1999-06-27[n年前へ]
■それを決めるのは誰だ?
見えない「有害サイト指定」の疑惑
今回は全て三人称で語られるハードボイルドな話である。あるサラリーマン、ここでは「彼」と呼ぼう、の実験と、考えを書く。
今回の話の前段階として、
リモートカメラから世界をノゾこう!-Macintosh用カメラ制御プログラムを作る- (1999.06.26)
がある。この話の中に
MAQ?MAK?MAC! ( http://www.maqmakmac.com/)
へのリンクがある。ところが、彼の職場からはそのサイト、MAQ?MAK?MAC!を見ることができないというのだ。彼は会社内のLANとは別のルートでMAQ?MAK?MAC!へアクセスすることが多かったので、なかなか気づかなかったのだ。
彼の頭にある疑いが生じた。彼はその疑念を確かめるために、tracerouteでwww.maqmakmac.comのIPアドレスを直接調べることにした。彼の指はキーボードを叩く、
tracert www.maqmakmac.com (Windowsマシンである)
これでIPアドレスはわかった。彼は職場のマシンからwww.maqmakmac.comのIPアドレスを直接指定した上でアクセスを試みた。すると、彼の想像通りWEBの内容がきちんと表示された。「DNSがうまく動いていないないんじゃないの」という人がいるかもしれないが、そうではない。他のアドレス(後述する例外を除いて)に関しては問題ないのである。
彼の(疑いつつも)立てた仮説: www.maqmakmac.comを彼の勤務する会社は「有害サイト」として認識し、社内からwww.maqmakmac.comへのアクセスをブロックしている。
もうすこし、判りやすく説明するとこうなる。
彼の勤務する会社内のLANから社外へのGateWay内で登録された「有害サイト」のアドレス(URL)を検知して、アクセスをブロックするというシステム(URL検出法)を用いているのである。もしも、会社内からwww.maqmakmac.comというアドレスへのアクセス要求があったら、「駄目だよ」とその要求を蹴ってしまうのである。
しかし、www.maqmakmac.comというアドレスでフィルターをかけているので、IPアドレスを直接指定してやると、フィルタを通りぬけて、アクセスをすることができるのである。
彼の知る限りでは、明らかに彼の会社内で全社的にブロックされてしまうアドレスが確かにある。それが恐らく参考になるだろう。例えば、こういったサイトである。
おやおや、画面表示が少し異なる。ということは、意図的にブロックしているわけではないのか? あるいは、ブロックしている個所が違うのか? これだけではよくわからない。集まってきた情報によると、他の地域の部署ではwww.maqmakmac.comに関しては読みに行けるようだ。
URL規制プログラムで有名な
http://www.cyberpatrol.solution.ne.jp/
の指定する例によれば、「有害サイト」は
- 暴力/精神的、肉体的(画像または文章)
- 部分的ヌードと芸術
- 全裸
- 性的行為(画像または文章)
- 下品、残酷な描写(画像または文章)
- 差別、偏見(画像または文章)
- 悪魔崇拝、カルト(画像または文章)
- 麻薬関係(画像または文章)
- 武器、過激派(画像または文章)
- 性教育(画像または文章)
- ギャンブル、違法行為(画像または文章)
- アルコール、タバコ(画像または文章)
こういったURLアクセス規制は今回の例に留まらない。どこの組織でもあることなのかもしれない。こういったネットワークにからむ問題についてはもう少しオープンにして考える必要があるのではないだろうか。
彼はタバコを深く吸い込み、事件簿を閉じて、そして呟いた。「これ以上の真偽は確かめようがない...」
1999-06-28[n年前へ]
■風呂場の水滴を考える。
オールヌードの研究員
風呂場の天井から浴槽めがけて、水滴がしたたって音がしているのはよくある風景である。ピーンという(もちろん人によっても印象は違うのだろうが)気持ちのいい音がしている。似たようなものとしては、水琴窟などもある。この音がなぜ鳴るかは、ロゲルギストの「物理の散歩道」に詳しい考察がある。それによれば、水滴が一粒落ちたように見えても、実は何粒かに別れており、ちょうどカルガモの親子のようになっているという。つまり、大きな親の水滴の一粒の後を、何粒かの小さな子どもの水滴が追いかけているという具合である。まず、水滴の親が水面に空洞をつくり、その中に子どもの水滴が飛び込むことにより音が出るという。結局、水滴の音を作っているのは、その子どもの水滴の方だという。「物理の散歩道」の中では、針をつたって水滴を落とせば、子どもの水滴ができないという。
