2000-02-06[n年前へ]
■パノラマ写真と画像処理 Pt.1
パノラマ写真を実感する
「パノラマ」という言葉は何故か大正ロマンを感じさせる。かつて、流行ったパノラマ館や江戸川乱歩の「パノラマ島奇譚」という言葉がそういったものを連想させるのだろう。私も自分で写真の現像・焼き付けをしていた頃は、フィルム一本まるまる使ってベタ焼きでパノラマ写真を撮るのが好きだった。
そういう癖は持ち歩くカメラが「写るんです」と「デジカメ」へ変化した今でも変わらない。例えば、
の時に撮ったこの写真もそうである。 そしてまた、次に示す写真もそうだ。これは1999年夏頃の早朝に箱根の湖尻で撮影したものである。360度のパノラマを撮影したものだ。
観光に行った先で撮影したと思われるかもしれないが、残念ながら違う。出勤途中に撮影したものである。豊かな自然がありすぎて、涙が出そうである。
パノラマ写真としては、こういう景色を撮ったものも良いが、人が写っているものも良い。私の勤務先がこの大自然の中に移転してくる前、都会の中にあった頃に居室で撮ったパノラマ写真などはとても面白い。窓の向こうにはビルが見えたり、周りに写っている人ですでに退職した人が何人もいたりして、涙無しには見られない。
もちろん、こういった写真はパノラマ写真で楽しむのも良いが、もっと実感できるものに加工しても楽しい。私がかつて都会の居室で撮影したものは、当時はAppleのQuicktimeVRのムービーファイルに変換して遊んでいた。今はもうない居室の中をグリグリ動かすのはホロ哀しいものがあり、とても味わい深かった。
ところで、WEB上でそういうパノラマのVRファイルを見せるにはどうしたら良いだろうか?もちろん、AppleのQuicktimeVRを用いれば良いわけではあるが、プラグインが必要である。私はQuicktimeは好きであるが、ブラウザーのQuicktimeのプラグインは嫌いである。WEBを眺めているときに、「Quicktimeのアップグレードはいかがでしょう?」というダイアログが出ると、少しムッとしてしまう。そこで、Javaを使うことにした。いや、もちろんJavaをサポートしていないブラウザーもたくさんあるが、こちらの方がまだ好きなのである。
そのようなパノラマのVRを実現するJavaアプレットには、例えば
- Panoramania
- http://www.lamatek.com/lamasoft/Panoramic/test.html
- Javaアプレット(パノラマver1.1)
- http://village.infoweb.ne.jp/~fwbc6098/java/panorama/panorama.htm
- TheVRApplet1.0
- http://www.physik.uni-greifswald.de/~jonas/VRApplet/VRApplet.html
- how toinsert the panorama show (java applet) inside your home page ?
- http://persoweb.francenet.fr/~carl/brique/exapano1.htm
さて、ここまでは単なる前振りである。本題は、実はこれから始まる。先日このようなメールを頂いた。
私はWindowsを使っているのですが、AppleのQuicktimeVRに興味があって、QuicktimeVRのパノラマ・ムービーを作っています。しかし、素材となる画像の作成に四苦八苦しております。ご承知の通り、
- ライカ版カメラに24ミリ広角レンズをつけて、
- 三脚にパノラマヘッドをつけて、ぐるりと周囲を12枚撮りして、
- 現像、プリントし、
- スキャニングして、ステッチャソフトでレンダリングし、
- それをMacintosh上でMake-QTVR-Panoramaにドロップして、
- 8ミリビデオに広角レンズを付け、
- 90度横倒しにして、10秒程度で1回転するようにステッピングモーターで駆動するパノラマヘッド(自作)に乗せ、
- 高速シャッター撮影し、
- マックのAV機能で円周12枚の静止画を取り出
- し、
- 8ミリビデオを横倒しにして、
- モーター回転するヘッドでぐるりと360度撮影し、
- その撮影した動画ファイルの、各フレームから走査線にして数本分を抽出し(インターレースで256本のうちセンター128本目の前後数本の走査線分)、
- それを貯めて1枚のjpgファイルにする、
- そのJPEG画像をMakeQTVRPanoramaの入力にして、パノラマムービーを作る、
その場合には、スリットスキャンカメラを入手し、それをカラープリントする設備を準備すればいいのでしょうけど、高価です。
そこで、
長々と分かりにくいことを書きましたが、要は、「マックで動く電子スリットスキャンソフト」をなんとか作っていただけないでしょうか?もし、そのようなソフトがあれば、
まずは、答えを先に書いてしまおう。私が作らなくても、
- NIH-Image (MacOS)
- ScionImagePC (Windows)
- 複数画像(動画)からの走査線抽出
ScionImagePCの動作画面を以下に示す。NIH-Imageとほぼ同じである。
これらのソフトのStack-Slice機能を用いれば「複数画像(動画)からの走査線抽出」ができる。その使用例と、その面白い座標軸変換について考えてみたい。しかし、このページは少々重くなってきた。まして、走査線の抽出の話は使用画像が多くならざるをえない。そこで、次回、詳しく使用例を紹介することにする。よく、次回といったまま数ヶ月経つことがあるが、今回は大丈夫である。少なくとも数日後には登場することと思う(多分)。
あれっ、ここまで書いてからinfoseekで検索すると、
- パノラマ写真のひっみっつっ!
