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1999-12-06[n年前へ]

立体音感を考える 

バーチャルサウンドソフトウェアを作ってみよう



 立体感というものには何故か強く心惹かれるものがある。まして、それが人工的な立体感であるならば、なおさらである。それは、画像・映像であっても、音であっても同じだ。色覚なども同様なのだが、人間の感覚というものを人間自身の技術により再現できたりするのが、実に面白い。

 何より、自分が実感できるというのが良い。結果を自分で感じることができるというのは、素晴らしいと思う。よくソフト技術者などで、「もう少し目に見えるものが作りたい」という人がいるが、それと同じである。

 小・中学校などでも実感できる教材や授業というのがあれば素晴らしいと思う。最近のWEBを眺めていると、そういう先生方のグループも多いようだ。そういう先生は「えらいなぁ」とつくづく思う。今の学校の先生は、そういうことをすればするほど、仕事としては時間単価が下がってしまうのだろう。それでも、そういった先生方は、きっとそういうことは気にしてはいられないのだろう。ホントにエライ。

 さて、立体感を実現するソフトであるが、そういった技術には色々なモノがある。音響の立体感の実現を目指す技術に関しても、古くから数多い技術がある。そういったものを追求しているWEBも多々あり、
 「今日の必ずトクする一言(http://www.tomoya.com/)」の

 などはその最たるものである。ここのWEBマスターなどは聴覚の専門家でもあるので、こういう話題に惹かれるのは当然なのだろう。

 また、そういったものを実現しようとする製品は昔から掃いて捨てるほどある。最近の製品では、

などもそうである。(といっても、今回の話しはずいぶんと長い間塩漬けになっていたので、それほど最近ではなくなってしまったのが残念である。)

 私も出張などで新幹線などに乗っている際には、E-500などでヘッドホンで音楽を聴いていることが多い。そういう時には、先の「山本式スーパーバイノーラルコンペンセーター」などが欲しくなり、音の立体感などについて色々と考えてしまう。必要に迫られているせいか、立体音感については、私もとても興味を惹かれるのである。
 というわけで、「できるかな?」でも立体音響について考えてみたいと思う。といっても、考えるだけでは面白くない。それに「ナントカの考え休むに至り」ともいう。私が考えるだけでは、何にもならないし、しょうがない。色々と実験をして遊んでみたい。
 そのために、まずはいくつかの道具を作ってみることにした。

 今回、作成するのは、山本式バーチャルサウンドシステムソフトウェア(名付けてYVSSS。略称が長いので、以降YVS3と称することにする。)である。先の「今日の必ずトクする一言(http://www.tomoya.com/)」の一連の話しに出てくるそれである。スピーカーマトリックスの程度を小さくしたものである。

 バーチャルサウンドシステムソフトウェアというと仰々しいし、ものすごいソフトウェアに思えるかもしれないが、実はそんな大したモノではない。それどころか、実に簡単なモノである。実際には、Waveファイルを開いて、そのファイルの左チャンネル(L)、右チャンネル(R)に対して、

  • R'= R - 1/3L
  • L'= L - 1/3R
という処理をしてやるだけである。これが、どのような作用を持つか考えるのは、先に挙げた「山本式バーチャルサウンドシステム」のWEBを読めばわかるだろう。もちろん、本「できるかな?」的にも色々考えてみたいわけではあるが、それは次回以降に後回しである。今回は、YVS3を作成し、自分の耳でその効果を実感するだけである。

 ここに、今回作成したソフトを置いておく。いつものことであるが、完成度はアルファ版以下である。


 使い方を示しておく。まず、下が動作画面である。水平方向にスライダーがあるが、チャンネル同士の演算の係数を決めるものである。左端が0%であり、右端が100%である。

WaveMixPro(YVS3)の動作画面

 すなわち、スライダーが左端であれば、

  • R'= R - 0 L = R
  • L'= L- 0 R = L
となる。つまり、オリジナルそのままである。また、スライダーが右端であれば、
  • R'= R - L
  • L'= L- R
となる。差分を出力することになるわけだ。
 Load_Convertボタンを押して、WAVファイルを選択し、変換することができる。その際、オリジナルのファイルは"*.org"という名前で保存される。

  さて、このソフトを使って、

  • 種ともこのアルバム「感傷」から「はい、チーズ!」
  • THE POLICEのLive at the "Omni" Atlanta, Georgia During 1983 U.S.A Tourから"SoLonely"
を試聴してみた。「はい、チーズ!」は途中がLive録音であるし、"So Lonely"の方は完全にLive録音であるからだ。

 試聴のやりかたは、Cd2wav32.exeを使い、CDからWAVファイルにする。そして、WaveMixPro(YVS3)を使って、バーチャルサウンドシステム構築する。そして、それをヘッドホーンで試聴するわけだ。適当にチャンネル同士の演算の係数を変化させ、聴いてみた。果たして、立体感は増しているか?

