1999-09-17[n年前へ]
■モアレ、デバイス、2項分布の三題話
淡色インクの副作用
今回は、9ヶ月間も寝かせた伏線にまつわる話である。いや、別に寝かせるつもりは無かったのだが、いつのまにかそんなに時間が経ってしまった。
以前、
という話があったが、その2つを結びつけるミッシングリンクについて考えてみたいと思う。「2項分布のムラについて考える(1999.01.08)」の最後に「今回の話はあることの前準備なので、これだけでは話しが全く見えないかもしれない。というわけで、続く...」と書いた。「その続き」というわけである。始めに「2項分布のムラについて考える(1999.01.08)」の要点をまとめると以下のようになる。それは、
- ランダムと呼ばれるものの内で代表的な2項分布においては、当然のごとく「ある領域での平均値はばらつく」。
- そして、そのばらつきは直感的に考える程度よりももっとばらつく。
- 例えば、2値画像で考えるならば、2048dpi程度の解像度でランダムなデータを並べた場合には、人間の目はざらつきを感じてしまう。
そして、「モアレはデバイスに依存するか?(1998.11.20)」での要点は
- モアレにはデバイス依存性がある
- 線形な重ね合わせが成り立たない場合にはモアレが発生する。
最近のインクジェットプリンターはCMYKの4色インクだけでなく、淡色インクも使うものもある。淡色のインクを使うことで階調豊かな画像を印字できるわけだ。4色インクだけではディザなどを使って、解像度を下げて階調を出さなければならないわけであるが、それが不要になるわけだ。
解像度を下げないですむわけであるから、ディザのざらつきを感じないですむわけだ。しかし、淡色のインクを使った場合の効果というのはそれだけではないように思われる。HP(ヒューレッドパッカード)などのWEBのプリンター紹介を読んでいると、「淡色のインクを重ねて濃度を出す」というような記述を目にする。これは「少なくとも淡色インクでは線形性(あるいはそれに近い関係)が成り立つ」ということだ。
インクジェットプリンターの解像度を上げたときに、インク滴が意図しないところへずれてしまうことはきっとあるだろう。その際に他のインク滴と重なったらどうなるだろうか?意図しなくても他のインク滴との重ね合わせは発生してしまうだろう。
重ね合わせが成り立たない、非線型なインクではモアレが発生する。言いかえれば、意図しない濃度のばらつき・ざらつきが発生してしまう。「2項分布のムラについて考える(1999.01.08)」で考えたようにランダムに重ね合わさるから広い領域では一定だろうというのは予想外に成り立たないのである。でたらめというのは私の予想外に大きく効いてくるのである。
しかし、重ね合わせに線形性が成り立つ淡色のインクではモアレが発生しない。すなわち、いくらランダムにインク滴の重ね合わせが生じてしまったとしても、意図した通りの濃度をだすことができ、ばらつき・ざらつきは発生しないことになる。参考までにインクジェットの印字画像の拡大写真を示してみる。
「重ね合わせに線形性が成り立つ淡色のインクではモアレが発生しない。すなわち、いくらランダムにインク滴の重ね合わせが生じてしまったとしても、意図した通りの濃度をだすことができ、ばらつき・ざらつきは発生しない」と、書いただけでは意図するところが伝わらないと思うので、「モアレはデバイスに依存するか?(1998.11.20)」で使った画像を用いて考えてみる。この画像は重ね合わせがある幾何学模様で生じているが、この現象がランダムに起こっているものとして読み替えて欲しい。
下は、淡色のインクで重ね合わせ(インク滴の意図しない重なり)が生じた場合である。
なんの模様も生じていなく、意図した通りの画像出力ができているのがわかると思う。
ということで、今回の話(というか前の2回の話)の繋がりは、
淡色のインクを用いたインクジェットプリンターでは、意図しないインク滴の重ね合わせが生じてしまっても、濃度変化が生じにくく、意図しないインク滴の重ね合わせがでたらめに発生してしまったとしても、画像にはあらわれない可能性があるということである。
うーん、マニアックな内容だ。「身近な疑問を調べる」という看板に偽り有り、である。しかも単なる推論だ。
