1999-05-23[n年前へ]
■HooPoディスプレイの謎
夢の扉が開かれる
ビジネスショー'99に行った。そこで、面白いものを見かけたので紹介したいと思う。
まずは、NTTのブースである。下の写真では判りづらいだろうが、色々な画像と文字が立体的に(奥行き情報を持って)すばやく映し出されているのである。
映像が立体的になった瞬間は「まさかレンチキュラー方式?」などと考えてしまったが、
奥行きに2段階しかないことに気づくと(映像の変化が激しく、気づきにくかったのだ)、謎は解ける。一番置くに大きなディスプレイがあり、その前に半透明のシートがあり、そのシートに対して前方からプロジェクターで前景を映し出しているのである。なかなか面白そうなので、後でじっくり観ることにした。
次の面白いものは、以下である。HoroProディスプレイという名称である。
ディスプレイが透けているのがわかるだろうか?ITEM-16というのは後ろの壁である。 |
アオリの調整などはどうしているのだろうか?そういった機能を内蔵するゾーンプレートのようなものなのだろうか?これは実に面白い活用方法がありそうだ。
NTTもHoloProも簡単なタネを持つ科学おもちゃであり、見ているととても楽しい。どういったタネであるかを考えるのはミステリーを解くようで面白い。
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さて、それでは席をちゃんと確保してNTTのブースを見てみることにしよう。こちらは、キーワードといい、演出といい、実に私好みだった。ラストなど感動してしまった位だ。
「夢の」扉が開かれる。 |
色々な映像が映し出され、カウントダウンが始まる。 |
始まるといきなり映像に奥行きが生まれる。 |
ディスプレイとスクリーンの中央が照らされ、そこに人がいたことがわかる。 |
輝きながら、スクリーンが揚がる。 |
この緞帳が揚がる瞬間というのは実に気持ちがいい。コンサートでも舞台でも緞帳というのは現実の世界と架空の世界の間の「扉」である。それを開けるということは、すなわち、架空(今回は夢か)の世界へ入っていくことに他ならない。
ここからメインのプレゼンが始まる |
プレゼンが終わり、スクリーンが下る。そして、キーワードが前後に映し出される。 |
周囲が明るくなり、これまで登場した人物達が |
登場人物の前後を縦横無尽にこれまで使われた映像、 |
これまで登場した人物達は、未だスクリーンの向こう、「夢の扉」の向こうにいるのである。
「夢の扉」を開く原動力、それは...と始まる長い台詞が続く。 |
もちろん、その瞬間にスクリーンがあがるわけだ。
スクリーンが揚がり、役者が並んでいる。 |
「扉」の向こうで演じられていた「夢」がすでにここにある、ということを端的に示しているのである。夢の世界はスクリーンの向こうにあるわけではない、夢の世界はもうここにある-「夢の扉」は開かれた-ことを強く示すものだ。
最後の「夢の扉を開く原動力、それは..」.の後につづく台詞も結構良かった。役者と製作者達に拍手をしたい。
1999-07-25[n年前へ]
■君はトナーを見たか?
6umの高速飛行物体
今回の話はミステリー小説のように、「嘘を意識して書きはしないが、本当のことも意識的に書かない」部分がある。お読みの際は注意が必要である。
先日、大手町で開催されていた「JapanHardCopy'99」を見ていた。ちなみに「JapanHardCopy」というのは電子写真装置(複写機やレーザービームプリンター)やインクジェットプリンターなど画像を印字する機械に関する学会である「日本画像学会」が主催するシンポジウムである。その中でも、一番よく「覚えている」発表を考察を含めながら紹介したいと思う。とても「できるかな?」と共通の匂いがするのだ? それに15分の発表がまるまるビデオ(を液晶プロジェクターに表示したもの)によるものというのも珍しいと思う(画面上に時々タイミングを知らせるマーキングが出てはいたが、発表者は喋る長さ調整に苦労していたと思う)。
それは、
現像プロセスにおけるトナー粒子の挙動測定
という発表だ。
この発表は電子写真式の装置の現像装置でトナーが現像される様子を計測した結果の報告である。以前、
ゼロックス写真とセンチメンタルな写真 -コピー機による画像表現について考える - (99.06.06)
の時に電子写真プロセスについて紹介した。今回もその簡単な構成を示しておく。このような機構がコピー機やLBPの内部には入っているのだ。(ドラム表面の画としてはRicohのWEBがわかりやすい。)
上の概略図で現像装置は右の薄紫の円である。感光ドラムが中央の大きな円だ。この発表は、現像装置と感光ドラムの近接部(画面中央のの赤丸で囲まれた部分)で何が起きているかを測定しているのだ。
