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1999-09-17[n年前へ]

モアレ、デバイス、2項分布の三題話 

淡色インクの副作用

 今回は、9ヶ月間も寝かせた伏線にまつわる話である。いや、別に寝かせるつもりは無かったのだが、いつのまにかそんなに時間が経ってしまった。

 以前、

という話があったが、その2つを結びつけるミッシングリンクについて考えてみたいと思う。「2項分布のムラについて考える(1999.01.08)」の最後に「今回の話はあることの前準備なので、これだけでは話しが全く見えないかもしれない。というわけで、続く...」と書いた。「その続き」というわけである。

 始めに「2項分布のムラについて考える(1999.01.08)」の要点をまとめると以下のようになる。それは、

  1. ランダムと呼ばれるものの内で代表的な2項分布においては、当然のごとく「ある領域での平均値はばらつく」。
  2. そして、そのばらつきは直感的に考える程度よりももっとばらつく。
  3. 例えば、2値画像で考えるならば、2048dpi程度の解像度でランダムなデータを並べた場合には、人間の目はざらつきを感じてしまう。
ということであった。

 そして、「モアレはデバイスに依存するか?(1998.11.20)」での要点は

  1. モアレにはデバイス依存性がある
  2. 線形な重ね合わせが成り立たない場合にはモアレが発生する。
ということであった。

 最近のインクジェットプリンターはCMYKの4色インクだけでなく、淡色インクも使うものもある。淡色のインクを使うことで階調豊かな画像を印字できるわけだ。4色インクだけではディザなどを使って、解像度を下げて階調を出さなければならないわけであるが、それが不要になるわけだ。

 解像度を下げないですむわけであるから、ディザのざらつきを感じないですむわけだ。しかし、淡色のインクを使った場合の効果というのはそれだけではないように思われる。HP(ヒューレッドパッカード)などのWEBのプリンター紹介を読んでいると、「淡色のインクを重ねて濃度を出す」というような記述を目にする。これは「少なくとも淡色インクでは線形性(あるいはそれに近い関係)が成り立つ」ということだ。

 インクジェットプリンターの解像度を上げたときに、インク滴が意図しないところへずれてしまうことはきっとあるだろう。その際に他のインク滴と重なったらどうなるだろうか?意図しなくても他のインク滴との重ね合わせは発生してしまうだろう。
 重ね合わせが成り立たない、非線型なインクではモアレが発生する。言いかえれば、意図しない濃度のばらつき・ざらつきが発生してしまう。「2項分布のムラについて考える(1999.01.08)」で考えたようにランダムに重ね合わさるから広い領域では一定だろうというのは予想外に成り立たないのである。でたらめというのは私の予想外に大きく効いてくるのである。
 しかし、重ね合わせに線形性が成り立つ淡色のインクではモアレが発生しない。すなわち、いくらランダムにインク滴の重ね合わせが生じてしまったとしても、意図した通りの濃度をだすことができ、ばらつき・ざらつきは発生しないことになる。参考までにインクジェットの印字画像の拡大写真を示してみる。

インクジェットの印字画像の拡大写真
(CQ出版 洪 博哲著 お話・カラー画像処理より引用したものとそれを加工したもの)
淡色インクを使った出力例
左をグレイ化したもの
 インク滴が重なったところで濃度の線形性が保たれている、すなわち、重なったところはちゃんと濃くなっている、のがわかると思う。

 「重ね合わせに線形性が成り立つ淡色のインクではモアレが発生しない。すなわち、いくらランダムにインク滴の重ね合わせが生じてしまったとしても、意図した通りの濃度をだすことができ、ばらつき・ざらつきは発生しない」と、書いただけでは意図するところが伝わらないと思うので、「モアレはデバイスに依存するか?(1998.11.20)」で使った画像を用いて考えてみる。この画像は重ね合わせがある幾何学模様で生じているが、この現象がランダムに起こっているものとして読み替えて欲しい。

淡くない色のインクで重ね合わせ(インク滴の意図しない重なり)を行う。
1回目の印字
2回目の印字
出力画像
 淡くない色のインクで重ね合わせ(インク滴の意図しない重なり)が生じると、黒と白の模様が生じる。もしこの重ね合わせ(インク滴の意図しない重なり)がランダムに起きるとしたら、ランダムな黒白模様が発生することになる。そして、「2項分布のムラについて考える(1999.01.08)」で調べたようにその影響は予想以上に大きいのである。