しかし、もしもインクジェットプリンターを買う人がいるならば、淡色のインクを使っているものを購入するといいかもしれない、ということがわかっただけでも良しとしておこう。
2000-05-02[n年前へ]
■モアレがタネの科学のふろく
うれし、懐かし、学研の科学
先日、友人夫妻で面白いものを見せてもらった。そこで、すかさずオネダリをして手に入れてきた。それが下の写真のものである。
これは学研の科学の学習教材である。「科学の学習教材」というよりは、「科学のふろく」といった方が通りが良いかもしれない。この写真のものは「6年の科学 1998年1号 トリックトランプ「マル秘」超魔術13」である。これを私にくれた友人(妻の方)は「学研教室」の「先生」をやっているので、こういう面白いものを持っているのである。
残念ながら、付録の一部だけで、中身が全部揃っているわけではない。それに加えて、本誌もない。そこで、手元にある材料からトランプトリックを想像しなければならない。しかし、その想像しなければならないところが、また面白いのである。手品の「タネ」を想像し、実際に検証できるのだから、楽しくないわけがない。
こういう理系心をくすぐる、懐かしいものというのは色々ある。以前登場した、学研の電子ブロックもそうであるし、雑誌の「子供の科学」もそうだ。そういった中でも、この学研の科学のふろく(学習教材)はその最たるものだろう。こういった、科学の付録は学研のサイト内の
- 科学の付録 (http://kids.gakken.co.jp/kagaku/furoku/index.html )
さて、今回の「6年の科学 1998年1号 トリックトランプ「マル秘」超魔術13」のネタ探しをしていると、面白いものを見つけた。それが下の写真である。何にも書いてないトランプに半透明シートをかけると、アラ不思議、ハートの5が現れるのである。
この「魔法のトランプ」のタネはもちろん「アレ」だ。「できるかな?」にもよく登場してきた「モアレ」である。これまで、
- モアレはデバイスに依存するか?(1998.11.20)
- OHPによるモアレと光の干渉の相似について考える。 -ヒラックス・ディザの提案 - (1998.11.22)
- モアレ、デバイス、2項分布の三題話- 淡色インクの副作用 - (1999.09.17)
このトランプの表面の模様を拡大してみるとこんな感じになる。これは「ハートの先端部分の拡大写真」だ。赤い線によるハーフトーンパターンが変化している部分(実はハートマークの先端部分)があるのがわかる。この模様は結構細かく、400線/inchくらいである。
このようなトランプに、黒い斜線が描かれた半透明シートをかぶせると、モアレが発生して模様が見えるわけである。下の写真が、トランプに半透明シートをかぶせたところである。半透明シートには実は黒い斜線模様が描かれていることがわかる。
そして、トランプの模様と半透明シートの模様の間でモアレが発生して、その結果として「5」
の文字が浮かび上がっているのがわかると思う。
このトランプのタネのような画像を自分でも適当に作ってみることにする。やり方はとても簡単である。ハーフトーン模様を作成して、模様を書いて、模様部分だけハーフトーンを変化させてやればいいだけである。そして、元のハーフトーンと重ね合わせてやれば、模様が浮き上がるのである。こういう細工をしないと読めない画像を使って、何か面白いことをできるかもしれない。
一応、モアレはデバイスに依存するか?(1998.11.20)の時のように今回も二つの画像の重ね合わせの時に、線形性が成り立つ場合と、成り立たない場合の比較をしておく。
先のAとBを重ね合わせてみたもの |
線形性が成り立つ場合には、モアレが発生していないのがわかる |
つまり、非線形性を持つ場合 この場合にはモアレが発生する |
今回の場合も当然、線形性が成り立つ場合にはモアレが発生しないのがわかると思う。今回のトランプ手品も、半透明シートとトランプの模様の間の重ね合わせの非線形性を利用していたわけである。
この線形性と非線形性の重ね合わせの違いも利用してみれば、もっと新しい何か面白い手品やおもちゃのネタになるかもしれない。インクジェットプリンターの淡色インクと、濃いインクの違いを利用して何か面白いトリックはできないだろうか?