しかし、全ての現像装置ではなく現像装置と感光ドラムが非接触のタイプのものに関する報告である。現像装置から感光ドラムへトナーを現像させてやるわけだが、両者が非接触であるということはトナー粒子を現像装置から飛ばしてやることにより現像させるわけである。高電界を印加して電気的な力によりトナー粒子を飛翔させるのだ。そのような場合にトナー粒子がどのような挙動を示しているかを計測しているのである。
現像装置と感光ドラムの間の距離というのは通常300um程度である。また、最近のトナーの粒径は6um程度である。300umのギャップ中を6um程度の飛行物体が数多く飛びまくるのである。数多くといってもピンとこないかもしれないので、数値的な考察をしてみる。1cm^2(1平方センチメートル)の黒い四角を印刷するのにトナー粒子はどのていど必要だろうか。もしトナー1個が10um角の領域を完全に覆えるならトナーが1000x1000個あれば1cm^2の区画を完全に覆えるだろう。しかし、現実問題として1層だけでは覆えるわけがないので仮に5層必要だとすると、5x10^6個のトナーが1cm^2(1平方センチメートル)の黒い四角を印刷するのに使われていることになる。500万個である。
その数多いトナー粒子が飛行しているものの中から1個単位のトナー粒子を計測しどのような飛行をしているかを調べているのだ。数100um角の領域中で数百万個のトナーが飛行する中から1個のトナー粒子を調べるのである。まるで、大都会で一人の人の追跡取材し、その人にライトをあてるような作業ではないか。ロマンチックとは思えないだろうか?
それでは、どのように飛行しているかを予稿集の図から抜き出してみよう。
この写真中では画面上のドラムと現像装置は500um離れている。また、上と下の写真ではトナーを飛行させるための電界の波形が異なる。上が単純な矩形波であり、下が矩形波の正と負の電界がかかる時間長さが異なるものである。まるでトナー粒子の動きが物理的なオシロスコープのようである。
これはほぼ1/15秒間の軌跡であり、予稿集の写真から推定するに、その間に7cm程度は移動している。ということはトナー粒子は1秒間に1m程度は移動していることになる。秒速1mである。しかも方向を鋭く変えながらであるから、加速度としては凄いものがあるし、瞬間の最大速度もはるかにこれより速いだろう。
普段LBPなどで出力をすることも多いと思うが、その出力画像を形成しているトナー粒子たちがこんなに高速でアクロバット飛行してきたとは知らなかった人も多いだろう。この写真自体は今回の発表の導入部分に過ぎなく、本題がこの後に続くのだが、結構面白い写真ではないだろうか。トナー粒子の動きが一目瞭然である。
ところで、ここまできても「おまえの考察が少なすぎるぞ。」と言われる方はいらっしゃらないですよね。「これ、おまえの発表じゃないか。自作自演じゃないか。」とおっしゃる方はいるでしょうけど。
1999-09-29[n年前へ]
■五色不動のワンダランド 前編
黒ビロードのカーテンが開く
本WEBは色にこだわっている。今回はとある五色に関する物語である。「もしかして、iMacのこと?」と思われる人もいるだろうが、残念ながら違う。数百年にわたり東京を守っているという五色の場所の話である。
「黒天鵞絨(びろうど)のカーテンは、そのとき、わずかにそよいだ。」と黒という色で物語が始まり、
「辛子いろのカーテンは、そのとき、わずかにそよいだ。」とやはり色で終わるミステリがある。これは以前、
もう10年近く前になると思うが、「本の雑誌」に江戸五色不動が実在し、そこを巡ってみたという話があった。それを読んでから、機会があれば江戸五色不動を巡ってみたいと思っていた。ミステリーの登場人物のように、東京の街の中でさ迷い歩いてみたいと思っていたのである。そして、東京のワンダランドの入り口を見てみたいと思うのである。
五色不動の内、目黒不動は有名であるし、目白不動は目白という地名としても残っているので有名といってもよいだろうが、残る目青、目赤、目黄不動はそれほど有名ではないだろう。そもそも、 「五色」の由来は、古代中国の五行説に遡る。木、火、土、金、水の五つの要素から万物が成ると考えるものである。
1 | 青 | 東 | 木 | 青龍 |
2 | 赤 | 南 | 火 | 朱雀 |
3 | 黄 | 中央 | 土 | 天位 |
4 | 白 | 西 | 金 | 白虎 |
5 | 黒 | 北 | 水 | 玄武 |
それでは、その江戸五色不動の位置を示してみる。このように五色の結界の中に東京があるとは知らないで、住んでいる人も多いのではないだろうか。
(位置は極めてアバウト。また、移転したものは江戸末期に存在した位置に描いたつもりである。) |
こうしてみると、五色不動の方向は江戸城を中心にして五行説の通りになっているわけではないことがわかる。しかし、江戸城を中心としているのは確かなようだ。また、黄色が二つあるのは、移転(あるいは分裂か?)があったためだという。三代将軍家光の時代に五色不動を作らせた天海大僧正の頭の中にはどのような設計図があったのだろうか?