 さて、試聴した結果であるが、「うーん。」という感じだ。
 係数を大きくすると、まるで「カラオケ製造器」である。ボーカルが消えるだけである。しかも、聴衆が頭の真ん中に居座っているような感じである。つまり、立体感がむしろなくなってしまっている。「何故、オマエらはオレの頭の真ん中で拍手をするのだ」、と言いたくなる。頭が変になりそうである。
 かといって、小さいとよく違いがわからない。困ったものである。

 さてさて、まだまだ第一回目ではあるが、前途多難の気配であるのが心配なところだ。

2000-01-03[n年前へ]

音場の定位を見てみたい 

立体音感を考える その2


 前回(といっても間に他の話も挟まっているのだが)、

で「音の立体感」について考え始めた。今回はその続きである。「音の立体感」を考えるための道具を作る準備をしてみたい。

 色々なことを考えるには、その目的にあった測定器が必要である。何か新しいことをしようと思ったら、そのための新しい測定器を作成しなければならない(と思うだけだが)。そして、何より私は計測器なんてほとんど持っていない。だからといって、計測器を買うお金があるわけではない。というわけで、困ってしまうのだ。

 そこで、立体音感を考えるための測定器を作っていくことにした。といっても、すぐにできるとも思えないので、色々実験をしながらボチボチとやってみることにした。勉強がてら、ボチボチやってみるのである。オーディオ関連のことにはかなり疎いので勉強にはちょうど良いだろう。

 資料をいくつか眺めてみたが、特に

  • 「立体視の不思議を探る」 井上 弘著 オプトロニクス社
の中に簡単に音の立体感に関する因子が簡単にまとめられている。それは
  • 音像定位の因子
    • 両耳差因子 (音響信号)
      • 音の強さ(振幅)の差
      • 位相の差
    • 周波数スペクトル因子
というものである。今回はこの中の「音の強さ(振幅)の差」というものに注目してみることにした。よくある2スピーカ方式の「音の立体感」を考えるとき一番メジャーである、と思うからだ。左のスピーカーと右のスピーカーから聞こえる音の大きさが違う、というヤツである。

 そこで、いきなりだが今回作成した解析ソフト「音場くん一号」のアルゴリズムは以下のようになる。

  1. PCのサウンド入力から、サンプリング周波数 22.05kHz、Stereo 各チャンネル8bitで取り込みを行う。
  2. 取り込んだデータを4096点毎にウィンドウ(Hamming or無し)処理をかける。
  3. 高速フーリエ変換(FFT)を行う
  4. FFTの結果の実部について、左右のチャンネルの差分を計算する
 このようにすることで、各周波数成分それぞれについて、左と右のチャンネルに記録されている「音の大きさ(音圧)」の差がわかるといいな、と考えたのである。

 次に示すのが、「音場くん(仮名)一号」の動作画面である。「音場くん(仮名)一号」の画面構成は、

  • 右側->制御部
  • 左側->計測データ表示部
である。そして、左側の計測データ表示部は上から、
  • 音声波形データ(赤=左、緑=右)
  • 周波数(横軸)vs左右での音圧の差(縦軸)
  • 時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)
となっている。ちなみに下の画面は種ともこの「うれしいひとこと」の中から、「安売り水着を結局買ったアタシの歌」のイントロ部を計測したものだ。
「音場くん(仮名)一号」の画面
「安売り水着を結局買ったアタシの歌」イントロ部

(黒字に赤、緑の色構成は変更の予定)

 計測データ表示部の拡大図を下に示す。

  • 音声波形データ(赤=左、緑=右)
  • 周波数(横軸)vs左右での音圧の差(縦軸)
  • 時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)
というのが判るだろうか?かなりわかりにくい表示系であるのが残念だ。また、色もみにくい表示色になっていると思うので、近く変更する予定である。