さて、先の知人夫妻は共に「先生」である。なので、時折子供に「どうやって教えるか」という話になることがある。子供という「タネ」をどうやって育てていくか、という話である。子どもが人から言われたことでなく、自分で調べて何かを覚えるにはどうしたら良いか、などだ。もちろん、それは「先生」もまた同じである。人に言われたことを鵜呑みにするのではなく、自分で「実感する」のはむしろ子どもより「先生」の方が難しいかもしれない。
私も先日あるメーリングリストで
「先々」のある(製造業に携わる)子ども・青年などわずかでしょうという言葉を見てしまって以来、そういったことについて色々と考えてしまうことが多いのであるが、こういう「タネ」つながりについて考えているのも面白いかもしれないな、と思うのである。
2000-06-28[n年前へ]
■カラープリンターの選手宣誓
ICCファイルを眺めてみよう その2
ここ数年間にわたって、報告会の前夜遅く(というより当日の朝近く)になると、インクジェットプリンターを並べて発表用のOHTを印刷しまくるという生活が続いていた。「PC使ってプレゼンのソフト使ってやればOHTを出力しなくて済むし楽なのに」と言う人がいるかもしれない。しかし、ただ単純にそう考える人は私は素人だと思う(その理由はいつかまた詳しく書く)。とにかくOHTは必要なのである。
そういう深夜に大量のOHTを印刷する際に、出力する枚数が数十枚ともなるとインクジェットプリンターでは時間がかかるし、とても大変なのである。かといって、レーザービームプリンターやコピー機はスピードは速いが、カラーのOHTの出力など汚くてできない。そこで、インクジェットプリンターを何台も並べてOHTを出力しまくるという手段に出ることが多い。OHTの出力作業を並列に行うわけだ。
しかし、そんな時にまた困るのがそれぞれのプリンターの色特性が違うということである。どのプリンターで出力するかどうかで、全然違う色に変わってしまうのだ。下手をすると「こんなのじゃ使えないぞぉ。やり直しだぁ。」というわけで、私の睡眠時間はさらに削られていくのである。
それぞれのカラープリンターの色特性が違うせいで、私の睡眠時間は減るし、腹は減るし、踏んだり蹴ったりなのであった。そういうわけで、私はプリンターの色特性は興味もあるし、恨みもずっと抱いていたのである。「それぞれのカラープリンターからどんな色の出力がされるのか」、というのは私にとってとても大きな問題だったのである。
と、前振りはここまでで本題に入ろう。前回、
で、また、「カラープロファイルで眺める各社のプリンターの性能比較」というような企画でもしてみようかな、とふと思うのであった。と書いた。今回はその「カラープロファイルで眺める各社のプリンターの色特性比較」を行ってみたいと思う。カラープロファイル・ファイルには「それぞれのカラープリンターからどんな色の出力がされるのか」という情報が書いてあるわけで、そういうことを知っておけばプリンターで出力するときに何かの役に立つはずだ。少なくとも、私の睡眠時間を減らさない程度には役に立つだろう。
そこで、今回は試しに4機種のレーザープリンターを選んで、それらのプリンター用のカラープロファイル・ファイルに書き込まれている「それぞれのカラープリンターからどんな色の出力がされるのか」という情報を比較してみることにした。カラープロファイル・ファイルの解析には
- GretagMacbeth ( http://www.gretagmacbeth.com/)
まずは、この二機種を比較してみよう。世界のhpと日本のキヤノンのカラーレーザービームプリンターである。選んだレーザービームプリンターの機種はHPLaserJet 4500とCanon LBP-2040である。
この写真を見ると実はこの二機種は瓜二つである。車で例えれば、TOYOTAのカローラとスプリンターのようにそっくりである。こういう場合、中身は同じであることが多い。カローラとスプリンターが実は中身は同じであるように、この機械もきっと中身は同じなのだろう(確かじゃないけど)。簡単に言えば、OEM製品である。
この二つのプリンター用のドライバーを各会社のWEBから入手し、カラープロファイル・ファイルを解析してみた。次に示すのが、カラープロファイル・ファイルの中に記載してあったHPLaserJet 4500(左)とCanon LBP-2040(右)の
- xy空間 ( 上段 )
- ab空間 ( 下段 )
こうしてみると、大幅に出力可能な色空間が違うことがわかる。中身は同じっぽいのに、出力できる色空間は異なるのである。本当ならば、面白いことだ(どっか解析方法を間違えたかもしれないが...)。ソフト処理の違いだろうか?
