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1999-08-25[n年前へ]

インラインスケートの力学 (初心者編) 

つま先立ちの180°ターン

 今回は滑る道具の話である。シャレではないが、私はスキーが好きだ。そして、最近インラインスケートを始めた。使っている道具はこんなものである。

  • Dynastar AssaultSuperior
  • Hart FreeLaunch
  • K2 BING AIR
 スキーとインラインスケートの道具の写真を以下に示してみよう。
3種の神器
Dynastar AssaultSuperior (右)
Hart FreeLaunch (左)
K2 BING AIR

 それぞれの滑走接地部の長さはDynastar AssaultSuperiorが185cm程であり、Hart FreeLaunchが110cmである。K2BING AIRは26cm位だ。

 Dynastar AssaultSuperiorの長さを1とすれば、Hart FreeLaunchは長さが0.6程度である。半分とは言わないが、かなり短い。75cmも違う。しかし、この程度の長さにしたくらいではそれほど不安定になるわけではない。特にHart FreeLaunchは安定性が抜群である。私もゲレンデで普通に滑っている限りでは、遅い方ではないと思うが、特に不安定になることはない。不安定だと感じるのは、コブ斜面で、なおかつ、雪が積もってコブの形状が見えない場所を滑る場合などである。それほど、安定感があるのである。
 そして、スキー板が短いため、ターンのしやすさといったら素晴らしいものだ。1つのコブの上で、2回3回とターンが出来る。

 さて、今回の本題のインラインスケートはと言うと、かなり接地長さが短いため、さすがにスキーに比べて不安定さを感じる。とはいえ、思ったよりも不安定ではなかった。(初心者の頃の)スキーで曲がる時のことまで考えたら、もしかしたら、スキーよりも転びにくいかもしれない。急角度のターンのしやすさといったら、Hart FreeLaunchの比ですらなく、瞬時の180°ターンなども簡単である(私は上手くないが)。

今回はインラインスケートにおける瞬時の180°ターンの力学について考察を行ってみたい。瞬時の180°ターンに必要なことは以下のようなものである。まず、前向きに進んでいる状態から瞬時に後ろ向きになって進む場合を考えてみる。状態の変化は以下のようなものだろう。

  1. 前向きに進んでいる。
  2. スケートを瞬時に回転させる。
  3. スケートが180°回転した、すなわち、反転したところでスケートの回転を停止させる。
  4. そのまま、後ろ向きになった状態で進行する。
 第一印象では、ちょうど180°分だけ瞬時に回転させるというのは、難しいように思われる。ところが、実際にやってみると比較的簡単なのである。やり方は、こういうやり方である。
  1. 前向きに進んでいる。
  2. スケートブーツの爪先で立つ。
  3. スケートブーツが勝手に180°回転し、反転したところでスケートブーツの回転が勝手に止まる。
  4. いつのまにか、後ろ向きになった状態で進行している。
 その様子をRealVideo形式にしたものはこんな感じ(モデルはK氏)である。一体、何故勝手にスケートブーツは回転するのだろうか、そして、何故ちょうど180°回転するのだろうか?

 まずは、足を回転させてみると、その回転軸は下の図で紫の円で示したような場所に位置することがわかる。土踏まずと中指の根元の中央辺りである。

足を回転させた場合の中心軸

誰がなんと言おうとこれは「足」

 この図を「インラインスケートのブーツを履いた場合」で示したものを以下に示す。

インラインスケートのブーツを履いた場合の回転軸

 それでは、つま先で立ってみよう。どういうものに近似できるだろうか?

つまさき立ちした場合はどのように近似できるか?
このような状態は
こういうものに近似できる。

 何か見覚えがないだろうか? そう、台車の足部分である。ここまでくると判りやすい。台車の場合で考えれば、良く実感できる筈である。

台車の足はどうなるか?
台車の足を押すと...
瞬時に回転する。

 それでは、簡単な力学計算をしてみる。「足の回転軸」と「地面に接触しているローラ部分」を拘束系の剛体問題と考えてみよう。インラインスケートのローラは「足の回転軸」と「地面に接触しているローラ部分」を結ぶ方向にはいくらでも回転できる。したがって、転がり摩擦を無視すれば、その方向に関しては「地面に接触しているローラ部分」は地面からは何の力も受けない。しかし、ローラは「足の回転軸」と「地面に接触しているローラ部分」を結ぶ方向と直行する方向には回転することができない。したがって、その方向へ地面から力を受けることになる。滑っている人の速度をVとすれば、「地面に接触しているローラ部分」が「足の回転軸」と「地面に接触しているローラ部分」を結ぶ方向と直行する方向に受ける力はVsinθである(シータは文字化けしそう...)。

