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1999-02-25[n年前へ]

微小4次元計測をしてみたい 

デジタルカメラ、実体顕微鏡、動画の三題話




最近はデジタルカメラ(以降、デジカメと呼ぶ)が大流行りである。実験の記録に使うと大変便利だ。ところで、実体顕微鏡の接眼部からデジカメで撮影するという話題が

の辺りにある。この撮影法の難しさは、デジカメの種類によって違う。例えば、FujiFilmのFinePix700では光軸合わせに結構苦労する。ところが、ソニーの「DigitalMavica(技術者向けのオプション(例えばオシロスコープ・フード)などもあって便利)」ではこの撮影方法はとても簡単である。「Mavica」のレンズを実体顕微鏡の接眼部に合わせるだけで、視野をうまく合わせることができる。

といっても、実体顕微鏡にはCCDなどを接続してあることが多いため、単に実体顕微鏡の接眼部をデジカメで撮影するだけでは面白味が少ない。もちろん、高いCCDカメラの代りにメガピクセルのデジカメを使えるメリットは大きいとは思う。

しかし、実体顕微鏡(双眼式)で何が良いかといえば、立体に見えることである。しかし、CCDカメラの接続は一眼式になってしまう。これまで、一つの実体顕微鏡に2つのCCDを接続できるような実体顕微鏡は見たことがない。そこで、接眼部からデジカメ撮影をする方法なら、立体撮影をすることができるので、実体顕微鏡の長所を生かすことができる。

これがそのサンプルである。交差法と平行法の両方を示す。立体に見えるはずである。

交差法 (寄り眼バージョン)

平行法 (ロンパリバージョン)

それでは、3次元計測を行ってみる。まずは、マーキングをする。基板上とICチップ上にA,B,C,Dという4つのマーキングを行う。

計測のためにマーキングしたもの(配置は交差法)

奥行き方向(Z方向としておく)に違いがある場合には、左右の画像でX方向のずれが生じる。そのずれ量を計算してやれば、Z方向の計測を行うことができる。つまり3次元計測を行うことができる。

左右の画像それぞれのマーキングの(x,y)座標
XYXY
A12433A13335
B1355B2255
C136167C144167
D101100D99102

左右画像の(x,y)の差をとり視差を出す。すると、(A,B,C)とDの間で違いが有り、Z方向の距離が違うのがわかる。

左右のマーキングポイントの視差
左-右XY
A-9-2
B-90
C-80
D2-2

この結果から、(x,y,z)を描くと以下のようになる。x-y座標上にzの値を書いてある。Dのポイントのみがz方向に近いのがわかる。

マーキングポイントの(x,y,z)座標

もちろん、本来は光学系から係数などを導くのだが、今回は行っていない。大雑把な説明である。また、同じようなやり方で、3次元表面計測も行うことができる。

ソニーの「DigitalMavica」の素晴らしい所は光軸合わせが簡単なだけではない。動画をmpegファイルとして撮影することができる。というわけで、2台買えば実体顕微鏡の画面を立体動画として保存できる。それが微小四次元計測である。

残念ながら、今回は1台しか使えないので、動画サンプルを示すだけである。mpegファイルをgifに変換したものを以下に載せておく。TFT液晶の拡大画面である。映像の終わりで実体顕微鏡の接眼部からカメラを外しているのがわかると思う。

動画サンプル MPEG形式 507kB
動画サンプル GIF形式155kB (上を縮小したもの)

その他関連情報


1999-04-26[n年前へ]

WEBページは会社の顔色 

WEBページのカラーを考える 2

 前回は、WEBのレイアウトで企業についての考察を行った。今回はWEBページの色空間を考察してみたい。目的は、企業間あるいは、日本とアメリカ間で使用される色についてなにか差があるか、ということを調べることである。例えば、

  • 日本では万年筆のインクには黒がほぼ使用されるが、アメリカなどでは青が使用されることも多い
  • 日本で二色刷りでは黒と赤だが、アメリカでは黒と青である
とか、そういったことを確かめたいのである。

