hirax.net::Keywords::「拡大写真」のブログ



1999-09-17[n年前へ]

モアレ、デバイス、2項分布の三題話 

淡色インクの副作用

 今回は、9ヶ月間も寝かせた伏線にまつわる話である。いや、別に寝かせるつもりは無かったのだが、いつのまにかそんなに時間が経ってしまった。

 以前、

という話があったが、その2つを結びつけるミッシングリンクについて考えてみたいと思う。「2項分布のムラについて考える(1999.01.08)」の最後に「今回の話はあることの前準備なので、これだけでは話しが全く見えないかもしれない。というわけで、続く...」と書いた。「その続き」というわけである。

 始めに「2項分布のムラについて考える(1999.01.08)」の要点をまとめると以下のようになる。それは、

  1. ランダムと呼ばれるものの内で代表的な2項分布においては、当然のごとく「ある領域での平均値はばらつく」。
  2. そして、そのばらつきは直感的に考える程度よりももっとばらつく。
  3. 例えば、2値画像で考えるならば、2048dpi程度の解像度でランダムなデータを並べた場合には、人間の目はざらつきを感じてしまう。
ということであった。

 そして、「モアレはデバイスに依存するか?(1998.11.20)」での要点は

  1. モアレにはデバイス依存性がある
  2. 線形な重ね合わせが成り立たない場合にはモアレが発生する。
ということであった。

 最近のインクジェットプリンターはCMYKの4色インクだけでなく、淡色インクも使うものもある。淡色のインクを使うことで階調豊かな画像を印字できるわけだ。4色インクだけではディザなどを使って、解像度を下げて階調を出さなければならないわけであるが、それが不要になるわけだ。

 解像度を下げないですむわけであるから、ディザのざらつきを感じないですむわけだ。しかし、淡色のインクを使った場合の効果というのはそれだけではないように思われる。HP(ヒューレッドパッカード)などのWEBのプリンター紹介を読んでいると、「淡色のインクを重ねて濃度を出す」というような記述を目にする。これは「少なくとも淡色インクでは線形性(あるいはそれに近い関係)が成り立つ」ということだ。

 インクジェットプリンターの解像度を上げたときに、インク滴が意図しないところへずれてしまうことはきっとあるだろう。その際に他のインク滴と重なったらどうなるだろうか?意図しなくても他のインク滴との重ね合わせは発生してしまうだろう。
 重ね合わせが成り立たない、非線型なインクではモアレが発生する。言いかえれば、意図しない濃度のばらつき・ざらつきが発生してしまう。「2項分布のムラについて考える(1999.01.08)」で考えたようにランダムに重ね合わさるから広い領域では一定だろうというのは予想外に成り立たないのである。でたらめというのは私の予想外に大きく効いてくるのである。
 しかし、重ね合わせに線形性が成り立つ淡色のインクではモアレが発生しない。すなわち、いくらランダムにインク滴の重ね合わせが生じてしまったとしても、意図した通りの濃度をだすことができ、ばらつき・ざらつきは発生しないことになる。参考までにインクジェットの印字画像の拡大写真を示してみる。

インクジェットの印字画像の拡大写真
(CQ出版 洪 博哲著 お話・カラー画像処理より引用したものとそれを加工したもの)
淡色インクを使った出力例
左をグレイ化したもの
 インク滴が重なったところで濃度の線形性が保たれている、すなわち、重なったところはちゃんと濃くなっている、のがわかると思う。

 「重ね合わせに線形性が成り立つ淡色のインクではモアレが発生しない。すなわち、いくらランダムにインク滴の重ね合わせが生じてしまったとしても、意図した通りの濃度をだすことができ、ばらつき・ざらつきは発生しない」と、書いただけでは意図するところが伝わらないと思うので、「モアレはデバイスに依存するか?(1998.11.20)」で使った画像を用いて考えてみる。この画像は重ね合わせがある幾何学模様で生じているが、この現象がランダムに起こっているものとして読み替えて欲しい。

