通るかもしれません。> > 計算上は上記、1,2の組み合わせのソフトは結構ありそうですが、特許に書いてある> 式ずばりそのものを使ったものは無いかもしれません。>  ただし、それは同時に特許の請求範囲が狭い(請求項に書かれている式に限定されて> いるので)ということも意味します。この特許の式を使わなければ良いわけで、特許が> 成立しても特許から逃げやすいかもしれません。と簡単に書きました。公知資料の方は例えば特開平8-241407 「画像処理システムの特許」SIGGRAPH97 Recovering High Dynamic Range Radience Maps from Photographなどの一例を挙げるに留めますが、このような画像をぼんやりさせる効果のために「非線形ガンマ変換→畳み込み→ガンマ逆変換」を行ったり、あるいは種々のボケ画像形成のために「フィルム特性を再現する変換カーブ→畳み込み→フィルム特性逆変換カーブ」を行う例を挙げている公知資料が見つかります。そのため、特許の新規性という点において、このような公知資料などと比較した上で、特許審査を通過するかどうかは若干の疑問があります。 また、上に書いたようにJPの請求項はそもそも規定範囲が非常に狭く特許回避は容易で、現実には他社技術の抑止力にはなりえないと思います。当然、請求項からすると「アルゴリズム」というような上位概念による抽象化は欠けており、そもそもアルゴリズムを規定する特許にはなりえていないように思えます。 この感想に対しては、前回桜雷さんも「請求項に式を書いてしまっているのは気になっている」「日本のは細かすぎたかもしれない」というような感想を書かれていましたから、同じご理解はされていたことと思います。また、同様の機能を有するソフトの作者の方々もおそらく「請求項に規定されている式は使っていない」と答える方が多いだろう、と思います。それだけ、規定範囲が非常に狭い特許申請になってしまっています。 また、USPの方ももし仮に通過したにせよ、現在のClaimであれば特許回避は非常に容易で、具体的な話は省きますが、他の類似のソフトも現状ですらほとんどがそのClaimを回避しているだろう、と考えます。 そのように、以前お話を伺ったときには、特許審査通過の可能性およびその実抑止力には疑問を感じましたが、とりあえずの感想としては>  ところで、私自身は特許はあまり好きではないです。といっても、「個人としては」ですけど。> それに、特許を申請する桜雷さんの考えも良く理解できます。> >  で、例えば実はワタシの手元にはIrisFilterと同様の機能を持つ自作Photoshop用のプラグインが> あります。こちらは従来からあるアルゴリズム組み合わせたものですが、私がどうしても> 欲しかった16bitモード対応、距離チャンネル対応(最新のバージョンではIrisFilterでも> 対応されたようですが)、そしてAdobeの通常のプラグインインターフェース、という> ものを備えたものです。あくまで、趣味で作成しているものですが自分で好きなようにできるので> 自分用にはなかなか良いです。で、こうした個人作成のソフトはインターネットに満ちあふれています。> そんな個人で作成してインターネットにあふれているソフトがさまざまな特許などで、出しづらい> 雰囲気を近年ひしひしと感じます。そんな雰囲気がそれほど好きでないのもまた確かです。 > それで、少し知りたいのですが、私は自分で作ったプラグインなどもいつもそうしているように>何かの話のネタを作って、ソフト自体はフリーで配布すると思います。で、私以外にも>自分で画像処理やプログラミングをしている人は多いので、そんなこともあるだろう、と>思いますが、そういうときに桜雷さんはどうされるつもりでしょうか?>  とはいえ、繰り返し書きますが、IrisFilterを拝見して、非常に面白く要望の高そうな> ソフトだなぁ、うれしく思いました。これからも、楽しみにさせて頂きます。 とメールで書かせて頂きました。それに対して桜雷さんの「特許を出したのは自分の研究が報われる部分が欲しいから」「自分や一部企業が独占して人が使えないような状態は望まない」「広く人に渡って安価で標準的に使えるように活動していきたい」「個人で作っている物に文句をつけても仕方ない」というような内容のお答えを頂き、「自分や一部企業が独占して人が使えないような状態は望んでいない」というお言葉と「いちいち個人で作っている物に文句をつけても仕方ない」というご判断を聞かせて頂き、納得しておりました。ですから、hirax.netで桜雷さんの特許申請についてさらに詳しく言及するかなどについては> > 目立つように書いた場合には、異議申し立てをする会社や人が現れる可能性が> > 高くなると思います。なので、それは必ずしも桜雷さんに対して良い方向に向かう> > とは限らないです。これは桜雷さんの好きな選択を尊重したいと思います。と、桜雷さんの希望を尊重することにし、「ややこしくなるのは避けたいのでそのままにしておいてほしい」という桜雷さんの判断をもとに、それ以降申請特許件には触れず、またなんのアクションもとらずにいました。 そういう桜雷さんからのご相談に乗っていた経緯で私自身は納得していたため、前回のメールのような> ソフトの公開を停止、回収されない場合には、ライセンス料の請求や法的な措置に出る考え> でおります。という対応には実に困惑を感じざるをえません。このようなことをされる予定であるならば、そもそも指摘の請求項には抵触していないので無関係である特許申請だと考えてはおりますが、そのような行為が私自身に及ぶことを防ぐために、特許庁への第三者による資料提供の制度に基づいて、公知資料の特許庁へ情報提供を行わせて頂こうと考えています。本当に、以前の桜雷さんのメールで書かれていた内容と今回の対応の違いは誠に残念でなりません。 また、多くの技術者は自らの特許申請・他社技術調査及び特許回避・あるいは異議申し立てなどを日常的に行っており、特許にいやでも慣れ親しんでいることが多い、ということはここに書き加えておきたいと思います。ですから、おそらく技術者以外の方が想像するよりも一般的に技術者は他者の特許を意識・尊重していることが多い、ということはぜひ理解しておいて頂きたいと思います。 最後になりますが、桜雷さんの特許申請というものは、後から他社から訴えられることを防止し、自分の技術の使用を保証するために、単に公開目的で使用するには有効であると思いますので、そのように活用されることを望んでいます。また、個人的には桜雷さんが良い製品をこれからも提供されていくことを願っております。 それでは、長文になりましたが、失礼させて頂ます。jun hirabayashi jun@hirax.net

