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1999-09-29[n年前へ]

五色不動のワンダランド 前編 

黒ビロードのカーテンが開く

 本WEBは色にこだわっている。今回はとある五色に関する物語である。「もしかして、iMacのこと?」と思われる人もいるだろうが、残念ながら違う。数百年にわたり東京を守っているという五色の場所の話である。

五色といっても色々ある。このiMacも実は五行説に影響されている?

 「黒天鵞絨(びろうど)のカーテンは、そのとき、わずかにそよいだ。」と黒という色で物語が始まり、
「辛子いろのカーテンは、そのとき、わずかにそよいだ。」とやはり色で終わるミステリがある。これは以前、

でも書いた中井英夫の「虚無への供物」 である。「虚無への供物」は不思議な色に彩られた小説である。その中の鍵の一つが江戸五色不動だ。現在も東京に張り巡らされている五色による結界、すなわち、江戸五色不動について調べてみたいと思う。というわけで、今回の話を楽しむためには、中井英夫の「虚無への供物」を本屋へ買いに走らねばならない。私は中井英夫の「虚無への供物」は日本が誇るミステリーの最高傑作の一つだと思うのだ。

 もう10年近く前になると思うが、「本の雑誌」に江戸五色不動が実在し、そこを巡ってみたという話があった。それを読んでから、機会があれば江戸五色不動を巡ってみたいと思っていた。ミステリーの登場人物のように、東京の街の中でさ迷い歩いてみたいと思っていたのである。そして、東京のワンダランドの入り口を見てみたいと思うのである。

 五色不動の内、目黒不動は有名であるし、目白不動は目白という地名としても残っているので有名といってもよいだろうが、残る目青、目赤、目黄不動はそれほど有名ではないだろう。そもそも、 「五色」の由来は、古代中国の五行説に遡る。木、火、土、金、水の五つの要素から万物が成ると考えるものである。

五色と五行
1青龍
2朱雀
3中央天位
4西白虎
5玄武

 それでは、その江戸五色不動の位置を示してみる。このように五色の結界の中に東京があるとは知らないで、住んでいる人も多いのではないだろうか。

東京を囲む五色の結界

(位置は極めてアバウト。また、移転したものは江戸末期に存在した位置に描いたつもりである。)

 こうしてみると、五色不動の方向は江戸城を中心にして五行説の通りになっているわけではないことがわかる。しかし、江戸城を中心としているのは確かなようだ。また、黄色が二つあるのは、移転(あるいは分裂か?)があったためだという。三代将軍家光の時代に五色不動を作らせた天海大僧正の頭の中にはどのような設計図があったのだろうか?

 さて、今回の探検のために私が持参した地図は少し古い。いや、はっきり言えばかなり古い。不動尊はしっかり載っているのであるが、これを頼りにしてもすぐ迷うのだ。大体、現在位置もよくわからないし、気のせいか地形すら違うように感じるのだ。まずは、目黒不動である。最初に地図で示してみよう。

目黒不動尊の辺り 目黒白金図 (1858)

人文社 「江戸切絵図で見る幕末人物事件散歩」より
 地図の左上辺り(一番明るい所)が目黒不動。 JR目黒駅は目黒川の場所から想像して欲しい。

 さて、その時の写真を以下に示す。これが現代の目黒不動である。

目黒不動尊
 目黒という地名は目黒不動があるからだけど...."黒の部屋"が突然出現して、そこが...
「虚無への供物」

 この目黒辺りは台地が繰り返す地形であるが、やはり目黒不動尊も台地の上にある。

 この日は目黒駅前では「目黒のさんま祭り」が開かれていた。ビールとさんまが夏の終わりを感じさせるのだ。

 目黒白金図 (1858)による、目黒不動の部分。内部の位置関係はそれほど変わっていなかった。内部に入ると龍泉寺という名前が納得できるだろう。

 また、「虚無への供物」が好きな方ならば、いきなりコンガラ童子達が出現するのには驚くはずだ。

 1858年といってもたかだか150年前である。江戸時代の圧倒的な長さから比べたらごく最近である。
 
 
 