淡くない色のインクで重ね合わせ(インク滴の意図しない重なり)を行う。
1回目の印字
2回目の印字
出力画像
 淡くない色のインクで重ね合わせ(インク滴の意図しない重なり)が生じると、黒と白の模様が生じる。もしこの重ね合わせ(インク滴の意図しない重なり)がランダムに起きるとしたら、ランダムな黒白模様が発生することになる。そして、「2項分布のムラについて考える(1999.01.08)」で調べたようにその影響は予想以上に大きいのである。

 下は、淡色のインクで重ね合わせ(インク滴の意図しない重なり)が生じた場合である。

淡色のインクで重ね合わせ(インク滴の意図しない重なり)を行う。
1回目の印字
2回目の印字
 出力画像

 なんの模様も生じていなく、意図した通りの画像出力ができているのがわかると思う。

 ということで、今回の話(というか前の2回の話)の繋がりは、
淡色のインクを用いたインクジェットプリンターでは、意図しないインク滴の重ね合わせが生じてしまっても、濃度変化が生じにくく、意図しないインク滴の重ね合わせがでたらめに発生してしまったとしても、画像にはあらわれない可能性があるということである。

 うーん、マニアックな内容だ。「身近な疑問を調べる」という看板に偽り有り、である。しかも単なる推論だ。
 しかし、もしもインクジェットプリンターを買う人がいるならば、淡色のインクを使っているものを購入するといいかもしれない、ということがわかっただけでも良しとしておこう。

1999-10-07[n年前へ]

CCDカメラをバラせ! 

モアレは自然のClearText

 あまり、「できるかな?」では工作の話題が出ていない。いや、もしかしたら全然出ていないかもしれない。そこで、手元に8mmビデオのジャンクがあったので、こいつをバラしてみることにした。そして、これまで「できるかな?」に登場しているような話に関連していることがないか調べてみるのだ。いや、本当は嘘で計画済みの伏線張りまくりの話である。もしかしたら、勘のいい方はもう話の風向きはもうおわかりかもしれない。

 さて、今回分解するカメラはかなり前(といっても数年前)のモデルである。まずは、分解してみよう。

1 8mmビデオカメラのCCD&レンズ部分.
2. 方向を変えるとこんな感じ
3. 正面のレンズを外す
4. もっとばらす。中央にCCDチップ部分がある。
5. これがCCD部分。
6. CCD前部のフィルターを外す
7. CCD素子を正面から見ると
8. もっともっと拡大するとこうだ

 5.の写真でわかるように、CCD前部にはフィルターが着けてある。(当初はこれを赤外線フィルターだと考えていた。なので、このフィルターを外してやると、画質はとんでもないことになる。しかし、その上で赤外線投光器を装着すれば面白いカメラになりそうである。が、用途を間違えるととんでもないことになるので、今回はやらない。が、いつかやってみようとは思っている。もちろん、私は品行方正がモットーであるので、悪用はするわけがない。もちろんである。)と、書いたがその後、「これは赤外線とは逆のエイリアシング防止用のハイカットフィルタだろう」というご指摘を頂いた。フィルターが青色だったので、単純に赤外線カット用途かと思い込んでいたが、どうやら違うらしい。指摘の文章をそのまま、使わせていただくと「CCDは空間サンプリング素子であり、サンプリング周期(ピクセルのピッチ)よりも短い波長の光が入ると、エイリアシング(折り返しノイズ)を生じて擬似カラー、干渉縞を生じてしまいます。これを避けるためのハイカットフィルタです。」とある。その後、知人から頂いた資料(勉強しなおせ、ということだろう)を読むと、水晶板をだぶらせて2重像にすることにより、細かい解像ができないようにしているローパスフィルターであるようだ。空間周波数のローパスである。今回のCCDでは3層構造になっており、中央の層にのみ色がついている。反省がてら、次回にもう少し調べてみようと思う。

 ところで、7.などの拡大画像で周辺部が丸くケラれているのがわかると思う。これは、

と同じく実体顕微鏡の接眼部からデジカメで撮影を行っているからである。デジカメはこういう時に何より重宝する。さて、デジカメと言えば、こちらも同じくCCDを用いているわけである。

