2000-03-26[n年前へ]
■透け透け水着の物理学 入門編
透過率の波長依存を探れ
少し前のことだった。舞台は妙高高原の露天風呂である。同じ職場の人とある話をしていた。話題は仕事に関する話で、主な話題は色々な物質の光の透過率や吸収の話だった。ずいぶん長いこと、そういった話題をしていた。
しかし、ふと気づくとなにかがおかしい。会話中に出てくる言葉が変なのである。さっきまで話していた「吸収波長」とか、「感度」とかいう言葉は依然として出てくるのだが、それに加えて変な言葉がどうも出ている。「透け透け水着」とか「丸見え」とか「ナイトショット」といった類の言葉である。これは一体どうしたことだ?これは非常にマズイ。
私たちがいるのは露天風呂である。私たちの数m横の壁の向こうは女性用の露天風呂だ。そこで、私たちは「透け透け水着」と「丸見え撮影」の話題をしているのである。非常に危険なシチュエーションである。逆に、隣の女性用露天風呂に入浴している人がいたならば、とてもイヤなシチュエーションである。隣が「変態さんいらっしゃい」状態だと思ってしまうだろう。
もちろん、心ある人が聞けば、私達が極めて誠実に「透け透け水着」と「丸見え撮影」の「科学」について論じているのはわかるはずだ。ましてや、私という人間を知っていたならば、なおさらである。
しかし、周りはもちろん私達の知り合いではないわけで、誤解されても何らおかしくない。いや、誤解されないのが不自然な位である。
もちろん、私は見えないものを可視化するのが大好きであるし、「32cmの攻防戦」について論じたこともあるが、誤解はしないで欲しい、とあの時周りにいた人達にひとこと言っておきたい。
さて、その時に話していたのは、ビデオカメラで水着が透けて見える話についてであった。あの有名なSONYの「ナイトショット」機能付きのHandyCamのことである。そのカメラでどうして水着が透けて見えるのかについて論じていたのである。その見える理由を聞かれた私は「透け透け水着は赤外線の透過率が高いから、と言われていますね。」と答えた。
例えば、「水着、透ける、ビデオ」で検索すれば、そういう解説が数多くある。それに、私は赤外線フィルムを使って風景撮影をするのが好きだったので、いくらか知識もある。しかし、それはあくまでも知識である。実際に水着の赤外線の透過率を調べたことがあるわけでもないし、可視光との差を比較したことがあるわけでもない。それはあくまで知識だけ、である。実証の伴わない知識というのは今ひとつ好きではない(いや、盗撮を実証するわけじゃないけど)。
そこで、今回は「水着が透ける理由」を実証してみたい、と思うのである。 透ける理由として、よく言われている
- 水着の色や生地によって波長毎の光の透過率が異なる
- 水着によっては、赤外光は屈折・散乱しにくく、透過率も可視光に比べて高いものがある
- 簡単に言えば、その水着は赤外光は透過しやすい、ということである
- ということは、赤外光で撮影をする限りにおいて、その水着は半透明であるようなものである
- また、可視光の影響を防ぐため、可視光をカットするフィルターを用いて、赤外光のみで撮影をする
- すると、なんと水着が透けて見える
さて、先ほどの「透け透け水着は赤外線の透過率が高いから、と言われていますね。」という言葉を実証するためには、色々な生地の透過率を波長毎に調べなければならない。そのためには、光を波長毎に分解する分光器が必要である。そこで、私は
で分光器を作ったわけである。 前回は、分光器の出力をデジカメで撮影した。しかし、これでは赤外光の計測もしづらい。そこで、秋月で可視・赤外対応のCCDボードを買ってきた。これを前回作成したHIRAX一型分光器に取り付けて、計測を行った。名付けて、「HIRAX一型分光器CCD+」である。
まずは、その分校計測出力例を示してみたい。下の写真は「CCDカメラで計測したスペクトルに、可視光の色対応を示すカラーバーを上に示したもの」である。これは前回と同じく、太陽光のスペクトルだ。水平軸が波長を示している。左が波長が短い領域であり、右が波長が長い領域である。可視光領域は左の1/3くらいの領域である。
鮮鋭化処理をかけたもの |
今回は、縦線状に見えるフラウンホーファー線が明らかに数多く見えるのがわかると思う。HIRAX一型分光器自体もスリット幅の改良などで性能がアップしてるのである。
それでは、まずはいくつかの材料の波長毎の透過率を計測してみたい。まず、使う材料は下に示すような色フィルターである。もちろん、こんな透け透けの材料で作った水着を着ている人なんているわけはない。これは、あくまで例である。
それでは、次に「HIRAX一型分光器CCD+」で計測した波長毎の透過性を示してみよう。まずは、赤色フィルタである。赤色フィルタを使用している部分は、使用していない部分に比べて、赤色(そして赤外領域)以外の波長がカットされているのがわかる。
例えば、赤色が見えづらい人であれば、このフィルターは透過性が非常に低く、「透け透け度」が低いフィルターである、ということになる。また、赤外光は透過しているが、すごく長波長側では透過率がかなり低いことがわかる。
また、次が黄色であり、赤色フィルタよりも短波長側まで透過性が高くなっていることがわかる。そして、赤外光の透過性は赤色フィルタよりも高い。
次に示す緑色のフィルタの場合は、緑の辺りの波長と赤外領域辺りの透過性が高いことがわかる。よく、ビデオカメラで赤外リモコンなどの赤外光を撮影すると、緑色に写ることがあるが、あれはこういった緑色のフィルタを使用しているのだろうか?