 まずは、ごく単純なCIE Lab色空間での考察を行いたい。CIE Lab色空間はCIE(Commission Internationale d'Eclairage= 国際照明委員会 )が1976年に推奨した、色空間であり、XYZ表色系を基礎とするものである。知覚的な色差を考えたいので均等色空間であるLab色空間を選んだ。

 まずは、Lab色空間がどんなものかを以下に示す。これは、適当に書いてみたものなので、正確なものではない。もっとわかりやすいものが
http://www.sikiken.co.jp/col/lsab.htm
にある。

Lab色空間
↑L*明るい
/ b*黄色
緑方向←→a* 赤方向
青 /
↓暗い

 それでは、a*b*だけ表示してみる。以下がa*b*色平面である。これも大雑把なイメージ図である。

a*b*色平面
↑b*
→a*

 参考までに、RGBからL*a*b*への変換式を挙げておく。
岡野氏のDigital AstronomyGallery ( http://www.asahi-net.or.jp/~RT6K-OKN/ )
から辿れる蒔田剛氏による第2回CCDカンファレンス「CANP'98」の「デジタル画像と色彩理論の基礎」によれば、

X= 0.412391R + 0.357584G + 0.180481B
Y= 0.212639R + 0.715169G + 0.072192B
Z= 0.019331R + 0.119195G + 0.950532B
ここで使用されているのRGB、およびその際の係数はハイビジョンテレビのRGB色空間だそうだ。

X0 = 0.95045 Y0 = 1.0 Z0 = 1.08892
とすれば、
L= 116(Y/Y0)^0.333 -16 ( Y/Y0 > 0.008856 )
a= 500[ (X/X0)^0.333 - (Y/Y0)^0.333 ]
b= 200[ (Y/Y0)^0.333 - (Z/Z0)^0.333 ]
とできるとある。もちろん、ここで使われる係数などは考えるデバイスにより異なるので、これは単なる一例である。

 それでは、前回に使用した画像についてLab色空間でのヒストグラムを調べてみる。

各WEBページとLab色空間でのヒストグラム
アメリカ版
L*a*b*の平均値/標準偏差
日本版
L*a*b*の平均値/標準偏差
apple
L*201/69.6
a*128/1.82
b*127/3.93
L*228/54.8
a*128/1.82
b*126/6.70
sgi
L*228/49.2
a*128/5.20
b*129/8.49
L*223/55.3
a*129/8.46
b*129.10.4
Kodak
L*37.8/49.9
a*133/9.14
b*138/17.0
L*194/76.4
a*132/14.1
b*132/14.1
Canon
L*163/77.6
a*131/16.2
b*112/21.5
L*207.52.8
a*130/8.56
b*127/11.2
FUJIFILM
L*159/77.1
a*112/25.5
b*145/25.8
L*190/79.2
a*129/6.18
b*121/14.6
Xerox
L*191/80.1
a*140/25.7
b*147/17.8
L*219/38.9
a*132/12.7
b*128/14.5
RICOH
L*228/44.1
a*129/8.81
b*128/10.0
L*289/51.6
a*132/10.2
b*127/10.2

 ここらへんまで、作業をしてくると、今回のやり方は失敗だったことがやっとわかる。WEBのトップページは企業のイメージカラーの影響が強すぎるし、こういった考察には数をかせぐ必要があるので、解析ロボットをつくって、ネットワーク上に放つ必要がある。手作業ではとてもじゃないがやってられない。

 例えば、「WEBのトップページは企業のイメージカラーの影響が強すぎる」というのは

  • Kodakアメリカの黄色
  • FUJIFILMアメリカの緑
  • Xeroxアメリカの赤
  • Canonアメリカの青
などを見ればわかると思う。ただし、こうしてみると全てアメリカ版であることが面白い。日本版よりも、色の使い方が派手なのである。それは、Xerox,FUJIFILM,Canonに関してa*,b*における分散の大きさなどを見れば明らかである。いずれも、日本版よりもアメリカ版の方が大きい、すなわち、派手な色使いをしているのがわかると思う。もしかしたら、ここらへんに文化の違いが出ているのかもしれない。
 ところで、Canonに関しては日本版を見るにイメージカラーは赤のような気がするが、アメリカ版では明らかに青をイメージカラーとしている。これは、Xeroxとの兼ね合いだろうか?

