hirax.net::Keywords::「振動」のブログ



1999-09-01[n年前へ]

画像に関する場の理論 

ポイントは画像形成の物理性だ!?

 今回は、
夏目漱石は温泉がお好き? - 文章構造を可視化するソフトをつくる- (1999.07.14)
の回と同じく、「可視化情報シンポジウム'99」から話は始まる。まずは、「可視化情報シンポジウム'99」の中の
ウェーブレット変換法と微積分方程式によるカラー画像の圧縮および再現性について
という予稿の冒頭部分を抜き出してみる。「コンピュータグラフィックスを構成する画素データをスカラーポテンシャルあるいはベクトルポテンシャルの1成分とみなし、ベクトルの概念を導入することで古典物理学の集大成である場の理論が適用可能であることを提案している」というフレーズがある。

 着目点は面白いし、この文章自体もファンタジーで私のツボに近い。しかしながら、肝心の内容が私の趣向とは少し違った。何しろ「以上により本研究では、古典物理学の場の理論で用いられるラプラシアン演算を用いることで、画像のエッジ抽出が行えることがわかった。」というようなフレーズが出てくるのである。うーん。
 私と同様の印象を受けた人も他にいたようで(当然いると思うが)、「エッジ強調・抽出のために画像のラプラシアンをとるのはごく普通に行われていることだと思うのですが、何か新しい事項などあるのでしょうか?」という質問をしていた人もいた。

 また、話の後半では、画像圧縮のために、ラプラシアンをかけたデータに積分方程式や有限要素法などを用いて解くことにより、画像圧縮復元をしようと試みていたが、これも精度、圧縮率、計算コストを考えるといま一つであると思う(私としては)。

 画像とポテンシャルを結びつけて考えることは多い。例えば、「できるかな?」の中からでも抜き出してみると、

などは画像とポテンシャルということを結びつけて考えているものである。(計算コストをかけて)物理学的な処理をわざわざ行うのであるから、物理学的な現象の生じる画像を対象として考察しなければもったいない、と思うのである。

 現実問題として、実世界において画像形成をを行うには物理学的な現象を介して行う以外にはありえない。「いや、そんなことはない。心理学的に、誰かがオレの脳みそに画像を飛ばしてくる。」というブラックなことを仰る方もいるだろうが、それはちょっと別にしておきたい。

 「できるかな?」に登場している画像を形成装置には、
コピー機と微分演算子-電子写真プロセスを分数階微分で解いてみよう-(1999.06.10)
ゼロックス写真とセンチメンタルな写真- コピー機による画像表現について考える - (99.06.06)
で扱ったコピー機などの電子写真装置や、
宇宙人はどこにいる? - 画像復元を勉強してみたいその1-(1999.01.10)
で扱ったカメラ。望遠鏡などの光学系や、
ヒトは電磁波の振動方向を見ることができるか?- はい。ハイディンガーのブラシをご覧下さい - (1999.02.26)
で扱った液晶ディスプレイなどがある。そのいずれもが、純物理学的な現象を用いた画像形成の装置である。

 例えば、プラズマディスプレイなどはプラズマアドレス部分に放電を生じさせて、電荷を液晶背面に付着させて、その電荷により発生する電界によって液晶の配向方向を変化させて、透過率を変化させることにより、画像を形成するのである。

プラズマアドレスディスプレイ(PALC)の構造
(画像のリンク先はhttp://www.strl.nhk.or.jp/publica/dayori/dayori97.05/doukou2-j.htmlより)
 これなどは、電荷がつくる電位とその電界が画像を形成するわけであるから、場の理論そのものである。従って、物理的な意味を持ってラプラシアンなどを導入することができるだろう。そうすれば、単なる輪郭強調などだけでなく、新たな知見も得られると思う。
 また、逆問題のようであるが電界・電荷分布測定などを目的として液晶のボッケルス効果を用いることも多い。液晶を用いて得られる画像から、電界分布や電荷分布を計測するわけである。これなども画像と場の理論が直に結びついている一例である。