 下は、淡色のインクで重ね合わせ(インク滴の意図しない重なり)が生じた場合である。

淡色のインクで重ね合わせ(インク滴の意図しない重なり)を行う。
1回目の印字
2回目の印字
 出力画像

 なんの模様も生じていなく、意図した通りの画像出力ができているのがわかると思う。

 ということで、今回の話(というか前の2回の話)の繋がりは、
淡色のインクを用いたインクジェットプリンターでは、意図しないインク滴の重ね合わせが生じてしまっても、濃度変化が生じにくく、意図しないインク滴の重ね合わせがでたらめに発生してしまったとしても、画像にはあらわれない可能性があるということである。

 うーん、マニアックな内容だ。「身近な疑問を調べる」という看板に偽り有り、である。しかも単なる推論だ。
 しかし、もしもインクジェットプリンターを買う人がいるならば、淡色のインクを使っているものを購入するといいかもしれない、ということがわかっただけでも良しとしておこう。

1999-09-26[n年前へ]

デバイスドライバーは仮免 

ClearTypeの秘密

 昨年、COMDEX/Fall '98においてMicrosoftが発表した「ClearType」技術というものがある。液晶ディスプレイなどの表示の解像度をソフトウェアのみで向上させるという技術である。PCだけでなく、液晶を使った電子ブックなどをターゲットにしているという。(参照:http://www.zdnet.co.jp/news/9811/16/gates.html)

 技術の詳細については、「特許申請中」ということで、明らかにされていない。しかし、その技術について推論している人は数多くいる。例えば、

や、Gibson Research Corporationのといった所がある。中でも、The Technologyof Sub-Pixel Font RenderingからはFree & Clearというデモプログラムをダウンロードすることができる。
Free & Clearの動作画面(縮小後、JPEGに変換しているのでこの画面では効果はわからない)

 ビックリすることに、確かに効果があるのである。カラーシフティングによりシャッキリした文字になるのだ。しかも滑らかなのである。デジタル接続の液晶を用いている方は確認すると面白いと思う。

 もっとも、こういう画像はWEB上で納得するのは難しい。JPEGのような圧縮画像では、情報が完全には保存されず、意図した出力ができないからである。とりあえず、デジタル接続の液晶ディスプレイを使っている方はとにかく試してみると良い。目からウロコである。

 さて、この原理であるが、カラーシフトについては色々なところで説明してあるが、若干わかりにくい画像例が多い。そこで、自分流に解釈しなおして考えてみたい。そして、実験してみようと思う。

 まずは、右上から左下に走る黒字に白斜線を考えてみる。1ドット幅で、しかも、上から下へ行く間に1ドット右から左にずれるようなものである。液晶の1ドットはRGBが縦に並んでいる。例えば、

で計測した画像例だと、
液晶ディスプレイの拡大画面
という感じである。良く見ればRed,Green,Blueの順番で並んでいるのがわかるだろう。

 1ドット幅で、しかも、上から下へ行く間に1ドット右から左にずれる黒字に白い斜線を考えてみる。これはそのような斜線を拡大したものである。

1ドット幅で、しかも、上から下へ行く間に1ドット右から左にずれる斜線
従って画像幅は本来2ドットである。

 そのような斜線を液晶で描くと通常は下の左図のようになる。通常の処理が左で、カラーシフトを用いた処理が右である。通常の処理ではRGBの位置を同じものとして処理しているので、RGBそれぞれが同じように変化している。しかし、カラーシフトを用いた処理においては、RGBの各位置が異なっていることを考慮の上、処理を行ってみたものである。そのため、滑らかな斜線になっているのがわかると思う。

左が通常の処理、右はカラーシフト処理

 このように、デバイスの個性を把握した上できちんと生かしてやれば、デバイスの能力をもっと引き出すことができるわけだ。 個性の違いを越える世界というのは、個性を無視した世界とはまったく逆であり、個性を最大限理解して初めて個性の違いを超えることができるのだ。

