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1999-11-15[n年前へ]

「星の王子さま」の秘密 

水が意味するもの


 今回は、Saint-Exuperyの「星の王子さま」- Le petit prince -について考えてみたい。しかし、メルヘンな話を期待する方は、おそらく失望することだろう。もし、今持っているイメージを壊したくない方は、今回の話は読まないほうが良いかもしれない。

 おそらく一般的に多いであろうイメージの「星の王子さま」というものは、私はそれほど好きではない。よくWEBで見かける「この本は、真実を見る目を失いかけた大人のための童話です。」というイメージである。私も、かつてはそういう認識だった。そして、「それだけでは、何かもの足りない」という感じがしていた。そのため、「星の王子さま」を好きではなかったのだ。

 しかし、

  • 「星の王子さまの世界 - 読み方くらべへの招待 -」 塚崎幹夫著 中公新書
を読んで、そのイメージが一変した。これまで、「星の王子さま」の側面、あるいは仮面しか読んでいなかったことに気づかされた。読み方が足りないことに気付かされたのである。「星の王子さま」の底に流れているものに気付かなかったのである。実は「何かが足りない」わけではなく、私の読み方が浅かったのである。先の「この本は、真実を見る目を失いかけた大人のための童話です。」というイメージは私の読み方が浅かったせいであって、もう少し深く読めば、「真実から目を背けている人への告発・遺言」と受け取ることができたはずなのであった。

 さて、今回は私なりの「読み方」をしてみたい。具体的には、「水」というキーワードにこだわって解釈を行ってみるのだ。何故か、私はこの「星の王子さま」の中で「水」というキーワードに「深い何か」を感じるのである。

 何故、こういう単語にこだわる読み方をするかと言えば、それは塚崎幹夫氏の「星の王子さまの世界- 読み方くらべへの招待 -」の影響である。その内容の紹介を少し紹介しておく。

 塚崎幹夫氏は、 話の冒頭に出てくる「ゾウを飲み込むウワバミ」が何かもう少し深いものを指しているのではないか、と考える。「本当にもののわかる人かどうか」知るために、主人公が人に見せる「ゾウを飲み込むウワバミ」が何か深いものを指しているのではないか。「半年のあいだ、眠っているが、そのあいだに、のみこんだけものが、腹のなかでこなれ」そして次の獲物をのみこむウワバミは何を指しているのか、と考えた。
 そして、次のような年表を示す。

  • (1937.7.7 日本、中国侵略開始)
  • 1938.3.10 ドイツ、オーストリア侵略
  • 1938.9.29 ドイツ、チェコ侵略
  • 1939.3.15 ドイツ、チェコ解体
  • (1939.4.7 イタリア、アルバニア占領)
  • 1939.9.1 ドイツ、ポーランド侵入
  • 1940.4.9 ドイツ、デンマーク、ノルウェー侵入
  • 1940.5.10 フランス、ドイツに大敗
  • 1940.11 Saint-Exuperyヴィシー政府に失望し、アメリカに亡命、その後、ヴィシー政府がSaint-Exuperyを議員に任命する。(どこかで聞いた話)
 ここから、半年毎に獲物を飲み込むウワバミはドイツのことを指している、と考えるのだ。
 つまり、ゾウを飲み込むウワバミが、帽子にしか見えないことが「真実を見る目を失いかけた」といっているのではない。これは、ウワバミの中で飲み込まれつつある動物のことを考えることができないことを、「真実を見る目を失いかけた」と言っているではないだろうか。もちろん、そのウワバミとは文字どおりのウワバミではなく、違うものを意識した話なのである。

 同じように、「ぐずぐずしてはいられないと、一生けんめいになって」描いた「3本のバオバブ」は挿し絵についても考察を巡らせている。
  • 「(バオバブは)星の上いちめんに、はびこります。」
  • 「バオバブはほうり出しておくと、とんだ災難になるんだ」
  • 「まだ、小さいからといって、バオバブの木を三本ほうりっぱなしにしておいたものだから...」
  • 「ですから、ぼくは、一度だけ日ごろのえんりょをぬきにして、こういいましょう。<みんな、バオバブに気をつけるんだぞ!>」
  • 「ぼくの友人たちが、ぼくと同じように、もう長いこと知らないで危ないめにあいかけているので、気をつけるんだよ!といいたいためです。」


 塚崎幹夫氏はこれら「3本のバオバブ」はドイツ・イタリア・日本を指しているのではないかと指摘している。
 こういった「読み方」をしながら、「星の王子さま」が「苦悩に満ちた懺悔と贖罪の書であり、自分の死後のフォローを意識したもの」であるのではないか、と言う。


 さて、塚崎幹夫氏の影響を多いに受けている私ではあるが、私なりの「読み方」をしてみたい。「水」というキーワードにこだわった「読み方」をしてみる。私の受ける印象では、「水」というキーワードには深い思いが込められているはずなのだ。