 この表示計の意味を例を挙げて説明したい。例えば、下の画面では左の方に定位している音が鳴ったときの状態を示している。一番上の音声波形データでは緑(右)の波形は小さいのに対して、赤(左)の大きな波形が見えている。
 また、真ん中の「周波数(横軸)vs左右での音圧の差(縦軸)」では横軸100(任意単位)程度の高さの辺りで左チャンネルに位置する音が発生しているのがわかる。
 また、一番下の「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」では時間的に一番最後(横軸で右側)の方の横軸560、縦軸100位の位置に白い(すなわち左チャンネルに定位する)音が発生しているのがわかると思う。

「音場くん(仮名)一号」の画面の拡大図
「安売り水着を結局買ったアタシの歌」イントロ部

 この曲のイントロでは、「ポンッ」という音が高さを変えつつ、左右にパンニング(定位位置を変化させること)する。
 一番下の「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」を示したグラフ中で白・黄色(左に定位)と青・黒(右に定位)する音が時間的にずれながら現れているのが判ると思う。

 このようにして、この「音場くん(仮名)一号」では音の定位状態についての「極めて大雑把な」計測が可能である(保証はしないけど)。「音場くん(仮名)一号」を使った他の例を示してみる。

 下は種ともこの「O・HA・YO」の中から「The Morning Dew」のイントロ部を示したものだ。

  • 左(白・黄)チャンネル方向に定位するピアノ
  • 右(黒・青)チャンネル方向に定位するガットギター
がつくる旋律が絡み合っているのがわかると思う。
「The Morning Dew」のイントロ部での
「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」
を示したもの

 これはまるでオルゴールのピンを見ているようだ。あるいは、シーケンサーや昔の自動演奏ピアノのロール譜のようである。対位法などの効果をこれで確認したくなってしまう。

 さて、ここまでの例は楽器も少なく、比較的自然な定位状態であった。しかし、以下に示すような場合には不自然なくらいの「音の壁」状態の場合である。かなり状態が異なる場合だ。

「KI・REI」のラストのラストコーラス部での
「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」
を示したもの

 これは、種ともこの「O・HA・YO」の中から「KI・REI」のラストのラストコーラス部を示したものである。人のコーラスが重なり合っていく部分である。色々な高さの声が重なり合っていく様子がわかるだろう。
 ところが、このグラフをよくみると、同じ音が時間的に持続しているにも関わらず、時間毎に定位位置が左右で入れ替わっているのがわかる。

 これはきっとエフェクターで言うところのコーラスなどをかけたせいだろう(素人判断だけど)。人工的にフィルタ処理をしているためにこのようになるのだろう。こういう結果を見ると、「音場くん(仮名)一号」をプログレ系の音の壁を解析してみたくなる。

 さて今回は、音声の定位状態を解析する「音場くん(仮名)一号」を作成し、いくつかの音楽に対して使ってみた。まだまだ「音場くん(仮名)一号」は作成途中である。これから続く立体音感シリーズとともに「音場くん(仮名)」も成長していく予定である。

 さて、一番先の画面中に"Re"という選択肢があるのがわかると思う。もちろん、これと対になるのは"Im"である。FFTをかけた結果の"実部"と"虚部"である。"実部"の方が左右の耳の間での音の大きさの違いを示すのに対して、"虚部"の方は左右の耳の間での位相差を示すものだ。つまり、ある周波数の音が左右の耳の間でどのような位相差を示すものか、測定しようとするものである。

 左右の耳に対する音の位相差というものは、立体音感を考える上では避けては通れないのだろう。しかし、位相差を処理しようとすると、どうしたらいいものかかなり迷う部分がある。また、今回のようなFFT処理をかけたときに得られる位相を用いて良いものかどうかもよくわからない。というわけで、今回は位相解析処理は後回し、ということにした。

2001-08-07[n年前へ]

「ボケ」た背景で包み込め 

デジカメ画像をキレイにボカそう アルゴリズム編

 最近、新しいデジカメを物色中である。私はこれまではFinePix4700zを使っていたのだけど、そのFinePixが半年程度で壊れてしまった。というわけで、C-4040ZOOMがどんなものか期待しているところである。

 壊れたFinePixと言えば、そもそも壊れたFinePixは一台ではなかった。私はすでにFinePixを二台も買っているのだ。そして、もうすでに二台とも壊れてしまっているのである。連続殺人事件ならぬ、連続カメラ自殺事件なのである。