といっても、プリンター用のカラープロファイル・ファイルは結構複雑だし、「カラープロファイル・ファイルに書いてある内容」が必ずしも正しいとは限らないだろう。カラープロファイル・ファイルは単なるそれぞれのカラープリンターの選手宣誓であって、本当のことが書いてあるとは限らないと思う。どちらかが単にホラを吹いているということも考えられる。本来出力できないはずなのに、「いや、オレは出力できるッスよ。」とホラを吹いているということも考えられるわけだ。
同じようなことを、「勢いにのってる」Epsonと元祖富士XeroxのEpson LP-8500CとFujiXeroxColorLaserWind 3310について行ってみた結果が次である。ちなみに、FujiXeroxColorLaserWind 3310の写真が見つからなかったので、下の写真にはFujiXeroxColorLaserWind 3320PSのものを用いた。
こちらも、先のHP LaserJet 4500(左)とCanon LBP-2040(右)と同じく、瓜二つである。ということは、これもまた中身は同じモノなのだろう。
こちらの方の解析した「出力可能な色空間」が以下である。
この場合には、若干の違いはあるが大体同じであることがわかる。中身が同じで、ソフト部分のみ違うだけだと思うのであるから、当然とも言えるし、少し意外だとも言える。なぜ意外かというと、この二機種は実際に使ってみると結構出力が違うからである。もちろん、出力可能な領域だけでなくて、その内部でどう出力する色を振り分けるかということの方が実は一番重要だったりするので、「意外」というのは言い過ぎかもしれない。
また、EpsonのLP-8500Cの場合は印刷のモードに合わせて、ICCファイルが複数用意されていた。「それらの間の違い」、すなわち、「印刷モードが違う場合に出力される(あるいはメーカー側が意図している)色空間がどのように違うのか」などは、次回以降に考察してみたいと思う。
しかし、今回は書いているうちに内容が少しヘビーだと感じ始めた。私には色々な意味で結構難しい内容なのである。まるで空中分解してしまう飛行機のようであるが、ここらへんでいきなり終わりにしておきたい。というわけで、最後にLab空間でのそれぞれ四機種の「自己申告の」出力空間を重ね合わせたものを示してみる。
こうしてみると、Canon LBP-2040以外はどれも似たようなものである。まぁ、どれも同じ電子写真方式なのだから当たり前である。しかし、それでも少しずつ違うことが面白い。逆に、CanonLBP-2040はあまりに違いすぎて、私がどこかを間違えた可能性が大である。
さて、いきなり冒頭の話に戻る。私は気分的には「報告会 = 試合」だと思っている。自分の戦力のどこが強くてどこが弱いかを意識しながら、最善を尽くしたい、と思っているわけだ。さらに言えば、自分の戦力のどこが強くてどこが弱いかが判っていれば、例え勝てないにしても、善戦はできると思っている。だから、前回
icmファイル(カラープロファイルファイル)には、それぞれのディスプレイの出せる「色空間」が書かれている。言わば、それぞれのディスプレイの「守備範囲」が書かれている。それぞれのディスプレイにそれぞれの「守備範囲」がある。それぞれのディスプレイやプリンタ達の「ここの範囲ならまかせとけ」という範囲である。と書いたように「どんなことができるか」を知るのはとても大切だと思っている。カラープロファイル・ファイルには「何ができて、何をしようとしているか」が書いてあるわけで、それはちょうどプリンター達の「選手宣誓」のようなものである。当然、試合の前には「選手宣誓」が必要だろう。その守備範囲をちゃんと知ってさえいれば、「少ない戦力でも勝つこと」ができるかもしれない。
えっ、何を言いたいか判らないって?とりあえず、今回は「カラープロファイルで眺める各社のプリンターの性能比較」を始めるぞ、という私の「選手宣誓」である。話の本筋に入るのは次回以降ということにしておきたい。
2000-11-19[n年前へ]
■間違いだらけのカラープリンター選び
もういくつ寝るとお正月
今年はずいぶんと夏が長かった。もう11月になっているにも関わらず、ほんの数日前まで少し暑いくらいでは夏の終わりといっても良いような天気が続いていた。ところが、数日前に急に寒くなった。もう正真正銘の冬が訪れたようである。