 さて、今回の考察はやり方を間違えたので話が発散してしまった。要反省だ。

1999-10-07[n年前へ]

CCDカメラをバラせ! 

モアレは自然のClearText

 あまり、「できるかな?」では工作の話題が出ていない。いや、もしかしたら全然出ていないかもしれない。そこで、手元に8mmビデオのジャンクがあったので、こいつをバラしてみることにした。そして、これまで「できるかな?」に登場しているような話に関連していることがないか調べてみるのだ。いや、本当は嘘で計画済みの伏線張りまくりの話である。もしかしたら、勘のいい方はもう話の風向きはもうおわかりかもしれない。

 さて、今回分解するカメラはかなり前(といっても数年前)のモデルである。まずは、分解してみよう。

1 8mmビデオカメラのCCD&レンズ部分.
2. 方向を変えるとこんな感じ
3. 正面のレンズを外す
4. もっとばらす。中央にCCDチップ部分がある。
5. これがCCD部分。
6. CCD前部のフィルターを外す
7. CCD素子を正面から見ると
8. もっともっと拡大するとこうだ

 5.の写真でわかるように、CCD前部にはフィルターが着けてある。(当初はこれを赤外線フィルターだと考えていた。なので、このフィルターを外してやると、画質はとんでもないことになる。しかし、その上で赤外線投光器を装着すれば面白いカメラになりそうである。が、用途を間違えるととんでもないことになるので、今回はやらない。が、いつかやってみようとは思っている。もちろん、私は品行方正がモットーであるので、悪用はするわけがない。もちろんである。)と、書いたがその後、「これは赤外線とは逆のエイリアシング防止用のハイカットフィルタだろう」というご指摘を頂いた。フィルターが青色だったので、単純に赤外線カット用途かと思い込んでいたが、どうやら違うらしい。指摘の文章をそのまま、使わせていただくと「CCDは空間サンプリング素子であり、サンプリング周期(ピクセルのピッチ)よりも短い波長の光が入ると、エイリアシング(折り返しノイズ)を生じて擬似カラー、干渉縞を生じてしまいます。これを避けるためのハイカットフィルタです。」とある。その後、知人から頂いた資料(勉強しなおせ、ということだろう)を読むと、水晶板をだぶらせて2重像にすることにより、細かい解像ができないようにしているローパスフィルターであるようだ。空間周波数のローパスである。今回のCCDでは3層構造になっており、中央の層にのみ色がついている。反省がてら、次回にもう少し調べてみようと思う。

 ところで、7.などの拡大画像で周辺部が丸くケラれているのがわかると思う。これは、

と同じく実体顕微鏡の接眼部からデジカメで撮影を行っているからである。デジカメはこういう時に何より重宝する。さて、デジカメと言えば、こちらも同じくCCDを用いているわけである。

 さて、8.の拡大画像を見ると、このカメラのCCDのカラーフィルターは補色方式(CMYG=シアン、イエロー、マゼンダ、グリーン)であることがわかる。原色タイプでないところを見ると、どうやら感度重視の製品であるようだ。また、この拡大画像などを眺めると、

で調べた液晶のフィルターと同じような構造であることがわかる。よくストライプ模様の服を着ている人をCCDビデオカメラで撮影すると、モアレが発生することがあるが、それはこういったフィルターの色の並びに起因しているわけである。フィルターの周期とストライプの模様が干渉してモアレが生じてしまうのである。