次が青色フィルタである。赤外光の透過性は結構低い、こともわかる。
CCDカメラで計測したスペクトルに、色対応を示すカラーバーを上に示したもの |
色々、面白いこともある。例えば、赤色フィルタの透過特性と緑色フィルタの透過特性を比べると、重なり合う(透過性が高い)領域(波長)がほとんどないことがわかる。
だから、赤色フィルタと緑色フィルタを重ねると、全然透けないわけだ。透過可能な波長領域がないワケである。こういうのを見ると、暗記用の赤色ペンと緑色下敷きの組み合わせを思い出してしまう。
さて、こういう風に材料毎の透過性を計測できるようになったわけである。さらに、赤外線フィルタの透過性を見てみたい。赤外線の波長領域をまずは実感してみたい、ということである。赤外フィルタは赤外リモコンの発光部のカバーを使用してみた。下に示すのが、「赤外フィルタ= 赤外リモコンの発光部のカバー」であり、
次が、赤外フィルタの透過性を示したものである。可視光はほとんど通さず、波長の長い赤外光のみ通過させているのがわかる。
さて、あまりにも画像が増えてページが重くなってきた。今回は分光計測を行い、赤外線フィルターの分光感度を計測したところまでで終わりにしたい。次回は、色々な生地の透過分光計測を行う予定である。「色々な生地が可視光では透過率が低くても、赤外光では透けて見えることがあるのか」調べてみたい、と思う。
2000-04-16[n年前へ]
■透け透け水着の物理学 第二回
水着の生地を手に入れろ
「透け透け水着の物理学」である。前回、
で「透け透け水着」を調べるための「波長別透過計測システム」を作ってみた。予算は総額4000円である。私からすれば、「透け透け水着」は予算をかけた大プロジェクトであると言っても良い。となれば、次は色々な水着の生地における「透け透け度」を調べたくなるわけであるが、その実験がなかなかできなかった。忙しかったせいもあるが、大きな理由は、
- 手頃な水着の生地が手に入らないので、実験ができない (材料の問題)
私の持っている水着はトランクスタイプで生地もかなり厚い。これでは、「透け透け」であるわけがない(それに、透け透けでは私も困るし、世間も困るだろう)。きっと、競泳用のビキニタイプのものであれば、薄い生地が使われているのであろう。しかし、私はビキニタイプの水着など持っていない。まして、レオタードなど持っているわけがない。
もちろん、他の人に借りるという手もないわけではない。しかし、相手が男であれ、女であれ、
「君の水着を少しばかり貸してくれたまえ。」と言うのは少々危険である。誤解される恐れがなきにしあらずだ。もちろん、実験に協力してくれる方がいらっしゃるならば、私のところまで「透け透け水着」を送っていただけるとありがたい。そういう方がもしいらっしゃれば、メールを頂ければ幸いである。とは一応書いてはおくが、送ってくれる人などきっといないだろう。
「いや、変なことをするわけじゃないんだ。」
「ただ、透け透け度を調べてみたいだけだから、気にしないでくれたまえ。」
というわけで、なかなか実験をすることができないでいた。もちろん、水着と似てそうな生地を頭の上では探してはいた。しかし、「服の生地」という観点から離れられないでいた。そのため、手近なところでは見つからないでいたのだ。結局、
- 服の生地を手に入れなければ、実験ができないだろう
しかし、数日前、怪しさ抜群の職場のK藤氏が私に囁いたのである。舞台は、夜の会議室だ。
K藤氏 「いやァ、hirabayashi君。透け透け水着の話なんだけどねェ。」なるほど、確かに雨傘の生地と水着の生地はよく似ている。水を防ぎ、風を防ぎ、ファッションを重視するのも全く同じだ。気づかなかった。気づかなかったのが恥ずかしい位である。もう、最後のK藤氏の
K藤氏 「ボクもやったことがあるんだけど、結構透ける生地ってあるんだよねェ」