計算の説明図

 もうここまでくれば、一目瞭然である。「インラインスケートを回転させる力」であるVsinθ(シータは文字化けしそう...)をグラフにすると以下のようになる。ここで、θ(シータは文字化けしそう...)がPiを過ぎたところで、-Vsinθ(シータは文字化けしそう...)になっていることに注意してもらいたい。

インラインスケートを回転させる力をグラフにすると

 このグラフは縦軸が任意単位の「インラインスケートを回転させる力」を示しており、横軸がインラインスケートの回転軸に対する角度である。ちょっとでも、インラインスケートが回転軸に対して傾くと(θ(シータは文字化けしそう...)=0でなくなると)つま先を後ろへ向かせる方向へ力が働き急激に回転する。そして、つま先が真後ろを向き始めるとその力は弱くなる。つま先が真後ろを向いたところで、その力は0になり、もし回転しすぎると、また、真後ろへ戻す力が働く。そなわち、つま先が真後ろへ向いているのが非常に安定なわけである。

 というわけで、インラインスケートで前進中に爪先立ちすると、何も考えなくてもちょうど180°回転してくれるというわけである。もちろん、後ろへ進んでいるときに回転したいならば、進行方向側のかかとで立てば良いわけである。

 今回の話はひとまずこんなところである。

1999-11-09[n年前へ]

埋蔵金を探せ 

電子ブロックで金属探知機を作りたい その1

 Yahoo!のオークションでこんなものを買った。オークションで落札したのは一つ(EX-60)なのであるが、あとから別口でもう一個(EX-100)手に入った。

電子ブロック (EX-60 & EX-100)

 手に入ったのはいいのだが、お金が飛んでいってしまった。困ったものである。さて、EX-60の拡大したところも示してみる。

EX-60でとある回路を作成中の図

 これを見て懐かしく感じる人も多いはずだ。少なくとも、私の職場ではかなりの比率(80%位か)の人がこれで遊んでいたようで、

「オレはマイキットだった。」とか、
「もっとずっと前のスケルトンになる前のを持ってた。」
「おもちゃ屋の店頭で欲しくて眺めてた。」
などと、声があがった。しかし、新入社員位になると、
「何ですか、これ?」
「欲しかったのに、買えなかったのですか?」
などと言う。ジェネレーションギャップである。いや、もちろん私と年がそんなに離れているわけではないのだが...

 さて、

などを見ると、色々と電子ブロックの情報が載っている。こういうWEB情報がすぐに眺められるなんて、素晴らしくて涙が出そうだ。

 私自身が持っていたものはSTシリーズというものだった。これは、EXシリーズよりも一世代前のもので、デザインなどはずいぶん違う。スケルトンと白・青を基調としたデザインで、今売り出しても人気が出るのではないかと思える。シンプルながらレトロ調なところがいい。しかも、「組み立ててその上面をそのままコピーすれば、回路図も出来あがる」という素晴らしいものである。素晴らしい開発環境である。

 自分で遊んでいた機種でないせいもあって、今回手に入れたEX-60,100を眺めていても、それほど懐かしいわけではない。私自身が遊んでいた機種は、手に入れたいとは実は思わない。昔見た夢は、リアルに蘇らない方がいい、と思うのである。昔埋めた玩具はそのままにしておく方が幸せなのである。

 ところで、「昔埋めたもの」と言えば埋蔵物である。ならば、「昔埋めた夢」は埋蔵金だろう。別に、「夢= 金」という切なくなるような等式を持ち出すつもりはない。別に、お金が飛んでいってしまったせいで、お金に目が眩んでいるわけでもない、と思う。しかし、埋蔵金は男のロマンである。埋蔵金のために人生を棒に振る人がいるというのも、当然である。何しろ、男のロマンなのだ。どこぞのTV局が発掘をしまくるのも、当たり前である。

 ちなみに私は埋蔵物発掘のアルバイトもしたことがあるが、それは正に「男の仕事」であった。知らない人が見たならば、それは土方にしか思えなかったろう。そのバイトの名前を知っている私にも、土方にしか思えなかった。埋蔵物探しとはそういうものなのである。