 最近のものではソフト的にかなりの処理をしてモアレが出にくいようにしているし、CCDも高解像度化が進んでいるので、なおさら出にくい。私が使用している富士写真フィルムのFinePix700でそのようなモアレを出そうと思ってみたが、なかなか出なかった。むしろ、ピントを正確に合わせることができなかった。それでも、何とか白黒の縦線模様を撮影して、モアレを出してみたのが下の写真である。左がオリジナルで、右がそれに強調処理をかけたものである。

FinePix700で白黒の縦線模様を撮影した際のモアレ
(左上から右下へ斜めにモアレが出ている)
オリジナル
左に強調処理をかけたもの

 モアレが発生しているのがわかると思う。さてさて、こういう白黒ストライプをよく眺めてみれば、

で登場したこの画像を思い出すはずだ。
ノーマル
ノーマル斜線
カラーシフトを用いた斜線

 そう両者ともまったく同じ斜線である。そもそも、前回作成したパターンは今回への伏線であったのである。白黒の縞模様を撮影しているのであるから、普通は白黒模様しか撮影されない。しかし、モアレが発生している場合というのは、CMYGからなる1画素の中でのさらに細かな位置情報が判るのである。先ほどのCCDの色フィルターの拡大写真のような配置になっていることを知っているのであるから、その配置も考慮の上処理してやれば良いのである。もちろん、白黒の2値からなる画像を撮影しているという前提条件は必要である。その前提条件さえつけてやれば、モアレが生じていることを逆に利用して、高解像処理ができるはずだ。

 例えば、

CCDのCMYGからなる一画素
GreenMagenda
YellowCyan

という画素のGreenだけ出力が大きかったとすると、グレイ画像であるとの前提さえ入れてしまえば、1画素のさらに1/4の領域まで光が当たっている位置を推定できるということになる。もちろん、実際のカメラでも4色の間で演算をしてやり、ある程度の推定はしているだろう。しかし、前提条件を入れてやれば、より高解像度が出せるだろう。

 ClearTextの場合は白黒2値の文字パターン、あるいはハーフトーンという前提条件をつけて液晶に出力を行った。今回は、白黒2値の文字パターン、あるいはハーフトーンという前提条件をつけて、CCDからの出力を解釈してやれば良いわけである。CCDカメラにおいては自然が自動的にカラーシフト処理をしてくれるのである。そのカラーシフト処理からオリジナルの姿を再計算してやれば良いわけである。もっとも、これらのことは光学系がきちんとしている場合の話である。

 今回考えたような、そういった処理はもうやられていると思う。FinePix700でも撮影モードに

  • カラー
  • 白黒
の2種類があるので、もしかしたらそういう処理が含まれているのかもしれないと思う。それでは、実験してみよう。白黒の方がキレイに縞模様が撮影できているだろうか?
FinePix700で白黒の縦線模様を撮影した際のモアレ
(左上から右下へ斜めにモアレが出ている)
白黒モードで撮影
カラーモードで撮影

 うーん、白黒のほうがキレイなような気もするが、よく判らない。念の為、強調処理をかけてみる。もしかしたら、違いがわかるかもしれない。

上の画像に対して強調処理をかけたもの

 うーん、これではますます違いがよくわからない。これは、次回(すぐにとは限らないが)に要再実験だ。ただ使っている感覚では、まずピントがきちんと合わないような気がする。うーん、難しそうだ。それに、今回の実験はローパスのフィルター部分をなくしたものでなければならなかったようにも思う。ならば、FinePix700を使うのはマズイ(直すのメンドクサイから)。どうしたものか。

2000-03-19[n年前へ]

一家に一台、分光器 

ハサミとテープで「できるかな?」



 いきなりであるが、分光器を作りたい。光を波長別に分ける機器である「分光器」である。とある実験をするために、分光器が必要なのである。その「とある実験」の影には、大きな野望があるのだが、まだ明らかにする訳にはいかない。とりあえず、色の話題を考えるときに分光器があると便利だから、という理由にしておきたい。