 さて、効果を確認するために、そのようなハーフトーンパターンを作成してみた。ただし、ここで表示している画像はJPEGに変換してしまっているので、効果は現れない。また、本来見えるはずの画像とはかなり異なってしまっているので、各画像をクリックしてオリジナルのTIFファイルをダウンロードして確認して欲しい。

1ドット幅で、しかも、上から下へ行く間に1ドット右から左にずれる斜線ハーフトーン
クリックでオリジナルのTIFFファイルにリンクしている
ノーマル斜線
カラーシフトを用いた斜線

  さて、この画像ではわからないだろうが、TIFFファイルの方を見て頂くと、カラーシフトを用いた斜線ハーフトーンの方では、色模様が出現してしまっているのがわかると思う。それは、液晶のガンマ特性を考慮していないからである。

 このガンマ補正については、一般的に使われるガンマの意味だけでないものが含まれている。一言では簡単には説明しきれないので、説明は次の機会にする。Free&Crearでもそのガンマ特性を調整する機能がついている。白地に黒文字であるか、黒字に白文字であるかの違いがあることに注意すれば、その数字の意味がわかる。ここでは、その補正をしたものを示すだけにしておく。と、いっても、私が使用している液晶のガンマを考慮したものなので、一般的には役に立たないだろう。

上の画像をそれぞれガンマ補正したもの
ノーマル斜線(ガンマ補正後)
カラーシフトを用いた斜線(ガンマ補正後)

 あなたが目にしている画像では、画像ではガンマ補正した方が変に見えていると思う。それは、私とあなたの使っているデバイス(と視点)が異なるからである。ここでやったのと同じやり方で、あなたの液晶に合わせて(なおかつ、同じ視点で)やれば、きれいに出るはずだ。
 さて、この結果を私の液晶で見てみると、カラーシフトを用いた斜線(ガンマ補正後)の方ではきれいに斜線のハーフトーンが出ている。ただ、いくつか問題があるのだが、それは次回までの宿題だ。と、いってもヒントはすでに「できるかな?」中でも出現している。ごく最近の話題でも、だ。

 このカラーシフト技術は実に単純なアイデアである。しかし、これは実に面白いアイデアであると思う。効果が有る無しに関わらず、こういうネタは私は大好きである。ただ、こういう技術が日本のデバイス屋さんから出てこないことが少し残念だとは思う。デバイスもドライバーも両方作っているところにがんばって欲しいものだ。それまでは、「デバイスドライバーは仮免」といった所だろう。 .....うーん、ちょっと、強引かな。というわけで、何故か私の手元にはPalm-size PCであるCasio E-500があり、そして、久しぶりにVisualStudioをいじり始めるのであった。。

1999-10-07[n年前へ]

CCDカメラをバラせ! 

モアレは自然のClearText

 あまり、「できるかな?」では工作の話題が出ていない。いや、もしかしたら全然出ていないかもしれない。そこで、手元に8mmビデオのジャンクがあったので、こいつをバラしてみることにした。そして、これまで「できるかな?」に登場しているような話に関連していることがないか調べてみるのだ。いや、本当は嘘で計画済みの伏線張りまくりの話である。もしかしたら、勘のいい方はもう話の風向きはもうおわかりかもしれない。

 さて、今回分解するカメラはかなり前(といっても数年前)のモデルである。まずは、分解してみよう。

1 8mmビデオカメラのCCD&レンズ部分.
2. 方向を変えるとこんな感じ
3. 正面のレンズを外す
4. もっとばらす。中央にCCDチップ部分がある。
5. これがCCD部分。
6. CCD前部のフィルターを外す
7. CCD素子を正面から見ると
8. もっともっと拡大するとこうだ