風呂に入って、濡らした手から水滴を落としてみる。指の爪の先から水滴を落とすと音はほとんどしないが、指の「はら」から落とすと派手に音がする。ぜひ、自分でも確かめていただきたい。
爪先は比較的尖っているので、落ちる水滴は一粒だが、比較的平らな指の「はら」からの場合には、カルガモ親子のような水滴が落ちているせいだろう。
なぜ、このような違いが生じるかを推測してみたい。まずは、下の絵を見て欲しい。
上の上手な絵が言いたいのは、次のような推測である。
- 平らな表面から水滴が落ちる際には、長く伸びた水のブリッジが出来ていて、1つぶ目の水滴が落ちた後も、このブリッジ部分が「カルガモの子ども」のように小さな水滴となって後を追いかけていくのではないか。
- それに対して、尖った表面から水滴が落ちる際には、先のブリッジ部分のほとんどは水でないため、後続の水滴は発生しない。
計算モデルとしてどのようなものを使うかであるが、私の知っている範囲では大きく分けて2種類のやり方がある。
- 流体をモデル計算する。すなわち、Navier-Stokesの方程式を解く。
- 流体を粒子のようなものの連続体として解く(ex.格子ボルツマン法)
電気通信大学情報工学科情報数理工学講座渡辺研究室( http://assam.im.uec.ac.jp/fluid.html )
また、水滴が水面に衝突する状態の計算は、電気通信大学情報工学科情報数理工学講座渡辺研究室にもあるし、他にもNaSt2DというFreeの2次元Navier-Stokes方程式のソルバーを用いて行われた計算結果が
http://www5.informatik.tu-muenchen.de/forschung/visualisierung/praktikum.html
にある。
Michael Griebel氏らによるNast2Dのコードは公開されているので、その中身をいじりながら、計算を行う予定である。
とりあえず、今回はバックグラウンドを紹介する所までで、次回(といってもすぐではないだろう)に計算の本番に入りたい。
手のひらの実験から考えると、風呂場で水滴の音が聞こえるのは天井が平らなせいだということになる。ならば、鍾乳石のようなつらら形状の天井の風呂場では音がしないのだろうか?しかし、水滴は空気中で落下していく最中には空気の抵抗をうける。そのため、大きな水滴は落ちる最中に分裂し、複数の水滴になってしまう。
となると、
- 落ちる水滴の最初の大きさは、どう決まっているのか。
- 水滴は落下するスピード、水滴の大きさがどの程度になると分裂するのか?
ところで、インクジェット方式のカラープリンターも液滴で画像を描くのだから、液滴の様子は重要な筈である。液滴が飛び散ってしまっては困るし、位置がずれても困る。各社ともカルガモの子ども水滴をなくすために色々工夫をこらしている筈だ。
実は風呂場の水滴問題は重要で、奥が深いのだ。オールヌードで私は考えるのであった。
2000-07-18[n年前へ]
■モザイクの向こう
隠しているから良いのです
「できるかな?」への質問?で、同じような内容のメールを頂くことがよくある。その内の一つは、
感温液晶の入手先を教えて下さい。というものである。何か不思議な気がするのだが、けっこう感温液晶を欲しいと思う人がいるらしい。しかも、そのような人はインテリア関係を扱う人が多い。「人のぬくもり」を感じさせるものを作りたい、というわけのである。これを逆に言えば、「人のぬくもり」を感じさせないものが世の中には溢れているということなのだろう。液晶という実に物理的なものを通して「人のぬくもり」を感じることができる、ということが実に不思議で同時に爽快でもある。
さて、私自身は新宿の東急ハンズで感温液晶を購入したのだが、その人達のメールによれば、最近はどうも置いていないらしい。仕方がないので、
- 日本書籍 後藤富治 村上 聡 著 おもしろ科学モノ情報 200選 2000年版
感温液晶シートですが、実験材料でなくて遊ぶのにという返事を最近は出すことにしている。
使うのでしたら、光洋 03-3212-1571にあるようです。
日比谷パークビル9F
平日8:30-5:30
JR有楽町駅近く
そういうわけで、こちらの感温液晶の入手方法に関するメールの方は良いのだが、もうひとつのよく頂くメールの内容がある。こちらの方はメールを頂いても、返事ができるわけでもなく、いつもそのままになっていた。その内容はと言えば、