- http://www.imagica.com/nomad/sig98/hitachi/
2000-02-13[n年前へ]
■競馬の写真判定とパノラマ写真
パノラマ写真と画像処理 Part.2
前回 、
の時にi_matさんから頂いたメールを紹介した。i_matさんは- I*MAT The HomePage (http://www.nsknet.or.jp/~i_mat/ )
- atoz@gol.com (http://www2.gol.com/users/atoz/index.html )
さて、前回
これらのソフトのStack-Slice機能を用いれば「複数画像(動画)からの走査線抽出」ができる。その使用例と、その面白い座標軸変換について考えてみたい。と書いた。今回もまた「数日後には登場」と言った割には時間が経っているような気もする。しかし、ここのところ文字通り忙殺されていたのである。と、言い訳をしながら今回この作業をやってみることにした。しかし、このページは少々重くなってきた。まして、走査線の抽出の話は使用画像が多くならざるをえない。そこで、次回、詳しく使用例を紹介することにする。
よく、次回登場と言ったまま数ヶ月経つことがあるが、今回は大丈夫である。少なくとも数日後には登場することと思う(多分)。
まずは、
- 「複数画像(動画)からの走査線抽出」
- 「座標軸変換」
以下に示す連続の画像は競馬のゴール地点に競走馬が到着した瞬間である。「馬に見えない」という人がいたら、それは目がおかしい。誰がなんと言おうとこれは馬である。馬と鹿の区別がつかない人は馬鹿と呼ばれるが、これはとにかく馬なのである。
視野の中に馬がもっと入ってくる。
視野の中に馬がものすごく入ってる。 |
さて、このビデオカメラで撮影された画像は例えば以下のようなものである。
撮影された各時間の画像から、この画像の赤で囲んだところを抽出し、並べたらどのようになるだろうか?
それはこのようになるだろう。よくある競馬の着順判定写真である。
一見、これまで眺めてきたビデオカメラで撮影された画像と同じように見えるが、全く違う。ビデオカメラの撮影画像の動画中における、複数画像間の「位置」は全く変化していない。変化しているのは「時間」だけである。
だから、このような赤い長方形の画像を並べた方向というものは「時間軸」を意味しているのである。それを、下の画像に示してみる。
この画像は縦方向は「空間軸」であるが、横方向は「時間軸」なのである。ビデオカメラの画像が縦横共に「空間軸」を示しているのに対し、その一軸を「空間軸」から「時間軸」に変換したものなのである
この競馬の着順判定写真の場合、カメラは空間に固定され「時間軸に変化するもの」を撮影していた。だから、このように各画像から一部を抽出して並べると、それは「時間軸」に対する変化を示すものを得ることができる。
また、例えば実験条件を変えたときの計測画像に対して「各画像から一部を抽出して並べる」ということをするならば、それは「空間軸」x「実験条件」というものを表す画像を得ることができる。
それでは、時間的には変化しないものを、ビデオカメラで撮影する方向を変化させながら撮影したらどうなるだろうか?例えば、ビデオカメラを下のようにして360度回転させながら撮影をしてみるのである。
この場合撮影画像の各画像は撮影方向角度が異なるわけである。従って、先ほどのように一部分を抽出して並べると、一方向は「空間軸」であり、もう片方の軸は「撮影方向角度」になる。結局当たり前ではあるが、ある位置から眺めた周りの景色が得られるわけだ。
これが、前回i_matさんの要望していた
- 8ミリビデオを横倒しにして、 モーター回転するヘッドでぐるりと360度撮影し、
- その撮影した動画ファイルの、各フレームから走査線にして数本分を抽出し(インターレースで256本のうちセンター128本目の前後数本の走査線分)、
- それを貯めて1枚のjpgファイルにする、
- そのJPEG画像をMakeQTVRPanoramaの入力にして、パノラマムービーを作る、
それでは、その作業を実際にしてみようと思う。i_matさんから送って頂いた動画ファイル
を使い- 動画から静止画に変換し(走査線の狭間-1/60秒の世界を目指せ- (1999.07.08) 参照)、
- Image PC(NIH-imageをWindowsに移植したもの)で、走査線の一部を抽出し並べた静止画を作成する
もういきなり結果を出してしまおう。これが、「動画ファイルから走査線を抽出し、パノラマ写真にしたもの」である。