 5.の写真でわかるように、CCD前部にはフィルターが着けてある。(当初はこれを赤外線フィルターだと考えていた。なので、このフィルターを外してやると、画質はとんでもないことになる。しかし、その上で赤外線投光器を装着すれば面白いカメラになりそうである。が、用途を間違えるととんでもないことになるので、今回はやらない。が、いつかやってみようとは思っている。もちろん、私は品行方正がモットーであるので、悪用はするわけがない。もちろんである。)と、書いたがその後、「これは赤外線とは逆のエイリアシング防止用のハイカットフィルタだろう」というご指摘を頂いた。フィルターが青色だったので、単純に赤外線カット用途かと思い込んでいたが、どうやら違うらしい。指摘の文章をそのまま、使わせていただくと「CCDは空間サンプリング素子であり、サンプリング周期(ピクセルのピッチ)よりも短い波長の光が入ると、エイリアシング(折り返しノイズ)を生じて擬似カラー、干渉縞を生じてしまいます。これを避けるためのハイカットフィルタです。」とある。その後、知人から頂いた資料(勉強しなおせ、ということだろう)を読むと、水晶板をだぶらせて2重像にすることにより、細かい解像ができないようにしているローパスフィルターであるようだ。空間周波数のローパスである。今回のCCDでは3層構造になっており、中央の層にのみ色がついている。反省がてら、次回にもう少し調べてみようと思う。

 ところで、7.などの拡大画像で周辺部が丸くケラれているのがわかると思う。これは、

と同じく実体顕微鏡の接眼部からデジカメで撮影を行っているからである。デジカメはこういう時に何より重宝する。さて、デジカメと言えば、こちらも同じくCCDを用いているわけである。

 さて、8.の拡大画像を見ると、このカメラのCCDのカラーフィルターは補色方式(CMYG=シアン、イエロー、マゼンダ、グリーン)であることがわかる。原色タイプでないところを見ると、どうやら感度重視の製品であるようだ。また、この拡大画像などを眺めると、

で調べた液晶のフィルターと同じような構造であることがわかる。よくストライプ模様の服を着ている人をCCDビデオカメラで撮影すると、モアレが発生することがあるが、それはこういったフィルターの色の並びに起因しているわけである。フィルターの周期とストライプの模様が干渉してモアレが生じてしまうのである。

 最近のものではソフト的にかなりの処理をしてモアレが出にくいようにしているし、CCDも高解像度化が進んでいるので、なおさら出にくい。私が使用している富士写真フィルムのFinePix700でそのようなモアレを出そうと思ってみたが、なかなか出なかった。むしろ、ピントを正確に合わせることができなかった。それでも、何とか白黒の縦線模様を撮影して、モアレを出してみたのが下の写真である。左がオリジナルで、右がそれに強調処理をかけたものである。

FinePix700で白黒の縦線模様を撮影した際のモアレ
(左上から右下へ斜めにモアレが出ている)
オリジナル
左に強調処理をかけたもの

 モアレが発生しているのがわかると思う。さてさて、こういう白黒ストライプをよく眺めてみれば、

で登場したこの画像を思い出すはずだ。
ノーマル
ノーマル斜線
カラーシフトを用いた斜線

 そう両者ともまったく同じ斜線である。そもそも、前回作成したパターンは今回への伏線であったのである。白黒の縞模様を撮影しているのであるから、普通は白黒模様しか撮影されない。しかし、モアレが発生している場合というのは、CMYGからなる1画素の中でのさらに細かな位置情報が判るのである。先ほどのCCDの色フィルターの拡大写真のような配置になっていることを知っているのであるから、その配置も考慮の上処理してやれば良いのである。もちろん、白黒の2値からなる画像を撮影しているという前提条件は必要である。その前提条件さえつけてやれば、モアレが生じていることを逆に利用して、高解像処理ができるはずだ。

 例えば、

CCDのCMYGからなる一画素
GreenMagenda
YellowCyan

という画素のGreenだけ出力が大きかったとすると、グレイ画像であるとの前提さえ入れてしまえば、1画素のさらに1/4の領域まで光が当たっている位置を推定できるということになる。もちろん、実際のカメラでも4色の間で演算をしてやり、ある程度の推定はしているだろう。しかし、前提条件を入れてやれば、より高解像度が出せるだろう。

 ClearTextの場合は白黒2値の文字パターン、あるいはハーフトーンという前提条件をつけて液晶に出力を行った。今回は、白黒2値の文字パターン、あるいはハーフトーンという前提条件をつけて、CCDからの出力を解釈してやれば良いわけである。CCDカメラにおいては自然が自動的にカラーシフト処理をしてくれるのである。そのカラーシフト処理からオリジナルの姿を再計算してやれば良いわけである。もっとも、これらのことは光学系がきちんとしている場合の話である。