2003-11-26[n年前へ]

今日の感動トリビア「宇宙までの距離は東京・熱海間と同じ」 

 垂直距離を水平距離に変換するという新鮮な発想。しかも、東京からタクシーに乗ってそれぞれの位置で「ここはどの高さに相当するかを説明する」というとても「目から鱗」の仕方。
 「水平思考から垂直指向への変換」なんて昔良く聞いたフレーズだけれど、この「垂直距離を水平距離に例える」というのはとても面白い。そして、私たちがいかに重力に支配されて、地面に押さえつけられているかを感じることができる。10km走るのは簡単だけど、10km空に登ることは私たちにはできない。

2004-01-02[n年前へ]

ウは「チキウ岬」のウ 

 「チキウ岬へ行くと本当に地球は丸い」 from Syntax Error.
 地球の丸さを実感できるというそのチキウ岬へ一度行ってみたくなります。なにより、その思わず地球を連想させるチキウ岬という名前が、なんともまた不思議に良いですね。しかも、霧がちなチキウ岬の先にはやっぱり灯台があるなんて、もうたまりません。50キロメートル以上の距離の遠くまで、その光が届くなんて。思わずレイ・ブラッドベリの霧笛を思い出してしまいます。
 というわけで、今日のリンクは「灯台ペーパークラフト」 ちなみに、私もレイ・ブラッドベリは萩尾望都経由です。

2004-01-20[n年前へ]

「地図にない場所」 

 「男の隠れ家」という雑誌に少しハマっていたのは何年も前。その頃は、山奥や海が見える山中にある「男の隠れ家」を扱う雑誌がずいぶんと多かった。今では、そんな雑誌の扱う話もずいぶんと小さくなって、「男の小さな玩具」程度の雑誌が増えてしまった。それも、現実の経済事情を考えれば、まぁ仕方のない話だ。