 埋蔵金が実際に発掘されることはほとんどない。それにも関わらず、埋蔵金伝説は腐るほど存在する。金は腐ることはないにも関わらず、埋蔵金伝説は腐るほどあるのだ。
 大体、どこの地方にも「朝日さす夕日輝く...」という言い伝えがあるはずだ。母と言えば垂乳根であるが、埋蔵金と言えば「朝日...」なのである。ただ、これにも多少のバリエーションがある。もしかしたら、そのバリエーションを探れば、蝸牛考ばりの考察ができるかもしれない。いや、本当にしてみようかな... それは、いつかやてみることにしよう。

 さて、埋蔵金情報を探してみる。すると、

  • TREASUREJAPAN ( http://www.bekkoame.ne.jp/~m1911a1/treasure/treasure.htm)
によれば、私の近所にも埋蔵金伝説は腐るほどあるようだ。自宅の窓から見えるあたりに、二つもある。具体的に挙げてみると、こんな感じだ。
  • 香貫の埋蔵金 N市上香貫、下香貫 -> かつて香貫一帯には九十九塚の古墳群があり、埋蔵金の伝承も残されている。「朝日さす夕日かがやく柿木の下に黄金千盃二千盃」。
  • 釈迦堂の埋蔵金 N市西野字霞釈迦堂 -> 愛鷹山の中腹にある釈迦堂に残る長者の黄金伝説。「朝日さす夕日かがやくこの所、黄金千盃朱千盃」。こちらも古墳群が存在した。
 写真も示してみる。なんて、埋蔵金が身近にあるのだろう。
香貫の埋蔵金(左の山近辺)と釈迦堂(右の山近辺)の埋蔵金の埋まる場所

 そう、めちゃくちゃ近い所に埋蔵金は埋まっているのである。そこで、散歩がてら埋蔵金を探してみることにした。しかし、そうそう簡単に埋蔵金が手に入るわけはない。どこに金塊が埋まっているのか、調べる道具が必要である。
 そこで、埋蔵金探しには必需品の「金属探知器」を作るにした。しかも、せっかく「電子ブロック」が手に入ったのだから、これを使って作ってみたい。

 そこで、まずは金属探知器の仕組みを調べてみた。すると、いろいろやり方はあるがLC発振回路を用いたものが一番簡単そうである。今回の道具はなにしろ電子ブロックである。単純第一でなければやってられない。
 
 このLC発振回路を用いたものはコイルをセンサーとして用いるものである。コイルに金属が近づくことによるインピーダンスの変化を検出するものだ。二つの発振回路を用いて、ヘテロダイン方式で発振周波数の変化を検知するのが一般的なようだ。

 最初の計画では、EX-60,100それぞれでLC発振回路を組んで、その差をアンプに通してスピーカーから鳴らそうと考えた。やってやれないことはないだろう、と考えた。そして、電子ブロックと格闘し始める。そして、2時間後...

「あ"〜〜〜〜。やってられるかぁ! こんな作業〜〜〜〜」

 電子ブロックEX-60&EX-100は、部品数が少ない。トランジスターは1つしかないし、抵抗・コンデンサーの数も3個位しかない。しかも、回路構成がまるでパズルである。平面構造と言えば聞こえは良いが、回路を自分で考え出すのがこんなに大変だとは思わなかった。
 始める前は「ブレッドボードの祖先だから、作業は結構楽かもね」、なんて思った。しかし、それは大きな間違いであった。

 電子ブロックを作った人達は天才である。

実はこれは作業を投げ出した後

 電子ブロックも埋蔵金も共にロマンである。そして、共にかつて埋めた夢だ。昔埋めたおもちゃは蘇らない方が良い。しかし、埋蔵金は私の手元に出現してくれるとうれしい。そのために私は、何としても電子ブロックで「金属探知器」を作り上げなければならない。そして、それを片手に、埋蔵金を探し出すつもりだ。

 こうして、金に目がくらんだインスタント埋蔵金ハンターは、電子ブロックを相手に格闘を続けるのである。というわけで、今回は「背景説明編」である。近いうちに、必ずやこの続編と共に、ゲイツくんもビックリの金塊を手中にする所存である。

そして、私が見つけた素晴らしい埋蔵物の話も書きたいところであるが、それはまた次回ということにしておこう。

1999-12-06[n年前へ]