画像処理と言えば、まずはAVのモザイクの消し方を研究して下さい。というものである。AVのモザイクというと、あの映してはマズイ部分を隠すアノ画像処理のことだろう。本来のモザイクという言葉のモノだけではなくて、アノマズイ部分を隠す画像処理一般について、それをどうにかして欲しい、と言っているのだろうと思う。
しかし、そう言われても困ってしまう。もちろん、私は「見えないもの」を「見える」ようにするのは大好きであるし、趣味でも仕事でも、「見える?見えない?」の境界線に興味を惹かれ、日夜考え続けている。だから、AVのモザイク〜マズイ部分を隠すアノ画像処理〜のようにわざわざ「見えない」ように細工をされてしまうと、それを何とか「見える」ようにしたいという気持ちが無い、と言ってしまうと嘘になるだろう。
しかし、残念ながら、このAVのモザイクの件に関しては「見えない」方が良いと思っているのである。それは、私の好みの根幹に関わる部分なのであるが、ダラダラと言い訳を書いても仕方がない、やはりここはFAQに対しての答えを用意しておくべきだと考えて、ここに簡単な説明を書いておくことにした次第である。
まずは、代表的なマズイ部分を隠すアノ画像処理の種類を示してみたい。次に示す画像は左から、
- オリジナル
- オリジナルに「モザイク」をかけたもの
- オリジナルに「ぼかし」をかけたもの
- オリジナルに「塗りつぶし」をかけたもの
この3つのマズイ部分を隠すアノ画像処理のなかから、今回は
- オリジナルに「モザイク」をかけたもの
- オリジナルに「ぼかし」をかけたもの
さて、まずは「モザイク」に挑戦してみたい。試しに、ミロのヴィーナスのヌード画像に対して、「モザイク」をかけてみよう。次に示すのが、とあるヌード画像に対して「モザイク」をかけたものである。
19kB | 1kB |
GIF画像ということで圧縮もかけてあるため、一概に比較はできないが、オリジナル画像が19kBであるのに対して、右の「モザイク」画像は1kBしかない。つまり、情報量がおよそ1/20であるわけだ。それもそのはず、上の「モザイク」画像は実はオリジナル画像を単に縮小したものを拡大表示してみたものである。情報量が少なくなるのも当然だろう。
19kB | 縮小したもの(GIF画像) 1kB | 単に拡大表示したもの 1kB |
それでは、画像の情報量が減ってしまっている場合に、元の画像を復元することはできないのだろうか?いや、ハッキリと言えばヌード画像に対して「モザイク」がかけられてしまったとしたら、その「モザイク」の向こうのヌード画像を拝むことはできないのだろうか?
それが実はできるのである。その証拠に巷には「AVモザイク消し器」というものが溢れている。また、そんな大層な機械でなくても、巷には「モザイク」の向こうを見通すノウハウという秘伝が伝えられている。例えば、私がリサーチした限りでは、
- TVの前に半透明のシートを張る
- 目を薄開きにして、TV画面を見る
その原理とは「オリジナルの画像の性質を考える」ことである。先のオリジナルのヌード画像をじっくり見ればわかると思うが、ヌード画像というものは割合滑らかである。マッチョなヌード画像ならばいざしらず、少なくとも女性のヌード画像は普通滑らかな画像であるわけだ。当然である。だとしたら、その性質をフル活用してやれば、「モザイク」の向こうのヌード画像を拝むことができるのである。
もう少しわかりやすく言うと、こんな感じだ。まずは、滑らかなグレイスケールの画像に「モザイク」をかけてみよう。
オリジナル | |
上の画像に「モザイク」をかけたもの |
すると、元のオリジナル画像は極めて滑らかな画像であるのに、下の「モザイク」をかけた画像は「モザイク」のせいで滑らかでなくなってしまっている。だとすれば、「モザイク」画像を滑らかにしてやれば、元のオリジナル画像っぽくなるのではないだろうか?周囲の画像を考えながら、滑らかな画像にすれば良いのではないだろうか?具体的に言えば、注目画素の周囲で平均値などを計算してやればよいのだろう。つまり、「ボカシ」をかけてやれば良いのである。「ボカシ」をかけると画像はソフトで滑らかになる。「モザイク」をかけた画像が滑らかでなくなってしまっているのを、「ボカシ」をかけることで滑らかにして、元の画像っぽくしてやれば良いのだ。
先の秘伝
- TVの前に半透明のシートを張る
- 目を薄開きにして、TV画面を見る