私 「えっ、材料は何を使われました?」
K藤氏 「雨傘の布だよ、hirabayashi君。」
「雨傘の布だよ、hirabayashi君。」というセリフなどは、まるでシャーロック・ホームズの
「自明だよ。ワトソン君。」というセリフのようだ。むちゃくちゃ格好良すぎである。
しかし、よく考えてみると、何やら変なシャーロック・ホームズである。何故、シャーロック・ホームズが「透け透け水着の物理学」を探求するのだ?(人のことは言えないが…)
私 「ちなみに、K藤さん、どこでその実験をされました?」なるほど、想像するだけでスゴイものがある。色々な意味でスゴイ人だ。拳法の使い手でもあり、実は火星人だというウワサもある位のスゴい人である。いや、もしかしたらヒトですらないかもしれない。
K藤氏 「夜、部屋でね。一人でカメラを片手にね。ひッひッひッ。」(誇張無し)
そしてまた、この二人の会話に「何故、どんなことをするのか?」という疑問がないのが不思議と言えば、不思議である。そういったことは二人とも、不思議に思っていないようなのだ。
それは、さておき、私もK藤氏のように、雨傘の生地を使ってみたいと思う。その雨傘の生地の赤外線の透過率を確認してみたいと思うのだ。傘なら家にはたくさんある。何しろ、私は傘を持って外出することがない。雨が降ったら、外出先で傘を買うのだ。だから、家には傘が何本もある。
それでは実験を始めてみる。下の写真が家にあった傘である。どれも外出先で買ったものだ。
そして、前回使ったCCDボードであるが、元々は赤外光投光部が付いていた。前回はその部分をあえて使用しなかったのであるが、今回はそれを使用してみたいと思う。
それでは、このCCDボードを用いて赤外光を照射しながら撮影したものと、普通のCCDカメラで撮影したものでどの位「透け透け度」が違うものかを見てみたい。下に示す写真は左が普通のCCDカメラで撮影したものであり、右が今回のCCDボードを使って撮影したものである。雨傘の生地の向こうにある冊子(JAFMATE)の表紙の透け具合を見てもらいたい。
白、桃、藍色の傘の生地は元々透け気味である。だから、普通のCCDカメラでも少し表紙が透けて見えた。しかし、緑色のものなどは普通のCCDカメラや人間の眼ではほとんど透けては見えない。しかし、赤外CCDカメラでは「透け透け」であった。また、茶色のものなども「透け透け度」が高かった。
もし、こんな生地で出来ている水着を着ている人がいるのであれば、これはもう「裸の王様状態」である(赤外線に感度を持つ眼の生物からすれば)。パラダイスとしか言いようがない。いや、そんなことはないか。
さて、「透け透け度」と色の相関は、色の波長を考えると、ある意味当然だろう。しかし、具体的な話は次回にしたい。生地の波長別の透過率を調べてから、ということにしておく。本来ならば、まずは先にそれをやらなければならない。白色光を用意して、雨傘の生地の波長別の透過率を調べなければならないところだ。
しかし、今回はそれができなかった。何故なら、基準光としての白色光、いつも使用している太陽が今日は出ていないからである。平日の昼間は実験ができない。しかし、週末の昼間にもやはり実験はなかなかできない。というわけで、いつか天気が良くて暇な週末が来たら、必ず「雨傘の生地の波長別の透過率」、言い換えれば、「色んな生地の透け透け度」を調べてみたい。
言うまでもないが、今回もまた「やましい気持ち」で動いているわけでない。私はただ「透け透け水着」に対する純真な好奇心(いや、科学的探求心と言い換えておこう)で動いているのみである。これから、夏に向けて「透け透け水着の物理学」はまだまだ進んでいく予定である。そして、水着を買う際の参考にして頂くことを切に切に望むのみである。
2000-09-02[n年前へ]
■もうすぐ二歳の「できるかな?」
初心に帰ってみましょうか?
