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2008-12-05[n年前へ]

西岡常一 「木のいのち木のこころ 天」 

木のいのち木のこころ―天・地・人 (新潮文庫)」(あるいは「木のいのち木のこころ〈天〉」)は本当に貴重な必読書だと思う。斑鳩大工の西岡常一が語った言葉を塩野米松が書いたこの本には、本当に色々な形の、それでいて重い言葉が詰まっている。

 時代は科学第一になって、すべてが数字や学問で置き換えられました。教育もそれにしたがって、内容が変わりました。「個性」を大事にする時代になったといいますな。
 しかし、私たち職人から見ましたら、みんな規格にはまった同じものの中で暮らしているようにしか見えませんのや。

 近くの図書館の蔵書にこの本が入っていたならば、迷わず借りて読んでみるといいと思う。とても高い密度の真理が、きっとこの本には詰まっている、と思う。そして、折に触れてこの本に書かれている「たくさんのこと」を何度も何度も読み返したい、と思ったなら自分のものとして買ってみると良いと思う。

 木そのものが精密やないんですから精密機械は無駄ですな。そのとき精密に削っても次の日には狂っていますやろ。 

 少なくとも、技術者になりたいと思っている人は、けれどこれまで読んだことがなかったというような人は、読んでみるといいと思う。絶対に、そう思う。

2010-01-17[n年前へ]

人間とは他人と自分の心の間の感覚器集合に過ぎない 

 石黒浩の「ロボットとは何か――人の心を映す鏡 (講談社現代新書) 」から。

「人間とは他人の心と自分の心にはさまれた感覚器の集合にすぎない」

 見事なくらい、ロボット工学における試行錯誤を通じて、人間というものは何なのだろうか、ということを「単刀直入」に語る本である。どれだけ、「単刀直入」で「わかりやすい」かは、数頁本書をめくってみればすぐにわかると思う。

2010-01-19[n年前へ]

悪用できない技術は偽物である 

 石黒浩の「ロボットとは何か――人の心を映す鏡 (講談社現代新書) 」から。

「悪用できない技術は偽物である」
 これが私の持っている一つの基準だ。技術とは世の中を変える可能性があるものである。逆に世の中にまったく影響を与えない技術は、意味のない技術であって、技術とは呼べない。その技術の使い方次第で、悪いこともできれば、よいこともできる。

2011-04-23[n年前へ]

工学を超えていくために 

 「工学を超えていくために

 福島第一原子力発電所の事故のニュースを眺めつづけた。早野龍五先生のツイートによれば、私たちにはSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワーク システム)という虎の子があるようであった。なにやらシミュレータであるらしい。私は発表を待ち望んだ。

 待ちながら、私は「工学の限界」について考えあぐねた。蓋を開けてみれば、示されたのは試算だった。工学の限界どころではない。工学は徹底的に負けたのだと、私は悟った。この敗北の責任を、工学は取らなければならない。そしてようやく、私はSPEEDIについて調べはじめた。

 工学の敗北を徹底的にならしめるために、私はSPEEDIがこの原子力災害において果たした役割──果たさなかった役割を見つめることにした。手始めに、似たような結果を示すコードを開発し、自由に配布できるようにしようと企てた。SPEEDIは私が片手間に開発できる程度のソフトウェアであり、つまり、お粗末で信じるに足りないことを示したかった。そのようなものを後生大事に抱えこんでいるとしたら、そんな工学は滅べばいいと心底思った。



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