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1998-12-28[n年前へ]

本歌取 1998 

1999年の夏休み

まもなく、1999年だ。1999年というとノストラダムスも有名だが、結構好きな映画に「1999年の夏休み」というものがあった。これを振り出しにして、双六のように考えてみる。

「1999年の夏休み」

 金子修介監督の映画だ。不思議な雰囲気の映画だ。原作は萩尾望都の「トーマの心臓」である。そのまた元を辿ると、同じく萩尾望都の「11月のギムナジウム」に辿り着く。つまり、

萩尾望都「11月のギムナジウム」 -> 萩尾望都「トーマの心臓」 -> 岸田理生(脚本)「1999年の夏休み」となる。-> 金子修介(映画)「1999年の夏休み」

これは、ある本歌に対して、それを翻案したものが連なっているように見える。本歌取が連なった連歌に見える。だから、それぞれ単独で楽しんでもいいが、どのように変わっていったか、などを楽しむのもいい。

「1999年の夏休み」については
「AngelHouse」( http://www2s.biglobe.ne.jp/~sgsc793/index.htm )
「こどものもうそう」( http://www.asahi-net.or.jp/~IH9K-YNMT/ )
などが詳しい。

リンク先はhttp://www2s.biglobe.ne.jp/~sgsc793/index.htmより
 「1999年の夏休み」では、上の右に写っている、深津絵里が初々しい。
 この中で、薫という登場人物が登場するが、エヴァンゲリオンに出てくるカヲルはこれに影響されているのではないか、という話が先のWEBに出ていた。底が浅いTVに興味はないが、最後の方で登場する人物の名前が「薫」というのは源氏物語の昔に溯る。それは、日本で初めての物語からの伝統なのである。源氏物語の本歌取といっても良いだろう。「薫」という名前を持つ人物を考える際には、源氏物語の「薫」の役割を意識するべきである。最後に物語の全てを背負い、繋げていく役割を背負うのは「薫」なのだ。この本歌取を意識する読み方は、記号論に通じる。
 同じ「薫」が登場するミステリィというと、栗本薫の作品群があるが、特に栗本薫の「猫目石」を読む際には源氏物語の「薫」を意識しなければ意味がないと思う。また、ミステリィ作家で「薫」の名前を持つ人は多い。
  • 北村 薫
  • 栗本 薫
  • 高村 薫
 他にもいたかもしれない。ミステリ作家にこだわらなければ、「赤頭巾ちゃん気をつけて」の作者もそうだ。

 「1999年の夏休み」と同じ金子修介脚本監督の映画として、「毎日が夏休み」がある。こちらは、大島弓子が原作だ。この場合は

大島弓子「毎日が夏休み」 -> 金子修介(脚本)「毎日が夏休み」 -> 金子修介(映画)「1999年の夏休み」

となる。

 次に、深津絵里繋がりで(ハル)に移る。

(ハル)

深津絵里はこの映画にも出ていた。 オープニングの雰囲気は「1999年の夏休み」に似ている。どちらも、映画の重要な要素である画像を(ある意味で)使わず、表現をしているというのがいい。登場人物も非常に少ない。表現は制限をかけてこそいいものができると思う。完全に自由な中にはなかなか良い物ものは生まれない。それは、選択肢が増えすぎると、人は良いものを見つけるのは困難だからかもしれない。
 この映画の内容はパソコン通信関係だ。
リンク先はhttp://www.ntv.co.jp/sinepa/h90708.htmlより

深津絵里の眉毛はまだ太くて良い。

HOME-TOWN EXPRESS

 JR東海のCMというとクリスマスエクスプレスの印象は強いが、第二回目の牧瀬理穂の回しか覚えていない人も多い。しかし、第一回目の深津絵里が演じたHOME-TOWNEXPRESSのクリスマスバージョンが一番良かった。HOME-TOWN EXPRESSはその他にも良いものがたくさんあった。クリスマスエクスプレスになって第二回目の牧瀬理穂の回は、「最後にプレゼントを持って柱の後ろで恋人を待ち、その向うに恋人がいる」ところなど、第一回目の回に対する返歌にも見える。