1 山奥にある「男の隠れ家」ではないけれど、ガイドブックにも載っていない、地図にすら載っていないような隠し湯に憧れたりする気持ちを持つ人は多いと思う。つげ義春が歩くような辺鄙な温泉宿や、あるいは誰もいない山の中でぼぉっとしてみたいなんて思う人は多いハズだ。「地図にもない場所」だなんて、その響きだけで気になってしまう人だっていると思う。


 「はてなアンテナ」というサービスを知ったのは一年少し前だったろうか。『「おとなりアンテナ」という機能があって、不思議なくらい自分の好みに合ったサイトを教えてくれるんですよ』と、ある人に教えてもらったのだった。そして、実際に使ってみると、サイトの好みの類似度から「好みに-近い-サイト」を計算するその「おとなりアンテナ」はとても面白く感じた。だから、しばらくして「はてなダイアリ」が始まった時、ベータテスターに応募してみることにした。「はてなダイアリ」を使い始めると、日記内のリンク(キーワードリンク)の類似度から、その日記に「近い」と想定される「おとなり日記」を算出してみたりする機能が付いてみたりして、その「近い」「遠い」を算出する手法と趣向には感嘆したのである。そのサイトの間の「距離」にこだわるやり方をとても面白く好ましく思ったのだった。そして、その頃にはてなの作成者が研究室の後輩であることを知った。

 なるほど、測地学研究室という名前で、種々の測定手法で色々な箇所の位置を求め、種々の座標系の中にそれらの箇所を書き記したりするという研究室を選んだり、あるいはその中で時間をいくばくかの時間を費やしたのでであれば、「近い」「遠い」にこだわってみたり、「おとなりMap」を描いてみたりするのはとても自然に違いない。三角測量やGPS衛星を使って、色んな場所の位置や距離を求め、そしてそれぞれに適した座標系のもとで地図をつくる、という研究室にいたならば、「距離」を測って地図を描きたいと思うのが自然に違いない。GPS衛星ならぬネットワークロボットを使って、ネット上を測量し、色んな距離を測ってみたいと思うのだろう。そして、彼(彼ら)のあの伊能忠敬のような行動力であれば、これからも色んな地図を作り出して行くに違いない。

2 そんな、「色んな場所の地図を描きたい」という欲求は私にももちろんとても強くある。ひっそりと隠れている何かを誰の目に見えるようにしたい、という気持ちが強くある。そして、そんな欲求がある一方で、それと同時に「地図にはない場所」や「誰も知らない場所」に憧れる気持ちもやはりある。誰もいない「地図にない場所」に行ってみたいという気持ちも強い。色んな場所の地図を描いてしまえば、「地図にない場所」は減ってしまうだろうし、そこにはたくさんの人も訪れてしまうかもしれない。実際、私にはてなを教えてくれた人は、しばらく前にその人の「はてなダイアリ」を閉じてしまった。「ひっそりと隠れているつもりの日記」は消えてしまった。

 まぁ、よくある言い古されたジレンマの話なのだけれど、ふと「地図にない場所」を好きな人こそ「地図を作ろう」としてしまうんじゃなかろうか、と思ったのである。そして、「地図にない場所」をなくしてしまったりするんじゃなかろうか、とふと思ったりしたのだった。

2004-03-07[n年前へ]

寄せて上げる「流体レンズ」 

 屈折率の異なる導電性の水溶液不導体を容器に封印し、印加する電界でその境界面の形状を帰ることで自由に焦点距離を変えることができる「FluidFocusレンズ

 なにげに面白かったのが、このスラッシュドットのコメント。重力でレンズが「垂れて」しまうかも、というコメントである。なんで、流体レンズでhirax.netにリンクが?と思ったら、水風船バストモデルで重力の影響を考えた「バスト曲線方程式」にリンクが張られていた。なるほど、確かに流体レンズも水風船バストそのものに違いない。

 とはいえ、携帯電話のレンズというようなサイズであれば、つまりは小さな小さな携帯電話のレンズサイズの微乳(小胸さん)レンズであれば、力のオーダー的にはそれほど垂れないのかも。とはいえ、一眼レフのカメラのレンズのようなサイズ、つまりは巨乳レンズサイズになると、さすがに「寄せて上げ」ないと垂れてしまうように思えるけれど。



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