おや?何が何だかわからない画像になってしまっている。変なモザイクがかかったみたいな画像になっているし、グレイ画像である。参考までに、先ほどの動画から手作業でパノラマ画像を作成したものを以下に示す。上の画像と比較してみると画像の示すものの対応がわかるだろう。
さて、今回の実験結果が
- 変なモザイクがかかったみたいな画像になっている
- グレイ画像である
まず、
- 「グレイ画像」になっている理由
そして、「変なモザイクがかかったみたいな画像になっている」のは(動画中の)各画像から走査線をそれぞれ一本しか抽出しなかったからである。だから、横方向(カメラの撮影方向角度)のデータが足りないのである。そのため、モザイク画像のようになってしまったのである。
本来、抽出する走査線の数は、カメラの回転速度に応じて増やしてやらなければならないわけであるが、それが上手く合っていなかったのである。また、今回の画像を見て頂くと判ると思うが、動画ファイル自体も、実は一秒辺りのフレーム数が間引かれたものとなっている。それにより、抽出する走査線の数が一本ではますます足りなくなってしまっていたのである。
というわけで、今回は「失敗した」と言わざるをえない。何か、前回は「簡単である」などと言い切ったような気もするが、それはきっと気のせいであろう。
やはり、これは適当にあるもので間に合わせ仕事をしようとしたせいかもしれない。いつの日か「mov2panorama.exe」を作成し、必ずや必ずや再挑戦をするつもりである(Macでやるのは少しあきらめモード)。
2000-04-24[n年前へ]
■ボクのテレビは白黒だった
Benhamのコマを作ってみよう
「O plus E」のバックナンバーを眺めていると面白い記事があった。1985/7のNo.68に畑田豊彦氏が書かれている「生理光学 -各種運動知覚現象 -」である。視覚周りの色々な話が書かれていた連載である。なぜ、こういう記事を読んでいるかというと、少し前の、
で視覚特性の資料を探した時に、この畑田豊彦氏の連載を見つけて以来、どうもはまってしまっていたのである。 特に今回面白く感じたのはBenhamのコマ(Benham's top)である。Benhamのコマというのは次のような画像を「コマ」にして回転させるというものだ。次に示すのは、「Oplus E」に掲載されていた杉浦康平氏デザインのBenhamのコマである。
このような画像を回転させると、白黒の模様しか描かれていないのに、何故かほのかに色づいた模様が見える。それが、Benhamのコマである。人間の視覚特性のために、白黒模様から色を感じてしまうのである。こういった「おもちゃ」で子供の頃に遊んでいたように思うのだが、すっかり忘れていた。きっと、理科の時間などにこういった「おもちゃ」で遊んでいたはずなのに、記憶の彼方に飛んでしまっていた。こういう記事を読み返さないと、たぶん忘れたままになってしまっていただろう。
ところで、プリンターをお持ちの方は、このWEBページを印刷して、コマを作成してみると面白いと思う。白黒プリンターで印刷しても、コマさえ作れば、アラ不思議、その回転するコマは色づいて見えるのである。モノクロプリンターでもカラー模様が印刷できるわけだ(人間が感じるところまで含めれば)。
他にも「O plus E」に掲載されていた杉浦康平氏デザインのBenhamのコマを示しておく。
さて、このBenhamのコマを私も作成してみようと思う。もちろん、実際にコマは作成して楽しんでみたのだ。しかし、せっかくなので、動画ファイルの形で簡単に見ることができるようにしてみた。WEB上で簡単に見ることができるBenhamのコマである。
先の、「杉浦康平氏デザインのBenhamのコマ その1」を回転させるのではなく、時間的に変化する動画にしてみるのだ。といっても、こう書いただけでは判りにくいので、図で示してみる。まずは、作成した動画の各「コマ(このコマは静止画の意味)」を見てみよう。
これが、「杉浦康平氏デザインのBenhamのコマ その1」を時間的に変化する動画にしてみたものだ。この図で4,5,6コマめが、先のA,B, Cに対応しているわけである。
これをある程度高速で連続的に眺めると、この白黒模様が色づいて見えるはずである。まずは、これらの画像をアニメーションGIF画像にしたものを次に示す。とはいっても、作っては見たが再生スピードがどうにも遅い。これでは、色づいて見えるどころではない。このBenhamのコマをアニメーションGIFにする計画はひとまず挫折である。