 さて、8.の拡大画像を見ると、このカメラのCCDのカラーフィルターは補色方式(CMYG=シアン、イエロー、マゼンダ、グリーン)であることがわかる。原色タイプでないところを見ると、どうやら感度重視の製品であるようだ。また、この拡大画像などを眺めると、

で調べた液晶のフィルターと同じような構造であることがわかる。よくストライプ模様の服を着ている人をCCDビデオカメラで撮影すると、モアレが発生することがあるが、それはこういったフィルターの色の並びに起因しているわけである。フィルターの周期とストライプの模様が干渉してモアレが生じてしまうのである。

 最近のものではソフト的にかなりの処理をしてモアレが出にくいようにしているし、CCDも高解像度化が進んでいるので、なおさら出にくい。私が使用している富士写真フィルムのFinePix700でそのようなモアレを出そうと思ってみたが、なかなか出なかった。むしろ、ピントを正確に合わせることができなかった。それでも、何とか白黒の縦線模様を撮影して、モアレを出してみたのが下の写真である。左がオリジナルで、右がそれに強調処理をかけたものである。

FinePix700で白黒の縦線模様を撮影した際のモアレ
(左上から右下へ斜めにモアレが出ている)
オリジナル
左に強調処理をかけたもの

 モアレが発生しているのがわかると思う。さてさて、こういう白黒ストライプをよく眺めてみれば、

で登場したこの画像を思い出すはずだ。
ノーマル
ノーマル斜線
カラーシフトを用いた斜線

 そう両者ともまったく同じ斜線である。そもそも、前回作成したパターンは今回への伏線であったのである。白黒の縞模様を撮影しているのであるから、普通は白黒模様しか撮影されない。しかし、モアレが発生している場合というのは、CMYGからなる1画素の中でのさらに細かな位置情報が判るのである。先ほどのCCDの色フィルターの拡大写真のような配置になっていることを知っているのであるから、その配置も考慮の上処理してやれば良いのである。もちろん、白黒の2値からなる画像を撮影しているという前提条件は必要である。その前提条件さえつけてやれば、モアレが生じていることを逆に利用して、高解像処理ができるはずだ。

 例えば、

CCDのCMYGからなる一画素
GreenMagenda
YellowCyan

という画素のGreenだけ出力が大きかったとすると、グレイ画像であるとの前提さえ入れてしまえば、1画素のさらに1/4の領域まで光が当たっている位置を推定できるということになる。もちろん、実際のカメラでも4色の間で演算をしてやり、ある程度の推定はしているだろう。しかし、前提条件を入れてやれば、より高解像度が出せるだろう。

 ClearTextの場合は白黒2値の文字パターン、あるいはハーフトーンという前提条件をつけて液晶に出力を行った。今回は、白黒2値の文字パターン、あるいはハーフトーンという前提条件をつけて、CCDからの出力を解釈してやれば良いわけである。CCDカメラにおいては自然が自動的にカラーシフト処理をしてくれるのである。そのカラーシフト処理からオリジナルの姿を再計算してやれば良いわけである。もっとも、これらのことは光学系がきちんとしている場合の話である。

 今回考えたような、そういった処理はもうやられていると思う。FinePix700でも撮影モードに

  • カラー
  • 白黒
の2種類があるので、もしかしたらそういう処理が含まれているのかもしれないと思う。それでは、実験してみよう。白黒の方がキレイに縞模様が撮影できているだろうか?
FinePix700で白黒の縦線模様を撮影した際のモアレ
(左上から右下へ斜めにモアレが出ている)
白黒モードで撮影
カラーモードで撮影