 今回考えたような、そういった処理はもうやられていると思う。FinePix700でも撮影モードに

  • カラー
  • 白黒
の2種類があるので、もしかしたらそういう処理が含まれているのかもしれないと思う。それでは、実験してみよう。白黒の方がキレイに縞模様が撮影できているだろうか?
FinePix700で白黒の縦線模様を撮影した際のモアレ
(左上から右下へ斜めにモアレが出ている)
白黒モードで撮影
カラーモードで撮影

 うーん、白黒のほうがキレイなような気もするが、よく判らない。念の為、強調処理をかけてみる。もしかしたら、違いがわかるかもしれない。

上の画像に対して強調処理をかけたもの

 うーん、これではますます違いがよくわからない。これは、次回(すぐにとは限らないが)に要再実験だ。ただ使っている感覚では、まずピントがきちんと合わないような気がする。うーん、難しそうだ。それに、今回の実験はローパスのフィルター部分をなくしたものでなければならなかったようにも思う。ならば、FinePix700を使うのはマズイ(直すのメンドクサイから)。どうしたものか。

2000-09-26[n年前へ]

紙文化の未来? 

「モニターや何かは解像度的に長時間読むのはキツイですよね。」「だけど、にちゃんねるを何時間も読んじゃったりするんですよね。」「だけど、アレ紙で読んでも面白いものですかね?」 今日の会話から

2001-04-29[n年前へ]

ファイト!縦文字文化 

縦と横の解像度を考えよう


 今年も去年に引き続き英語研修を受けている。といっても、去年は毎日十五分の英語研修だったが、今年は週二日のものを二種類受けている。何事も、「一番弱いところを強くするのが一番」というわけで、それが私の場合は英語であるわけだ。いや、もちろん弱いところは数え切れないほどあるのだが、英語はもうどうしようもないくらいダメなのである。

 その英語研修を受ける中で、本当に実感するのが「頭の中でも英語で考えないとキツイ」ということである。頭の中で日本語で考えてから英語で喋ろうとすると、その「日本語→英語変換」のオーバーヘッドはすさまじくて、とても会話にならないのである。もちろん、当然その逆もしかりで「英語→日本語変換」なんかもやっていたら、あっというまに相手の喋るスピードについていけず、「ここはどこ?私はだれ?」状態になってしまう。
 

 もちろん、「頭の中で英語で考えられる位なら、そもそも苦労はせんのじゃぁ!」と叫びたくなることもしばしばあるわけで、実際のところ私にはどうしたら良いのか全然わからないのである。「頭の中に言いたいことは沢山あるけど、それを伝えられない状態」と「頭の中でたいしてものを考えることができない、それを伝えられる状態」とどっちかを選べと言われても困ってしまう。残念ながら、「英語で頭の中でビュンビュンと考えて、それが口からペラペラとでてくる」状態は私には遠い夢物語のようなのである。
 

 こんな苦労は、日本語人生一本やりだった私が英語を使う場合にはどうしても避けられない話なのであるが、そんな「私の苦労」と似たような話はコンピュータの世界にも実はある。例えば、「今日の必ずトクする一言」でもよく登場する「Windowsの日本語化のオーバーヘッドに関する一連の話」などがそうである。超漢字あたりであれば話は別なのかもしれないが、Windowsに限らずどんなOSであっても英語だけを使うときと、日本語のような言語を使うときではスピードが全くと言って良いほど違ってしまう。

 例えば、英語版のWindowsであれば最新型のPCでなくてもサクサク動くのであるが、これが日本語版のWindowsともなると、最新型のPCでなければカタツムリのようなスピードに変わってしまうのである。最新型のWindowsやMacOS***の推奨マシンスペックは○×○×です、とOSメーカーが言ったところで、それは英語圏での話で日本語人生の私のようなものにはそれは当てはまらないのだ。わずか100文字ほどのアルファベットですむ英語の場合と、約七千字ほどもある日本語を使う場合とでは文字・フォント処理のスピードが違ってしまうのは当たり前の話である。