そこで、先の画像をAVIファイルにまとめたものを作ってみた。こちらの方ならスピードはなんとか満足できている(少なくとも、私の環境では)。AVIファイルということで、Windows以外の環境では不便だと思うが、動画変化ツールは色々あるから大丈夫だろう(多分)。
人によって、どの速さの場合が一番色づいて見えるかどうかは異なるだろうから、三種類の速度のものを作成してみた。それをここにおいておく。ちなみに、再生ソフトの設定を「自動繰り返し」にする必要がある。
さて、WEB上で情報を探してみると、面白い話があった。
- 色あそびコマ (http://www.avis.ne.jp/~g-k-toys/sakuhin.4.html )
昔、ウルトラマンをTVで見ていた頃、白黒TVで見ていた。その頃は、カラータイマーの色は私にはよく判らなかった。ボクのテレビは白黒だったからだ。ウルトラマンのカラータイマーの点滅をこのBenhamのコマのパターンで放送したりしたら、とても面白かったのにな、と思うのである。
2000-07-08[n年前へ]
■うれし、たのしい、「大人の科学」
エジソン式コップ蓄音機
先日、町田の東急ハンズをぶらぶらとしていた時に、こんな本を見つけた。
- 学研の「科学」と「学習」編 100円ショップで大実験! 監修:大山光春
そして、この本の中でも、特に興味を惹かれた実験がこの「ファイルシート蓄音機」である。ファイルシートでソノシートを作ってやろうというものである。軟らかくて、同時に少し硬い材質のもに音の振動を刻み付けて記録・再生するという、エジソンが発明した蓄音機そのものの構造の機械を簡単に作ろうという話である。
私は以前から、うれし懐かしの「ソノシート」を作ってみたいと思っていたので、この記事を見つけたときは思わず声が出そうになった。いやはや、さすが学研の「科学」編集部である。もしや、これは私のために?と思ってしまう程である。(学研の科学で育った人たちは、きっとみなそう思うことだろう。)
ところで、もしかしたら「ソノシート」を知らない人がいるかもしれない。そこで、念のために辞書で「ソノシート」をひいたものを書いておこう。
ソノシート (商標名Sonosheet)音の出る雑誌「ソノラマ」用にフランスで開発されたビニールレコード。(Kokugo Dai Jiten Dictionary. Shinsou-ban (Revised edition) Shogakukan1988/国語大辞典(新装版)小学館 1988)知らない人はほとんどいないとは思うが、ソノシートは見た目は赤や青の薄っぺらくてペラペラなレコードである。昔は雑誌によく付録でついていた。そこに録音されているものは、テレビの主題歌だったり、声のドラマだったり、色々なおしゃべりだったりした。そして、私の記憶が確かならば、確かどこかのコンピュータ雑誌でソノシートを使ってのプログラム配布なども行われたこともあったと思う。
それはさておき、この「ファイルシート蓄音機」を私もぜひ作ってみよう、と思っていた。ただ、、この記事そのままだと録音可能な時間が短いので、それでは少しつまらない。そこで、そこをどうしたものかとずっと悩んでいたのである。そのため、なかなか製作に取り掛かることができないでいた。
ところが、これまた先日面白いものを見つけた。それは
- 学研 科学と学習 大人の科学
- ( http://www.yumag.co.jp/kagaku.html#adult )
しかし、そんな杞憂は無用のココロだ。これは、学研の「科学」と「学習」が、「昔子どもだった大人」に贈る、タイムカプセルなのである。あの頃と変わらない、「ワクワクする心」を思い出させてくれるプレゼントなのである。これは私達を、「昔、見ていた夢」がいきなり目の前に現れたような気持ちにさせるである。
少し長くなったが、その「大人の科学」の第一作がこの「エジソン式コップ蓄音機」である。
先程の「ファイルシート蓄音機」からはるかに性能が改良され、なんと20秒近くの録音が可能なのである。もちろん、迷うことなく私は購入を決めた。そして、何日か前に、送られてきたものを今日の朝に組み立ててみた。製作時間は20分位である。作ってるときの気持ちは、もう学研の「科学」の付録で遊んでるあの頃と同じだ。
その組み立ててみた「エジソン式コップ蓄音機」が次の写真である。上の紙カップの底に針が着いていて、下の回転する透明カップの表面に紙カップの底の振動を溝として記録するのである。もちろん、再生のときはその逆である。透明カップの表面に刻まれた溝の揺れを針がなぞって、そして紙カップの底を振動させるのである。