 

 さて、あまりに重いページになってきたので、この続きは次回に。
 

1999-10-01[n年前へ]

五色不動のワンダランド 中編 

青と白の結界

 前回までのあらすじ

 江戸を守っている五色の結界、すなわち、五色不動を捜し求めて、私はさまよい歩いてみることにした。まずは、目黒不動をたずね、次なる青の結界をたずねるのであった。

 さて、目青不動の場所を示す。といっても、地図が古いので現在目青不動尊が在る場所とは違う。この地図では、渋谷駅の東の方角のあたり青山である(といっても、地図上に駅など無いが...)。したがって、現在は山手線の内部の場所ということになる。しかし、現在は三軒茶屋の裏に移転している。

目青不動尊の辺り

人文社 「江戸切絵図で見る幕末人物事件散歩」より
 目青不動である教学院は現在は三軒茶屋へ移転している。しかし、この地図では渋谷の東にある。この地図を頼りに探し回りえらい目にあった。ちゃんと、「虚無への供物」通りに行っとけば良かった。なまじ地図を信用してはいけない。
 

 地図を拡大したものを示してみる。「教学院」が探している目青不動である。

目青不動の地図の拡大

 さて、最初は渋谷の辺りを探してしまい、ずいぶん時間をロスしたが、結局三軒茶屋の方へ行き、やっと目青不動に辿りついた。その目青不動尊はこんな感じである。撮影した写真を示す。

目青不動尊

 広い境内に歩み入りながら、...青い薔薇 - 目青不動- そして ...
「虚無への供物」

 灯りに照らされた不動明王はとても不思議な雰囲気に満ちている。三軒茶屋の駅裏であるが、人通りは全く無い。まさにタイムカプセルの内側に入りこんだ気分だ。

 中を覗くと、絶妙に照らされた不動がいる。少し、恐ろしい。これは間違い無くワンダランドの入り口である。

 三軒茶屋の裏に今もこんなワンダランドが存在しているとは実に素晴らしいことである。

 さて、次は目白不動である。いいかげん、ここらへんで疲れが出てくる。いや、本当に歩き回っているのだ。文章を読むと何の問題も無いように思われるかもしれないが、実はかなりさ迷っているのである。やはり、持っている地図がやはり古すぎるのである。

目白不動

目白不動の場所

目白不動周辺の拡大

 そして、案内板はいっぱいあるのだが、ミステリのようにミスリードをしてくれるのだ。いや本当にだまされた。精神的にも、疲れてしまう。まだ三つめだというのに。

目白不動尊

 車は千歳橋のところで上の目白通りへ出ると左へ折れたが、見るとも無く窓の外を見た亜利夫は、ふいに短く声をあげた。...
「あれァ目白不動でさあ」
「虚無への供物」

 学習院大学のすぐ近くである。案内板に従って辿りつこうとすると、ものすごい遠回りになる。
 それはまるで、ミステリー小説の構成が実体化したかのようである。一回は目指す場所(真実)の近くを通りながら、迂回してしまうのである。

 いいかげん疲れてきたところで、次は後編

1999-10-04[n年前へ]

五色不動のワンダランド 後編 

奇怪な偶然

 前回前々回までのあらすじ

 江戸を守っている五色の結界、すなわち、五色不動を捜し求めて、私はさまよい歩いてみることにした。目黒不動から物語りは始まり、目青不動、目白不動を訪れていく。しかし、その最中に、現実が異様な形で姿を現すとは気づいていなかった...