 うーん、白黒のほうがキレイなような気もするが、よく判らない。念の為、強調処理をかけてみる。もしかしたら、違いがわかるかもしれない。

上の画像に対して強調処理をかけたもの

 うーん、これではますます違いがよくわからない。これは、次回(すぐにとは限らないが)に要再実験だ。ただ使っている感覚では、まずピントがきちんと合わないような気がする。うーん、難しそうだ。それに、今回の実験はローパスのフィルター部分をなくしたものでなければならなかったようにも思う。ならば、FinePix700を使うのはマズイ(直すのメンドクサイから)。どうしたものか。

2000-01-23[n年前へ]

偽札作りのライセンス 

このページはプリント禁止

 「殺しのライセンス」を持つのはジェイムズ・ボンドである。コードネームで言えば、007である。殺しのライセンスを持つ人が本当にいるのかどうかしらないが、「偽札作りのライセンス」を持つ人はきっといるに違いない。

 「そんなのは当たり前だ」という声も聞こえてきそうな気もするし、「まさか」という声も聞こえてきそうな気がする。そこで、そう思う理由を一応書いておく。

 紙幣を識別する装置というのはたくさんある。例えば、自動販売機などその最たるものである。こういう紙幣識別機というものの動作確認には偽札が必要である。本物の紙幣(や硬貨)を「本物である」と認識する試験は割に簡単にできる。しかし、「偽札」を偽物だと検出するかどうかの試験をするには偽札を作って、テストしてみなければならない。

 タヌキではあるまいし、「葉っぱ」を自動販売機に押し込んでみて、それを「千円札」とは違うと認識したところで何の意味もない。やはり本物とよく似ている「偽札」を使ってテストしなければならないだろう。そうなると、やはり「偽札」が必要になるわけである。

 そういう「偽札」が必要となるからには、「偽札」を作る人も必要とされるだろう。まさか、「紙幣識別機」開発のために法を犯せ、と言うわけにはいかない筈である。ならば、「偽札作りのライセンス」がきっとあるに違いない、というわけである。

 そんなわけで、きっと、「偽札作りのライセンス」は存在すると思うわけであるが、それでは「偽札を作って配る」ライセンスというのは存在するだろうか?紙幣(硬貨)識別装置の開発のためのテスト用に、「偽札」を作るのではない。「偽札」を配布するのが目的とするライセンスは存在するのだろうか?これが今回の問題である。

 私はきっとあると思うのだ。何故なら私の手元にはそれらしき「偽札」があるのだ。本物のような、偽物のような紙幣があるのだ。

 まずは、その「偽札」の画像を示してみる。以下に示す画像の内のどれが本物だか判るだろうか?あるいは、どこが違うか判るだろうか?
 

どれが本物?
(A)
(B)
(C)

 「一目瞭然だぁ。」という声も聞こえるが、結構よく出来ている「偽札」だとは思わないだろうか?よく出来すぎと言っても良いほどである。福沢諭吉の目の辺りの拡大写真を示してみる。
 

どれが本物?
(A)
(B)
(C)

 本物の(A)に対して(B)は実によく似ている。(C)の場合はハーフトーンパターンで細線などはつぶれてはいるが、それでもやはりよく似ている。(B)も(C)も明らかに本物の紙幣をスキャニングしてデザインを少し変えた後に印刷している。

 根拠無しにそんなことを言うのも何なので簡単なチェックをしてみた。下の写真はそのやり方を示す写真である。ここでは、例として(A)と(B)の違いをチェックしているところを示す。

 (A)の画像を「赤」チャンネルで表示し、その上に「緑」チャンネルで表示した(B)を重ねる。違いがあるところでは色ずれが生じるのですぐわかるのである。人間の目は色ずれには結構厳しいので、こうするとすぐに(A)と(B)の違いがわかるのである。もちろん、画像の差をとっても良いのだが、まず画像サイズや位置を合わせるまでは、今回のやり方の方が楽なのである。

 例えば、下の画像では(A)と(B)の画像の大きさをまだ正確に合わせてないため、福沢諭吉の辺りでは違いが見られないのに対して、その他の部分では色ずれが生じている。また、福沢諭吉の下の部分に「ケンコーチョコレート」という表示があるが、これなど(A)と(B)の違いがあるので色ずれが生じていることがわかる。
 