 参考に、SHARPのプラズマアドレスディスプレイを示しておく。

SHARPのプラズマアドレスディスプレイ(PALC)
(画像のリンク先はhhttp://ns3.sharp.co.jp/sc/event/events/ele97/text/palc.htmより)

 また、電子写真装置などは感光体表面に電荷分布を形成し、その電位像をトナーという電荷粒子で可視化するのであるから、電磁場を用いて画像形成をしているわけである。だから、場の理論を持ちこむのは至極当然であり、有用性も非常に高いだろう。そういった視点で考察してみたのが、

である。

 同様に、画像圧縮に関しても、画像形成の物理性に着目することで実現できる場合も多いと思うのであるが、それは次回にしておく。

1999-12-19[n年前へ]

母に捧げるバラード 

宿題は自分でやってくれぇ

 今回の話は、とあるメーリングリストから始まる。仮にそのメーリングリストを"family-ml"と名付けておく。そのfamily-mlで論争が起きたのである。
 メーリングリストで論争が起きることはよくある。しかし、このfamily-mlは通常のメーリングリストではなかった。実は、とある家族を構成員とするものであった。そう、この家族は専用のメーリングリストを持っているのである。そこで、この論争は起きた。

 各登場人物の紹介は随時していこうと思う。

Tue, 14 Dec 1999 21:54:26 +0900 (JST)
To family-**@hirax.net From 母
Subject: レポート課題がわからない

みなさんお元気ですね。
   <中略>
ところで久しぶりに学校に行ったら、レポートの課題が出てました。そのうえ授業が進んでました。外国語聞いているみたいです。レポート課題 SOSです。だれか教えて下さい。

 大気の持つ質量あたりのエネルギーを、次の二つの例について求めなさい。

 「下」 赤道付近の地表面付近の大気
    高さ 0m
気温 300K
比湿 0.02(=20g/Kg)
風速(絶対値) 5m/s

「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気
    高さ 1500m(=15Km)
気温(300-6×15)K{気温減率6K/Kmと仮定}
比湿 0
風速(絶対値)20m/s

結果を次のような表にまとめなさい。
                       下 上
  A  内部エネルギーの温度に比例する部分
  B  内部エネルギーの水蒸気に比例する部分
  C  位置エネルギー
  D  運動エネルギー

さて、インドの話はいらしたときにします。大変な国ですが、行って良かったです。

 この「母」はいまはやりのヤンママではない。戦中に生まれたお年の方である。去年辺りから仕事のない日に大学へ社会人学生として通うようになったのである。

Date: Thu, 16 Dec 1999 05:43:06 +0900
To family-**@hirax.net From 兄
Subject:Re: レポート課題がわからない

> レポート課題 SOSです。だれか教えて下さい。

 この「母」のレポートって「弟」の得意な専門の問題じゃないの?

>    高さ 1500m(=15Km)

 あと、15000mの間違い?

 「兄」はとあるWEBのwebmasterである。「母」の年からすれば、そうそう若くもないことがわかる。

Date: Thu, 16 Dec 1999 09:12:06 +0900
To family-**@hirax.net From 父
Subject:Re: レポート課題がわからない

>結果を次のような表にまとめなさい。
 
 「お母さん」には無理だ。

 「父」はhiraxという名前を数十年名乗ってきた、元祖hiraxである。

Date: Thu, 16 Dec 1999 20:21:11 +0900
To family-**@hirax.net From 母
Subject:Re: レポート課題がわからない

 今年は地球科学概論をとった。確か昨年「兄」が次は地球科学がいいと、
いったはず、責任があるはずです。自分の責任のあることを「弟」に振ろうとしていませんか。だれでもいいです。「弟」、助けてくれますか?