 WEBの中では私は未だに江戸五色不動を訪れ、さまよっている。しかし、その最中に現実は異様な姿を現した。目黒不動でバラバラ死体の一部が発見されたのである。


 記事の一例は、
1999年10月1日(金) 21時32分
<死体遺棄>駐車場に切り取られた男性の性器 東京・目黒区 (毎日新聞)
http://news.yahoo.co.jp/headlines/mai/991001/dom/21320000_maidomc098.html
で読むことができる。10/1に目黒不動内で男性の下腹部が発見され、死後1-5日というからとは時期的にちょうど合ってしまう。それどころか、その後の情報に寄れば9/29に行方不明になったというから、ちょうどその日である。偶然が必然にすりかわっていくのが中井英夫の「虚無への供物」である。奇妙な偶然が続き、まるで自分が犯人であるような現実に襲われる話である。まるで、「虚無への供物」である。これで、他の不動でも死体が発見されていったら、まるで犯人は私であるかの錯覚に襲われてしまう。理不尽な偶然を受け入れるか、そうでなければ、自分が犯人でしか有り得ないという状況が出現してしまうのである。

 しかし、WEBの中の私はそんなことは露も知らず目赤不動尊、目黄不動尊を探しさまよっているのであった。目赤不動は駒込の駅から歩いていった。ちょうど夏の終わりで、お祭りをそこらかしこでやっていた。しかし、不思議なことに、人とはほとんど会わない。不思議な程である。
 このあと、地下鉄で東京駅に移動したのだが、駅にも人っ子一人いないのである。まさにワンダランドである。

目赤不動尊

東都駒込辺絵図(1857)


拡大図

目赤不動尊

 上の地図でも判ると思うが、ここら辺りは寺ばかりである。東京は実は寺で満ちているのであった。本当に寺ばかりなのだ。

 本郷、動坂の都電の停留所から、追分に向かって、...
中井英夫の「虚無への供物」


  目赤不動から名づけられた動坂という地名は今でも残っている。この動坂は江戸川乱歩の「D坂の殺人事件」で有名な団子坂のすぐ近くである。ミステリ好きにはたまらないだろう。

 さて、最後は目黄不動尊(永久寺)である。目黄不動尊はもうひとつ平井にもあるが、今回はパスさせて頂いた。中井英夫の「虚無への供物」でもパスしているからである。

目黄不動尊(永久寺)

今戸箕輪浅草絵図(1853)

 
拡大図

 この辺りの町も奇妙に趣がある。実は東京は素晴らしい街であるのだ。

目黄不動尊

 残念ながら、中には入れなかった。

 たしかあれもお不動さんですわ、永久寺さんとかおっしゃって...。さぁ、でも目黄不動っていいましたかしら。
中井英夫の「虚無への供物」

 「虚無への供物」の冒頭で
 竜泉寺、といっても、あの「たけくらべ」で知られた大音寺界隈ではない。日本堤に面した三ノ輪よりの一角で、...
と目黄不動の近くから話は始まるが、ここに出てくる「竜泉寺」に注目すべきだろう。目黒不動は「龍泉寺」であり、ここでも話の奇妙な繋がりが存在するのである。

 確かにこのすぐ近くに「竜泉寺」は存在する。また、実はこの近くに「龍泉寺」も存在していた、その隣は不動尊なのであった。

 目黄不動尊はもうひとつあるが、そちらはいつかまた行く予定だ。それまで、奇妙な偶然が続き、江戸五色不動のワンダランドの扉が開かないことを祈るばかりである。
 

2000-02-06[n年前へ]

パノラマ写真と画像処理 Pt.1 

パノラマ写真を実感する

 「パノラマ」という言葉は何故か大正ロマンを感じさせる。かつて、流行ったパノラマ館や江戸川乱歩の「パノラマ島奇譚」という言葉がそういったものを連想させるのだろう。私も自分で写真の現像・焼き付けをしていた頃は、フィルム一本まるまる使ってベタ焼きでパノラマ写真を撮るのが好きだった。