例えば、上の「モザイク」画像にぼかしをかけたものを次に示してみよう。「モザイク」画像にぼかしをかけることで、元のオリジナル画像に極めて近い画像になっていることがわかると思う。
オリジナル | |
上の画像にモザイクをかけたもの | |
モザイク画像にぼかしをかけたもの |
これが、いわゆるひとつの「モザイク」の向こうのヌード画像を拝む秘訣なのである。試しに、先のとあるヌード画像に対して「モザイク」をかけた画像を「ぼかす」ことで「モザイク」の向こうのヌード画像を拝んでみたのが次の画像である。「モザイク」画像よりはオリジナル画像っぽいことがわかると思う。
オリジナル | オリジナル画像に モザイクをかけたもの | モザイク画像に ぼかしをかけたもの |
さて、それでは逆にオリジナルに「ぼかし」をかけることでマズイ部分を隠すアノ画像処理をした場合はどうだろうか?この場合は「モザイク」の向こうのヌード画像を拝むことはできるだろうか?
といっても、こちらは以前
で扱っているので、ここでは詳しく書かない。ぼけた画像は例えば、- ウィーナ・フィルタ
- ハイパス・フィルタ
と書くだけでも何なので、試しに、Photoshopのカスタムフィルタで簡単な「ボカシ復元用フィルタ」を作成してみたものをここにおいておく。Photoshopユーザは試してみると面白いかもしれない。
このカスタムフィルタの内容はごく簡単なオペレータ演算で、次の図に示すようなオペレータ演算子を用いたフィルタである。 試しにこのカスタムフィルタを用いて、とあるヌード画像に対してかけられた「ぼかし」画像の向こうのヌード画像を拝んでみたのが次の例である。ちなみにここでの「ぼかし」はPhotoshopでガウス「ぼかし」の半径4ピクセルの設定でフィルタをかけてみたものだ。
オリジナル | オリジナル画像に ぼかしをかけたもの | ぼかし画像に 先のカスタムフィルタをかけたもの |
こんな簡単なカスタムフィルタでもとあるヌード画像の「ボカシ画像」を鮮鋭化できて、その「ぼかし」の向こうのヌード画像を拝むことができることが判ると思う。
実際に、私がネット上で膨大な数のエロ画像、いや違った「ボカシ」画像だ、を収集し試した結果ではかなりの割合の画像に対して、驚くべき効果を挙げることができた。本WEBに訪れるような方のほとんどには当然の知識だとは思うが、もしもこういった処理をかけたことのない方がいらっしゃれば、是非一回挑戦しみてもらいたい。特に素人ヌードの「ぼかし」画像がお薦めである(あくまで復元効果の大きさに関してだけど)。
さて、ここまで書いてから言うのはどうかと思うのだが、以前
でも書いたように、私は「素晴らしい芸術は完全な自由の中では生まれない」と思っている。それと同じで、制限の中で表現する方が実は素晴らしいものができると思っているのである。それは、私服の女子高生には心ときめかないが、制服の女子高生には思わず目を惹かれるのと同じである。完全に何でもありの私服だと実はそう簡単に輝かないのだが、制限のかかっている制服だと何故かとても輝いてしまうのと同じだ。私などは、通っていた高校が制服がなかったため、思わず同級生に「セーラー服を着て来てくれぇ」とリクエストをしてしまったくらいである。あれ、何の話だっけ...そう、つまりわざわざ隠してある部分を眺めてみることは良いとは思わないのである。隠してあるものは、隠しておいたままにしておいた方が良いのではないか、と思うのである。
そう言えば、先ほど「ミロのヴィーナス」の画像用に表紙を使わせて頂いた細野不二彦のギャラリーフェイクの中では、主人公藤田が、
「ミロのヴィーナスは腕が隠されているからこそ、人々の心を捉えたんじゃないですかね」というようなことを言う。私も本当にそう思う。
「ミロのヴィーナス」の存在しない腕を想像することで、現実には作りえない理想の姿を、その像を見る人々は感じることができるのだろう。隠してあるからこそ、良いのである。
あまりに緻密に描写した弟子に「言い仰せて何がある」と言ったのは松尾芭蕉だったはずだ。想像する余地を残して、現実よりもさらに大きいものを表現した方が良い、ということである。私も本当にその通りだと思う。ある一部分だけを切り取ってその部分だけを見てみて、後は想像力におまかせというのが、私も表現としては一番良いと思うのである。もちろん、全ての人の想像力を越えるものを表現する力があるというならばともかく、そんなことができないのならばわざと一部分だけを表現するのが一番良いと思うのである。
いや、だからって別に私が変な想像をしまくりってわけじゃないとは思うけど。かといって、私が想像力とか好奇心が少ない方かと言われると...うーん...