 JR東海とくると、萩尾望都関連で「半神」の夢の遊眠社のステージをCMに使っていたものもあった。これなども連歌であり、本歌取の繋がったものである。

ブラッドベリ「霧笛」 -> 萩尾望都「霧笛」 + 萩尾望都「半神」 -> 野田秀樹「半神」 -> JR東海「もっと私 CM」

となる。

HOME-TOWN EXPRESS X'mas 1988はもう10年前であることに驚く
HOME-TOWN EXPRESS 1988
帰ってくるはずの恋人がホームに降りてこない。と、思うと柱の向うからプレゼントを持った恋人が現れる。
JR東海「もっと私 CM」
「そんな音をつくってやろう...」

 最近、NODA MAPの「半神」に深津絵里が出る、と聞いた。これで、深津絵里を狂言回しとして、物語は一周したことになる。

そういえば、深津絵里は「虚無への供物」のTVドラマにも出ていた。あのTVを見た人に、原作の「虚無への供物」の面白さがわかるだろうか...

虚無への供物といえば、連歌はこうなる。

中井英夫「虚無への供物」 -> 竹本健二「匣の中の失楽」

というわけで、「匣の中の失楽」を読む前には「虚無への供物」を読まなければならない。「虚無への供物」の中の「どちらが現実で、どちらが架空の世界なのか、誰がわかる?」という訴えを、そのまま展開したのが「匣の中の失楽」である。「匣の中の失楽」に連なるミステリィ物もあるようだが、問題外としておく。

 ここ2,3年は、まるで「虚無への供物」の舞台のような年であったように思う。何が現実で何が架空なのか。

1999-05-23[n年前へ]

HooPoディスプレイの謎 

夢の扉が開かれる

 ビジネスショー'99に行った。そこで、面白いものを見かけたので紹介したいと思う。
まずは、NTTのブースである。下の写真では判りづらいだろうが、色々な画像と文字が立体的に(奥行き情報を持って)すばやく映し出されているのである。


 映像が立体的になった瞬間は「まさかレンチキュラー方式?」などと考えてしまったが、
奥行きに2段階しかないことに気づくと(映像の変化が激しく、気づきにくかったのだ)、謎は解ける。一番置くに大きなディスプレイがあり、その前に半透明のシートがあり、そのシートに対して前方からプロジェクターで前景を映し出しているのである。なかなか面白そうなので、後でじっくり観ることにした。

 次の面白いものは、以下である。HoroProディスプレイという名称である。

ディスプレイが透けているのがわかるだろうか?ITEM-16というのは後ろの壁である。


 一見ただのガラス板である。最初は発光ディスプレイかとびっくりした。しかしこれもタネは前のNTTの場合の前景スクリーンと同じようなものである。下からプロジェクターで映しているのである。しかし、それも良く見なければ判らない。
 アオリの調整などはどうしているのだろうか?そういった機能を内蔵するゾーンプレートのようなものなのだろうか?これは実に面白い活用方法がありそうだ。

NTTもHoloProも簡単なタネを持つ科学おもちゃであり、見ているととても楽しい。どういったタネであるかを考えるのはミステリーを解くようで面白い。

.
.
.


 さて、それでは席をちゃんと確保してNTTのブースを見てみることにしよう。こちらは、キーワードといい、演出といい、実に私好みだった。ラストなど感動してしまった位だ。

「夢の」扉が開かれる。
文字がうすぼんやりと浮かんでいる。



色々な映像が映し出され、カウントダウンが始まる。



始まるといきなり映像に奥行きが生まれる。
前後で映像・文字がすばやく映し出される。


 この瞬間には不思議な立体感が強く感じられるわけである。

ディスプレイとスクリーンの中央が照らされ、そこに人がいたことがわかる。


 ここでも、不思議な立体感は続く。

輝きながら、スクリーンが揚がる。


 この緞帳が揚がる瞬間というのは実に気持ちがいい。コンサートでも舞台でも緞帳というのは現実の世界と架空の世界の間の「扉」である。それを開けるということは、すなわち、架空(今回は夢か)の世界へ入っていくことに他ならない。