 そういう癖は持ち歩くカメラが「写るんです」と「デジカメ」へ変化した今でも変わらない。例えば、

の時に撮ったこの写真もそうである。
1999年12月の万座温泉

 そしてまた、次に示す写真もそうだ。これは1999年夏頃の早朝に箱根の湖尻で撮影したものである。360度のパノラマを撮影したものだ。

1999年夏頃の早朝に箱根の湖尻で撮影したもの

 観光に行った先で撮影したと思われるかもしれないが、残念ながら違う。出勤途中に撮影したものである。豊かな自然がありすぎて、涙が出そうである。

 パノラマ写真としては、こういう景色を撮ったものも良いが、人が写っているものも良い。私の勤務先がこの大自然の中に移転してくる前、都会の中にあった頃に居室で撮ったパノラマ写真などはとても面白い。窓の向こうにはビルが見えたり、周りに写っている人ですでに退職した人が何人もいたりして、涙無しには見られない。

 もちろん、こういった写真はパノラマ写真で楽しむのも良いが、もっと実感できるものに加工しても楽しい。私がかつて都会の居室で撮影したものは、当時はAppleのQuicktimeVRのムービーファイルに変換して遊んでいた。今はもうない居室の中をグリグリ動かすのはホロ哀しいものがあり、とても味わい深かった。

 ところで、WEB上でそういうパノラマのVRファイルを見せるにはどうしたら良いだろうか?もちろん、AppleのQuicktimeVRを用いれば良いわけではあるが、プラグインが必要である。私はQuicktimeは好きであるが、ブラウザーのQuicktimeのプラグインは嫌いである。WEBを眺めているときに、「Quicktimeのアップグレードはいかがでしょう?」というダイアログが出ると、少しムッとしてしまう。そこで、Javaを使うことにした。いや、もちろんJavaをサポートしていないブラウザーもたくさんあるが、こちらの方がまだ好きなのである。

 そのようなパノラマのVRを実現するJavaアプレットには、例えば

といったものがある。今回は先に示した「1999年夏頃の早朝に箱根の湖尻で撮影したパノラマ写真」を"Panoramania"を使って実感してみることにする。かなり重い(私のPCではかなりしんどいようである)Japaアプレットであるが、それを以下に示す。箱根の朝を実感して頂きたい。マウスでグリグリと言いたい所であるが、これがサクサク動くPCなんてそんなにあるのだろうか?
「1999年夏頃の早朝に箱根の湖尻で撮影したパノラマ写真 VR」





 さて、ここまでは単なる前振りである。本題は、実はこれから始まる。先日このようなメールを頂いた。

 私はWindowsを使っているのですが、AppleのQuicktimeVRに興味があって、QuicktimeVRのパノラマ・ムービーを作っています。しかし、素材となる画像の作成に四苦八苦しております。ご承知の通り、
    1. ライカ版カメラに24ミリ広角レンズをつけて、
    2. 三脚にパノラマヘッドをつけて、ぐるりと周囲を12枚撮りして、
    3. 現像、プリントし、
    4. スキャニングして、ステッチャソフトでレンダリングし、
    5. それをMacintosh上でMake-QTVR-Panoramaにドロップして、
    ようやく1枚のパノラマmovファイルができるわけですが、最初のカメラ撮影で、タイムラグのため、歩行者など、動きのあるものがうまくパノラマ化できません。

     その場合には、スリットスキャンカメラを入手し、それをカラープリントする設備を準備すればいいのでしょうけど、高価です。

     そこで、

    1. 8ミリビデオに広角レンズを付け、
    2. 90度横倒しにして、10秒程度で1回転するようにステッピングモーターで駆動するパノラマヘッド(自作)に乗せ、
    3. 高速シャッター撮影し、
    4. マックのAV機能で円周12枚の静止画を取り出
    5. し、
    パノラマ化しています。