2000-08-16[n年前へ]
■エアコンの風は心地よく吹くか?
真夏の夜の夢 流体力学入門編
私は長野県の野辺山という高原で幼い時期を過ごしたせいか、暑さにとても弱い体である。なので、真夏の夜はエアコンが欠かせない体と根性になってしまった。エアコン無しではろくな夢が見られ無いどころか、眠れなかったりするのである。気持ちの良い「真夏の夜の夢」を見るためには、エアコンがとっても重要なのである。
つい先日、そんなエアコンの話題が「今日の必ずトクする一言」に載っていた。それが、
- エアコン用流体素子(PATPEND.)のナゾ
- ( http://www.bekkoame.ne.jp/~jh6bha/higawari.html#000819 )
- 復活する冷蔵庫脱臭剤のナゾ(1/f揺らぎと活性炭編)
- ( http://www.bekkoame.ne.jp/~jh6bha/higawari.html#000901)
(おそらくhiraxさんあたりがやってくれるのではなかろうか)と話題のパスまでされている。いきなり、ボーとしているところを授業で当てられた気分である。
とはいえ、「エアコンの流体力学」というのもちょっと興味のある話題でもあるし、パスされたからにはやってみなければなるまい。そういうわけで、真夏の眠れない夜のパズル代わりに挑戦してみることにした。
さて、部屋の中の「エアコンから送られる風の様子」を計算するということは、流体力学の計算をするということになる。流体力学の運動方程式(ナビエ・ストークス式)に代表されるような方程式群を解かなければならないのである。そこで、以前
の時にいじりかけたMichael Griebel氏らによる非圧縮性流体のNast2Dのコードをもう一度引っ張り出して使ってみることにした。このNast2Dは非圧縮性二次元流れを計算する教育用のソースコードである。詳しくは- TUM INFO V- Homepage - ( http://www5.informatik.tu-muenchen.de/home_us.html )
- Numerical Simulation in Fluid Dynamics A Practical IntroductionISBN 0-89871-398-6
計算するモデルは次の図に示すような部屋である。四畳半一間であるかもしれないし、100畳以上の大きな広間かもしれないが、とにかく正方形の部屋だ。向かって左の青い丸部分にはエアコンがあり、そこから冷たい空気が送られてくるのである。そして、この部屋には何故かタンスがおいてある。「やっぱり、この部屋は四畳半一間じゃないの」というツッコミは言ってはいけない約束である。とりあえず、このタンスが向かって下側にある紫の部分である。このタンスが、エアコンから送られてくる冷た〜い空気流の障害物となるのである。
暑い真夏の夜に、こんな部屋をエアコンで涼しくする時のことを考えてみよう。気持ちよく眠るために、何はともあれエアコンのスイッチを入れるわけだ。そうしないと、暑くて眠れないから当然である。
そして、そのエアコンには送風モードが何故か三つあるのだ。次のような三種類の送風、
- 真っ直ぐ送風するモード
- 単純な首振り送風をするモード
- 山本式エアコン用流体素子を用いた送風をするモード
空気流の速度分布の計算結果を次に示してみよう。
を用いた送風の場合 |