 まず、一台目に買ったFinePix700ははメキシコのティファナでポケットから落としたら、バッテリーから電源が供給されなくなった。もちろん、ACアダプターを使えば立派に動くのだけれど、それでは少しばかり機動性に欠けてしまう。まさか発電機を持ち歩くわけにはいかないし、コンセントの近くでしか撮影することができないとなると、それは非常に困ってしまう。そこで、すかさず二代目としてFinePix4700zを私は買った。ところが、買ってから半年位たったある日、今度は勤務先の駐車場でポケットから落としてしまった。すると、今度はファインダー視野がズームに連動しなくなって、なおかつレンズがまるでジョイスティックのようにあらゆる方向に曲がるようになってしまった。

 こんな風にデジカメはとっても壊れやすくて、半年毎にデジカメ出費を強いられる私に周囲は「落としたオマエが悪い」と非常に冷たいのである。残念なのだ。「そういうのは壊れたんじゃなくて、壊したんだ」と被害者である私をまるで加害者のように告発する人さえいるのである。連続カメラ自殺事件は実は他殺で、しかも犯人は私だと告発する輩さえいるのだ。ひどい話である。
 

 ところで、C-4040に期待しているのは、コンパクトで、レンズアダプターが使えて、レンズがF1.8と明るいことなのである。コンパクトなのは持ち歩くために必要だし、私はなんと言っても超広角デジカメが欲しいのだが、そんなデジカメはないので、ワイドコンバーターを付けたいのでレンズアダプターが必要なのである。明るいレンズの方は、うす暗い中でも撮影する時に重宝しそうなので、少し期待しているのである。
 

 ところで、この位明るいレンズであれば、もう少しぼかすことができるものだろうか?デジカメで写真を撮ってもどうしてもボケない。35mmフィルムを使っているカメラなどと比べるともう全然ボケない。もうほんとにボケない。

 例えば、35mmカメラで135mm F4.5開放のレンズなら、ピントの合ってない背景はこの位はボケる。これは京都の哲学の道近くにある吉田山で撮った写真だ。
 

35mmカメラで撮影した例 135mm F4.5?

 

 ピントが合っている位置以外は光がボケて、キレイなボケが発生する。どちらの写真も絞りは開放で撮影しているので、後ろの風景はほぼ丸くボケている。ぼかせばキレイというわけではないけれど、背景などがごちゃごちゃしている中で対象物だけを浮き上がらせたい場合には、「ボケ」させるととても良い感じになる。
 

 しかし、デジカメではそうそう簡単にボケた画像を撮影することはできない。35mmフィルムに比べて、CCDサイズが小さいからである。35mmカメラよりAPSカメラはもっとぼけなくて、それよりデジカメはさらにボケないのである。そんな様子を見るために、二台目として買ったFinePix4700zで「ボケ」を意識して撮影してみたものが下の写真である。手前の植物にピントが合って、奥の道の先はボケてはいるのだけれど、それでも先程の写真などとは比べものにならないほどわずかしかボケていない。
 

在りし日のFinePix4700zで「ボケ」を意識して撮影してみた写真
(昼過ぎの箱根山中で)

 ところで、このような画像の「ボケ」を考えるとき、「ボケ」た画像をシャープに復元しようという話は非常にポピュラーな話題である。例えば、本「できるかな?」でもこれまでに

といった感じで遊んできた。また、さらには「恋の形」を復元しようとしたとか、このようなアプローチを遥か昔に考えていた漱石の「文学論」を振り返ってみたりしたきたのである。しかし、これらはいずれも「ボケたデータを復元する」という問題であった。

 一方、この逆のアプローチである「シャープなデータをボケたデータにする」という問題も結構ポピュラーである。例えば、音楽をホールやライブハウス風にボケた音にするDSPはかなりの数のオーディオ装置に付けられている。これも、もともとはシャープな音声データが部屋の中でボケていく様子をシミュレートする回路である。また、画像に関する話題でも、ピント位置をずらした複数の画像から任意の「ボケ」画像を作成するといった話題もたまに見かける。

 そこで、「できるかな?」でもデジカメ画像を35mmカメラ風にキレイにぼかすことに挑戦してみることにした。今回は、まずはアルゴリズムを確認して、次回以降で簡単プログラムを作成してみることにしたい。

 まずは、似たようなソフトウェアがあるかどうか、Googleで適当なキーワードを使って検索をかけてみると、IrisFilter(http://www.reiji.net/iris/)というソフトウェアがあった。これは、「写真のぴんぼけを再現する」というフィルターだった。サンプル写真などを見てみると、これがなかなかきれいだった。例えば、早朝の御殿場の路上を「在りし日のFinePix4700z」で撮影した写真にこのフィルタをかけて、「ボケ」を加えてみたのが下の画像である。
 