 ところで、英語と日本語をコンピューターなどで扱う時の大変さというものは文字数だけの話なのだろうか?数が多いから大変なのは当たり前なのだが、それだけではないのではないだろうか。単に文字数が多いというだけではなくて、一つの文字当たりの情報量も日本語の方が遙かに多いと思うのである。例えば、アルファベットの中でも複雑な形をしている"M"と、日本語というか漢字の中でも結構複雑な形をしている「廳」を比べてみれば一目瞭然だろう。"M"よりも、「廳」の方がずっと複雑な形状をしている。

 漢字の文字数が多いということは、そのたくさんある文字を区別するためにも漢字という文字の形状自体が複雑にならざるをえないわけで、それはすなわち漢字一文字の情報量はアルファベット一文字の情報量よりも遥かに多いということだ。ということは、

  • 一文字辺りの情報量が多くて
  • しかも文字数が多い
という日本語(あるいは漢字などを用いる言語)の処理速度が低下するのはしょうがないのである。
 

 しかし、「PC内部での処理も大変ではあるが、それを外部に出すときも大変だろう」というのが今回の話のテーマである。モニタやプリンタに出力する時の大変さも英語と日本語では大違いで、しかも英語文化で考えると見えない落とし穴があるのではないだろうか、という話である。

 まず、文字を表示するスペースというのは大体決まっている。そんな限られた同じスペースの中に、一文字辺りの情報量が少ないアルファベットと多い漢字を同じように詰め込めるだろうか?先ほどの"M"「廳」を縮小して10pt程度にしてみると、その答えはすぐにわかる。アルファベットの"M"の方はちゃんと読めるとは思うが、漢字の「廳」の方がちゃんと識別できる環境の人がいるだろうか?PCの画面に表示されている「廳」はずいぶんと省略されたてしまっていたり、あるいは潰れてしまっていたりするはずである。

 つまりは、PCの内部でも漢字のような文字を扱うのは大変であるが、それを外部へ表示したりするのも実際問題大変なのである。英語圏のアルファベット文化から考えれば、10ptなんて大きくて読みやすいと思うのかもしれないが、漢字などを考えると今のモニタの解像度では10ptでも小さすぎるのである。逆にいえば、アルファベットなどを表示する時に比べて漢字などの文字を表示する時には、遥かに高い解像度のモニタが必要とされるのである。PC自体の能力だけではなくて、モニタなどの出力機器も遥かに高い能力が必要とされるわけだ。
 

 もちろん、それは漢字だけの話ではない。世界中の文字で当てはまるハズの話である。試しに、

から、六つの文字種を適当に選び、それぞれの文字種の中でも一番複雑な形状をしていた文字を選んでみたのが下の一覧である。
 
世界の文字
アラビア文字
ヒエログラフ
漢字
ラテン文字
マヤ文字
ロンゴロンゴ文字

 アラビア文字あたりはラテン文字であるアルファベットと同じ程度の複雑さであるが、その他の文字はやはり遥かにアルファベットよりも複雑な形状をしている。「この中の半分くらいは使われていない文字じゃねぇーか!」という声も聞こえてきそうな気もするが、そんな小さいことを気にしてはいけない、とにかくアルファベットは色々ある文字の中でも単純な形状をしていて、漢字は複雑な形状をしているのである。

 次に、それぞれの文字画像の複雑さの特徴を眺めるために、それぞれ二次元フーリエ変換をかけて、周波数空間に変換してみたものを示してみることにしよう。まずは、漢字の例を示して図の見方を説明してみたい。
 

漢字の文字画像を二次元フーリエ変換をかけて、周波数空間に変換したもの

 図の横・縦方向が実際の文字の横・縦方向に対応し、図の中で中央から外周方向に向かって低周波から高周波の成分の量を示している。強さは
小 ← 赤 黄 黄緑 青 紫 → 大の順番になっている。

 たとえば、この漢字の例だと
ちょうど縦・横方向の周波数成分が多くて、しかも高周波まで含んでおり、縦と横とで比べると、縦方向の方が多くて、高周波の量も多いことがわかる。
 
 