 確か、この「母」は去年は「応用化学」をとっていた。なぜ、そういう無理なことをしたがるのだ。
気持ちはわからないでもないが、もう少し考えて欲しいものである。

Date: Thu, 17 Dec 1999 04:12:34 +0900
To family-**@hirax.net From 兄
Subject:Re: レポート課題がわからない

> 今年は地球科学概論をとった。確か昨年「兄」が次は地球科学がいいと、
>いったはず、責任があるはずです。

 いや、私が言ったのは「どうせ習うなら自然科学史みたいなのの方がいいよ。」です。「地球科学概論」だなんて言っておりません。
 それに、去年取った「応用化学」に較べれば楽なものじゃないですか。「応用化学をやったならこんなの簡単なんじゃないの?」

>自分の責任のあることを「弟」に振ろうとしていませんか。

 いや、私に責任はないと思うのですが...

>だれでもいいです。「弟」、助けてくれますか?

 そうそう > 「弟」


Date: Thu, 17 Dec 1999 13:21:00 +0900
To family-**@hirax.net From 弟
Subject:Re: レポート課題がわからない

>そうそう > 「弟」

 地球科学概論なんだから、宇宙・地球物理専攻の人がやるべき
なのでは > 「父」 & 「兄」

 最近、修論のまとめで忙しいです。


Date: Thu, 17 Dec 1999 23:49:03 +0900
To family-**@hirax.net From 兄
Subject:Re: レポート課題がわからない

> 地球科学概論なんだから、宇宙・地球物理専攻の人がやるべき
> なのでは > 「父」 & 「兄」

 しかし、これってほとんど化学工学ではないでしょうか。だから、
化学専攻の人の方が良いのではないでしょうか? > 「母」 & 「弟」


Date: Thu, 18 Dec 1999 07:33:06 +0900
To family-**@hirax.net From 母
Subject:Re: レポート課題がわからない

>>> そうそう助けてやれよ > 「弟」
>> 地球科学概論なんだから、宇宙・地球物理専攻の人がやるべき
>> なのでは > 「父」 & 「兄」
> 化学専攻の人の方が良いのではないでしょうか? >  「母」 & 「弟」

 そろいもそろって、冷たい兄弟ですね。

 うちの「母」はこうなると怖い。

Date: Thu, 18 Dec 1999 09:23:06 +0900
To family-**@hirax.net From 「妹姉」
Subject:Re: レポート課題がわからない

>>>> そうそう助けてやれよ > 「弟」
>>> 地球科学概論なんだから、宇宙・地球物理専攻の人がやるべき
>>> なのでは > 「父」 & 「兄」
>> 化学専攻の人の方が良いのではないでしょうか? >  「母」 & 「弟」

>そろいもそろって、冷たい兄弟ですね。

 そういうと、私まで一緒みたいに聞こえます。やめて下さい。兄妹とか姉弟
とか書かれるよりはいいですけど。それに、「父」は?

「妹姉」


Date: Thu, 18 Dec 1999 10:43:06 +0900
To family-**@hirax.net From 父
Subject:Re: レポート課題がわからない

 「母」がせっかく苦労してレポートをと考えているので、hiraxファミリーの
英知を結集して」、コメントしてやってください。
 今朝、「父」は物理的な意味だけは、10分間講義してあげました。

 多分、「兄」や「弟」だったら、チョチョイだから。

> どうせ習うなら自然科学史みたいなものの方がいいよ。
に賛成。地球科学には物理の素養が必要なので、一挙に地球科学に
行くより、物理か、自然科学史がいい。どっちかといったら、自然科学史が無難。


Date: Thu, 18 Dec 1999 07:43:06 +0900
To family-**@hirax.net From 兄
Subject:Re: レポート課題がわからない

>多分、「兄」や「弟」だったら、チョチョイだから。
 「弟」ならともかく、私にはチョチョイではありません。

>今朝、「父」は物理的な意味だけは、10分間講義してあげました。
 そのとき答えも講義してくれたら...