この「エジソン式コップ蓄音機」の構造自体は、先の「ファイルシート蓄音機」とかなり似ていることがわかる。紙カップと針の部分など全く同じである。もし、「3000円程の「エジソン式コップ蓄音機」が高い」と感じるのであれば、100円ショップで材料を揃えて「ファイルシート蓄音機」を作製してみるのもきっと面白いだろう。
「エジソン式コップ蓄音機」の針がコップに刻んだ溝をなぞっている様子を次に示してみよう。音を再生している時にも、溝を少し削ってしまい、削りかすが出ているのが見えるだろう。
というわけで、もちろん私もエジソンと同じく「メリーさんの羊」を録音してみた。大きい声で歌っても、再生される「歌声」はとても小さい。いや、再生される「音」はうるさいくらいに大きいのだけれど、「歌声」はかすかにしか聞こえない。それでも、雑音の遠くで聞こえる人の声は、とても懐かしくていい響きがする。もちろん、実際にはガーガーうるさくて、私の声なんか微かにしか聞こえないのだけれど、そんなことはどうでもいいのだ。だって、あの科学の付録なんだから。それだけで、十分だ。もちろん、これの改良作業は早速始めるつもりだ。もう「大人」だからね。
2000-08-04[n年前へ]
■あなたの声が、すぐそばにある
エジソン式コップ蓄音機の逆襲
前回、
で学研の「大人の科学」の中から「エジソン式コップ蓄音機」を購入して組み立ててみた、という話を書いた。今回はその続編である。前回は組み立ててはみたが、なかなか良い音を録音・再生することができなかった。しかし、「エジソン式コップ蓄音機」の実力はそんなものではないわけで、今回はその「逆襲」というわけだ。 一応念のために、前回組み立てた「エジソン式コップ蓄音機」の写真を下に示してみよう。
蓄音機の上の部分が「マイク兼スピーカのカップ」、そして輪ゴムで押さえた針がそのカップに取り付けられ、録音メディアとしてのプラスティックカップがその下で回転している。何とも素朴な「科学おもちゃ」である。懐かしの「科学教材」なのである。
下の写真はこの「エジソン式コップ蓄音機」で「音を再生しているところ」である。この写真もまた、前回のページに載っけていたものである。
ところが、「エジソン式コップ蓄音機」の開発者の方がこの写真を見てこんなアドバイスを下さった。
さて、拝見した「エジソン式コップ蓄音機」の溝写真から判断すると、針先が痛んでいるように思えます。ちなみに、切削音はほとんどしないはず(削りかすもあまりでないはず)です。確かにこの写真には削りかすがずいぶん写っているし、ガーという切削音のノイズも凄かった。再生音に対する前回の私の感想は、普通に針先を見てもなかなか判りませんが、顕微鏡で見るとイッパツです。
大きい声で歌っても、再生される「歌声」はとても小さい。いや、再生される「音」はうるさいくらいに大きいのだけれど、「歌声」はかすかにしか聞こえない。と書いてある。しかし、これはどうやら私が作ったものが上手く動かなかっただけのようである。話を伺ってみると、普通は簡単にキレイな音が再生されるものらしい。おそらく、雑に組み立てた私が、どこかで針先をダメにしてしまったのだろう。
なるほど、確かに学研のサイト
- エジソン (http://kids.gakken.co.jp/kit/otona/edison/edison_index.html )
そして、なんと心優しい開発者の方は新品の針まで送って下さったのである。
そして、実は私の手元にはこんな素晴らしい顕微鏡まである。そう、4年の科学2000/04付属の科学教材である。もう、針先を調べないわけにはいかないだろう。というよりは、「この顕微鏡を使って針先を調べないと、怒るよ怒るよ。」と言っているかのような素晴らしいシチュエーションである。もう、調べないわけにはいかないだろう。
というわけで、この素晴らしい顕微鏡を使って針先を見てみたいと思う。早速、「二本の針先」を顕微鏡を使って見てみたものが次の写真である(ホントは違う顕微鏡を使った)。
実はこの針先というものは、あまり鋭くないことがわかる。「付属していた針」も「送って頂いた針」の方も針先は実は平らになっているのだ。もしかしたら、繊維の中に針を通す時には、あまり針先は鋭くない方が実は良いのかもしれない(実はK氏のアイデア)。例えば、繊維の隙間に針を通すようにするために、針先をわざと丸めているなどの理由があるのではないだろうか?木の繊維にそって曲がっていく釘があるように、この針先も繊維を避けながら進むために先を丸めていたりはしないのだろうか?