(A)と(B)の違いをチェックしているところ

 こういったテストをしてみた結果、本物の紙幣と「偽札」の間での簡単にわかる違いは、オリジナルの

  • (A) 日本銀行券、一万円、日本銀行、紙幣番号、印影、大蔵省印刷局製造
という部分に対して、
  • (B) 子供銀行券五万円子供銀行ケンコーチョコレート、印影、大蔵省印刷局製造
  • (C) 子供銀行券、一万円、子供銀行、紙幣番号、玩具印影印刷所表示なし
という風に異なる(異なる部分は赤字で表示)部分であった。きっと、こういった「偽札は明らかに異なる点が認識できれば、作っても良い」ということになっているのだろう。例えば、
見本
というような文字を印刷するならば作って配布しても良い、という所なのだろう。

 私が面白いと思うのは、「大蔵省印刷局製造」の表示である。紙幣中央部下の表示である。これは他のもの(例えば、子供銀行券の表示)等と違いあまり目立たない部分である。この「大蔵省印刷局製造」の部分の拡大写真を示してみよう。
 

どれが本物?
(A)
(B)
(C)

 (B)ではそのまま「大蔵省印刷局製造」と残っているが、(C)では文字部分は削除されている。

 これは、(まさかとは思うが)デザインをしている時に、「大蔵省印刷局製造」の表示に気づかなかった、あるいは気にしなかったのだが、後でクレームがついたのではないだろうか?あるいは、後になって「これはちょっとマズイだろう」という判断をしたのではないだろうか?
 そこらへんのことを想像すると、ちょっと面白い。

 さて、「偽札」事件のよくある動機は技術者が自分の技術力を誇示しようとして作ってみた、というのが多いと聞く。私も実は作ってみたくてたまらないのである。「偽札作りのライセンス」が欲しくてたまらないのである。
 
 

2000-05-02[n年前へ]

モアレがタネの科学のふろく 

うれし、懐かし、学研の科学


 先日、友人夫妻で面白いものを見せてもらった。そこで、すかさずオネダリをして手に入れてきた。それが下の写真のものである。
 

6年の科学 1998年1号 トリックトランプ「マル秘」超魔術13

 これは学研の科学の学習教材である。「科学の学習教材」というよりは、「科学のふろく」といった方が通りが良いかもしれない。この写真のものは「6年の科学 1998年1号 トリックトランプ「マル秘」超魔術13」である。これを私にくれた友人(妻の方)は「学研教室」の「先生」をやっているので、こういう面白いものを持っているのである。

 残念ながら、付録の一部だけで、中身が全部揃っているわけではない。それに加えて、本誌もない。そこで、手元にある材料からトランプトリックを想像しなければならない。しかし、その想像しなければならないところが、また面白いのである。手品の「タネ」を想像し、実際に検証できるのだから、楽しくないわけがない。

 こういう理系心をくすぐる、懐かしいものというのは色々ある。以前登場した、学研の電子ブロックもそうであるし、雑誌の「子供の科学」もそうだ。そういった中でも、この学研の科学のふろく(学習教材)はその最たるものだろう。こういった、科学の付録は学研のサイト内の

でいくつか眺めることができる。私が持っていた(すぐなくしたけど)ものもいくつか掲載されている。

 さて、今回の「6年の科学 1998年1号 トリックトランプ「マル秘」超魔術13」のネタ探しをしていると、面白いものを見つけた。それが下の写真である。何にも書いてないトランプに半透明シートをかけると、アラ不思議、ハートの5が現れるのである。
 

何にも書いてないトランプに半透明シートをかけるとアラ不思議
ハートの5が現れる

 この「魔法のトランプ」のタネはもちろん「アレ」だ。「できるかな?」にもよく登場してきた「モアレ」である。これまで、

という感じで「モアレ」を調べてきたが、それをネタに使ったトランプ手品なのである。私がモアレを考えるときには、違うものの「ネタ・Seed」として眺めることが多いのであるが、こういう手品の「タネ」として扱われているものを見ると、新鮮で面白い。