 そんなに若くはない年で働きながらも、大学へ行こうとする「母」の
エネルギーには頭が下がる思いです。しかし、科目の選択はじっくり
考えて欲しいです。

 さて、配達された最後の手紙が以下である。

Date: Thu, 18 Dec 1999 08:43:06 +0900
To family-**@hirax.net From 兄
Subject:Re: レポート課題がわからない

 昨日の電話など、何やらプレッシャーが感じられてきたので、適当に問題にとりかかって
みました。答えが合っているどうかはわかりません。また、手元に資料が
あまりないので、とんでもない間違いをしている可能性もあります。

 まずは、簡単そうな位置エネルギーと運動エネルギーから。「地球科学概論」
ということなので、式の導出までを求められてはいないと思います。そこで、
公式を使って解くことにします。

「問題」
 大気の持つ質量あたりのエネルギーを、次の二つの例について求めなさい。
 「下」 赤道付近の地表面付近の大気
高さ 0m、気温 300K、比湿 0.02(=20g/Kg)、風速(絶対値) 5m/s

「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気
高さ 15000m(=15Km)、気温(300-6×15)K、比湿 0、風速(絶対値)20m/s

「上」「下」それぞれについて
  A  内部エネルギーの温度に比例する部分
  B  内部エネルギーの水蒸気に比例する部分
  C  位置エネルギー
  D  運動エネルギー
を求めよ。

「回答」
 高さ=h、質量=m、重力加速度=gとし、今回の問題で質量=m=1kgであることを考えて、位置エネルギーCは

と書ける。これに
「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気 h=15000(m)
「下」 赤道付近の地表面付近の大気 h=0(m)
を代入し、
「上」 1.47*10^(5) J
「下」 0 J
を得る。

 運動エネルギーDは速度v(m/s)に対して、

となるから、
「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気 v=20(m/s)
「下」 赤道付近の地表面付近の大気 v=5(m/s)
を代入し、
「上」 200 J
「下」 12.5 J
を得る。

 さて、次に「A.内部エネルギーの温度に比例する部分、B.内部エネルギーの水蒸気に比例する部分」
です。空気は主として窒素N2と酸素)O2からなり、いずれも2原子分子である。また水分子H2Oは3原子分子であるが、酸素原子Oを中心とした結合角度の振動などが小さく、無視できるとして、2原子分子と同等の自由度であるものと近似する。また、
比湿 0.02(=20g/Kg)ということから、水分子の数は窒素、酸素に対して無視できる程少ないため、無視して良い。
 すると、1mol辺り気体のエネルギーを1(kg)辺りに直すために、上式に1000/28.94(g/mol)をかけた

が求める答えである。

「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気 (300-6×15)K
「下」 赤道付近の地表面付近の大気 (300)K
を代入し、
「上」 150752. J
「下」 215359. J
を得る。

 最後に「B.内部エネルギーの水蒸気に比例する部分」であるが、水が液体から気体に変化するときのエネルギー収支を考る。蒸発熱が2498J/gであることを考え、計算を行う。

「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気 水蒸気0g
「下」 赤道付近の地表面付近の大気 水蒸気20g
を代入し、
「上」 0 J
「下」 2498 * 20 = 49960. J
を得る。当然のことですが、この水蒸気のエネルギーは
太陽のエネルギーが形を変えたものです。

 なお、検算も読み直しもしておりません。

 ごくまれにではあるが、「課題を解いてください」という大学生からのメールが届くことがある。そういうメールを見るたびに「うーむ...」という気分になっていたのである。しかし、まさか自分の親の宿題をやるはめになるとは。しかもこの年になって...

2000-02-19[n年前へ]

携帯電話の同時性? 

競馬の写真判定とパノラマ写真 その後

 先日

を書いてから面白いメールを頂いた。その一部を抜粋すると、
 小生は超音波を利用した新しい流体場測定を行っていますが、この方法で得られるDataは空間1次元時間1次元の2次元データです。従って得られるのは、このページにあったような画像が直接得られるわけです。

 この方法といくつかの結果を発表してから、あちこちからコンタクトがありましたが、その中の一つが、NYのSirovichという高名な流体力学者からの手紙でした。彼はいわゆるSnapShotを、逆に小生のデータから構築できないか、というのです。

 今このWebでされたことの逆をしたいというわけです。流れの空間構造を解析するために使いたいのです。残念ながらこれは、以下に少々説明するように、原理的に無理な話で断らざるをえませんでした。