立体音感を考える 

バーチャルサウンドソフトウェアを作ってみよう



 立体感というものには何故か強く心惹かれるものがある。まして、それが人工的な立体感であるならば、なおさらである。それは、画像・映像であっても、音であっても同じだ。色覚なども同様なのだが、人間の感覚というものを人間自身の技術により再現できたりするのが、実に面白い。

 何より、自分が実感できるというのが良い。結果を自分で感じることができるというのは、素晴らしいと思う。よくソフト技術者などで、「もう少し目に見えるものが作りたい」という人がいるが、それと同じである。

 小・中学校などでも実感できる教材や授業というのがあれば素晴らしいと思う。最近のWEBを眺めていると、そういう先生方のグループも多いようだ。そういう先生は「えらいなぁ」とつくづく思う。今の学校の先生は、そういうことをすればするほど、仕事としては時間単価が下がってしまうのだろう。それでも、そういった先生方は、きっとそういうことは気にしてはいられないのだろう。ホントにエライ。

 さて、立体感を実現するソフトであるが、そういった技術には色々なモノがある。音響の立体感の実現を目指す技術に関しても、古くから数多い技術がある。そういったものを追求しているWEBも多々あり、
 「今日の必ずトクする一言(http://www.tomoya.com/)」の

 などはその最たるものである。ここのWEBマスターなどは聴覚の専門家でもあるので、こういう話題に惹かれるのは当然なのだろう。

 また、そういったものを実現しようとする製品は昔から掃いて捨てるほどある。最近の製品では、

などもそうである。(といっても、今回の話しはずいぶんと長い間塩漬けになっていたので、それほど最近ではなくなってしまったのが残念である。)

 私も出張などで新幹線などに乗っている際には、E-500などでヘッドホンで音楽を聴いていることが多い。そういう時には、先の「山本式スーパーバイノーラルコンペンセーター」などが欲しくなり、音の立体感などについて色々と考えてしまう。必要に迫られているせいか、立体音感については、私もとても興味を惹かれるのである。
 というわけで、「できるかな?」でも立体音響について考えてみたいと思う。といっても、考えるだけでは面白くない。それに「ナントカの考え休むに至り」ともいう。私が考えるだけでは、何にもならないし、しょうがない。色々と実験をして遊んでみたい。
 そのために、まずはいくつかの道具を作ってみることにした。

 今回、作成するのは、山本式バーチャルサウンドシステムソフトウェア(名付けてYVSSS。略称が長いので、以降YVS3と称することにする。)である。先の「今日の必ずトクする一言(http://www.tomoya.com/)」の一連の話しに出てくるそれである。スピーカーマトリックスの程度を小さくしたものである。

 バーチャルサウンドシステムソフトウェアというと仰々しいし、ものすごいソフトウェアに思えるかもしれないが、実はそんな大したモノではない。それどころか、実に簡単なモノである。実際には、Waveファイルを開いて、そのファイルの左チャンネル(L)、右チャンネル(R)に対して、

  • R'= R - 1/3L
  • L'= L - 1/3R
という処理をしてやるだけである。これが、どのような作用を持つか考えるのは、先に挙げた「山本式バーチャルサウンドシステム」のWEBを読めばわかるだろう。もちろん、本「できるかな?」的にも色々考えてみたいわけではあるが、それは次回以降に後回しである。今回は、YVS3を作成し、自分の耳でその効果を実感するだけである。

 ここに、今回作成したソフトを置いておく。いつものことであるが、完成度はアルファ版以下である。


 使い方を示しておく。まず、下が動作画面である。水平方向にスライダーがあるが、チャンネル同士の演算の係数を決めるものである。左端が0%であり、右端が100%である。

WaveMixPro(YVS3)の動作画面

 すなわち、スライダーが左端であれば、

  • R'= R - 0 L = R
  • L'= L- 0 R = L
となる。つまり、オリジナルそのままである。また、スライダーが右端であれば、
  • R'= R - L
  • L'= L- R
となる。差分を出力することになるわけだ。
 Load_Convertボタンを押して、WAVファイルを選択し、変換することができる。その際、オリジナルのファイルは"*.org"という名前で保存される。

  さて、このソフトを使って、

  • 種ともこのアルバム「感傷」から「はい、チーズ!」
  • THE POLICEのLive at the "Omni" Atlanta, Georgia During 1983 U.S.A Tourから"SoLonely"
を試聴してみた。「はい、チーズ!」は途中がLive録音であるし、"So Lonely"の方は完全にLive録音であるからだ。

 試聴のやりかたは、Cd2wav32.exeを使い、CDからWAVファイルにする。そして、WaveMixPro(YVS3)を使って、バーチャルサウンドシステム構築する。そして、それをヘッドホーンで試聴するわけだ。適当にチャンネル同士の演算の係数を変化させ、聴いてみた。果たして、立体感は増しているか?