ここからメインのプレゼンが始まる
ビジネス、パブリック、ホーム、SOHOといった舞台で様々な人物が登場し、ディスプレイの前後が一体化した寸劇風のプレゼンを行う。
そして彼らは、必ず最後には後ろのディスプレイの中に溶け込んでいく。



 ここでは、一見夢の世界に思えるプレゼンが続くわけである。

プレゼンが終わり、スクリーンが下る。そして、キーワードが前後に映し出される。



 スクリーンが下がる、緞帳が下がるということは、これから「夢」の世界から現実の世界に戻っていくわけだ。

周囲が明るくなり、これまで登場した人物達が
勢ぞろいしていることがわかる。
彼らはビジネス、パブリック、ホーム、SOHOといったものを
代表する人物達である。




登場人物の前後を縦横無尽にこれまで使われた映像、
すなわち、登場人物達を象徴する映像が映し出される。

 これまで登場した人物達は、未だスクリーンの向こう、「夢の扉」の向こうにいるのである。

「夢の扉」を開く原動力、それは...と始まる長い台詞が続く。
エンディングはこうでなくちゃ。
- そして今、「夢の扉」が開かれます -

 もちろん、その瞬間にスクリーンがあがるわけだ。

スクリーンが揚がり、役者が並んでいる。
(絶対、ここは拍手だと思うんだけどなぁ。)

 こういった風景は舞台であれば、単に役者が演じていた者から素に戻り、役者紹介、すなわち架空の世界から現実の世界に戻るだけであるが、今回の場合はそれだけに留まらない。
 「扉」の向こうで演じられていた「夢」がすでにここにある、ということを端的に示しているのである。夢の世界はスクリーンの向こうにあるわけではない、夢の世界はもうここにある-「夢の扉」は開かれた-ことを強く示すものだ。

 最後の「夢の扉を開く原動力、それは..」.の後につづく台詞も結構良かった。役者と製作者達に拍手をしたい。

1999-09-29[n年前へ]

五色不動のワンダランド 前編 

黒ビロードのカーテンが開く

 本WEBは色にこだわっている。今回はとある五色に関する物語である。「もしかして、iMacのこと?」と思われる人もいるだろうが、残念ながら違う。数百年にわたり東京を守っているという五色の場所の話である。

五色といっても色々ある。このiMacも実は五行説に影響されている?

 「黒天鵞絨(びろうど)のカーテンは、そのとき、わずかにそよいだ。」と黒という色で物語が始まり、
「辛子いろのカーテンは、そのとき、わずかにそよいだ。」とやはり色で終わるミステリがある。これは以前、

でも書いた中井英夫の「虚無への供物」 である。「虚無への供物」は不思議な色に彩られた小説である。その中の鍵の一つが江戸五色不動だ。現在も東京に張り巡らされている五色による結界、すなわち、江戸五色不動について調べてみたいと思う。というわけで、今回の話を楽しむためには、中井英夫の「虚無への供物」を本屋へ買いに走らねばならない。私は中井英夫の「虚無への供物」は日本が誇るミステリーの最高傑作の一つだと思うのだ。

 もう10年近く前になると思うが、「本の雑誌」に江戸五色不動が実在し、そこを巡ってみたという話があった。それを読んでから、機会があれば江戸五色不動を巡ってみたいと思っていた。ミステリーの登場人物のように、東京の街の中でさ迷い歩いてみたいと思っていたのである。そして、東京のワンダランドの入り口を見てみたいと思うのである。

 五色不動の内、目黒不動は有名であるし、目白不動は目白という地名としても残っているので有名といってもよいだろうが、残る目青、目赤、目黄不動はそれほど有名ではないだろう。そもそも、 「五色」の由来は、古代中国の五行説に遡る。木、火、土、金、水の五つの要素から万物が成ると考えるものである。