「できるかな?」が始まったのは二年近く前の秋のことだった。
でも触れたが、当初(実は今も続いているが)は某社内の某サーバー内でこっそりと始めてみたのだった。それから二年あまりでずいぶんと色々な話が増えた。某社サーバー内でしかアップしていない- プリンタドライバーは仮免
- 続 電子写真プロセスを分数階微分で解いてみよう
- 続々 電子写真プロセスを分数階微分で解いてみよう
そして話が増えてきたせいか、自分自身でも「アレッ、あの話はどこにあったけ?」というように迷ってしまうことが多々ある。迷うどころか、最後まで見つからないこともしばしばあるのだ。そして、それは私でもない他の人であればましてやそうだろう。というわけで、
では簡単にそれまでの話の紹介をしたし、ではhirax.net内の全文検索機能を付けてみた。今回は、これまでの話題をもう一度自分で読み直して、その中から「自分のお気に入り」を調べてみたいと思う。そして、最近少し話題が変になってしまっている反省をして、もう一度初心に帰ってみようと思うのだ。
まずは、1998年の話題からいくと
というあたりが、良い感じだ。京都の風物詩である「鴨川カップル」達が人目を気にしながら寄り添う合う姿を考えてみたものだ。後の「恋の力学」シリーズなどはここらへんから始まっていた、といっても良いだろう。そしてこの頃の[Scraps]系の話題としては、がある。少し前に、この「さなえちゃん」を描いた漫画の作者からメールを頂いたのがとても私には印象深かった。そして、1999年の上半期から選んでみると、まずは
というところだろう。ハードディスクの情報を可視化することで情報圧縮・エントロピーを考えてみた一話である。そして、同じような「可視化シリーズ」の一つである- 感温液晶でNotePCの発熱分布を可視化する- 熱いところで感じてみたい St.Valentine 記念 - (1999.02.14)
- NotePCの発熱分布を比べてみたい- お熱いのがお好き SOME LIKE IT HOT - (1999.02.15)
そして、1999年の下半期はもう自分で言うのも何だが傑作揃いである。大体、書いているペースが自分でも驚くくらいのハイペースだ。月当たりの話の数を数えてみると、
- 7月 9話
- 8月 9話
- 9月 8話
- 10月 8話
- 11月 11話
- 12月 9話
この頃の「お薦めの話」はいっぱいある。例えば、
に始まった「文章可視化シリーズ」や、で始まった「ASCIIアートシリーズ」だろう。から始まる「江戸五色不動シリーズ」は江戸にロケまで行ったので、とても思い出深い話の一つである。しかも、妙な偶然のせいでまるで小説の中に迷い込んだような気持ちになったものだ。そして、WEBページを作る上では
などもどうしても外せない。そして、この後結構続くことになるという「恋の力学」シリーズもこの時期に始まっている。そして、この頃の一番人気が何と言ってもだろう。この「ミニスカート」系の話の流れは以降も続くことになるのが自分では意外でもあり、残念でもある。それはさておき、ナンセンス系ではなんてのも面白い話だと思う。そして、1999年の終わりはやはりこれが「お気に入り」の話である。また、[Scraps]系の話がこの時期にはやたらいっぱいあるのが面白いところだ。その内からいくつかピックアップするとこんな感じだろうか?- [Scraps]絵馬 - どこにもいないよ- (1999.07.09)
- 新宿駅は電気羊の夢を見るか- 意識とは何か - (1999.07.10)
- [Scraps]合掌 - キレイはキタナイ、キタナイはキレイ- (1999.08.01)
- [Scraps]いつかきっと -掌の中の答え - (99.11.03)
- 「文学論」と光学系 - 漱石の面白さ-(2000.02.27)
- 恋の力学 恋の相関分析編- 「明暗」の登場人物達の行方 - (2000.04.01)
- 恋の力学 恋のグラフ配置編- 「明暗」の収束を見てみよう - (2000.04.02)
- 恋する心を見てみたい - 恋のきっかけはどの出来事?- (2000.05.14)
- 恋の形を見た人は - 恋の相対性理論- (2000.05.17)
さて、今回は2000年上半期までの話の中から「私の好きな話」を振り返ってみた。とはいえ、私の好きな話=他の人の好きな話ではないようだし、他の話も適当に眺めて頂いたら良いかなぁ(私が)、と思うのだった。
2004-03-15[n年前へ]
■巨乳ビジョン・シンドローム
「人の視覚は7メガピクセル」編
デジタルカメラの高画素化が急速に進んでいる。定価が数十万円ほどにもなるデジタルカメラであると、使われているイメージセンサの画素数は10メガピクセル(=一千万画素)近くになるし、定価が数万円の普及価格帯のデジタルカメラでも数メガピクセル(=数百万画素)であるのが普通である。そして、最近だと携帯電話に付属しているカメラでさえ2メガピクセル以上のイメージセンサを使っているものすらある。35mmの銀塩フィルムが40メガピクセル弱だから、ハイエンド・デジタルカメラの解像度はその数分の一にまで達しようとしている、ということになる。
そんなふうに、デジタルカメラの高画素化は進んでいるわけだけれど、そもそも私たち自身の「目」というのは一体どの程度の画素数があるものだろうか?最近のデジタルカメラと比べると、私たちの目には一体どの位の画素があるのだろう?デジタルカメラと同じ、「メガピクセル」を単位にするならば、人間の「目」というのは何メガピクセルに相当するのだろうか?