 このトランプの表面の模様を拡大してみるとこんな感じになる。これは「ハートの先端部分の拡大写真」だ。赤い線によるハーフトーンパターンが変化している部分(実はハートマークの先端部分)があるのがわかる。この模様は結構細かく、400線/inchくらいである。
 

ハートの先端部分の拡大写真

 このようなトランプに、黒い斜線が描かれた半透明シートをかぶせると、モアレが発生して模様が見えるわけである。下の写真が、トランプに半透明シートをかぶせたところである。半透明シートには実は黒い斜線模様が描かれていることがわかる。
 

このようなトランプに、
黒い斜線が描かれた半透明シートをかぶせると、
モアレが発生して模様が見える

 そして、トランプの模様と半透明シートの模様の間でモアレが発生して、その結果として「5」
の文字が浮かび上がっているのがわかると思う。

 このトランプのタネのような画像を自分でも適当に作ってみることにする。やり方はとても簡単である。ハーフトーン模様を作成して、模様を書いて、模様部分だけハーフトーンを変化させてやればいいだけである。そして、元のハーフトーンと重ね合わせてやれば、模様が浮き上がるのである。こういう細工をしないと読めない画像を使って、何か面白いことをできるかもしれない。
 

同じような画像の例
A ハーフトーンを作成する
B 模様を書いて、模様部分だけハーフトーンを変化させてやる
C AとBを重ね合わせるとアラ不思議(子供にとってはね)

 一応、モアレはデバイスに依存するか?(1998.11.20)の時のように今回も二つの画像の重ね合わせの時に、線形性が成り立つ場合と、成り立たない場合の比較をしておく。
 

上の画像の重ねあわせにおいて、線形性が成り立つ場合と成り立たない場合の比較
線形性が成り立つようにして
先のAとBを重ね合わせてみたもの
上の画像を平滑化したもの
線形性が成り立つ場合には、モアレが発生していないのがわかる
ちなみにこれが先のCを平滑化したもの
つまり、非線形性を持つ場合
この場合にはモアレが発生する

 今回の場合も当然、線形性が成り立つ場合にはモアレが発生しないのがわかると思う。今回のトランプ手品も、半透明シートとトランプの模様の間の重ね合わせの非線形性を利用していたわけである。
 この線形性と非線形性の重ね合わせの違いも利用してみれば、もっと新しい何か面白い手品やおもちゃのネタになるかもしれない。インクジェットプリンターの淡色インクと、濃いインクの違いを利用して何か面白いトリックはできないだろうか?

 さて、先の知人夫妻は共に「先生」である。なので、時折子供に「どうやって教えるか」という話になることがある。子供という「タネ」をどうやって育てていくか、という話である。子どもが人から言われたことでなく、自分で調べて何かを覚えるにはどうしたら良いか、などだ。もちろん、それは「先生」もまた同じである。人に言われたことを鵜呑みにするのではなく、自分で「実感する」のはむしろ子どもより「先生」の方が難しいかもしれない。

 私も先日あるメーリングリストで

「先々」のある(製造業に携わる)子ども・青年などわずかでしょう
という言葉を見てしまって以来、そういったことについて色々と考えてしまうことが多いのであるが、こういう「タネ」つながりについて考えているのも面白いかもしれないな、と思うのである。
 

2000-08-04[n年前へ]

あなたの声が、すぐそばにある 

エジソン式コップ蓄音機の逆襲

 前回、

で学研の「大人の科学」の中から「エジソン式コップ蓄音機」を購入して組み立ててみた、という話を書いた。今回はその続編である。前回は組み立ててはみたが、なかなか良い音を録音・再生することができなかった。しかし、「エジソン式コップ蓄音機」の実力はそんなものではないわけで、今回はその「逆襲」というわけだ。