五色と五行
1青龍
2朱雀
3中央天位
4西白虎
5玄武

 それでは、その江戸五色不動の位置を示してみる。このように五色の結界の中に東京があるとは知らないで、住んでいる人も多いのではないだろうか。

東京を囲む五色の結界

(位置は極めてアバウト。また、移転したものは江戸末期に存在した位置に描いたつもりである。)

 こうしてみると、五色不動の方向は江戸城を中心にして五行説の通りになっているわけではないことがわかる。しかし、江戸城を中心としているのは確かなようだ。また、黄色が二つあるのは、移転(あるいは分裂か?)があったためだという。三代将軍家光の時代に五色不動を作らせた天海大僧正の頭の中にはどのような設計図があったのだろうか?

 さて、今回の探検のために私が持参した地図は少し古い。いや、はっきり言えばかなり古い。不動尊はしっかり載っているのであるが、これを頼りにしてもすぐ迷うのだ。大体、現在位置もよくわからないし、気のせいか地形すら違うように感じるのだ。まずは、目黒不動である。最初に地図で示してみよう。

目黒不動尊の辺り 目黒白金図 (1858)

人文社 「江戸切絵図で見る幕末人物事件散歩」より
 地図の左上辺り(一番明るい所)が目黒不動。 JR目黒駅は目黒川の場所から想像して欲しい。

 さて、その時の写真を以下に示す。これが現代の目黒不動である。

目黒不動尊
 目黒という地名は目黒不動があるからだけど...."黒の部屋"が突然出現して、そこが...
「虚無への供物」

 この目黒辺りは台地が繰り返す地形であるが、やはり目黒不動尊も台地の上にある。

 この日は目黒駅前では「目黒のさんま祭り」が開かれていた。ビールとさんまが夏の終わりを感じさせるのだ。

 目黒白金図 (1858)による、目黒不動の部分。内部の位置関係はそれほど変わっていなかった。内部に入ると龍泉寺という名前が納得できるだろう。

 また、「虚無への供物」が好きな方ならば、いきなりコンガラ童子達が出現するのには驚くはずだ。

 1858年といってもたかだか150年前である。江戸時代の圧倒的な長さから比べたらごく最近である。
 
 
 
 

 さて、あまりに重いページになってきたので、この続きは次回に。
 

1999-12-16[n年前へ]

スキー場の特殊相対性理論 

ジャンプの飛距離は何メートルだ?


突然ではあるが、HIRAX.NETのドメインレコードを調べてみると、

Record created on 16-Dec-1998.
となっている。自分のドメインのレコードをわざわざ調べたのは、一体いつ取得したのか私自身が忘れてしまったからである。何しろ、「できるかな?」は当初異なる場所での二本立てで公開していたため、私の記憶がごっちゃになっているのである。あと各回の公開順序も実はかなりシャッフルされている。そのため、完全に忘れていたのである。

 「できるかな?」はHIRAX.NETのコンテンツの一部である。しかし、HIRAX.NETの誕生日よりも、「できるかな?」の誕生日の方が実は早い。

で書いたように、「できるかな?」はすでに満一年を迎えていたわけである。そしてやっと、本日でHIRAX.NETも満一歳になったわけだ。何はともあれ、目出度いことである。子供の頃やらされた「ドリル」でも3日も続かなかったのに、1年続くとは、正に奇跡である。奇跡はそうそう続かないような気もするが...

 さて、関係ない話はここまでである。今回の舞台は万座温泉だ。なぜなら、先週末私は万座温泉でスキーをしていたからだ。何故だか理不尽な話しではあるが、私は万座温泉でローレンツ収縮を考える羽目になったのだ。もう少し正確に言えば、スキー場で特殊相対性理論を考える羽目になったのである。(先に断っておくが、私はトンデモ話をマジメな顔で言うことが多い。)

万座の帰りに撮影した写真

 話の発端はスキーに行く前に遡る。職場の今年の新入社員であるタカノリ君(仮名)とスキーの話をしていた。彼は秋田出身であり、子供の頃からスキー三昧の生活をしていた。大学に入り京都へ行ってからは、スキーをやる頻度は下がったが、チョコチョコ行ってはいたという。