実は、人間の場合、デジタルカメラのイメージセンサの画素に相当するのが、目の中の網膜上の錐体(色を感じ、網膜の中心部に多くある)である。その数はおよそ700万個弱ほどもある。つまり、デジタルカメラと同じように言えば、人間の目は7メガピクセル相当ということになる。ということは、最近の数十万円のデジタル一眼レフカメラでさえ、やっと人間の目と同じ程度の画素数に達した程度なのである。普段生活をしている中では、人間の「目」の画素数なんて気にすることはそうそうないだろうけれど、人間の「目」はやっぱりスゴイのである。そして、そんな人間の「目」と同じレベルになりつつあるデジタルカメラもスゴイものなのだ。
ところで、『普段の生活の中では、人間の「目」の画素数なんて気にすることはそうそうない』と書いた。確かに、人間の「目」の画素数や配置、つまり、人間の「目」の画素、網膜上の錐体の数や配置などを気にすることはまずないかもしれない。けれど、それを意識しなくても実は目にしている機会は多いのである。
それは、例えばこんな縞模様を目にするときだ。片目をつぶって、もう片方の目だけでこの下の縞模様を眺めてみよう。すると、色の付いていないハズの白黒の縞模様の上に、うっすらと色の付いた縞模様が重なって見えてくるハズである。もしも、最初のうち判りにくいようであれば、片目をつぶったまま見る距離を変えてみれば判りやすいかもしれない。縞模様がウネウネと動く様子が見えると思う。
これは、「Brewsterの色」と呼ばれる色模様で、網膜上にある「赤、青、緑」の各色を感じる錐体の配置と「白黒の縞模様」が干渉してモアレが発生することで知覚される偽色なのである。
こんな模様というものは実は結構街中に溢れている。例えば、エスカレーターの階段部分やフェンスの金網、あるいは、マンガの効果線など、こういった規則的な模様を普段の生活の中で目にすることは実はとても多い。そんな時、私たちの目はカラフルな「Brewsterの色」を見ていることになる。見てはいるのだけれど、ただそれを意識しないことが多い、というだけである。逆にこんなモアレを意識してしまうようになると、私たちの7メガピクセルのイメージセンサが景色の中の縞模様と干渉して発生してしまうカラフルなモアレは本当に街中に満ちあふれていることに気づくのである。
例えば、規則正しい模様の服というようなものはとても多い。そして、そんな服の上でさえワタシのまなこ(心の眼かもしれないが)はBrewsterのモアレを見いだしてしまうのである。そして、規則正しい模様の服の上にさえBrewsterのモアレを見いだしてしまうようになってしまうと、これが何とも恐ろしい副作用がもれなくオマケで付いてくるのだ。それは、「巨乳ビジョン・シンドローム」という恐ろしいオマケなのである。
その「巨乳ビジョン・シンドローム」の症状は、下の二枚の写真を見てみると判りやすいのではないか、と思う。まず、左は「規則正しい模様のある生地でできた服」を着ている女性である。そして、右の写真はそんな「規則正しい模様のある服」を眺めたときに、意図せずしてモアレが発生してしまった様子を示している。ほとんど同じ二枚の写真ではあるが、よ~く眺めてみれば服の部分にモアレが発生してしまっている様子がわかるハズだ。しかも、ある特定の一部分であることも判るだろう。
を着ている女性 | モアレが発生すると… |
…そう、規則正しい模様の服を着ている人を眺めた場合には、凹凸の激しい部分で特に顕著にモアレが発生してしまうのだ。そして、そのモアレはその凹凸具合の等高線(と同じようなもの)を示してしまうのである。もっとハッキリ言ってしまうならば、規則正しい模様の服を着ている女性なんかを眺めた場合、胸の部分の凹凸具合の等高線が意図せずして見えてしまうのである*。日夜地図を作り続けている国土地理院もビックリのバスト地図(凸凹等高線入り)が幸か不幸か見えてしまうのだ。しかも、これは凹凸の激しい部分でのみ顕著に認識されたりするがために、巨乳の等高線は容易に見ることができるけれど、微乳の等高線はなかなか見ることができない、というまさに「巨乳ビジョン・シンドローム」なのである。