また、この写真は左右とも同じ倍率である。ということは、ずいぶんと「付属していた針」と「送って頂いた針」で太さが違うことが判るだろう。また、太さと同様に針先の形状も若干違うこともわかる。「付属していた針」の方は円錐の先をスパッと切り取ったような形状をしている。そして、針先には若干のバリがある。一方、「送って頂いた針」の方は円錐の先を丸めたような形状になっている。針先に鋭い部分やバリなどはあまりない。この差は非常に気になるところだ。
ちなみに、「同倍率で撮影したカッターの刃先」はこんな感じだ。もうメチャクチャ鋭いのである。
さて、すぐに送って頂いた針先に交換して録音をし直してみたいところだが、今回は針先は変えなかった。先ず、現時点でどのような現象が起きているかを、調べておきたかったのである。そこで、
- 針先がカップに接触する角度を寝かせる
- 録音時は針を支持するアームがぶれないように固定する
「ノイズがある場合」と「ノイズがない場合」では、ずいぶんと録音溝の様子に違いがあることが判る。もう「ノイズが多い場合」の方では見るからにノイズが多そうであるし、録音溝が無数の傷がついてしまっている。そして、「ノイズがない場合」の方は見るからに「クリアな音」が出そうである。おそらく、「ノイズがある場合」には針先が妙に引っかかりやすくなっているために、こんな無数の傷ができてしまうのだろう。
参考までに、「ノイズが無い場合」の録音溝の断面を撮影したものが次の写真である。写真では判りにくいと思うが、録音溝は中央部がえぐれ、その周囲が盛り上がっている。
(倍率がもう少し高い) |
また、直感的に想像できるように、この録音溝は針先の平らな部分とほぼ同じ大きさであった。判りやすいように、
- 針先 - 「ノイズがない場合の録音溝」 - 「ノイズがある場合の録音溝」 - 録音溝の断面
この写真を眺めていると、「針先のバリがマズイのではないか?」という想像が強くされるだろう。「針先のバリ」が引っかかることが不安定性の全ての原因であり、この針先の平らな部分を丸めてバリをとってみた場合には、キレイな音が出るようになるのではないかという気がしてくる。そこで、針先のバリを取ってそして新しい針との比較をするとどうなるか、それを次に調べてみたい。
とはいえ、このページもずいぶんと写真が多く、思いページになってしまった。そこで、この続きは次回行うことにしたい、と思う。
さて、今回「エジソン式コップ蓄音機」を使って録音実験を繰り返すために、私は近所の100円ショップで10個100円のプラスティック・コップを山のように買った。何しろ、この録音作業はやり直しがきかない。一回、ミスったらそのカップはもう使い物にならないのである(録音用には。もちろん、通常の飲み物の入れ物としては使える)。
100円で10個、つまり1個10円だから、録音可能な時間あたりのカップ単価を考えてみると
- 10円/0.5分
- 10円/7.4分
さて、今回「エジソン式コップ蓄音機」に録音してみた音の再生音はこんな感じだ。ちょっとサイズが大きいが、是非聞いて頂きたいと思う。開発者によれば、「普通に作れば肉声に近いほどのハイファイ音が聞こえる」とのことなので、この再生音は上手く作れなくてもこの位の音は聞こえるという例として考えて欲しい。
こんな「エジソン式コップ蓄音機」のとても素朴な作りの見かけにしては、結構再生音はきれいに聞こえるものだ。まだ、針先を変えていないので、まだまだ変な音であるが、ぜひぜひ静かな部屋で耳をすまして聞いてみてもらいたいと思う。鈴木祥子歌う「あなたを知っているから」の最後のリフレインがあなたの耳にも聞こえるだろうか?耳を澄ませば、こんな言葉が聞こえてくるはずだ。あなたの声がすぐそこにある。
心の中のすぐそばにある。