 そのタカノリ君(仮名)と話していると、彼はさりげなくこう言った。

10m位のジャンプはよくするスよ。」
「えぇ、本当かぁ〜〜」
「いやぁ、そんなのよくやることじゃないスか?」
10mである。2mの身長の人の5人分である。それは、スゴイ。
 今回のスキー&温泉旅行は職場(と何故か競合他社)の人達30人程で行った。ほとんどの人は、割にスキーは好きな人が多い。従って、スキーも上手い人が多い。その人達に囲まれながら、タカノリ君(仮名)は断言した。
「6,7mは簡単だけど、10mってスゴイなぁ。」
「本当かぁ〜〜」
「えっ、だってただ飛ぶだけじゃないっスか。」
タカノリ君(仮名)、ただ者ではない。

 そこで、スキー場でその確認をしたわけである。場所は万座プリンスゲレンデの下部である。リフトとコースが交差する辺りに、ジャンプできる場所があったのだ。そこで、彼は軽く滑り出し、力一杯ジャンプした。
 果たして、タカノリ君(仮名)は何メーター飛んだのであろうか? それとも、ただのホラ吹き男爵であったのだろうか?

 ところが、その答えをすぐに書くわけにはいかないのである。なぜなら、タカノリ君(仮名)がジャンプをしてみせた時に事件は起こったのである。

「どうスか!10mはいったんじゃないスか!」
「3,4mしかいってねーぞ!おイ!」


 これは、一体どうしたことだろうか? しかも、会話はまだ続くのである。

「何でっスか!軽く1秒は宙に浮いてたっスよ!」
「そんなことはねぇぞ!コンマ数秒だろう!」
 ますます不思議なことに、時間感覚すら違っているのである。一体何が起こっているのだろうか?

 私はここで気づいたのである。観測者の間で時間と空間の不一致が生じているのであれば、ここはもちろんアレの登場である。アレと言えば言うまでもない、もちろん特殊相対性理論である。
 そう、万座温泉スキー場ではローレンツ収縮を実感することができるのである。「スキー場でジャンプする」という現象を考える際には、「スキー場におけるhiraxの特殊相対性理論」を導入しなければならないのであった。

 それでは、簡単に「スキー場におけるhiraxの特殊相対性理論」を説明しよう。今回、生じている不思議な現象は以下のようになる。

登場人物

  • タカノリ君(仮名) 速度vでジャンプをしている。
  • 観客 静止している。
「飛んだ距離」や「飛んでた時間」の観測量されているか
「飛んだ距離」や「飛んでた時間」の観測量
タカノリ君(仮名)観客
飛んだ距離103
飛んでた時間10.3

 つまり、速度vで飛んでいるタカノリ君(仮名)の感じる空間や時間といったものは、静止している観客に比べて、いずれも3倍程度に膨張しているのである。

 通常の世界で生じるローレンツ収縮は、速度vで移動している観測者の空間軸も時間軸も


倍縮むのであるが(ここでは光速c=1の単位系を使用している)、
であるが、「スキー場におけるhiraxの特殊相対性理論」では、速度vで移動している観測者の空間軸も時間軸も静止している観測者に対して、逆に

倍に延びてしまうのである。もし、ミンコフスキーの時空図を書いて確認しようとする人がいるならば、座標軸の傾きの変化も通常のローレンツ変換と逆に考えてみてもらいたい(その延長で考えていくと、矛盾があるというご指摘メールはノーサンキューである。)。

 さて、そもそもローレンツ収縮は、マイケルソン - モーリーの実験結果(エーテルの影響が検出できない)を説明し、なおかつエーテルの存在を認めるために立てられた。それは、「運動体はすべてその運動方向に収縮する」という仮説である。その仮説を理論的に完成させたのが、アインシュタインの特殊相対性理論である(考え方としては根本的に異なるが)。