Iris Filterでデジカメ画像を「ボケ」させたもの
オリジナル画像
Iris Filterで処理したもの

 ここではこんな六角形の絞り形状をを用いてみた。右の処理画像中の、車のテールランプや車の下部を眺めてみると、鋭いハイライト部が六角形に光っているのがわかだろう。確かに、「ボケ」がカメラの絞り形状になっていて、良い感じである。

 WEBページの記載によれば、このIris Filterは「フィルム特性曲線を利用し、レンズから通った光がフィルムを感光させる様子を再現しています」ということである。なんでも、特許も国内・USP共に出願済みということだが、特願2000-100042もU.S.PTO 09/772532も未だ公開にはなっていないようで、残念ながら特許の内容を読むことはできなない。

 このWEBページの記述の中で面白いのは、「データ上の数値をそのまま拡散させる従来のPhotoshopをはじめとした画像処理ソフトと違い、実際のフィルムに当たる光の量(露光量)を逆算し、その露光量をもってピントがずれている様子を再現します」という歌い文句でPhotoshopの「ガウスぼかし」と比較広告してある部分である。

 試しに、先の画像をIris Filterで「ボケ」を加えた画像と、Photoshopの「ガウスぼかし」とで「ボケ」を加えた画像を比較してみると、下の二枚の画像のようになる。確かにIrisFilterの売り文句通り、こうして比較してみるとPhotoshopガウスぼかしが写真の「ボケ」っぽくないのに対して、IrisFilterの「ボケ」が写真のそれっぽいことが良くわかる。
 

Iris Filterの処理画像(左)とPhotoshop ガウスぼかしで処理した画像(右)の比較
Iris Filterで処理したもの
Photoshop ガウスぼかしで処理したもの

 さて、お仕着せのソフトを使ってみるだけではなくて、自分でデジカメ画像をキレイに「ボケ」させてみることにしたい。というわけで、hirax.net風「ボケ」フィルターの動作を考えてみる。

 まずは、毎度のことだがオリジナル画像が「ボケ」る様子を計算する式は

逆フーリエ変換(  フーリエ変換( オリジナル画像 ) x フーリエ変換(ボケ具合 ) )
と表すことができる。詳しくは、「宇宙人はどこにいる?」の回でも読んでもらうことにして、簡単に言えば周波数領域でオリジナル画像とボケ具合を掛け算をしさえすれば良いのである。つまり、今回のデジカメ画像をぼかす場合だったら、
  1. デジカメ画像と「ボケ」具合をそれぞれフーリエ変換し周波数空間に変換
  2. 周波数空間で乗算を行う
  3. 逆フーリエ変換して実空間に戻す
とハイ!「ボケ」画像の出来上がり、というわけである。ボケ具合が小さい場合などは、このやり方よりもずっと計算量の小さいやり方はあるわけだけれど、とりあえずこのやり方はとても単純明解なので今回のように試しでやってみるにはとっても楽な方法なのである。また、ここでいうボケ具合というのは、こんな形状の「ボケ」具合のことである。
 

 じゃぁ、早速やってみようとなるわけだが、その前にもう一つ注意することがある。それは、RGB画像の数値というものは実は元々「明るさを対数変換した値」であるということなのである。人間の目も含めて世の中の大抵の材料は対数的な感度を持っている。例えば、人間の目に「2倍明るい」という場合に、光は「2倍明るい」というわけではない。その場合には指数的にX^2倍明るいのである(ここで、xの値はそれぞれのデバイスによって色々と違う)。その明るさをRGB画像の数値データにする時に、明るさの対数をとってLog[x,X^2]で2という数値として表しているわけだ。

 RGB画像の数値が「明るさを対数変換した値」だというようすの一例を示すと下の図のようになる。
 

RGB画像の数値というものは実は元々「明るさを対数変換した値」である
片対数軸で表した
横軸 = 0〜255の数値データ
縦軸 = エネルギー
線形軸で表した
横軸 = 0〜255の数値データ
縦軸 = エネルギー

 逆に明るさからRGB画像の数値データへの変換グラフは例えばこんな感じである。RGB数値で200と255と言っても実はその明るさは大違いであることがわかると思う。
 

 