さて、今回の探検のために私が持参した地図は少し古い。いや、はっきり言えばかなり古い。不動尊はしっかり載っているのであるが、これを頼りにしてもすぐ迷うのだ。大体、現在位置もよくわからないし、気のせいか地形すら違うように感じるのだ。まずは、目黒不動である。最初に地図で示してみよう。
人文社 「江戸切絵図で見る幕末人物事件散歩」より | 地図の左上辺り(一番明るい所)が目黒不動。 JR目黒駅は目黒川の場所から想像して欲しい。 |
さて、その時の写真を以下に示す。これが現代の目黒不動である。
目黒という地名は目黒不動があるからだけど...."黒の部屋"が突然出現して、そこが... 「虚無への供物」 この目黒辺りは台地が繰り返す地形であるが、やはり目黒不動尊も台地の上にある。 この日は目黒駅前では「目黒のさんま祭り」が開かれていた。ビールとさんまが夏の終わりを感じさせるのだ。 | |
目黒白金図 (1858)による、目黒不動の部分。内部の位置関係はそれほど変わっていなかった。内部に入ると龍泉寺という名前が納得できるだろう。 また、「虚無への供物」が好きな方ならば、いきなりコンガラ童子達が出現するのには驚くはずだ。 1858年といってもたかだか150年前である。江戸時代の圧倒的な長さから比べたらごく最近である。 |
さて、あまりに重いページになってきたので、この続きは次回に。
1999-10-01[n年前へ]
■五色不動のワンダランド 中編
青と白の結界
前回までのあらすじ
江戸を守っている五色の結界、すなわち、五色不動を捜し求めて、私はさまよい歩いてみることにした。まずは、目黒不動をたずね、次なる青の結界をたずねるのであった。
さて、目青不動の場所を示す。といっても、地図が古いので現在目青不動尊が在る場所とは違う。この地図では、渋谷駅の東の方角のあたり青山である(といっても、地図上に駅など無いが...)。したがって、現在は山手線の内部の場所ということになる。しかし、現在は三軒茶屋の裏に移転している。
人文社 「江戸切絵図で見る幕末人物事件散歩」より | 目青不動である教学院は現在は三軒茶屋へ移転している。しかし、この地図では渋谷の東にある。この地図を頼りに探し回りえらい目にあった。ちゃんと、「虚無への供物」通りに行っとけば良かった。なまじ地図を信用してはいけない。 |
地図を拡大したものを示してみる。「教学院」が探している目青不動である。
さて、最初は渋谷の辺りを探してしまい、ずいぶん時間をロスしたが、結局三軒茶屋の方へ行き、やっと目青不動に辿りついた。その目青不動尊はこんな感じである。撮影した写真を示す。
広い境内に歩み入りながら、...青い薔薇 - 目青不動- そして ... 「虚無への供物」 灯りに照らされた不動明王はとても不思議な雰囲気に満ちている。三軒茶屋の駅裏であるが、人通りは全く無い。まさにタイムカプセルの内側に入りこんだ気分だ。 中を覗くと、絶妙に照らされた不動がいる。少し、恐ろしい。これは間違い無くワンダランドの入り口である。 |
三軒茶屋の裏に今もこんなワンダランドが存在しているとは実に素晴らしいことである。
さて、次は目白不動である。いいかげん、ここらへんで疲れが出てくる。いや、本当に歩き回っているのだ。文章を読むと何の問題も無いように思われるかもしれないが、実はかなりさ迷っているのである。やはり、持っている地図がやはり古すぎるのである。
目白不動の場所 | 目白不動周辺の拡大 |
そして、案内板はいっぱいあるのだが、ミステリのようにミスリードをしてくれるのだ。いや本当にだまされた。精神的にも、疲れてしまう。まだ三つめだというのに。
車は千歳橋のところで上の目白通りへ出ると左へ折れたが、見るとも無く窓の外を見た亜利夫は、ふいに短く声をあげた。... 「あれァ目白不動でさあ」 「虚無への供物」 学習院大学のすぐ近くである。案内板に従って辿りつこうとすると、ものすごい遠回りになる。 |
いいかげん疲れてきたところで、次は後編。