 今回の話の中で「エーテル」に変わるのは、「空気」だろうか? いや、違う。私はむしろ、速度そのものであると、考える。つまり、特殊相対性理論と同じである。スピードを出して飛んでいるという感覚、速度が与える感覚の変化、すなわち速度そのものが、「スキー場におけるhiraxの特殊相対性理論」を要請するのである。

 今シーズン、スキー場でせっせとジャンプをする人がいるならば、ぜひ「スキー場におけるhiraxの特殊相対性理論」について考えてみてもらいたい。

 このWEBへ来る人の中で、同時期に万座温泉スキー場にいた人はいるだろうか?12/11.12に万座温泉スキー場のプリンスゲレンデの下部でジャンプにいそしんでいたのが、私達の一行である。そして、その中の一人(ショートスキーでせっせと飛び跳ねていたヤツ)はこんなことをずっと考えていたのである。

 さて、実際のタカノリ君(仮名)の飛距離がどの程度であるか知りたいと思う人も多いだろう。オマエらの主観的な評価でなくて、実測定した距離を教えろと思う人も多いに違いない。
 「絶対的な基準など存在しないから、そんなことは私はわからない。」と言い放ちたいところだが、タカノリ君(仮名)の名誉のために書いておく。彼が飛んだ距離は、2m弱のスキー板で4本分はあった。実は、タカノリ君(仮名)の基準が一番正しかったのである。彼は、「やるときはやる有言実行の人」なのであった。

1999-12-19[n年前へ]

母に捧げるバラード 

宿題は自分でやってくれぇ

 今回の話は、とあるメーリングリストから始まる。仮にそのメーリングリストを"family-ml"と名付けておく。そのfamily-mlで論争が起きたのである。
 メーリングリストで論争が起きることはよくある。しかし、このfamily-mlは通常のメーリングリストではなかった。実は、とある家族を構成員とするものであった。そう、この家族は専用のメーリングリストを持っているのである。そこで、この論争は起きた。

 各登場人物の紹介は随時していこうと思う。

Tue, 14 Dec 1999 21:54:26 +0900 (JST)
To family-**@hirax.net From 母
Subject: レポート課題がわからない

みなさんお元気ですね。
   <中略>
ところで久しぶりに学校に行ったら、レポートの課題が出てました。そのうえ授業が進んでました。外国語聞いているみたいです。レポート課題 SOSです。だれか教えて下さい。

 大気の持つ質量あたりのエネルギーを、次の二つの例について求めなさい。

 「下」 赤道付近の地表面付近の大気
    高さ 0m
気温 300K
比湿 0.02(=20g/Kg)
風速(絶対値) 5m/s

「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気
    高さ 1500m(=15Km)
気温(300-6×15)K{気温減率6K/Kmと仮定}
比湿 0
風速(絶対値)20m/s

結果を次のような表にまとめなさい。
                       下 上
  A  内部エネルギーの温度に比例する部分
  B  内部エネルギーの水蒸気に比例する部分
  C  位置エネルギー
  D  運動エネルギー

さて、インドの話はいらしたときにします。大変な国ですが、行って良かったです。

 この「母」はいまはやりのヤンママではない。戦中に生まれたお年の方である。去年辺りから仕事のない日に大学へ社会人学生として通うようになったのである。

Date: Thu, 16 Dec 1999 05:43:06 +0900
To family-**@hirax.net From 兄
Subject:Re: レポート課題がわからない

> レポート課題 SOSです。だれか教えて下さい。

 この「母」のレポートって「弟」の得意な専門の問題じゃないの?

>    高さ 1500m(=15Km)

 あと、15000mの間違い?