また、これらの場合の計算結果を動画で示したものをMPEG4形式のAVIファイルとReal形式のファイルにしたものを以下に置いておく。エアコンから空気が送られる様子を知るには、何はともあれこの動画を見て頂きたい。なお、手元のRealProducerの制限のために、このReal形式のファイルは古いバージョンのRealPlayerだとアップデートが必要になってしまった。また、MPEG4のCodecが導入されていない場合には、DivXなどをインストールする必要がある。
とりあえず
- 真っ直ぐ送風している場合 MPEG4 AVI ( 289KB ) Real形式( 73KB )
- 単純な首振り送風の場合 MPEG4 AVI ( 577KB ) Real形式( 89KB )
- 山本式エアコン用流体素子を用いた送風の場合 MPEG4 AVI( 693KB ) Real形式 ( 92KB )
また、それぞれのMPEG4形式の動画のファイルサイズを見れば、それぞれの場合の送風による空気流の速度分布の複雑さは一目瞭然である、と思う。真っ直ぐ送風している場合はとにかく単純な速度分布であって動画ファイルサイズも結果的に小さくなっているのに対して、山本式エアコン用流体素子を用いた送風の場合はかなり複雑な速度分布になっていて動画ファイルも結果的に大きくなっているのである。
動画を見ることができない人のために、それぞれの場合の連続した3つの瞬間における部屋内の空気流の速度分布の静止画も示しておく。
1 | 1 | を用いた送風の場合 1 |
これを見ると、「真っ直ぐ送風している場合」にはエアコンの正面は強烈に風が当たっている(つまり冷えまくっている)ことがわかるが、タンスの陰になっている部屋の隅などはほとんど空気が動いていないことがわかる。また、「単純な首振り送風の場合」は送風方向を動かしているとはいえ、その送風方向の変化はかなりゆっくりであって部屋の中の空気流の速度分布はそれほど急激には変化していないことも判ると思う(そういう風に計算しただけではあるが...)。いずれにせよ、もしもこの部屋の中にあなたがいたとしたら、体の決まった部分にのみ冷た〜い風があたることになるわけだ。それは体にはちょっとよろしくなさそうである。
一方、「山本式エアコン用流体素子を用いた送風の場合」は時々刻々と送風方向が変化しており、まるで部屋を舐め回すかのように、冷た〜い空気が送られていることがわかると思う。この部屋の中にもしあなたがいたとしても、体のごく一部分だけに冷たい風が当たるようなことはなく、それほど体に悪くないことが予想されるわけである。
さて、このページもかなり重いページになってきた。本来はこのタンスの裏側の空気が澱みやすい場所の「空気の入れ替わり」を、送風の具合を変えた上で調べてみたいわけであるが、それは次回のお楽しみ、ということにしておきたい。とりあえず、「真夏の夜の夢 流体力学入門編」はここら辺で終わりにしたい。
さて、夏休というわけでこんな景色のところで気持ちの良い風に吹かれてみたりするわけである。この写真の先の方の海の向こうに見えているのは左が伊豆半島で、右が三保の松原の辺である。
暑い夏の夜はエアコンが欠かせない体ではあるけれど、気持ちの上で言えばエアコンよりはおんぼろの扇風機の方が好きだし、扇風機よりも山の上の風の方がずっと好きだ。いつか、山の上を吹き抜ける風の音を録音して、その1/f揺らぎでも調べてみようかなと思うのである... それとも、そんなことをしてもツマラナイだけかな?
