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2007-11-24[n年前へ]

海辺 

 上半身はウィンドブレーカーで、下半身はショートパンツでも、風を気持ち良く感じるくらい暖かい。そんな、晩秋の海辺。n年前の景色を見ながら、こんな文章を思い出す。

 さて、大正の末から昭和二十年代まで活躍した木版画家に川瀬巴水という人がある。

 巴水のもっとも得意としたものは、暗く清澄な景色で、とりわけて夕焼けの風景を描いたものに、誰が見ても傑作という作物が集中している。

 彼の夕暮れには、独特の寂しさが横溢していて、どこか人恋しい感じも漂っている。画中小さく描かれる人物はたいて後ろ向きで黙然と遠くを眺めてい、私どもはその画中の人物となって等しく日本の寂しい夕景を眺めつくす。

林 望「夕映えの渚にて」トランヴェール 2007,11

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2007-12-04[n年前へ]

「帝銀事件」と(「総理官邸で発見された)「平沢貞通の絵の退色」 

 報道特集「もうひとつの再審請求 帝銀事件・絵探しの旅」というTV番組を見た。帝銀事件の犯人として獄死した平沢貞通氏、無実を訴えたまま95歳で獄死した(かつて日本テンペラ画会会長を務めた)彼の絵を探して歩き、ついには、 総理官邸の収蔵庫からも平沢貞通が描いた昭和10年代の絵が見つかる、というルポタージュだった。

 番組を見ながら、総理官邸の収蔵庫から見つかったという「平沢貞通の絵の退色」に目を惹かれた。絵の色の変わり具合を見れば、この水彩画が置かれていた場所や扱われ方がわかるだろうかとふと想像した。そして、マンガに登場するような「美術探偵」だったら、あるいは、画像の専門家だったら、一体どんなストーリーをこの絵の中に見るのだろうか、と考えた。

報道特集「もうひとつの再審請求 帝銀事件・絵探しの旅」放映帝銀事件ホームページ平沢貞通帝銀事件「帝銀事件を歩く」 






2008-02-16[n年前へ]

「鯖街道」と「地獄八景亡者戯」 

 NHK朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」で、涙なくしては見ることができない「地獄八景亡者戯」が演じられている。何週間かかけて、何人もの登場人物たちが、それぞれの人生に重ねた「地獄八景亡者戯」を演じる。その幾重にも重なる人生の姿に涙する人は多いと思う。

 冥途を旅する……という話のルーツは随分古いものがありましょうが、これを滑稽なしゃれのめした物語にしたのは、(室町の狂言にもありますが)やはり江戸時代からでしょう。

 「地獄八景亡者戯」は、鯖にあたって死んだ「喜ぃさん」の話で始まる。若狭の海から京都・大阪へと鯖を運んだ街道が鯖街道・若狭街道だということを思い返せば、何だか「地獄八景亡者戯」はとてもその鯖街道と似合ってる。

 もともとこの話は、その時その時の事件や世相流行などをとり入れて、言わばニュース性を持たせてやる演出で伝わってきたものです。五世笑福亭松鶴師のは、私が聞いたのは戦後でしたが、昭和初期の赤い灯青い灯の道頓堀、カフェー全盛時代や、活弁の真似なんかがはいっていました。
 このはなしの一応の原典と見てよいものは江戸時代の小咄本にありますが、各地の民話にもあり、また欧州の民話にもあるそうで、木下順二氏の「陽気な地獄破り」はこのヨーロッパの民話を基にされています。本当の原典は従ってよく判らないというのが答えと言えましょう。

 小浜の町から若い(わかい)主人公 若狭(わかさ)が関西の街へ出て、年を重ねつつ色んなものを見る。そんな話と「鯖街道」と「地獄八景亡者戯」は、とても自然に重なっている。

 その内に、これを十八番の持ちネタとして新しい「地獄八景」を作ってくれる人が出てくることでしょう。これは滅ぼしたくない話です。

『特選!! 米朝落語全集』 第十五集






2008-05-09[n年前へ]

「新幹線」という名前の場所 

 「新幹線」という場所がある。静岡県函南町にあるその場所は、東海道新幹線が開業するずっと昔、第二次大戦中から「新幹線」という名前で呼ばれていた。


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 昭和十年代、「新幹線(弾丸列車)計画」が進められていた。その際、新丹那トンネル工事を行うために工事宿舎が建てられていた地区が、いつしか「新幹線」と呼ばれるようになり、昭和29年には正式に字(あざ)名となった。

 「新幹線(弾丸列車)計画」の流れを汲む東海道新幹線が起工されたのが昭和34年、開業したのが東京オリンピックが開催された昭和39年だ。新幹線という名前の場所は、その場所近くを通る「新幹線」を、20年ほども待ち続けていたことになる。

 最初の「新幹線」を新幹線という場所が20年ほど待ち続けていたように、それぞれの地名はそれぞれの歴史を持っている。不思議な地名を目にすると、歴史ミステリの表紙を開く心地になる。

2009-12-30[n年前へ]

「時代」という「馬」 

 北村薫が、昭和が始まり時代が大きく動くさなかの、人の日常を描いたベッキーさんシリーズ第1作目「街の灯 (文春文庫) 」から。

……悍馬(あばれ馬)というなら、時代ほどの悍馬はいないさ。ナポレオンでさえ、振り落とされた。



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