 一応念のために、前回組み立てた「エジソン式コップ蓄音機」の写真を下に示してみよう。
 

エジソン式コップ蓄音機

 蓄音機の上の部分が「マイク兼スピーカのカップ」、そして輪ゴムで押さえた針がそのカップに取り付けられ、録音メディアとしてのプラスティックカップがその下で回転している。何とも素朴な「科学おもちゃ」である。懐かしの「科学教材」なのである。

 下の写真はこの「エジソン式コップ蓄音機」で「音を再生しているところ」である。この写真もまた、前回のページに載っけていたものである。
 

再生しているところ

 ところが、「エジソン式コップ蓄音機」の開発者の方がこの写真を見てこんなアドバイスを下さった。

 さて、拝見した「エジソン式コップ蓄音機」の溝写真から判断すると、針先が痛んでいるように思えます。ちなみに、切削音はほとんどしないはず(削りかすもあまりでないはず)です。

 普通に針先を見てもなかなか判りませんが、顕微鏡で見るとイッパツです。

確かにこの写真には削りかすがずいぶん写っているし、ガーという切削音のノイズも凄かった。再生音に対する前回の私の感想は、
大きい声で歌っても、再生される「歌声」はとても小さい。いや、再生される「音」はうるさいくらいに大きいのだけれど、「歌声」はかすかにしか聞こえない。
と書いてある。しかし、これはどうやら私が作ったものが上手く動かなかっただけのようである。話を伺ってみると、普通は簡単にキレイな音が再生されるものらしい。おそらく、雑に組み立てた私が、どこかで針先をダメにしてしまったのだろう。

 なるほど、確かに学研のサイト

  • エジソン (http://kids.gakken.co.jp/kit/otona/edison/edison_index.html )
にある動画を見る(聞く)とかなりの良い音質である。この動画は必見だと思う。

 そして、なんと心優しい開発者の方は新品の針まで送って下さったのである。
 

二つの針
下が付属していた針
上が送って頂いた針

 そして、実は私の手元にはこんな素晴らしい顕微鏡まである。そう、4年の科学2000/04付属の科学教材である。もう、針先を調べないわけにはいかないだろう。というよりは、「この顕微鏡を使って針先を調べないと、怒るよ怒るよ。」と言っているかのような素晴らしいシチュエーションである。もう、調べないわけにはいかないだろう。
 

150倍ズームけんび鏡

 というわけで、この素晴らしい顕微鏡を使って針先を見てみたいと思う。早速、「二本の針先」を顕微鏡を使って見てみたものが次の写真である(ホントは違う顕微鏡を使った)。
 

針先の拡大写真
(左右とも同じ倍率)
付属していた針
超協力助っ人の方から送って頂いた針

 実はこの針先というものは、あまり鋭くないことがわかる。「付属していた針」も「送って頂いた針」の方も針先は実は平らになっているのだ。もしかしたら、繊維の中に針を通す時には、あまり針先は鋭くない方が実は良いのかもしれない(実はK氏のアイデア)。例えば、繊維の隙間に針を通すようにするために、針先をわざと丸めているなどの理由があるのではないだろうか?木の繊維にそって曲がっていく釘があるように、この針先も繊維を避けながら進むために先を丸めていたりはしないのだろうか?

 また、この写真は左右とも同じ倍率である。ということは、ずいぶんと「付属していた針」と「送って頂いた針」で太さが違うことが判るだろう。また、太さと同様に針先の形状も若干違うこともわかる。「付属していた針」の方は円錐の先をスパッと切り取ったような形状をしている。そして、針先には若干のバリがある。一方、「送って頂いた針」の方は円錐の先を丸めたような形状になっている。針先に鋭い部分やバリなどはあまりない。この差は非常に気になるところだ。

 ちなみに、「同倍率で撮影したカッターの刃先」はこんな感じだ。もうメチャクチャ鋭いのである。
 

同倍率で撮影したカッターの刃先

 さて、すぐに送って頂いた針先に交換して録音をし直してみたいところだが、今回は針先は変えなかった。先ず、現時点でどのような現象が起きているかを、調べておきたかったのである。そこで、