 つまり、時間軸に速度をかけて空間軸に変換できればよいのですが、流体場はそれ自身が速度分布を持っていますから、一体何を使えば良いのかが定まらない。

 電磁波の場合には光速が一定ですから、時間情報から空間情報を得ることができますが、古典流体力学では不可能なのです。工学的には平均流速を使って、時間-空間の変換をしますが、それはインチキとまでは言わないまでも、便宜的なも
のでしかありません。

 このWEBの中での例では、馬?の速度のみであとは静止しているので、可能でし
ょう。

とある。

 「馬?」という箇所に、私との意見の相違があるようだ。私が明らかに「馬」であると言い張っているものに疑問を持たれているような気がするのであるが、今回そこは気にしないでおく。

 なるほど、音波や電磁波などを使って計測を行い、得られた

  • 空間(あるいは量)-時間
のグラフから、音波や電磁波の速度を用いて
  • 空間(あるいは量)-空間
のデータを再構成する計測というのは多い。例えば、
  • 海の中の魚を探知する「魚群探知機」
  • 気象状況を計測する「気象レーダー」
  • 固体の中の電荷分布を計測する「電荷分布測定装置」
などもそうである。いずれも、音波や電磁波が計測される時間のズレから、音波や電磁波の速度を用いて、空間位置に変換して解析を行うものである。

「魚群探知機」は超音波を水中に発信して、その反射波が刻々と帰ってくる様子から、(超音波の速度を用いて、空間位置に変換した後に)障害物(ここでは魚群)の様子を計測するものである。「気象レーダー」も電波を使って同様に雲の分布などを測定する。
「電荷分布測定装置」の場合は、(例えば外部電界を印加し)電荷を持つ個所を振動させてやり、その振動がセンサー部に刻々と伝わってくる様子から(あぁ、なんて大雑把な説明なんだ)、(固体中の弾性波の速度を用いて、空間位置に変換した後に)固体の中にどのように電荷分布が存在しているかを計測するものである。

と、文章だけでは何なので、WEB上から、それらの計測器を用いた場合の計測例を示してみる。

 下が魚群探知機である。リンク先は

である。
魚群探知機
リンク先はhttp://www.taiyomusen.co.jp/gyogun.html

 また、この下は空間電荷測定装置である。これなども、とても面白いものだ。リンク先は

である。
空間電荷測定装置の計測結果
リンク先はhttp://www.crl.go.jp/ys/ys221/charge/PEA_3D.html

さて、こういうことを、調べてみるだけではしょうがない。自分でもそういう計測をしてみたい。
そこで、次のような実験をしてみようとした。

  1. 部屋の中に複数の「音の発信源」を配置する。
  2. 複数の「音の発信源」から同時に音を発する。
  3. それをPCで収録する。
  4. 音声が「音の発信源」からPCに到達するまでの時間を解析する
  5. 複数の「音の発信源」の位置を計測する。
 しかし、複数の「音の発信源」で同時に音を発するにはどうしたら良いだろうか?電子ブザーなどを複数制作して、部屋の中に配置しようかとも考えたが、それも少し面倒である。

 そこで、安易にも時報を使おうかと考えてしまった。しかも、数があって手軽ということで、携帯電話を使おうとしたのである。

 しかし、複数の携帯電話を集めて、117に電話して時報を同時に聞いてみると、とても同時どころではない。てんでばらばらなのである。電話のスピーカーから流れてくる時報のタイミングには結構ズレがあるのである。

 携帯電話の間には結構同時性がないのだ。また、固定電話とも比較したが、固定電話よりも時報が速いものもあれば、遅いものもあった。

 そこで、複数の携帯電話を聞き比べた結果を以下に示してみたい。この写真中で左の携帯電話ほど時報が先に流れており、右になるほど時報が遅れているのである。一番早い左と、一番遅い右では一秒弱の違いがあった。

左の携帯電話ほど時報が先に流れており、右になるほど時報が遅れている

 また、参考までに、家の固定電話と携帯電話の時報を一緒に聞いたサウンドファイルを示しておく。

この携帯電話は先に示した画像の一番左である。つまり、先の携帯電話群では一番時報が早かったものなのである。しかし、家の電話よりは一秒弱遅かった。ということは、家の固定電話と先の一番遅い携帯電話では時報の時間にして2秒弱の違いがあることになる。