冬が始まり今年もあとわずかとなれば、安いインクジェットのカラープリンターが飛ぶように売れる季節だ。もちろん、家で年賀状をせっせと印刷し始める人達が多いからである。安いカラープリンターを買って、家が小さな小さな印刷工場に変わるのである。それはまさに家庭内手工業だ。
家庭内手工業という響きを聞くだけで、誰しも「安い賃金で汗水流す家族」が頭の中に浮かぶことだろう。もちろん、この正月を控えた「小さな小さな印刷工場」もその例外ではないのである。子供が家にいる家庭であれば、子供達に宛名書き(最近なら宛名入力か?)やプリントアウト作業をほとんどタダのような賃金でやらせている親は多いのである。例えば、一枚プリントアウトするごとに10円というくらいの賃金で子供に作業をやらせていたり、それどころか一枚数円位の賃金体系の家庭だってあるハズである。それは、企業が安い賃金で雇える労働力を求めてアジア・アフリカ諸国へ工場を移していくのと瓜二つである。
実際のところは、子供の方も「そんなタダのような賃金」でも何も考えずに喜んでやるとは思うのだが、親からすればそれは実に便利なパシリなのである。もちろん、そのタダのような賃金の値上げを求めてスト決行する子供がいても面白いと思われるかもしれないが、そんな向上心溢れる子供達には親から教育的指導がすかさず入ってしまい、賃金値上げはそうそう行われるわけはないのだ。現に私も幼い頃にはそんな内職をしていたわけだが、少しは知恵がついて向上心に突き動かされ(もう少しおゼぜが欲しくなって)
「アンタ以外にも働きたい人はいるの。」
話が脱線した。とにかくこの時期には、年賀状印刷のためにカラープリンタの購入を考える人達は多く、プリンター関連の情報が集まる場所、例えば
などのような場所では、「プリンターは何が良いですか?」とか「エプソンとキヤノンとhpのどのプリンターが良いのでしょう?」というような質問を数多く見かけるようになる。そして、その質問の中でもよく登場するカラープリンターがこの二機種である。エプソンPM900CとキヤノンF870だ。もちろん、もうひとつメジャーどころとしてhpもあるわけだが、写真画質を重視していないのと、日本ではまだそれほど強くないこともあって、年賀状プリントなどの用途ではあまり選択肢には入らないようである。http://www.i-love-epson.co.jp/products/ printer/inkjet/pm900c/img/pm900c.jpg | http://www.canon-sales.co.jp/ Product/BJ/img/f870.jpg |
この二機種はパンフレットも何か対照的で、少なくとも私はキヤノンF870のパンフレットは好きではない。夏までのラルクを表紙にあしらったパンフレットの方がずっと華やかで良かったと思う。寸前までGlayを使う予定だったのに、わざわざラルクに変更したというくらい(名前を考えれば実に賢明な選択である)だったのに何故「黒ずくめ」の中田に変えたのだ…
まぁ、そんな気持ちはさておきパンフレットを眺めていると、あることを確かめたくなった。それは、エプソンPM900Cの売り文句の一つである"EpsonNatural Color"である。エプソンのWEBの情報によれば、
エプソンのカラー技術が目指すべきもの。それは、ナチュラルな色の再現でした。新カラリオは、モニタ上の色域制限(sRGB)にとらわれずに、自然界の色により近いカラープリントを実現する新画像処理技術「EPSONNATURAL PHOTO COLOR(エプソン・ナチュラルフォトカラー)」を搭載。モニタに映る色ではなく、あくまで人の目に映る自然の色をプリントすることにこだわりました。写真に収めた美しい思い出を、あの時の感動を、カラリオなら記憶のままに忠実に再現。と書いてある。つまりは、「CRTモニタや液晶モニタでは出ない色(の一部)をPM900Cでは出力するようにしましたよ」ということである。「これまではモニタで見た色と同じような色を出力するようにしていたから、モニタで出ない色はプリンターでも出力していなかったのだけれど、モニタと同じでなくても自然の生の色に近い方を出力するようにしましたよ」ということだ。ビールも色も「生」に限る(byわきめも)わけで、結構カッコ良い割り切りかたである。あくまで「人の目に映る色」がホントの色で、「モニタ上で表されるRGBの色」なんかニセモノなのだぁ(少し大げさ)、という主張が込められているようで面白いと思う。「モニタで確認した色が出ない」とか言われることはもう覚悟の上なのだろう。