 だから、この手の処理を行う際には、まずは指数変換してから処理を行い、そしてその後対数変換してやらなければならないわけだ。もちろん、今回のデジカメ画像をぼかす場合にも、RGB画像の数値をまずは指数変換した後、「ボケ」演算を行って、その演算結果を対数変換でRGB画像の数値に戻してやらなければならないのである。といっても、別に難しい話ではなくて画像を扱う装置だとごく当り前の話だ。

 そう、「ボケ」演算のhirax.net風レシピはたったこれだけ〜というわけで、早速このレシピに従ってhirax.net風デジカメ「ボケ」フィルターをかけてみたのが下の画像である。キレイな「ボケ」画像ができあがっていることが判ると思う。
 

hirax.net風デジカメ「ボケ」フィルター
キレイな「ボケ」画像のできあがり〜

 ところで、デジカメ画像のRGB画像の数値を指数変換したものに「ボケ」演算を行ったわけだけれど、もしRGB画像の数値そのものに対して「ボケ」演算を行ったら、どんな結果になるだろうか?つまり、「データ上の数値をそのまま拡散させる」やり方をしたら、どうなるのだろうか?そこで、試しにRGB画像の数値そのものに対して「ボケ」演算を行ってみるとこんな結果になる。
 

RGB画像の数値そのものに対して「ボケ」演算を行ってみた結果
キレイじゃない…

 何だかボンヤリとにじんだだけの「キレイじゃない」写真になってしまっている。それは、当り前である。本来2倍明るいものはX^2倍明るいわけで、すごく光の量は2倍どころでなく多いわけだ。それが広がる量を仮にRGB数値そのまま2倍として扱ってしまうと、その光の部分は薄暗くなってしまう。コントラストのはっきりしない、ぼんやりとした写真になってしまうわけだ。ちゃんと、X^2倍のデータとして扱ってやらなければならないわけである。

試しに、指数処理したものと線形処理をしたものとを並べてみるとその画像の違いがよくわかるだろう。
 

指数処理した画像(左)と線形処理をした画像(右)の比較
hirax.netレシピの
キレイなボケ画像(指数処理)
 

キレイじゃないボケ画像(線形処理)

 さて、今回はデジカメ画像の「ボケ」フィルターのhirax.net風レシピを確認してみた。次回(と言ってもいつになるか…)以降に、このレシピに従って実際にソフトを作成していこうと思う。
 

 ところで、「文学論」の中で漱石は「ボケ」は焦点的印象又は観念に付随する情緒を意味する、と言っている。それは、言い換えれば「何かの出来事をきっかけとして感じた怒り・悲しみ・喜びなどの感情がボケである」ということだ。そして、さらに言えば、写真で背景をぼかすということは、つまり「背景にある出来事が生みだした怒り・悲しみ・喜びを広く混ぜて包み込む」ということなのである。

 だから、何かを撮影する時に対象物の背景をぼかすということは、「背景にある出来事が生みだした怒り・悲しみ・喜びを広く混ぜて対象物を包み込んで、そして対象物を浮き上がらせる」ということなのかなぁ、とぼんやりと考えてみたりする。そんな写真は対象物を写しこんでいるのと同時に、それを包みこむ背景も写しこんでいるンだろうなぁ、と考えてみたりする。
 

2002-03-16[n年前へ]

あなたのとりこ 

 サントリー 緑水 光の中へ編。このCMとても好き。動画はリアルオーディオの方は私の環境ではパラパラマンガになってしまったので、メディアプレーヤーの方で見た方が良いかも。シルヴィ・バルタンのあなたのとりこがフルコーラスで聴けるのもありがたい。
 主人公は女子大生。朝、陽光の射す駅のホームで人混みの中に最近知り合ったばかりの気になる男の子を見つけます。思わずこぼれる笑み。ところが次の瞬間、男の子の隣には親友の姿が…。そのまま列車に乗ると、いつしか列車は都会を離れ、郊外までやってきます。小さな駅に降りると周りは鮮やかなみどりにあふれ、太陽はなにもかもをキラキラと輝かせている…。(リンク

2002-07-04[n年前へ]

愛に生きて YUKI 

 今日のBGM YUKI PRISMIC。車が揺れるとCDプレーヤーが何度も同じところをリピートする。それはもちろん、カーオーディオ用のものではないから。
 そして、今日のリフレインは9曲目のこの部分。
    私が愛してるから
    美しい瞳で見て欲しい
 ちょっと物理っぽいアルバムのタイトル(もちろんタイトル曲のPRISMも)は良い感じ。そんな曲は他に何があるだろう…?(リンク



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