 そのために、

から情報を辿り、から「星の王子さま」-"Le petit prince-のフランス語のテキストを入手した。オリジナルにこだわったわけではない。日本語版も英語版も電子テキストでは手に入らなかったのである。

 さて、単語にこだわって解析をするとなれば、

と同じように、WordFreqを使うのが有効だろう。まずは試しに"CHAPITRE"の出現分布を調べてみよう。そうすれば、行数と章構成の対応がわかるわけだ。
行数と章構成の対応
 このように27章と物理行の対応がわかる

 それでは本題の、"'eau"の出現分布を調べることで、「水」の出現分布をwordfreqで解析してみる。

"'eau"-水-の出現分布

 最初と最後に「水」が登場しているのがわかる。このような、物語の「始まり」と「終わり」集中して出現する単語と言うものは、重要な意味を持つと考えるのが普通だろう。冒頭で、水を持たない主人公が、話の最後で水を湛える井戸を見つける。これは、どのような意味があるだろうか。また、王子にとって重要な「守るべきもの」に王子は水を与えていたこと、これらは何を意図したものなのだろうか。

 さて、「水」が出現するのは

  1. 50行目付近
  2. 300行目付近
  3. 1300行付近
の計三箇所である。それは、冒頭の主人公が水をなくしたところ、バラに水をやるところ、王子と主人公が水を探しに行き、見つけるところである。それでは、その出現個所の中から重要そうな部分を拾ってみよう。特に、最後の1300行近辺を集中して考えてみる。ここで、冒頭の数字は、「星の王子さま」岩波少年文庫でのページ数を示している。
  • 115 だって、ぼくが水をかけた花なんだからね。
  • 124 水は心にもいいものかもしれないな...
  • 131 その水は、たべものとは、別なものでした。
  • 131 だけど、さがしているものは、たった一つのバラの花のなかにだって、少しの水にだって、あるんだがなぁ...
  • 147 星がみんな、井戸になって...そして、ぼくにいくらでも、水をのませてくれるんだ。
 また、他の作品「城砦」の文章も示しておこう(といっても星の王子さまの世界からの孫引きであるが)。
  • その人間を解放するということは、彼に渇を教え、また井戸への道を教えてやることだ。
  • それら井戸のひとつひとつに、どうしてもたどりつかねばならないようにするだろう...必死になってその井戸をめざさねばならなくなる。
  • おまえが水を飲もうと思うとき、....おまえの行為を祈りという意味に化するのである。
 こういった、文章をつなげて読んでいったときに、「砂漠が美しいのは、どこかに井戸をかくしているからだよ...」という言葉は殉教者の言葉に聞こえてくる。「砂漠」が「生」と感じられたり、「井戸の中の水」が「意義」と感じられたりするだろう。また、他の言葉にも聞こえてくる。しかし、それらをひとつひとつ挙げることはしない。

 こういう言葉の意味するものをそれぞれ考え、「かんじんなことは、目に見えない」という言葉をもういちど読みなおしたときに初めて、Saint-Exuperyの「星の王子さま」が私は好きになったのである。その「星の王子さま」の二面性こそ、私が好きな部分である。

 さて、最後に次のような二つの文章を並べてみる。こうすると「星の王子さま」に流れる強い背景・考えを感じるのではないだろうか。

二つの文章
「わたしは、この本を、あるおとなの人にささげたが、....そのおとなの人は、いまフランスに住んでいて、ひもじい思いや、寒い思いをしている人だからである。どうしても慰めなければならない人だからである。...
子どもだったころのレオン・ウォルトに」
「星の王子さま」 献辞

(レオンウォルトに)
「今夜しきりと思い出す人物は今50歳だ。彼は病気だ。それにユダヤ人だ。どうして彼にドイツの恐怖を乗り越えられよう?」
「ぼくがなおも戦いつづければ、いくらかは君のために戦うこととなるだろう。...ぼくは、君が生きるのを助けたいのだ。実に無力で、危険におびやかされている君の姿が眼に浮かぶ。更に一日生きのびるために、どこか貧しい食料品店の前の歩道を、50という年齢を引きずって歩きまわっているきみの姿が、擦り切れた外套に身をくるんで、仮の隠れ家で身を慄いているきみの姿が、眼に浮かぶ。」
「ある人質への手紙」

 やはり、「星の王子さま」は端的に言えば、寓話の形をした遺言(の準備をしたもの)であるのだろう。「星の王子さま」が出版された四日後、Saint-Exuperyは戦うためにアメリカからアフリカへ出発する。

 「星の王子さま」は一つの挿絵と、その挿絵の説明で話が閉じられる。その最後の挿し絵は王子が姿を消した場所を描いたものだ。それだけではない。その「アフリカの砂漠」は、Saint-Exuperyが最後に「戦う兵士」として飛行機で通過し、そして、姿を消した場所でもある。