といっても、エプソンPM900Cがホント〜にそんな出力をしているのかどうか、実際に確かめてみなければよく判らないだろう。といっても、私の家には実はプリンターは一つもない(家でプリンターを触るのはちょっとイヤだから)ので「実際に」確かめるわけにはいかない。そこで、
の時と同じくプリンタードライバーが使う、「カラープロファイルファイル」の中を覗いてみることで、それぞれのプリンターが出力する色の範囲を調べてみることにした。出力できる色空間が広いことを謳うPM900Cがホント〜に多くの色を出力できるかどうかを確かめてみるわけだ。「実際に機械を使わずしてどうするのか」と言われるような気もするが、ネットで手に入るモノだけを使ってプリンターの性能を推理してみるのもたまには良いのではないだろうか。 というわけで、エプソン・キヤノン各社のドライバーをダウンロードしてきて、それぞれのICCファイルの中に書かれている出力可能な色空間をab平面で表したのが次の結果である。
この結果を見ると、確かに若干ではあるがPM900Cの方がF870よりも出力できるab色平面が広いように見える。といっても、この図では見づらいと思うので、この二つを重ねて、
- PM900Cの方だけが出力できる範囲を白
- F870の方だけが出力できる範囲を黒
ナルホド、確かにエメラルドグリーンというような色の辺りでPM900Cには出力できるけど(少なくともICCファイル上は)、sRGB・F870にはその色は出せないという領域もあるようである。そして、さっきのパンフレットをもう一度眺めてみると、確かにその色をパンフレットのメインの色としてあしらっていることがよくわかるだろう(ホントかいな?)。このエメラルドグリーンの服は伊達ではないのである。黒ずくめの男を表紙に使ってるのとは大違いの素晴らしさである。
さて、もちろん言うまでもないと思うが、今回の色空間の広さ競争はまさに「間違いだらけのカラープリンター選び」である。何しろ、実際のプリントアウトをしていないのである。いや、もちろんこれらのプリンターを使ったこともちゃんとあるのではあるが、事情によりその出力結果はここでは言うわけにはいかないのである。きっと、それを書いたらX○△×(以下省略)
ところで参考までに、、写真画質がある程度固まった機種のエプソンのPM750Cと最新機種であるPM900Cの比較を比較してみた。PM750Cに比べて、着実にPM900Cの出力できる色空間が広くなっている。プリンターの技術の進化具合がちょっと実感できたりするのではないだろうか?(ホントかウソか知らないけれど)
ここまでテキト〜に書いてみたが、これを読んでいる人の中でホントにちゃんと選びたいというような人がいるのなら、何より自分で実際に使ってみるのが一番だと思う。そうすれば、自分の必要と経験に応じた機種が必ずや手に入るハズだ。あと、広告が入りまくりのPC雑誌の評価はあまり参考にならないと思うなぁ。
2001-04-29[n年前へ]
■ファイト!縦文字文化
縦と横の解像度を考えよう
今年も去年に引き続き英語研修を受けている。といっても、去年は毎日十五分の英語研修だったが、今年は週二日のものを二種類受けている。何事も、「一番弱いところを強くするのが一番」というわけで、それが私の場合は英語であるわけだ。いや、もちろん弱いところは数え切れないほどあるのだが、英語はもうどうしようもないくらいダメなのである。
その英語研修を受ける中で、本当に実感するのが「頭の中でも英語で考えないとキツイ」ということである。頭の中で日本語で考えてから英語で喋ろうとすると、その「日本語→英語変換」のオーバーヘッドはすさまじくて、とても会話にならないのである。もちろん、当然その逆もしかりで「英語→日本語変換」なんかもやっていたら、あっというまに相手の喋るスピードについていけず、「ここはどこ?私はだれ?」状態になってしまう。
もちろん、「頭の中で英語で考えられる位なら、そもそも苦労はせんのじゃぁ!」と叫びたくなることもしばしばあるわけで、実際のところ私にはどうしたら良いのか全然わからないのである。「頭の中に言いたいことは沢山あるけど、それを伝えられない状態」と「頭の中でたいしてものを考えることができない、それを伝えられる状態」とどっちかを選べと言われても困ってしまう。残念ながら、「英語で頭の中でビュンビュンと考えて、それが口からペラペラとでてくる」状態は私には遠い夢物語のようなのである。