2000-09-26[n年前へ]
■高鳴る鼓動は何のせい!? 心電図編
力尽きた時はその時で、笑い飛ばしてよ。
「人間は生まれた時は自由である。しかし、いたるところで鉄鎖に繋がれている。」といったのはルソーである。確かに、その通りだ。生まれたばかりの赤ちゃんの全裸ヌードは、朝からテレビで放送されているのに、大人の全裸ヌードには必ずと言って良いほどモザイクなどが掛けられてしまうのである。どちらも同じ全裸ヌードにも関わらず、生まれたばかりの時と大きくなってからでずいぶんと扱いが違うのである。「人間は生まれた時には自由なのに、大人になると規制がかかってしまう」のである。ルソーの言った通り、映倫やビデ倫が大人になった人間には規制をかけてくれるのだ。
ところで、少なくとも昔の私はこんな規制が全く不必要であった。といっても、聖人君子のような悟りを開いていたわけではもちろんなくて、それには深い事情があったのである。
高校時代の体育の授業で体操をしていた時のことだ。確か前宙か何かに失敗して私は頭からマットの上に真っ逆さまに落ちた。ちょうど、横溝正史の描く「湖面の上に足だけを付き出した死体」のように私はマットに突っ込んだのである。いや、その時は冗談で無しに一瞬自分が死んだかと思ったくらいだった。「どうせ死ぬならもっと格好良い死に方をさせてくれぇ」と思うくらいのヒドイぶつかり方だった。その時は、ズキ・ズキ・ズキ…と死ぬかと思うほどのヒドイ頭痛に襲われたが、それも結局30分位でなんとか治まったのである。少なくとも、その時には「治まった」と思ったのである。
ところが、その後遺症はすぐに(?)私の目の前に現れたのである。何とも、その後遺症はイヤな再登場をしたのであった。
深夜TV、いや11PMか何かだったか、とにかく何かのテレビを私が眺めていると、大胆な水着の女性が登場した。私の「血圧も心拍数も心持ちアップ(従来比)」した、と思った瞬間、ズキ・ズキ・ズキ…とあの死ぬかと思ったヒドイ頭痛が再登場したのである。別にアンコールをしたわけでもないのに、勝手に頭痛が再登場したのである。全然大胆な水着の女性を眺める暇なんかもなくて、私はただ頭を抱えて転げ回るだけだった。
この頭痛はこの一回ポッキリでなくて、私が少しでもエロを感じるたびに再登場した。もうエロビデオ何か見ようなどととしたらもう大変である。映倫のモザイクが登場するより早く、私の頭の中の倫理協会の拒否権が発動されるのである。映像美に私の心臓が「ドキ・ドキ・ドキ…」とときめいたりするとモウ大変、悪さをした孫悟空が三蔵法師に緊箍(きんこ)を小さくされて苦しむように、私も同じく七転八倒しなければならないのである。映倫やビデ倫のモザイクはただ見えないだけであるが、私の心の中の倫理協会は肉体的な制裁まで加えてくれるのであった。真夏のただでさえ暑くて心臓がドキドキしている時なんかに、エロビデオを見ようなんて思ったらもう大変、百発百中病院行きだったのである。
その後、私は頭痛に苦しめられるたびに病院へ行った。医者はその度「どうしました?」と聞くわけであるが、そう言われても私も困ってしまうのである。まさか、「テレビのエロシーンに興奮したら、ひどい頭痛に襲われました。」などと答えるわけにはいかない。いや、もっとはっきり言ってしまえば「宇宙企画のビデオに興奮して、頭痛に襲われました。」などと言うわけにはいかないのである。
そんなことを言ったら最後、「宇宙企画のビデオに興奮って、アンタそれでは変態ロリ野郎ですよ。」等と医者に言われかねない。それどころか、「頭痛ってアンタそりゃ、天罰ですよ。ヘッヘッヘ…」などと医者に言われかねないのである。しょうがないので、私は「いや、なんか急にちょっと頭痛がして…」などと体中にダラダラと汗をかきながらウソをつくしかなかった。当然だとは思うが、間違っても
エロビデオに興奮 -> 心臓ドキドキ -> 頭痛ズキズキという、うれし・恥ずかしフローチャートを告白するわけにはいかなかったのである。
結局、何回か脳波検査等を受けたりはしたのであるが、結局よく判らないままだった。どんなときに頭痛が起きるかを正直に言わず、ウソばかり喋る患者だったのだからしょうがないかもしれない。それでも、数年の内にいつの間にか直ってしまった。ともあれ、一時は心臓がドキドキと打つ心拍音を気にしながら、11PMを見たりしていたのであるが、いつの間にか堂々心拍数を気にせず見ることができるようになったのである。
そんな過去を思い出したのは夜の仕事場でだった。その時、私はとあるセンサ用の回路をせっせと組み立てていた。その時にBURR-BROWNのINA118という石を使ったのであるが、このデータシートには何とこんな使用回路例が載っていたりするのである。もともと、微小電位増幅用の石だからとても自然な応用回路例ではあるのだが、やはり回路図の中に人間が登場すると何故か笑ってしまう。疲れてハイになっていた私は大笑いすると共に、心電図や脳波検査を受けた昔を思い出したのであった。