     長々と分かりにくいことを書きましたが、要は、「マックで動く電子スリットスキャンソフト」をなんとか作っていただけないでしょうか?もし、そのようなソフトがあれば、

    1. 8ミリビデオを横倒しにして、
    2. モーター回転するヘッドでぐるりと360度撮影し、
    3. その撮影した動画ファイルの、各フレームから走査線にして数本分を抽出し(インターレースで256本のうちセンター128本目の前後数本の走査線分)、
    4. それを貯めて1枚のjpgファイルにする、
    5. そのJPEG画像をMakeQTVRPanoramaの入力にして、パノラマムービーを作る、
    ということが簡単にできるようになります。こういうソフトがあれば、だれでも、旅先などで、ビデオを横倒しに持ってぐるりとスピンするだけで、あとはAVマックとパノラマ化ソフトで簡単にQuicktimeVRパノラマファイルが作れるようになると思うのですが…
 これはとても楽しい話である。しかもとても簡単なことなので、遊んでみることにした。

 まずは、答えを先に書いてしまおう。私が作らなくても、

  • NIH-Image (MacOS)
  • ScionImagePC (Windows)
というソフトがある。これらのソフトであれば、上に書かれている
  • 複数画像(動画)からの走査線抽出
は実現できる(ファイルサイズが少々不安だが)。特に、NIH-Imageであれば動画ファイルを読み込むことができる。つまり、Mac上で簡単に処理ができるのである(と、書いた。しかし、後日気づいたが256色の画像でなければ、駄目だった。どうしよう?)。ScionImagePCはNIH-ImageをWindows向けにポーティングしたものである。Macを科学技術に使う人であれば、NIH-Imageを知らない人はいないだろう。

 ScionImagePCの動作画面を以下に示す。NIH-Imageとほぼ同じである。

ScionImagePCの動作画面

 これらのソフトのStack-Slice機能を用いれば「複数画像(動画)からの走査線抽出」ができる。その使用例と、その面白い座標軸変換について考えてみたい。しかし、このページは少々重くなってきた。まして、走査線の抽出の話は使用画像が多くならざるをえない。そこで、次回、詳しく使用例を紹介することにする。よく、次回といったまま数ヶ月経つことがあるが、今回は大丈夫である。少なくとも数日後には登場することと思う(多分)。

 あれっ、ここまで書いてからinfoseekで検索すると、

なんてソフトがある。しまった、先に検索すればよかった。けど、まぁいいか。これはWindows上のソフトのようだし。とりあえず、次回へ続く。

2000-02-07[n年前へ]

記憶の中の風景 

Photoshopで美術遊び 水彩画と色鉛筆 編

 
 
 

 大学時代のとある日にCanon Ftbというカメラをゴミ捨て場で拾ってから、写真が私の趣味の一つになった。大学院に入る頃には、使われていなかった暗室と写真焼き付け機をも研究室の地下で見つけ、せっせと写真を焼き付けることも大好きになった。その暗室は怪人二十面相が登場しそうな古〜いレンガ造りの建物の地下にあって、実に不気味な場所だったのだが、全然気にならなかったのが今から考えるにとても不思議だ。

 私が拾ったFtbはいつの間にか壊れてしまったから、他のカメラを買ったり(それでも中古だったが)、交換用のレンズを買ったりということはした。しかし、私の興味は風景や被写体の方には向いたが、カメラやレンズあるいは暗室機材といったものに対してはあまり物欲がわかなかった。

 そんなことを思い出したのは、私の職場の人達がCanon EOS D30(358000円ナリ)を買ったり、EF300mmF2.8L(690000円ナリ)を買ったりと、物欲大魔人に変身していたからだ。まるで、「この世の終わりまであと一ヶ月」の「宵越しの金は持たない江戸っ子状態」で買い物をしまくっているのである。マジメに、「こ、この世の終わりが来るのですか?」とか、「あそこに見える富士山はヤッパリ噴火するのですか?」はたまた、「あなたは実はスタパ齋藤なのですか?」とかおそるおそる尋ねたくなるホドなのである。
 