  • 針先がカップに接触する角度を寝かせる
  • 録音時は針を支持するアームがぶれないように固定する
ようにして、割に安定して録音ができる条件を見つけ、まずは「ノイズがある場合」と「ノイズがない場合」のそれぞれの録音溝の拡大写真が撮影してみた。どのような違いがその二つの場合に起きているかを見てみたかったのである。
 
録音した溝の拡大図
ノイズが多い場合
ノイズが無い場合

 「ノイズがある場合」と「ノイズがない場合」では、ずいぶんと録音溝の様子に違いがあることが判る。もう「ノイズが多い場合」の方では見るからにノイズが多そうであるし、録音溝が無数の傷がついてしまっている。そして、「ノイズがない場合」の方は見るからに「クリアな音」が出そうである。おそらく、「ノイズがある場合」には針先が妙に引っかかりやすくなっているために、こんな無数の傷ができてしまうのだろう。

 参考までに、「ノイズが無い場合」の録音溝の断面を撮影したものが次の写真である。写真では判りにくいと思うが、録音溝は中央部がえぐれ、その周囲が盛り上がっている。
 

「ノイズが無い場合」の録音溝の断面
ノイズがない場合の溝の断面図
ノイズがない場合の溝の断面図
(倍率がもう少し高い)

 また、直感的に想像できるように、この録音溝は針先の平らな部分とほぼ同じ大きさであった。判りやすいように、

  • 針先 - 「ノイズがない場合の録音溝」 - 「ノイズがある場合の録音溝」 - 録音溝の断面
の写真を並べたものを次に示してみよう。
 
針先 - 「ノイズがない場合の録音溝」 - 「ノイズがある場合の録音溝」- 録音溝の断面

 この写真を眺めていると、「針先のバリがマズイのではないか?」という想像が強くされるだろう。「針先のバリ」が引っかかることが不安定性の全ての原因であり、この針先の平らな部分を丸めてバリをとってみた場合には、キレイな音が出るようになるのではないかという気がしてくる。そこで、針先のバリを取ってそして新しい針との比較をするとどうなるか、それを次に調べてみたい。

 とはいえ、このページもずいぶんと写真が多く、思いページになってしまった。そこで、この続きは次回行うことにしたい、と思う。

 さて、今回「エジソン式コップ蓄音機」を使って録音実験を繰り返すために、私は近所の100円ショップで10個100円のプラスティック・コップを山のように買った。何しろ、この録音作業はやり直しがきかない。一回、ミスったらそのカップはもう使い物にならないのである(録音用には。もちろん、通常の飲み物の入れ物としては使える)。

100円で10個、つまり1個10円だから、録音可能な時間あたりのカップ単価を考えてみると

  • 10円/0.5分
程になる。片や、最近は74分録音可能なMDメディアやCD-Rが一枚100円位だから、こちらは
  • 10円/7.4分
ということになる。もちろん、音質も違うのでこういう風に一概に言うのもどうかとは思うが、高々10倍しか容量当たりの単価が違わないという言い方もできるわけだ。そう考えると、なんとも面白い気がしないだろうか。ローテク万歳である。

 さて、今回「エジソン式コップ蓄音機」に録音してみた音の再生音はこんな感じだ。ちょっとサイズが大きいが、是非聞いて頂きたいと思う。開発者によれば、「普通に作れば肉声に近いほどのハイファイ音が聞こえる」とのことなので、この再生音は上手く作れなくてもこの位の音は聞こえるという例として考えて欲しい。

こんな「エジソン式コップ蓄音機」のとても素朴な作りの見かけにしては、結構再生音はきれいに聞こえるものだ。まだ、針先を変えていないので、まだまだ変な音であるが、ぜひぜひ静かな部屋で耳をすまして聞いてみてもらいたいと思う。鈴木祥子歌う「あなたを知っているから」の最後のリフレインがあなたの耳にも聞こえるだろうか?耳を澄ませば、こんな言葉が聞こえてくるはずだ。
あなたの声がすぐそこにある。
心の中のすぐそばにある。
 
 



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