 上の説明に書いたように、こんな風に文字画像を周波数空間に変換すると、「漢字は縦と横の線が多い」ということがよくわかる。しかも、

の時に調べたように、漢字は「縦方向に周波数成分が多い」、すなわち言い換えれば「横方向の線が多い」こともわかるのである。
 

 さて、世界の文字六種に戻って、それぞれを周波数空間に変換して並べてみると、こんな感じになる。
 

世界の文字六種を周波数空間に変換してみると…
アラビア文字
ヒエログラフ
漢字
ラテン文字
マヤ文字
ロンゴロンゴ文字

 こうして六種の文字種を周波数空間に変換して眺めてみると、色々なことが判る。例えば、

  • アラビア文字はほとんど高周波を含まない
  • ヒエログラフは比較的高周波が少なく、方向性も持たない
  • 漢字に含まれる高周波成分はほとんどが縦・横方向のみであり、その中でも「縦方向に周波数成分が多い」、すなわち言い換えれば「横方向の線が多い」
  • アルファベットは低周波がメインであり、縦横では横方向の方が高周波を含んでいる、すなわち縦の線が多い
  • マヤ文字は一番高周波まで含んでおり、比較的方向性も少ない
  • ロンゴロンゴ文字はアラビア文字よりも高周波が多いが、それでも比較的低周波メインであり、方向性もない
などだ。やはり、漢字やマヤ文字をきれいに表示するためには、ラテン文字のアルファベットやアラビア文字を表示するよりも、ずっと高解像度の表示装置が必要となるのである。
 

 もちろん、ラテン文字が比較的高周波が少ないからといって今の表示装置で十分だというわけではなくて、ラテン文字でもより高解像度のディスプレイが必要とされている。例えば、液晶画面などで文字を多量に読むことを想定している電子ブックなどの用途のためには、

で調べたMicrosoftの「ClearType」などの技術がある。これは液晶のRGBの画素の配列が横方向に並んでいることを利用して、横方向の解像度を高める技術である。

 ということは、こういう技術は横方向の高周波成分が多いラテン文字などでは効果が大きく、またラテン文字自体が比較的高周波成分が少ないために、こういう技術を使えば必要十分ということになるのかもしれない。しかし、日本語(漢字)のようなもともと高周波成分が多くしかもそれが縦方向に多い、というようなものでは効果は比較的少ないことが考えられる。もちろん、それは液晶というデバイスの特徴によるもので仕方のない部分もあるのだが、もしかしたらもしかしたら日本語のような縦方向の高周波を再現しなければならない言語のことを意識していないせいかもしれない。

 こんなことは液晶などのモニタだけではなくて、一般的なプリンタもそうだ。例えば、インクジェットプリンタではエプソンのPM-900Cの仕様などを眺めてみても、標準で720×720dpiで、高画質モードでは1440×720dpiとなっている。それはレーザービームプリンタなどでも同じで、リコーのプリンター大百科からウルトラスムージングテクノロジーを見てみても、やはり横方向の解像度のみを高めて2400dpi×600dpiとなっている。やはり、プリンタなどの印字装置でも横方向の解像度を高めようとはするが、縦方向の解像度は低いままにしているのである。もちろん、縦方向の解像度を高くすると印字速度が遅くなってしまうという、プリンタの特性があるにしても、やはり日本語を印字するためには不利な設定となっているのである。日本人としては、解像度表示は縦方向を重視するべきで、横方向の解像度表示にダマされるべきではないのである。高解像度2400dpiなんて言われても、「ヘヘン、オレは縦文字文化の日本人だから関係ないんだもんね」くらいは言って欲しいわけである。
 

 実際のところ、せっかく日本語(漢字)を使うのだから、日本語の特性に応じたPCやモニタやプリンタがあっても良いのになぁ、と思う。いや、というより日本語の特性をもっと理解するところから始めなければならないのかもしれない。そうだ、私はまずは日本語の勉強から始めるべきなのだ。英語の勉強をしている場合ではないし、頭の中で英語で考えていたりすると、縦文字文化に合った発想ができなくなってしまうに違いないのである。って、英語学習から逃げてるだけだったりして…

 あぁ、しまったぁ。今回はホントに真面目な話になってしまったぞ、と。しかも、まるで国粋主義者みたいだし。
 



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