こんな苦労は、日本語人生一本やりだった私が英語を使う場合にはどうしても避けられない話なのであるが、そんな「私の苦労」と似たような話はコンピュータの世界にも実はある。例えば、「今日の必ずトクする一言」でもよく登場する「Windowsの日本語化のオーバーヘッドに関する一連の話」などがそうである。超漢字あたりであれば話は別なのかもしれないが、Windowsに限らずどんなOSであっても英語だけを使うときと、日本語のような言語を使うときではスピードが全くと言って良いほど違ってしまう。
例えば、英語版のWindowsであれば最新型のPCでなくてもサクサク動くのであるが、これが日本語版のWindowsともなると、最新型のPCでなければカタツムリのようなスピードに変わってしまうのである。最新型のWindowsやMacOS***の推奨マシンスペックは○×○×です、とOSメーカーが言ったところで、それは英語圏での話で日本語人生の私のようなものにはそれは当てはまらないのだ。わずか100文字ほどのアルファベットですむ英語の場合と、約七千字ほどもある日本語を使う場合とでは文字・フォント処理のスピードが違ってしまうのは当たり前の話である。
ところで、英語と日本語をコンピューターなどで扱う時の大変さというものは文字数だけの話なのだろうか?数が多いから大変なのは当たり前なのだが、それだけではないのではないだろうか。単に文字数が多いというだけではなくて、一つの文字当たりの情報量も日本語の方が遙かに多いと思うのである。例えば、アルファベットの中でも複雑な形をしている"M"と、日本語というか漢字の中でも結構複雑な形をしている「廳」を比べてみれば一目瞭然だろう。"M"よりも、「廳」の方がずっと複雑な形状をしている。
漢字の文字数が多いということは、そのたくさんある文字を区別するためにも漢字という文字の形状自体が複雑にならざるをえないわけで、それはすなわち漢字一文字の情報量はアルファベット一文字の情報量よりも遥かに多いということだ。ということは、
- 一文字辺りの情報量が多くて
- しかも文字数が多い
しかし、「PC内部での処理も大変ではあるが、それを外部に出すときも大変だろう」というのが今回の話のテーマである。モニタやプリンタに出力する時の大変さも英語と日本語では大違いで、しかも英語文化で考えると見えない落とし穴があるのではないだろうか、という話である。
まず、文字を表示するスペースというのは大体決まっている。そんな限られた同じスペースの中に、一文字辺りの情報量が少ないアルファベットと多い漢字を同じように詰め込めるだろうか?先ほどの"M"と「廳」を縮小して10pt程度にしてみると、その答えはすぐにわかる。アルファベットの"M"の方はちゃんと読めるとは思うが、漢字の「廳」の方がちゃんと識別できる環境の人がいるだろうか?PCの画面に表示されている「廳」はずいぶんと省略されたてしまっていたり、あるいは潰れてしまっていたりするはずである。
つまりは、PCの内部でも漢字のような文字を扱うのは大変であるが、それを外部へ表示したりするのも実際問題大変なのである。英語圏のアルファベット文化から考えれば、10ptなんて大きくて読みやすいと思うのかもしれないが、漢字などを考えると今のモニタの解像度では10ptでも小さすぎるのである。逆にいえば、アルファベットなどを表示する時に比べて漢字などの文字を表示する時には、遥かに高い解像度のモニタが必要とされるのである。PC自体の能力だけではなくて、モニタなどの出力機器も遥かに高い能力が必要とされるわけだ。
もちろん、それは漢字だけの話ではない。世界中の文字で当てはまるハズの話である。試しに、
- 世界の文字 (http://www.nacos.com/moji/)
アラビア文字あたりはラテン文字であるアルファベットと同じ程度の複雑さであるが、その他の文字はやはり遥かにアルファベットよりも複雑な形状をしている。「この中の半分くらいは使われていない文字じゃねぇーか!」という声も聞こえてきそうな気もするが、そんな小さいことを気にしてはいけない、とにかくアルファベットは色々ある文字の中でも単純な形状をしていて、漢字は複雑な形状をしているのである。