 そして、「家の固定電話と携帯電話の時報を一緒に聞いた音の変化」をスペクトログラムにしたものを以下に示す。

「家の固定電話と携帯電話の時報を一緒に聞いた音の変化」のスペクトログラム

水平軸が時間軸であり、時間は左から右へ流れている。また、縦軸は音の周波数を示している。ここでは、「1」で示したのが家の固定電話の時報であり、少し遅れて「2」の携帯電話の時報が聞こえているのが見てとれる。

 よく時報を確認することはあるが(実は私はほとんどないのだが...)、携帯電話・PHSで時報を聞く限り、秒の精度はそれほどないようである。また、勤務先の固定電話は先の携帯電話群と比べても遅い方であった。それは少し意外な結果であった。

 今回調べた「携帯電話の同時性のなさは」は常識なのかもしれないが、電話の時報で時計を合わせるのはあまり精度が出ないやり方であることがわかっただけでもよしとしよう(別に実験を途中で投げ出した言い訳ではないけれど)。

 今度、TV(衛星TVなども遅延時間を考慮した時報の放送を行っていると聞くし)やラジオを用いて当初計画していた実験を行おうと思う。その際には、時報がPCに到達する時間のズレで「音の発信源」までの距離を計測し、左右のマイクでの違いを計測することにより、「立体音感シリーズ」のように「音の方向」を得てみたい。

 というわけで、話が「立体音感シリーズ」に繋がったところで、今回は終わりにしようと思う。

2000-03-05[n年前へ]

私の日本語練習帳 

アメンボ赤いなアイウエオ

 もうすぐ、4月である。4月といえば、新学期だ。といっても、私は別に学生ではないので、新学期といっても特に何があるわけではない。別に新しい授業が始まるわけではないのである。しかし、私は何故かこの時期になると「英会話」を勉強したくなるのである。

 去年の初めにも英語学習熱に襲われ、NHKのラジオ講座を通勤途中やることにしてみた。しかし、いつものように二ヶ月だけで挫折してしまった。そういうわけで、NHKラジオ「英会話」講座の毎年4月分のテキストが私の家には沢山ある。
 それだけでなくて、この時期には「一週間でわかる英会話(仮名)」というような本も買い込んでしまう。しかし、これもまた買うだけで終わってしまっていたのだ。どうも、私の興味が散漫であることも理由の一つだろう。湯川秀樹は

 「今日はあれをやり、明日はこれ、というように、あまり気が散ると、結局どれもものにならないですね。」
という非常に的確なことを言っているらしいが、まさにその通りである。話題が飛びまくりの「できるかな?」には実に痛い指摘である。しかし、糸川英夫は
 「自分にできること」よりも「世の中が求めていること」に挑戦し続けた方が人生も楽しい。
言っているらしいし、気にしないでおく(進歩無し)。

 私はそういう生活が10年近く続いている。そんなわけで、英語のテキストは増えたが、英語能力は減る一方だ。いやまてよ、ということは

  • 一人の人が持つNHKラジオ「英会話」講座の4月分テキストの冊数
  • 一人の人が持つ英会話能力
は反比例するのかもしれない。その仮説を適用するならば、
  • 今年のNHKラジオ「英会話」講座の4月分テキストを買わなければ、私の英語能力はアップする
という推論が可能である。逆に言えば、今年もまたNHKラジオ「英会話」講座の4月分テキストを買うと、ますます英語能力が低下してしまう、ということだ。私の英語能力が低下したのは、英語のテキストを買いすぎたせいで、もしかしたら、英語のテキストを全部捨てれば英語能力がアップするかもしれない。

 いや、こんなワケのわからない仮説を論じている場合ではない。これは、非常にマズイ。今年こそ、三日坊主は止めなければならない。新しいミレニアムが訪れたことでもあるし、バージョンアップした私(仮に私2000とでも名付けておこう)になるためにも、今回こそ英会話の勉強をしてみたいと思う。