 さて、試聴した結果であるが、「うーん。」という感じだ。
 係数を大きくすると、まるで「カラオケ製造器」である。ボーカルが消えるだけである。しかも、聴衆が頭の真ん中に居座っているような感じである。つまり、立体感がむしろなくなってしまっている。「何故、オマエらはオレの頭の真ん中で拍手をするのだ」、と言いたくなる。頭が変になりそうである。
 かといって、小さいとよく違いがわからない。困ったものである。

 さてさて、まだまだ第一回目ではあるが、前途多難の気配であるのが心配なところだ。

2000-01-03[n年前へ]

音場の定位を見てみたい 

立体音感を考える その2


 前回(といっても間に他の話も挟まっているのだが)、

で「音の立体感」について考え始めた。今回はその続きである。「音の立体感」を考えるための道具を作る準備をしてみたい。

 色々なことを考えるには、その目的にあった測定器が必要である。何か新しいことをしようと思ったら、そのための新しい測定器を作成しなければならない(と思うだけだが)。そして、何より私は計測器なんてほとんど持っていない。だからといって、計測器を買うお金があるわけではない。というわけで、困ってしまうのだ。

 そこで、立体音感を考えるための測定器を作っていくことにした。といっても、すぐにできるとも思えないので、色々実験をしながらボチボチとやってみることにした。勉強がてら、ボチボチやってみるのである。オーディオ関連のことにはかなり疎いので勉強にはちょうど良いだろう。

 資料をいくつか眺めてみたが、特に

  • 「立体視の不思議を探る」 井上 弘著 オプトロニクス社
の中に簡単に音の立体感に関する因子が簡単にまとめられている。それは
  • 音像定位の因子
    • 両耳差因子 (音響信号)
      • 音の強さ(振幅)の差
      • 位相の差
    • 周波数スペクトル因子
というものである。今回はこの中の「音の強さ(振幅)の差」というものに注目してみることにした。よくある2スピーカ方式の「音の立体感」を考えるとき一番メジャーである、と思うからだ。左のスピーカーと右のスピーカーから聞こえる音の大きさが違う、というヤツである。

 そこで、いきなりだが今回作成した解析ソフト「音場くん一号」のアルゴリズムは以下のようになる。

  1. PCのサウンド入力から、サンプリング周波数 22.05kHz、Stereo 各チャンネル8bitで取り込みを行う。
  2. 取り込んだデータを4096点毎にウィンドウ(Hamming or無し)処理をかける。
  3. 高速フーリエ変換(FFT)を行う
  4. FFTの結果の実部について、左右のチャンネルの差分を計算する
 このようにすることで、各周波数成分それぞれについて、左と右のチャンネルに記録されている「音の大きさ(音圧)」の差がわかるといいな、と考えたのである。

 次に示すのが、「音場くん(仮名)一号」の動作画面である。「音場くん(仮名)一号」の画面構成は、

  • 右側->制御部
  • 左側->計測データ表示部
である。そして、左側の計測データ表示部は上から、
  • 音声波形データ(赤=左、緑=右)
  • 周波数(横軸)vs左右での音圧の差(縦軸)
  • 時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)
となっている。ちなみに下の画面は種ともこの「うれしいひとこと」の中から、「安売り水着を結局買ったアタシの歌」のイントロ部を計測したものだ。
「音場くん(仮名)一号」の画面
「安売り水着を結局買ったアタシの歌」イントロ部

(黒字に赤、緑の色構成は変更の予定)

 計測データ表示部の拡大図を下に示す。

  • 音声波形データ(赤=左、緑=右)
  • 周波数(横軸)vs左右での音圧の差(縦軸)
  • 時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)
というのが判るだろうか?かなりわかりにくい表示系であるのが残念だ。また、色もみにくい表示色になっていると思うので、近く変更する予定である。