http://www.burr-brown.com/WebObjects/BurrBrown/download/ DataSheets/INA118.pdf |
この回路は人間の体の微小電位を増幅して計測してやる回路であるから、この回路を使えば人間の体の電気的な活動を見てやることができる。この手のことが詳しくやりたかったら、やはり「今日の必ずトクする一言」とか「魅惑の似非科学」といったところを眺めると良いと思う。
ともあれ、かつて私は
エロビデオに興奮 -> 心臓ドキドキ -> 頭痛ズキズキという「うれし・恥ずかしフローチャート」に苦しめられていたわけであるが、逆にこの石を使って「心臓ドキドキ」を計測して、逆に「私の興奮度合い」を眺めてやろう、私は決意したのである。そして、私の興奮度合いだけでなくて他の人の興奮度合いも覗きまくろう、と考えた。
そこで、早速この回路図を元に組み立ててみたのがこの「Heartbeat1000」だ。安定性なんか無視しまくりのブレッドボード使用でそのくせGainは1000倍に変更という、無意味なエアロパーツを付けたヤンキー車のような仕様である。製作時間は本体が15分、さらに電極部分が30分というお手軽装置だ。
一応、電極部はこんなベルト固定式にしてあるので「誰でも簡単に使える」ようになっている。しかし、このベルトで体に電極を張り付けた状態というのはかなりサイバー(よく言えば)であり、他のもっと正直な言い方で言うとかなりアブナイ状態である。これを付けていると、それだけで受けが取れるのではないかと思えるほどだ。
それでは、早速この電極を胸に張り付けた状態でWEBサーフィンでもしてみることにしよう。自分の興奮度合いが丸見え状態での「うれし・恥ずかしWEBサーフィン」である。
まずは、自分のWEB「hirax.net」を眺めてみた。その時の「Heartbeat1000」の出力がこんな感じである。これが私の心電図というわけだ。左上の時間・電位レンジを見ると、
横軸が一マス一秒で、心拍が大体一秒間に一回で、その時に「Heartbeat1000」の出力にして5V程度のパルス(ゲインが結構高い)が出ていることが判る。この画面中では、13回心臓がドキドキしている。この画面は十秒間の記録画面であるから、一分当たりに直すと心拍数は78回ということになる。
縦軸が一マス5V
当たり前と言えば当たり前だが、自分のWEBを眺めてもそうそうドキドキはしない。とんでもないミスを見つけたりすると、ものすごくドキドキすることもあるが今回は軽く眺めただけなのでそんなドキドキは幸運ながらなかった。せっかくだから、自分のWEBを眺めて楽しくてドキドキしてみたいものではあるが、不幸なことにそんなことも全くなかった。実に残念なことだ。
そこで、次にZAKZAK(http://www.zakzak.co.jp/)でスポーツニュースを眺めてみた時の心電図が次の結果である。
こちらは、画面中の心拍数が14回であるから、一分に直すと84回である。さっきよりは幾分興奮しているようである。あくまで、ZAKZAKのスポーツニュースであって「ギャル満載」のコーナーでないということは、データの正確さの為にここに宣言しておきたい。
そして、最後に興奮しそうなスケベサイトということで、かつて一世を風靡し、インターネットの牽引役ともなった(言い過ぎか?)TokyoTopless(http://www.tokyotopless.co.jp/)を眺めてみた
こちらも、10秒間の心拍数が14回で一分当たりでも同じく84回だ。つまり、私はエロサイトを見ても「心頭滅却し火もまた涼し」状態で、何の興奮もしていないのである。少なくとも、私はZAKZAKのスポーツニュースと同じ程度にしか興奮しないようだ。私は正に聖人君子なのである。さすが、
エロビデオに興奮 -> 心臓ドキドキ -> 頭痛ズキズキという「うれし・恥ずかし聖人君子養成ギブス」で何年も鍛えただけある。もう、清廉潔白を絵に描いたような状態である。えっ、何やら「Heartbeat1000」の出力が何か不安定になっているって?どうみても興奮しているって?本当はこのあと興奮しすぎたせいで、データ取得ができなくなったんだろうって? いいじゃないの、そんなことは…
ところで、こんな風にオシロスコープの画面で自分の心臓が動くようす、自分の生きているようすを自分の目で見ているととても不思議な気持ちになる。私が興奮すれば、オシロスコープに描かれていく画面は高鳴る鼓動を見せてくれるし、何かに苦しめばやはり同じようにその変化を見せてくれるだろう。ただ規則正しくパルスを描くオシロスコープの画面を見ながら、色々なことを考えてしまうのだ。もし、このオシロスコープの軌跡が停止したら、どうなるだろうか?その時何を思うだろうか?