 そこで、発売されてすぐ買ったは良いが、そのまま本棚で眠っていた

  • BLUE BACKS 英語スピーキング科学的上達法 山田・足立・ATR人間情報通信研究所
で遊んでみることにした。この本は
  • BLUE BACKS 英語リスニング科学的上達法 山田・足立・ATR人間情報通信研究所
の続編である。もちろん、私は両者とも買っただけで「積ん読(つんどく)」であった。いや、ホントは読んだのだけれど…

 それでは、今年の勉強を始めてみることにしたい。この本の主な内容は

  • 英語における発音を科学的に分析(主にフォルマント、スペクトログラム)する。
という感じである。

 これまで、「できるかな?」では

といった感じで音のスペクトログラムはよく登場している。なので、きっと感覚的に判りやすいはずだ(少なくとも理屈としては…)。

 しかし、いきなり私に英語はキツイ。まずは日本語の練習から始めることにした。日本語の母音の発音を練習するのである。そうすれば、自分自身の日本語を再確認できるし、この本の信頼性もチェックできる。「フォルマントで音声を判断する」というのがどの程度使えるものであるかを、私の日本語でチェックすることができるのである。何しろ、変な発音かもしれないが、一応私は日本語のネイティブであるからだ。

 それでは、「英語スピーキング科学的上達法」に付属のソフトで私のフォルマントを調べてみる。これが私の「あいうえお」のスペクトログラムとフォルマントである。
 

私の「あいうえお」のスペクトログラムとフォルマント

縦軸=周波数, 横軸=時間

 ここで、色丸で示してあるのが

  • 赤 = 第1フォルマント ( F1 )
  • 青 = 第2フォルマント ( F2 )
  • 緑 = 第3フォルマント ( F3 )
である。簡単に言えば、周波数のピークを低い方から番号付けしたものである。

 それでは、私の「あいうえお」をF1-F2空間にマッピングしたものを次に示す。これも、「英語スピーキング科学的上達法」に付属のソフトによるモノであり、標準的な男性の「あいうえお」の分布が示されている。そして、赤丸で示してあるのが私の「あいうえお」である。
 そして、F1-F2空間における英語の母音分布の上に私の「あいうえお」を重ねたものも示す。
 

F1-F2空間における私の「あいうえお」
横軸 = F1(Hz)、縦軸 = F2(Hz)





私の「あいうえお」を
英語の母音に重ねてみた図

 こうフォルマント分析をしてみると、私の「い」「う」「え」は標準的な分布の中に入っていることがわかる。しかし、「あ」「お」はそうではない。
むしろ、私は発音は英語の母音でいうところの

  • 「あ」 = 
  • 「お」 = 
という感じである。まぁ、
  • 私の発音の精度の問題 = 私の発音がヘン?
  • 測定・解析の精度の問題
かはさておき、精度はこんなものなのだろう。結構、ちゃんと判断できるものだなぁ、というのがこの解析に対して私の受けた印象である。こういう音声解析というのも実に面白そうな分野である。

 さて、最初のうちはこの本付属のソフトを使って遊んでいくことになると思う。しかし、いつか自作のソフトウェアを作成し、F1-F2-F3空間での「あいうえお」の可視化でもしてみたい。言葉の可視化、さらには言霊の可視化をしていく予定である。(あれっ、そう言えば英会話の勉強はどこへ…)
 

今日はあれをやり、明日はこれ、というように、あまり気が散ると、結局どれもものにならないですね。
By 湯川秀樹

2000-05-12[n年前へ]

メガネの内側にある歪み 

隠れたストレスに光を当てろ

 また、可視化の話である。いや、自分でも忘れていたが、「可視化」改め「見える?見えない?」シリーズである。今回はメガネの内側にある「歪み」、隠れたストレスに光を当ててみたい。そして、そこに何があるかを見てみたいのである。