 この表示計の意味を例を挙げて説明したい。例えば、下の画面では左の方に定位している音が鳴ったときの状態を示している。一番上の音声波形データでは緑(右)の波形は小さいのに対して、赤(左)の大きな波形が見えている。
 また、真ん中の「周波数(横軸)vs左右での音圧の差(縦軸)」では横軸100(任意単位)程度の高さの辺りで左チャンネルに位置する音が発生しているのがわかる。
 また、一番下の「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」では時間的に一番最後(横軸で右側)の方の横軸560、縦軸100位の位置に白い(すなわち左チャンネルに定位する)音が発生しているのがわかると思う。

「音場くん(仮名)一号」の画面の拡大図
「安売り水着を結局買ったアタシの歌」イントロ部

 この曲のイントロでは、「ポンッ」という音が高さを変えつつ、左右にパンニング(定位位置を変化させること)する。
 一番下の「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」を示したグラフ中で白・黄色(左に定位)と青・黒(右に定位)する音が時間的にずれながら現れているのが判ると思う。

 このようにして、この「音場くん(仮名)一号」では音の定位状態についての「極めて大雑把な」計測が可能である(保証はしないけど)。「音場くん(仮名)一号」を使った他の例を示してみる。

 下は種ともこの「O・HA・YO」の中から「The Morning Dew」のイントロ部を示したものだ。

  • 左(白・黄)チャンネル方向に定位するピアノ
  • 右(黒・青)チャンネル方向に定位するガットギター
がつくる旋律が絡み合っているのがわかると思う。
「The Morning Dew」のイントロ部での
「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」
を示したもの

 これはまるでオルゴールのピンを見ているようだ。あるいは、シーケンサーや昔の自動演奏ピアノのロール譜のようである。対位法などの効果をこれで確認したくなってしまう。

 さて、ここまでの例は楽器も少なく、比較的自然な定位状態であった。しかし、以下に示すような場合には不自然なくらいの「音の壁」状態の場合である。かなり状態が異なる場合だ。

「KI・REI」のラストのラストコーラス部での
「時間(横軸)vs周波数(縦軸)vs左右での音圧の差(色)」
を示したもの

 これは、種ともこの「O・HA・YO」の中から「KI・REI」のラストのラストコーラス部を示したものである。人のコーラスが重なり合っていく部分である。色々な高さの声が重なり合っていく様子がわかるだろう。
 ところが、このグラフをよくみると、同じ音が時間的に持続しているにも関わらず、時間毎に定位位置が左右で入れ替わっているのがわかる。

 これはきっとエフェクターで言うところのコーラスなどをかけたせいだろう(素人判断だけど)。人工的にフィルタ処理をしているためにこのようになるのだろう。こういう結果を見ると、「音場くん(仮名)一号」をプログレ系の音の壁を解析してみたくなる。

 さて今回は、音声の定位状態を解析する「音場くん(仮名)一号」を作成し、いくつかの音楽に対して使ってみた。まだまだ「音場くん(仮名)一号」は作成途中である。これから続く立体音感シリーズとともに「音場くん(仮名)」も成長していく予定である。

 さて、一番先の画面中に"Re"という選択肢があるのがわかると思う。もちろん、これと対になるのは"Im"である。FFTをかけた結果の"実部"と"虚部"である。"実部"の方が左右の耳の間での音の大きさの違いを示すのに対して、"虚部"の方は左右の耳の間での位相差を示すものだ。つまり、ある周波数の音が左右の耳の間でどのような位相差を示すものか、測定しようとするものである。

 左右の耳に対する音の位相差というものは、立体音感を考える上では避けては通れないのだろう。しかし、位相差を処理しようとすると、どうしたらいいものかかなり迷う部分がある。また、今回のようなFFT処理をかけたときに得られる位相を用いて良いものかどうかもよくわからない。というわけで、今回は位相解析処理は後回し、ということにした。

2000-03-09[n年前へ]

飲み屋の音と1/fノイズ 

くつろぎの音響解析編

 私は典型的なプロレタリアート(死語)である。そのせいか、高級(行ったことがないからわからないのだが)そうなバーは苦手である。しかし、安〜い居酒屋は大好きだ。むしろ、「愛している」と言っても良いくらいである。新宿西口の思い出横町なんかその最たるものだ。