 どうやって分光器を作るか考えてみる。普通であれば、グレーティング(回折格子)やプリズムといったものを使うことになるだろう。家の中を探してみれば、プリズムなどもあるはずなのだが、WEBで情報を探してみると面白い情報があった。

である。CDは1.0umの幅をおいて0.5um幅のピットが配置されている。1mm中のピット数に直すと、600本強である。そして、その構造は反射型のグレーティングそのものである。いらないCDならば家には腐るほどあるし、「CDを使って、マイ(オレの)分光器を作ろうか?」と考えていたのだが、いきなり手元に透過型のグレーティング(回折格子)があったことに気づいた。そこで、このグレーティングを使って分光器を作ってみた。

 次に示すのが、HIRAX一型分光器である。ハンディ・超軽量の優れものだ。テープとハサミと去年のカレンダーを駆使し、フリーハンドで作成した、製作時間20分の大作である。どうも私の仕事はテープとハサミを駆使することが多い。それは、ハードでもソフトでも、どちらでも同じことである。出来の悪いノッポさんである。
 

HIRAX一型分光器の外観図

 左下がスリット部になっている。中央上の折れ曲がっている部分にグレーティングが配置している。次の写真を見るとグレーティングがあるのが判ると思う。HIRAX一型分光器の内部は散乱光を防止するために、黒く塗ってある。しかし、下の写真を見れば判るように、グレーティングの周りの片側は塗り忘れてしまった。まるで、「耳なし保一」である。
 

HIRAX一型分光器の中央にあるグレーティング

 こちらの開口部から目で覗くなり、デジカメで撮影するなりするのだ。そうすれば、スペクトルが確認できる、というわけである。

 例を示してみたい。グレーティングが曲がっているせいで、スペクトルが歪んでいるし、スリットが結構太いし、サイズのせいもあってスペクトルの分解能はそれほど高くない。しかし、結構きれいな映像を得ることができる。まずは、太陽光のスペクトルを見てみる。
 

太陽光のスペクトル

 これはデジカメで撮影したものである。スリットが太いので確認しづらいのだが、太陽光のフラウンホーファー線(FraunhoferLine)の一つHβ吸収線が486nm(ここでは水色の中央部)辺りに見えるような気がしないだろうか? いずれ、スリット幅を小さくして、もう少し精度の高い実験をしてみる予定である。

 さて、次の例は「自宅の蛍光灯のスペクトル」である。
 

自宅の蛍光灯のスペクトル
 水銀の
  • 黄色、橙色  579、577nm
  • 黄緑色     546 nm
  • 水色      436 nm
  • 紫色      408、405 nm
のスペクトル(多分?)が確認できる。また、ノートPCの液晶の白い部分を分光器にかけてみると、次のようになる。光量が弱くいが、RGBの輝線が確認できる。
 
液晶(RGB)のスペクトル
の時の液晶の拡大画面と見比べてみると、面白い。

 目で覗いたり、デジカメで撮影したりするのも面倒なので、可視・赤外領域に感度を持つCCDボードを秋月で買ってきた。次回、このCCDボードを取り付けて見る予定だ。そして、定量化をしてみたいのである。そして、ある野望のためにせっせと実験を続けていく予定である。
 

2000-03-26[n年前へ]

透け透け水着の物理学 入門編 

透過率の波長依存を探れ


 少し前のことだった。舞台は妙高高原の露天風呂である。同じ職場の人とある話をしていた。話題は仕事に関する話で、主な話題は色々な物質の光の透過率や吸収の話だった。ずいぶん長いこと、そういった話題をしていた。

 しかし、ふと気づくとなにかがおかしい。会話中に出てくる言葉が変なのである。さっきまで話していた「吸収波長」とか、「感度」とかいう言葉は依然として出てくるのだが、それに加えて変な言葉がどうも出ている。「透け透け水着」とか「丸見え」とか「ナイトショット」といった類の言葉である。これは一体どうしたことだ?これは非常にマズイ。