残念ながら、私はオッパイ星人ではないので詳しいことは判らないけれど、真性のオッパイ星人達は生まれながらにしてこんな巨乳ビジョンのまなこ(眼)を身につけているに違いない。だからこそ、微乳の小胸さんではなくて、巨乳さんに引き寄せられていくのかもしれない。つまりは、オッパイ星人をオッパイ星人たらしめていたのは、こんな巨乳ビジョン・シンドロームだったのかもしれないのである。
そして、おそらく彼らの視力は私たちヒトに比べて遙かに高いハズだ。だから、単に規則正しい絵柄の服だけではなくて、例えば規則正しく糸で織りなされた服、すなわち、それが布製であればどんな服の上からでもこんな等高線モアレを見いだしてしまうに違いないのである。そして、その服を着ているものの胸の凹凸の等高線(もちろんその部分だけではないが)を眺めることができるに違いないのだ。
というわけで、最後に「オッパイ星人の視覚をシミュレートした画像」をでっち上げてみたのが下の動画である。これは、女性が着ている「服の持つ規則性=周期」を自動的に認識し、網膜の周期をその「服の持つ周期]近辺になるように変化させて、意図的にモアレを発生させてみたものだ。どんな模様であってもそれが「規則正しい模様を」である限りは、胸の凹凸の等高線がはっきりと見えてしまうことが実感できることだろう。
というわけで、規則正しい模様の服を着ている女性は周りの視線(オッパイ星人や幸か不幸か「巨乳ビジョン・シンドローム」にかかってしまった人間)に要注意、というのが今日の結論なのだ。そして、邪悪な心を持つ技術者が、「巨乳ビジョン・シンドローム」と同じようなアルゴリズムで動く「巨乳ビジョン・カメラ」を開発しないことを、今はただただ祈るばかりなのである。
2015-07-05[n年前へ]
■「144層のパイ生地」と「誤用としての冪乗」
薄く重なったパイ生地が「144層」という数字を聴いて頭の中に「?」マークが浮かんだけれど、なるほど全部で「4つ折りx3つ折りx4つ折りx3つ折り=144層」なのか!
クロワッサン、デニッシュ、ブリオッシュは「ペイストリー」に分類されますが、“THE PIE & PASTRY BIBLE”によると、その共通点や違いは以下のようになります。
層の多さは折りパイ、クロワッサン、デニッシュの順。イースト使用の生地は二次発酵させる為に暖かい場所に置く必要があり、折り込みの回数が多いと生地が耐えられない。
・折り込み回数(層の数)は、折りパイ生地:6回以上(729)、クロワッサン:4回(81)、デニッシュ:3回(27)
・折り込みの回数に耐える為、折りパイ生地はグルテンのしっかりした強い生地を作る必要があり、グルテン含有率の高い粉を使ったり、生地をよく捏ねたりする。また、バターが溶け出さないように、焼くまで生地を冷やしておく必要がある。
・デニッシュは生地に卵を含み、折り込みの回数もクロワッサンより一つ少なく、焼き上がりはクロワッサンよりもフレーキーな感じではないが、ふんわりとして柔らかい。
デニッシュの定義って?
関係無いけど、これも面白い。
"元来は、単に「冪(べき)」と表現した。「冪乗(べきじょう)」という語は、誤用が定着したものである。 「冪」の文字はもともと「覆う、覆うもの」という意味の漢字であり、江戸時代の和算家は略字として「巾」を用いていた。ところがどちらも常用漢字・当用漢字に含まれなかったことから1950年代以降、出版物などでは仮名書きまたは「累乗」への書き換えが進められ、結果として初等数学の教科書ではもっぱら「累乗」が用いられた。この際、n 乗を取る操作の伝統的名称である「n 乗冪」 と「累乗」が混同され、「冪乗(べきじょう)」という語を生じた。"