 私の眼はどうも明るさに弱い。やたら太陽の光が眩しく感じることが多い。といっても、単に私のガマンが足りないだけかもしれない。あるいは、睡眠不足のせいかもしれない。そして、私は同時に暗さにも弱いのだが、こちらは単にビタミン不足による鳥目だろう。

 そういうわけで、明るいのに弱いので車を運転する時には大抵サングラスをかけている。サングラスは何本も持っているわけだが、最近のお気に入りはこれである。
 

偏光サングラス \1280也

 これは、偏光フィルター機能付のサングラスである。偏光というギミック付のところがお気に入りの理由である。以前、

で書いたように、偏光フィルターがあれば色々なものの反射光のみを遮ったりすることができる。例えば、下の右側の写真では左の写真に比べてガラス表面の反射光が減少していることがわかるだろう。これは偏光フィルターの作用のせいである。
 
右側の写真では左の写真に比べてガラス表面の反射光が減少している

 これと同じように、偏光フィルター機能付のサングラスを使えば色々な反射光を防ぐことができる。例えば、通常は反射光などで車のフロントグラスの内側にいる人の姿はよく見ることができない。しかし、このメガネをかけていれば、反射光に邪魔されずフロントグラスの内側を見通すことができるのである。もう、対向車なんてまるでフロントグラスがないかのようである。

 この偏光フィルター機能付のサングラスは、通常「釣り」などで用いられるものだ。水面の反射光を防ぐことにより、水中の魚の姿などを見やすくするためのものである。結構、海の近くに住んでいる私にはうれしい機能である。

 このサングラスをかけている時に、ふとある実験を思いついた。普段は透明にしか見えない「普通のメガネ」の影に隠れたストレスを目に見える形にしてみようと思ったのである。よく、「メガネの奥にストレスが隠れている」というが、そのストレスを見て取れる形にしようと思うわけだ。

 そこで、新婚ホヤホヤの「夜の帝王」I田氏(関係ないが、I田氏から「Hirabayashiさん、小杉のメーリングリストで-できるかな?-の話題が出てましたよ。」と言われた時はビックリした。とりあえず、どなたか知らないが、メーリングリストで紹介して頂いた武蔵小杉勤務の方には一言お礼を言っておきたい)にメガネを借りてみた。このメガネをじっくり眺めてみてもらいたい。
 

普通のメガネ

 この透明なメガネの奥に何か見えるだろうか?そこに「歪み」は見えないだろうか?「透明だから、何も見えないだろう。」という人もいるだろうが、あるグッズを使うと、もう明らかに見えてくるのである。それが、下の写真である。レンズを固定している辺りをよく見てもらいたい。不思議な
虹模様と十字の模様が見えるはずだ。
 

ところがあるグッズを使うと…

 プラスチック等は製造過程での不均一な応力や、外力により複屈折性を示す。光弾性と呼ばれる現象である。そのため、偏光面を直行させた偏光フィルターの間にそういうプラスチックなどを挟みこむと、その弾性体の内部に働いている応力分布の状態を調べることができる。それを応用したのが、偏光顕微鏡などである。

 例えば、下の写真はカセットテープのケースの左側部分を、偏光面を直交させた二枚の偏光フィルターで挟んでみたものである。見事に弾性体の内部に働いている応力分布が可視化できているのがわかると思う。これを応用すれば、例えば熱変形をしているようなものであれば、透明体の熱分布も簡易的に見て取ることができる。
 

カセットテープのケースの弾性体の内部に働いている応力分布

 そういうわけで、先の写真あるいはそれを拡大した次の写真のように普通では見えない透明なプラスチックレンズの中に隠れている「ストレス」を見て取ることができるわけだ。
 

メガネのレンズの中のストレスを可視化したもの
右は普通にみたもの
左は偏光フィルターを使ってみたもの

 とりとめもないが、今回は透明なメガネの影に隠れたストレスに光を当ててみた。ちゃんと見ようと思いさえすれば、目に見えるものは数多くある。「見える?見えない?」の境界線はその人自身が決めるのである。「できるかな?」では、これからも色々な「見える?見えない?」を追求し、「見えるかな?」について考えていきたいと思う。
 



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