 「兄」はとあるWEBのwebmasterである。「母」の年からすれば、そうそう若くもないことがわかる。

Date: Thu, 16 Dec 1999 09:12:06 +0900
To family-**@hirax.net From 父
Subject:Re: レポート課題がわからない

>結果を次のような表にまとめなさい。
 
 「お母さん」には無理だ。

 「父」はhiraxという名前を数十年名乗ってきた、元祖hiraxである。

Date: Thu, 16 Dec 1999 20:21:11 +0900
To family-**@hirax.net From 母
Subject:Re: レポート課題がわからない

 今年は地球科学概論をとった。確か昨年「兄」が次は地球科学がいいと、
いったはず、責任があるはずです。自分の責任のあることを「弟」に振ろうとしていませんか。だれでもいいです。「弟」、助けてくれますか?

 確か、この「母」は去年は「応用化学」をとっていた。なぜ、そういう無理なことをしたがるのだ。
気持ちはわからないでもないが、もう少し考えて欲しいものである。

Date: Thu, 17 Dec 1999 04:12:34 +0900
To family-**@hirax.net From 兄
Subject:Re: レポート課題がわからない

> 今年は地球科学概論をとった。確か昨年「兄」が次は地球科学がいいと、
>いったはず、責任があるはずです。

 いや、私が言ったのは「どうせ習うなら自然科学史みたいなのの方がいいよ。」です。「地球科学概論」だなんて言っておりません。
 それに、去年取った「応用化学」に較べれば楽なものじゃないですか。「応用化学をやったならこんなの簡単なんじゃないの?」

>自分の責任のあることを「弟」に振ろうとしていませんか。

 いや、私に責任はないと思うのですが...

>だれでもいいです。「弟」、助けてくれますか?

 そうそう > 「弟」


Date: Thu, 17 Dec 1999 13:21:00 +0900
To family-**@hirax.net From 弟
Subject:Re: レポート課題がわからない

>そうそう > 「弟」

 地球科学概論なんだから、宇宙・地球物理専攻の人がやるべき
なのでは > 「父」 & 「兄」

 最近、修論のまとめで忙しいです。


Date: Thu, 17 Dec 1999 23:49:03 +0900
To family-**@hirax.net From 兄
Subject:Re: レポート課題がわからない

> 地球科学概論なんだから、宇宙・地球物理専攻の人がやるべき
> なのでは > 「父」 & 「兄」

 しかし、これってほとんど化学工学ではないでしょうか。だから、
化学専攻の人の方が良いのではないでしょうか? > 「母」 & 「弟」


Date: Thu, 18 Dec 1999 07:33:06 +0900
To family-**@hirax.net From 母
Subject:Re: レポート課題がわからない

>>> そうそう助けてやれよ > 「弟」
>> 地球科学概論なんだから、宇宙・地球物理専攻の人がやるべき
>> なのでは > 「父」 & 「兄」
> 化学専攻の人の方が良いのではないでしょうか? >  「母」 & 「弟」

 そろいもそろって、冷たい兄弟ですね。

 うちの「母」はこうなると怖い。

Date: Thu, 18 Dec 1999 09:23:06 +0900
To family-**@hirax.net From 「妹姉」
Subject:Re: レポート課題がわからない

>>>> そうそう助けてやれよ > 「弟」
>>> 地球科学概論なんだから、宇宙・地球物理専攻の人がやるべき
>>> なのでは > 「父」 & 「兄」
>> 化学専攻の人の方が良いのではないでしょうか? >  「母」 & 「弟」

>そろいもそろって、冷たい兄弟ですね。

 そういうと、私まで一緒みたいに聞こえます。やめて下さい。兄妹とか姉弟
とか書かれるよりはいいですけど。それに、「父」は?

「妹姉」


Date: Thu, 18 Dec 1999 10:43:06 +0900
To family-**@hirax.net From 父
Subject:Re: レポート課題がわからない

 「母」がせっかく苦労してレポートをと考えているので、hiraxファミリーの
英知を結集して」、コメントしてやってください。
 今朝、「父」は物理的な意味だけは、10分間講義してあげました。

 多分、「兄」や「弟」だったら、チョチョイだから。

> どうせ習うなら自然科学史みたいなものの方がいいよ。
に賛成。地球科学には物理の素養が必要なので、一挙に地球科学に
行くより、物理か、自然科学史がいい。どっちかといったら、自然科学史が無難。


Date: Thu, 18 Dec 1999 07:43:06 +0900
To family-**@hirax.net From 兄
Subject:Re: レポート課題がわからない

>多分、「兄」や「弟」だったら、チョチョイだから。
 「弟」ならともかく、私にはチョチョイではありません。

>今朝、「父」は物理的な意味だけは、10分間講義してあげました。
 そのとき答えも講義してくれたら...