 ところで、ふと気付くと時はすでに二十一世紀になっていて、持ち歩いていたEOS620はデジタルカメラのFinePixに代わり、数学教室の地下にあった暗室はノートPCの中にあるPhotoshopに変わってしまっている。そんなことをつらつらと考えていると、ちょっとセンチメンタルな気分になったので、今回は暗室で印画紙上に浮かび上がる画像を眺めていた頃を思い出しながら、photoshopで少し遊んでみることにした。(こんなに無意味に前振りを書いたのは、そんなに大した話じゃないけどセンチな気分なのだから勘弁して欲しい、という気持ちである。)
 

 写真というのは何の考えも無しに撮ってしまうと、不必要にリアルになってしまう。不必要にリアルということは、逆に必要なところがリアルでなくなってしまったりする。あまりにリアルすぎて、「記憶の中の風景」とは違ってしまったりするのである。そうなると、私にとってはリアルな「昔見た風景」ではないのである。私の中の記憶が間違っているといえばそれまでなのだが、私の中ではその記憶が基準なのだ。

 そんな時、いっそのこと写真を絵画風に加工して、私の「記憶の中の風景」に合わせてしまおうかと思うことがある。写真を絵画風に加工するソフトというのはたくさんあるので、そんなことは簡単にできてしまう。Photoshopに含まれているフィルターでもそれっぽい(かなり不十分な機能ではあるが)ものはたくさんあるし、サードパーティー製のプラグインもたくさんある。そしてまた、インターネット上の情報でも、「絵画風&ソフトフォーカス(デタラメPhotoshop)」などがある。そんな中でも、特にこのVirtualPainterなどはかなりスゴイ。いくつかの処理ができるのだが、その中でも特にこのPlince(色鉛筆風)とRabica (水彩画風)の二つはとてもきれいである。
 

Virtual PainterのPlince(色鉛筆風)
オリジナル写真
フィルターをかけるとこうなる。

 
Virtual PainterのRabica (水彩画風)
オリジナル写真
フィルターをかけるとこうなる。

 ソフトが勝手に自動変換したとは思えないくらい、なかなかスゴイできばえである。最初見たときはちょっとビックリしたほどだ。少なくとも私が色鉛筆や絵の具の筆を手にしても、こんな絵は書くことができないに違いない。いや、正直に言えば「できないに違いない」どころではなくて、「できない」のである。

 ところで、このソフトはシェアウェアで、未だ購入していないので画面中に「Unregistered」という文字が恥ずかしくも輝いている。もちろん、素晴らしいソフトなので買うつもりではあるのだが、他人様の作ったソフトをただ使うのは今ひとつ面白くない。まずは、自分自身で同じようなことができるかどうか挑戦して、そしてできることならば自分の好きなような効果が出るようなプラグインなりソフトを作ってみたい。

 というわけで、自分の頭を整理するために、まずはPhotoshop5.5単体を使って、この二つの処理と似た処理をしてみることにした。まずは簡単そうな水彩画風からだ。

 下の写真はメキシコのティファナで撮ったよくある街並みの写真だ。何の変哲もない写真ではあるが、実はこの直後にデジカメを道路に落としてしまって、私のデジカメ様はこの後お亡くなりになってしまったという、私にとってはとても哀しい写真なのである。
 

メキシコのティファナの風景

 さて、この画像を水彩画風に変換する時の方針は、

  • 色が付いてる部分は、水彩絵の具で塗りつぶす。つまり、階調性をなくして、境界はにじませる。
  • 細かな部分は鉛筆で書くから、シャープに書く。
である。というわけで、まずは「イメージ→色調補整→色相・彩度」で彩度を最大にする。つまり、色鮮やかにしてしまうのだ。そうすると、もういきなり絵画風になる。JPEGの圧縮時のブロックノイズがもうなんというか良い感じに見えるのである。そして、次に「イメージ→モード→CMYKモード」に変換後、Kチャンネルのみ「フィルタ→シャープ→アンシャープマスク」をかける。それにより、細かい部分のエッジを強調しつつ、「イメージ→色調補整→トーンカーブ」でベタ黒部をさらに薄い色に変える。すると、シャッキリと黒のエッジ強調もされて、ポイントがはっきりしてくる。そうすれば、画を描いてる人の視点もシャープになるのだ。ちなみに、今回はしなかったが、アンシャープマスクの部分を「フィルタ→表現手法→輪郭検出」にすれば、VirtualPainterの水彩画風になる。