 私たちがいるのは露天風呂である。私たちの数m横の壁の向こうは女性用の露天風呂だ。そこで、私たちは「透け透け水着」と「丸見え撮影」の話題をしているのである。非常に危険なシチュエーションである。逆に、隣の女性用露天風呂に入浴している人がいたならば、とてもイヤなシチュエーションである。隣が「変態さんいらっしゃい」状態だと思ってしまうだろう。

 もちろん、心ある人が聞けば、私達が極めて誠実に「透け透け水着」と「丸見え撮影」の「科学」について論じているのはわかるはずだ。ましてや、私という人間を知っていたならば、なおさらである。
 しかし、周りはもちろん私達の知り合いではないわけで、誤解されても何らおかしくない。いや、誤解されないのが不自然な位である。
 もちろん、私は見えないものを可視化するのが大好きであるし、「32cmの攻防戦」について論じたこともあるが、誤解はしないで欲しい、とあの時周りにいた人達にひとこと言っておきたい。

 さて、その時に話していたのは、ビデオカメラで水着が透けて見える話についてであった。あの有名なSONYの「ナイトショット」機能付きのHandyCamのことである。そのカメラでどうして水着が透けて見えるのかについて論じていたのである。その見える理由を聞かれた私は「透け透け水着は赤外線の透過率が高いから、と言われていますね。」と答えた。

 例えば、「水着、透ける、ビデオ」で検索すれば、そういう解説が数多くある。それに、私は赤外線フィルムを使って風景撮影をするのが好きだったので、いくらか知識もある。しかし、それはあくまでも知識である。実際に水着の赤外線の透過率を調べたことがあるわけでもないし、可視光との差を比較したことがあるわけでもない。それはあくまで知識だけ、である。実証の伴わない知識というのは今ひとつ好きではない(いや、盗撮を実証するわけじゃないけど)。

 そこで、今回は「水着が透ける理由」を実証してみたい、と思うのである。 透ける理由として、よく言われている

  1. 水着の色や生地によって波長毎の光の透過率が異なる
  2. 水着によっては、赤外光は屈折・散乱しにくく、透過率も可視光に比べて高いものがある
  3. 簡単に言えば、その水着は赤外光は透過しやすい、ということである
  4. ということは、赤外光で撮影をする限りにおいて、その水着は半透明であるようなものである
  5. また、可視光の影響を防ぐため、可視光をカットするフィルターを用いて、赤外光のみで撮影をする
  6. すると、なんと水着が透けて見える
というのを実証してみたいのだ。題して、「透け透け水着の物理学」である。一つ一つデータを重ねて、「透け透け水着の物理学」を構築したいと思うのだ。

 さて、先ほどの「透け透け水着は赤外線の透過率が高いから、と言われていますね。」という言葉を実証するためには、色々な生地の透過率を波長毎に調べなければならない。そのためには、光を波長毎に分解する分光器が必要である。そこで、私は

で分光器を作ったわけである。

 前回は、分光器の出力をデジカメで撮影した。しかし、これでは赤外光の計測もしづらい。そこで、秋月で可視・赤外対応のCCDボードを買ってきた。これを前回作成したHIRAX一型分光器に取り付けて、計測を行った。名付けて、「HIRAX一型分光器CCD+」である。
 

秋月で買ったCCDボード 4000円なり

 まずは、その分校計測出力例を示してみたい。下の写真は「CCDカメラで計測したスペクトルに、可視光の色対応を示すカラーバーを上に示したもの」である。これは前回と同じく、太陽光のスペクトルだ。水平軸が波長を示している。左が波長が短い領域であり、右が波長が長い領域である。可視光領域は左の1/3くらいの領域である。
 