 ところで、飲み屋の喧噪の音を聞いていると、何故か心安らぐような気さえしてしまう。「飲み屋の喧噪の音」というのはノイズとしか言いようのない音であるが、そのノイズが何故か心安らぐのである。しかし、高級そうなバーでは心安らぐどころではないのである。

 一体、この違いはどこにあるのだろうか?いや、もちろん私がビンボーであるせいと言ってしまえば、話は簡単である。しかし、それはあまりにも哀しすぎる(私にとって)。きっと、何か他の理由があるに違いない、と思うのである。そこで、「科学の力」で何か他の理由を探してみることにした。私がバーが苦手で、居酒屋が大好きな理由を探してみることにしたのである。

 居酒屋の環境ノイズを聞いていると、私は何故か心が安らぐわけであるが、「心安らぐノイズ」と言えば、「/fノイズ」というものがある。1/fノイズは心地良さ・気持ちよさを感じる、とよく言われる。今回はこれに着目してみたい。私が居酒屋の音を聴くと心が安らぎ、バーの音を聴くと何故か緊張する理由が「お金」ではなくて、環境音の特性にあると考えてみるのである。私のプライドのためにもそうであって欲しいわけだ。

 そこで、今回は典型的な飲み屋の環境音を音響解析をしてみたいと思う。そして、それが果たして1/fノイズになっているかどうか調べてみたいと思うのである。特に、同じ飲み屋でも居酒屋とバーの間に違いがあるかどうか調べてみるのである。

 それでは、飲み屋の代表的なものとして

  • 居酒屋
  • バー
  • キャバレー
を選んでみる。それらの環境音を実際に録音するのも面倒なので、
  • 効果音大全集 45 屋内ノイズII キングレコード
に収録されている効果音を使用させて頂いた。なかなかこれが雰囲気のある音なので、これで良いのである。参考までに一部を紹介する。 それではそれらのパワースペクトラムを示してみよう。今回は道具として、を使った。ただし、表示色は見やすさのために色変換を行っている。
 
飲み屋の環境音のパワースペクトラム
居酒屋の環境音のパワースペクトラム
キャバレーの環境音のパワースペクトラム
バーの環境音のパワースペクトラム

 これを見てみると、居酒屋とキャバレーはほぼ同じであり、300Hzより高い音に関しては周波数=fが高くなるに従い環境音のパワー密度が低下していることがわかる。しかもその低下の仕方は滑らかである。ここで、表示軸は共に対数軸であるので、居酒屋とキャバレーの環境音は1/fノイズに近いといっても良いだろう。
 私が居酒屋の環境音を聞くと落ち着くのはこれが理由だったのである。安いから落ち着くのではなくて、環境音が1/fノイズであるから落ち着くのである。私がビンボーなせいではなくて、ちゃんとした科学的な理由があったのである。

 それに対して、一番下のバーの環境音では少し様子が異なる。パワースペクトラムは滑らかでもないし、傾きも異なる。すでに、環境音は1/fノイズではなくなっている。これである。このせいで、私はバーでは落ち着かなかったのだ。そう、私がバーで落ち着かないのは私がビンボーなせいではなくて、バーの環境音が1/fノイズでないせいだったのである。

 この三つの環境音の間の違いが判り易いように、この三つを重ねて表示してみる。表示色は

  • 緑:居酒屋
  • 青:キャバレー
  • 紫:バー
という具合になっている。
 
飲み屋の環境音のパワースペクトラム
( 緑:居酒屋 青:キャバレー 紫:バー )

 緑の居酒屋と青のキャバレーがほぼ同じパワースペクトラムであるのがわかると思う。それに対して、バーでは様子が異なり、明らかに環境音が1/fノイズではなくなっている。ずいぶんと不自然なパワースペクトラムであることが判ると思う。

 この不自然さが故に私はバーの環境音を聴いていると、落ち着かないのである。そういうわけで、今回の結論は、

  1. 私は居酒屋の音を聞いていると心が安らぐが、バーの音を聴いていると緊張する
  2. その理由は私がビンボーなせいではなく、居酒屋とバーの環境音の違いによるものである
  3. その違いは居酒屋の環境音が1/fノイズであるのに対して、バーの環境音は1/fノイズではない
ということだ。いい結論である。

 あれっ、そう言えば、キャバレーの環境音も1/fノイズってことは、私はキャバレーの環境音を聞いても心が安らぐのだろうか?うーん、行ったことがないからわからないや。
 



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