 そんなに若くはない年で働きながらも、大学へ行こうとする「母」の
エネルギーには頭が下がる思いです。しかし、科目の選択はじっくり
考えて欲しいです。

 さて、配達された最後の手紙が以下である。

Date: Thu, 18 Dec 1999 08:43:06 +0900
To family-**@hirax.net From 兄
Subject:Re: レポート課題がわからない

 昨日の電話など、何やらプレッシャーが感じられてきたので、適当に問題にとりかかって
みました。答えが合っているどうかはわかりません。また、手元に資料が
あまりないので、とんでもない間違いをしている可能性もあります。

 まずは、簡単そうな位置エネルギーと運動エネルギーから。「地球科学概論」
ということなので、式の導出までを求められてはいないと思います。そこで、
公式を使って解くことにします。

「問題」
 大気の持つ質量あたりのエネルギーを、次の二つの例について求めなさい。
 「下」 赤道付近の地表面付近の大気
高さ 0m、気温 300K、比湿 0.02(=20g/Kg)、風速(絶対値) 5m/s

「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気
高さ 15000m(=15Km)、気温(300-6×15)K、比湿 0、風速(絶対値)20m/s

「上」「下」それぞれについて
  A  内部エネルギーの温度に比例する部分
  B  内部エネルギーの水蒸気に比例する部分
  C  位置エネルギー
  D  運動エネルギー
を求めよ。

「回答」
 高さ=h、質量=m、重力加速度=gとし、今回の問題で質量=m=1kgであることを考えて、位置エネルギーCは

と書ける。これに
「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気 h=15000(m)
「下」 赤道付近の地表面付近の大気 h=0(m)
を代入し、
「上」 1.47*10^(5) J
「下」 0 J
を得る。

 運動エネルギーDは速度v(m/s)に対して、

となるから、
「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気 v=20(m/s)
「下」 赤道付近の地表面付近の大気 v=5(m/s)
を代入し、
「上」 200 J
「下」 12.5 J
を得る。

 さて、次に「A.内部エネルギーの温度に比例する部分、B.内部エネルギーの水蒸気に比例する部分」
です。空気は主として窒素N2と酸素)O2からなり、いずれも2原子分子である。また水分子H2Oは3原子分子であるが、酸素原子Oを中心とした結合角度の振動などが小さく、無視できるとして、2原子分子と同等の自由度であるものと近似する。また、
比湿 0.02(=20g/Kg)ということから、水分子の数は窒素、酸素に対して無視できる程少ないため、無視して良い。
 すると、1mol辺り気体のエネルギーを1(kg)辺りに直すために、上式に1000/28.94(g/mol)をかけた

が求める答えである。

「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気 (300-6×15)K
「下」 赤道付近の地表面付近の大気 (300)K
を代入し、
「上」 150752. J
「下」 215359. J
を得る。

 最後に「B.内部エネルギーの水蒸気に比例する部分」であるが、水が液体から気体に変化するときのエネルギー収支を考る。蒸発熱が2498J/gであることを考え、計算を行う。

「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気 水蒸気0g
「下」 赤道付近の地表面付近の大気 水蒸気20g
を代入し、
「上」 0 J
「下」 2498 * 20 = 49960. J
を得る。当然のことですが、この水蒸気のエネルギーは
太陽のエネルギーが形を変えたものです。

 なお、検算も読み直しもしておりません。

 ごくまれにではあるが、「課題を解いてください」という大学生からのメールが届くことがある。そういうメールを見るたびに「うーむ...」という気分になっていたのである。しかし、まさか自分の親の宿題をやるはめになるとは。しかもこの年になって...



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