次に、それぞれの文字画像の複雑さの特徴を眺めるために、それぞれ二次元フーリエ変換をかけて、周波数空間に変換してみたものを示してみることにしよう。まずは、漢字の例を示して図の見方を説明してみたい。
図の横・縦方向が実際の文字の横・縦方向に対応し、図の中で中央から外周方向に向かって低周波から高周波の成分の量を示している。強さは 小 ← 赤 黄 黄緑 青 紫 → 大の順番になっている。 たとえば、この漢字の例だと |
上の説明に書いたように、こんな風に文字画像を周波数空間に変換すると、「漢字は縦と横の線が多い」ということがよくわかる。しかも、
の時に調べたように、漢字は「縦方向に周波数成分が多い」、すなわち言い換えれば「横方向の線が多い」こともわかるのである。 さて、世界の文字六種に戻って、それぞれを周波数空間に変換して並べてみると、こんな感じになる。
こうして六種の文字種を周波数空間に変換して眺めてみると、色々なことが判る。例えば、
- アラビア文字はほとんど高周波を含まない
- ヒエログラフは比較的高周波が少なく、方向性も持たない
- 漢字に含まれる高周波成分はほとんどが縦・横方向のみであり、その中でも「縦方向に周波数成分が多い」、すなわち言い換えれば「横方向の線が多い」
- アルファベットは低周波がメインであり、縦横では横方向の方が高周波を含んでいる、すなわち縦の線が多い
- マヤ文字は一番高周波まで含んでおり、比較的方向性も少ない
- ロンゴロンゴ文字はアラビア文字よりも高周波が多いが、それでも比較的低周波メインであり、方向性もない
もちろん、ラテン文字が比較的高周波が少ないからといって今の表示装置で十分だというわけではなくて、ラテン文字でもより高解像度のディスプレイが必要とされている。例えば、液晶画面などで文字を多量に読むことを想定している電子ブックなどの用途のためには、
で調べたMicrosoftの「ClearType」などの技術がある。これは液晶のRGBの画素の配列が横方向に並んでいることを利用して、横方向の解像度を高める技術である。ということは、こういう技術は横方向の高周波成分が多いラテン文字などでは効果が大きく、またラテン文字自体が比較的高周波成分が少ないために、こういう技術を使えば必要十分ということになるのかもしれない。しかし、日本語(漢字)のようなもともと高周波成分が多くしかもそれが縦方向に多い、というようなものでは効果は比較的少ないことが考えられる。もちろん、それは液晶というデバイスの特徴によるもので仕方のない部分もあるのだが、もしかしたらもしかしたら日本語のような縦方向の高周波を再現しなければならない言語のことを意識していないせいかもしれない。
こんなことは液晶などのモニタだけではなくて、一般的なプリンタもそうだ。例えば、インクジェットプリンタではエプソンのPM-900Cの仕様などを眺めてみても、標準で720×720dpiで、高画質モードでは1440×720dpiとなっている。それはレーザービームプリンタなどでも同じで、リコーのプリンター大百科からウルトラスムージングテクノロジーを見てみても、やはり横方向の解像度のみを高めて2400dpi×600dpiとなっている。やはり、プリンタなどの印字装置でも横方向の解像度を高めようとはするが、縦方向の解像度は低いままにしているのである。もちろん、縦方向の解像度を高くすると印字速度が遅くなってしまうという、プリンタの特性があるにしても、やはり日本語を印字するためには不利な設定となっているのである。日本人としては、解像度表示は縦方向を重視するべきで、横方向の解像度表示にダマされるべきではないのである。高解像度2400dpiなんて言われても、「ヘヘン、オレは縦文字文化の日本人だから関係ないんだもんね」くらいは言って欲しいわけである。
実際のところ、せっかく日本語(漢字)を使うのだから、日本語の特性に応じたPCやモニタやプリンタがあっても良いのになぁ、と思う。いや、というより日本語の特性をもっと理解するところから始めなければならないのかもしれない。そうだ、私はまずは日本語の勉強から始めるべきなのだ。英語の勉強をしている場合ではないし、頭の中で英語で考えていたりすると、縦文字文化に合った発想ができなくなってしまうに違いないのである。って、英語学習から逃げてるだけだったりして…
あぁ、しまったぁ。今回はホントに真面目な話になってしまったぞ、と。しかも、まるで国粋主義者みたいだし。