 そして、水彩絵の具っぽくするために、CMYチャンネルを選択して、「フィルタ→ノイズ→ダスト&スクラッチ」をかける。そうすると、もうかなり水彩画調に感じられるようになる。そして最後に水彩絵の具のにじみを再現するために、CMYチャンネルのみに「フィルタ→表現手法→拡散」あるいは、ランダムのグレーノイズを2チャンネル分用意して、「フィルタ→変形→置き換え」でにじみを表現しよう。ちなみに、今回は「フィルタ→変形→置き換え」の方を使ってみた。ここで、「フィルタ→ブラシストローク→はね」はCMYKモードでは使えなかったので、残念ながら却下である。また、色モード変換時に彩度が低下するので、彩度アップは適時しておいた方が良いだろう。

 こうして、紙の漉き目に沿った水彩絵の具のにじみも処理すると下のような画像が出来上がる。「できるかな?」の色鉛筆風のメキシコのティファナの風景である。
 

紙の漉き目に沿った水彩絵の具のにじみも入れて、ハイ出来上がり。
「できるかな?」の色鉛筆風のメキシコのティファナの風景

 私のセンスがいまいちなのはさておき、水彩画風にする処理としてはまぁ許せるレベルだと言えるかもしれない。処理自体は何段階もあるが、アクションファイルでも作ってやれば、簡単にできると思う。
 

 さてさて、このイキオイで一気に色鉛筆風も片づけてしまおう。こちらの色鉛筆風の方針は、

  • 画像を何色かに分解して、その色で斜線をひく。
  • 色が濃い部分は別の角度からも線をひく。
  • 細かい部分は黒鉛筆で少しだけシャープな線を入れておく。
という感じだろう。実際の手順はこんな感じだ。

 まずは、まずは「イメージ→色調補整→色相・彩度」で彩度を最大にする。「イメージ→色調補整→トーンカーブ」で少し明るめの画像にする。次に、「フィルタ→ピクセレート→点描」で、何色かの色に分解しつつ、なおかつ点画像にすることであとで色鉛筆風の斜線に変形する準備をしておく。そして、「フィルタ→ブラシストローク→ストローク(斜め)」で点を斜線に変形させ、その後「フィルタ→シャープ→アンシャープマスク」をかけて、エッジをシャープにして、色も鮮やかにして色鉛筆っぽくする。また、現画像を「イメージ→色調補整→トーンカーブ」ですご〜く明るめの画像にしたものに対して、同様の処理をかけて(ただし、斜線の角度は変え)、先程の画像にαチャンネルで重ね合わせる。また、現画像を「イメージ→色調補整→トーンカーブ」でものすご〜く明るくしたものもさらにαチャンネルで重ね合わせる
 この色鉛筆風の処理のコツは点描で分解して、ストローク(斜め)+アンシャープマスクで長めの鮮やかな線にすることである。

 すると、こんな感じで「できるかな?」の色鉛筆風の藤原紀香のできあがりである。Photoshop付属のフィルタだけで処理している割には、なかなか良い感じのできに思えるのだが、それは単に藤原紀香の色香に惑わされているだけかもしれない。
 

「できるかな?」の色鉛筆風の藤原紀香
例:1

例:2

 今回は、写真画像を会画風にするためにはどんな処理をすればよいかを考えるために、Photoshopの内蔵フィルタだけを使って処理してみた。次回は、今回考えた処理の流れを自作アプリで組んでみたいと思う。そうそう、あと「こんな処理をしてみたい」という希望メールも大歓迎です。そういう希望を教えていただければ幸いです。だからといって多分何をするわけでもありませんが、ハイ。
 



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