太陽光のスペクトル
CCDカメラで計測したスペクトルに、色対応を示すカラーバーを上に示したもの

鮮鋭化処理をかけたもの

 今回は、縦線状に見えるフラウンホーファー線が明らかに数多く見えるのがわかると思う。HIRAX一型分光器自体もスリット幅の改良などで性能がアップしてるのである。

 それでは、まずはいくつかの材料の波長毎の透過率を計測してみたい。まず、使う材料は下に示すような色フィルターである。もちろん、こんな透け透けの材料で作った水着を着ている人なんているわけはない。これは、あくまで例である。
 

色フィルター

 それでは、次に「HIRAX一型分光器CCD+」で計測した波長毎の透過性を示してみよう。まずは、赤色フィルタである。赤色フィルタを使用している部分は、使用していない部分に比べて、赤色(そして赤外領域)以外の波長がカットされているのがわかる。
 

赤色フィルタの透過性を示したもの
(上部がフィルタ使用、下部がフィルタ未使用)
CCDカメラで計測したスペクトルに、色対応を示すカラーバーを上に示したもの

 例えば、赤色が見えづらい人であれば、このフィルターは透過性が非常に低く、「透け透け度」が低いフィルターである、ということになる。また、赤外光は透過しているが、すごく長波長側では透過率がかなり低いことがわかる。

 また、次が黄色であり、赤色フィルタよりも短波長側まで透過性が高くなっていることがわかる。そして、赤外光の透過性は赤色フィルタよりも高い。
 

黄色フィルタの透過性を示したもの
(上部がフィルタ使用、下部がフィルタ未使用)
CCDカメラで計測したスペクトルに、色対応を示すカラーバーを上に示したもの

 次に示す緑色のフィルタの場合は、緑の辺りの波長と赤外領域辺りの透過性が高いことがわかる。よく、ビデオカメラで赤外リモコンなどの赤外光を撮影すると、緑色に写ることがあるが、あれはこういった緑色のフィルタを使用しているのだろうか?
 

緑色フィルタの透過性を示したもの
(上部がフィルタ使用、下部がフィルタ未使用)
CCDカメラで計測したスペクトルに、色対応を示すカラーバーを上に示したもの

 次が青色フィルタである。赤外光の透過性は結構低い、こともわかる。
 

青色フィルタの透過性を示したもの
(上部がフィルタ使用、下部がフィルタ未使用)

CCDカメラで計測したスペクトルに、色対応を示すカラーバーを上に示したもの

 色々、面白いこともある。例えば、赤色フィルタの透過特性と緑色フィルタの透過特性を比べると、重なり合う(透過性が高い)領域(波長)がほとんどないことがわかる。
 

赤色フィルタの透過性を示したもの
から透過光の強さを描いたもの

緑色フィルタの透過性を示したもの
から透過光の強さを描いたもの

 だから、赤色フィルタと緑色フィルタを重ねると、全然透けないわけだ。透過可能な波長領域がないワケである。こういうのを見ると、暗記用の赤色ペンと緑色下敷きの組み合わせを思い出してしまう。
 

赤色フィルタと緑色フィルタを重ねると、全然透けない

 さて、こういう風に材料毎の透過性を計測できるようになったわけである。さらに、赤外線フィルタの透過性を見てみたい。赤外線の波長領域をまずは実感してみたい、ということである。赤外フィルタは赤外リモコンの発光部のカバーを使用してみた。下に示すのが、「赤外フィルタ= 赤外リモコンの発光部のカバー」であり、
 

赤外フィルタ = 赤外リモコンの発光部のカバー

 次が、赤外フィルタの透過性を示したものである。可視光はほとんど通さず、波長の長い赤外光のみ通過させているのがわかる。
 

赤外フィルタの透過性を示したもの(全てフィルターをかけたた)

 さて、あまりにも画像が増えてページが重くなってきた。今回は分光計測を行い、赤外線フィルターの分光感度を計測したところまでで終わりにしたい。次回は、色々な生地の透過分光計測を行う予定である。「色々な生地が可視光では透過率が低くても、赤外光では透けて見えることがあるのか」調べてみたい、と思う。
 



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