「これが、ぼくにとっては、この世で一ばん美しくって、いちばんかなしい景色です」


2001-12-24[n年前へ]

NHK少年ドラマシリーズのすべて 

 アスキー出版局。内容はとても充実してる。あの幕末未来人の主人公二人による座談会なども収録。当時、二人ともが古手川裕子に恋をしていて、その互いの恋のようすなども収録、と。懐かしすぎ。
 「なぞの転校生」も好きだったが、笑ってしまうのがヒロイン香川みどりを演じた伊豆田依子が、演じたポイントとして「みどりって、わがままで、けっこう傲慢ですよね。でも、それがなくなっちゃったらみどりじゃないんだと思います。ですから、わがままさを目いっぱい出しました」   なるほどねー。(リンク

2002-01-27[n年前へ]

究極の選択 テキスト編 

 いつものように自分の英語スキルの無さを実感して、英語の本を読もう、と決めたのです。が、文字の多いものは読めるとも思えないので(自分をよく知っているのだ)、マンガに決めました。が、空港の本屋にあったのは「金田一少年の事件簿」と「部長 島耕作」の二種類だけだったので、しょうがなくストーリーを楽しめそうなモノ、ということでいつもなら絶対に読まない「盗作マンガ」を買いました。はい、「金田一少年の事件簿」を買ったのです。
 で、これを読んでいたとき、ふと私は思いました。これ読んで覚えたフレーズとか単語って一体いつ役に立つんだろう?って思ったのです。
 私が、周りでやたら殺人事件が起きたり、嵐の山荘に取り残されたりする高校生なら、そんな単語やフレーズを使うシチュエーションは沢山あると思うのです。
 でも、残念なことにそんなシチュエーションには私は陥ったことがありません。いえいえ、私どころがほとんどの人はそんなシチュエーションには陥らないと思うのです。これからも、そして未来も。だって、周りでやたら殺人事件が起きる高校生なんてものすごく非現実的な設定です。「死体消失トリック」とか「犯人はオマエだ!」とかいうフレーズを覚えても、きっと何の役にも立たないと思ったのです。
 そこで、私はさらに思いました。じゃぁ、私は「部長 島耕作」を選べば良かったのでしょうか?島耕作のようなシチュエーションなら起こりうるのでしょうか?いえいえ、それも絶対に違います。何事にも女性と「良い関係」になり、すべてのピンチをオンナで切り抜けていく出世人生なんて、そうそうないと思うのです。少なくとも、私にそんな状況が訪れるとは思えません。全てを暴力と土下座で切り抜けるサラリーマン金太郎もたいがいですが、全てをオンナで切り抜ける島耕作もひどすぎる設定です。世の中にはこの二種類のサラリーマンしかいないのでしょうか?いいえ、そんなことは無いハズです。何事も切り抜ける道が「暴力・オンナ・土下座」でしか切り抜けられないなんて、それではサラリーマンというよりヤクザ屋さんです。いや、もしかしたら、サラリーマンもヤクザの一種なのかもしれませんが、私はヤクザ屋さんを目指すにはちょっとばかり弱すぎます。
 あるいは、島耕作を見習えば、もしかしたらピローロークが上手になるかもしれませんが、それは私の意図するところではありません。それに、島耕作のピローロークが上手いとも私には思えません。私には何で島耕作がモテるのか全然理解できません。あっ、そんなことは関係ないですね。
 で、私は思ってしまったのです。殺人事件に囲まれる高校生とかオンナに囲まれる島耕作とか、ありえない設定のマンガは果たして語学力向上の役に立つのか?と。つまりは、出版社の講談社に「オマエはホントに読者の語学力向上を考えているのか」と小一時間問いつめたくなったのです。どうせなら、「某理系ミステリー」とか「動物のお医者さん」とか辺りをお願いしたいのです、ハイ。

2002-05-01[n年前へ]

「デジカメの出力市場」 

 お笑いパソコン日誌「デジカメ大増殖」、わきめも「デジカメ市場概況」を眺めながら「デジカメの出力市場」がニッチなのかそうでないのかをまたまた(意味不明)考える。あー知りたい。
 自費出版というからには、ある程度人に見せたいという気持ちがあるのだろうが、ワタシなら「質より量」がモットーなので、紙で自費出版する位ならWEBで公開する方を選ぶだろう。自分で満足するためなら、そもそも印刷の品位じゃイヤだし。
 関係ないが、最近「お笑いパソコン日誌」のリンクを押すと必ずIEが落ちるのは何故なのだー?あー、また落ちたー。

2002-08-17[n年前へ]

Nグラムモデルとクラスター分析を用いた漢文古典テキストの比較研究 「般若心経」の異訳の比較を例に 

 師 茂樹。あー、漱石の「文学論」をどこかの出版社に文庫本にして欲しい。



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