1999-03-30[n年前へ]
■ペットボトルロケット
天まで昇れ
-天まで昇れ-
先日、2月21日、糸川英夫が死去した。ロケットを研究し続け、日本のロケット技術を築き上げた人である。
ISAS(宇宙科学研究所)の歴史(http://www.isas.ac.jp/info/history/index-s.html)
そこで、私たちが簡単に打ち上げることのできる、ペットボトルロケットについて考えてみたい。ペットボトルロケットは素晴らしい科学おもちゃだ。ロケットが大気中を飛ぶときと、宇宙空間を飛ぶときの原理の違いを的確に体現していると思う。それは、ペットボトルの中に水を入れてあることだ。ペットボトル中に水を入れることで、革命的ないくつかの効果があると私は思う。挙げてみると、こんな感じだ。
- 空気と水の粘性の違い->水の方が長時間にわたり一定の噴出量にしやすい。
- 気体(空気)と液体(水)の圧縮性、質量の違い->
- 空気を噴出する場合には、ロケットの前後の圧力差が推進力を支配する。
- 水を噴出する場合には、反作用力(運動量保存)が推進力を支配する。
空気のほうは温度が違うと結構違う。摂氏0度で1.293kg/m^3であり、100度で0.946kg/m^3である。もちろん、気圧が違えば、それに比例して体積は大きく変わる。
結局、空気と水とでは質量が約1000倍違う。だから、ペットボトルロケットが後ろから水を噴出する場合には、空気の場合に比べて、1000倍もの反作用力を受けるのである。つまり、ロケットは1000倍の推進力を持つことになる。ただし、空気の場合には、ペットボトル中で数気圧分圧縮されているので、質量も数倍になる。したがって、正確には1000倍の数分の一ということになるだろう。
逆に、ロケットの前後の圧力差を考えてみる。、空気の場合には、前後で数倍の圧力差が生じるだろうが(WEBで調べると5-7倍位が通常上限のようだ)、水の場合には前後での圧力差はほとんどないだろう。だから、水を噴出する際にはこれによる推進力はほとんど働かないだろう。しかし、空気を噴出する際にはこの圧力差によりロケットは進むことになる。真空中ではこの方法では推進力はほとんど働かない。
こういった違いをもとに子供(といっても高校生位か)に宇宙でのロケットの原理を説明すると面白そうだ。これら推進力の違いは、とても大きいと思う。
かつては、セルロイドを使った小さなキャップロケットの時代だった。今は、ポリエチレンテレフタラート製の大型ロケットの時代に変わった。
今日は久しぶりに雪が降った。「雪は天からの手紙である」と言ったのは、雪を研究し続けた中谷宇吉郎だった。ならば、私たちが打ち上げるペットボトルは天へと届けるロケットだ。空へ高く届くように、私たちはそれを打ち上げ続ける。いつか、私たちのロケットは天へ昇る。
1999-07-05[n年前へ]
■目に映る明るさって何ですか?
君は天然色
前回、デジカメ画像をスクリーンセーバーにしたい-記念写真を飾ろう - (1999.06.30)
を作るために、いくつか調べ事をした(ホントはずっと昔に)。それについてまとめておきたい。
調べたことは、
- カラーから白黒への変換はどうする?
- セピアカラーって一体何だ。
- セピアカラーへの変換はどうやろう?
カラーから白黒への変換はどうする? どうしよう? これは結構難しい問題(結果的にやったことは簡単でも、プロセスとしてはすごく難しい)だ。そうそう白黒の世界を見たことのある人はいないだろう。特殊な状況下(たとえば、すごく暗い所とか)では色を感じないこともあるだろうが、普通の世界は天然色である。フルカラーの世界だ。そもそも明るさって一体何だ?(明快に答えられる方教えてください。) 例えば、下の図で明るい順番はどうなっているだろうか?自信を持って答えられるだろうか。
とグチを言っていてもしょうがないから、決めてしまおう。うす暗い(1lx程度)部屋で景色を眺めてみよう。その時見える世界が、明るさの世界だ。そこには色など存在しない。確かめて欲しい。今回は、とにかくそれを「明るさ」の尺度としてしまおう。
(興味ある方は明るさを測ろう- 新技術の女神 -(1998.11.13)もご覧下さい)
次に明るい部屋へ移動する。そこでは、新たなものが加わる。それが「色」である。ということで、「明るさ」+「色」で世界を表現することにしよう。
いきなりではあるが、人間が光を感じる網膜内の光受容器には錐体と桿体がある。
「視覚と画像」 大頭・行田 著 森北出版より |
それでは、明るい部屋で感じる色はどうなっているだろうか。色を感じる錐体の中には波長感度の異なる3種類の視物質がある。それぞれの波長感度を以下に示す。
CQ出版 洪 博哲著 「お話・カラー画像処理」より |
次に、それらの3種類の視物質による錐体が組み合わさった時の波長比視感度を以下に示す。点線で示してあるほうは比較的暗い場所での波長比視感度なので、今回は無視して欲しい。
「視覚と画像」 大頭・行田 著 森北出版より |
後は、このグラフを元に赤、緑、青の3点で重み付けしてやれば良いだろう。
というわけで、グレー化のために使っているのはこの式だ。
- Red: ptr[2]
- Green: ptr[1]
- Blue: ptr[0]、として
やっと、ここまで辿りついた。結局使うのはこんな簡単な式なんだ、っていうツッコミは無しにして欲しい。同じ式を使うのでも、私はそこまでのプロセスも重視したいのだ。
さて、こういった色を扱う話題であれば、脇色彩研究所のWEB(http://www.mmjp.or.jp/rwicp/ )中から
- 色に対する感じ方(眼とフィルム)( http://www.mmjp.or.jp/rwicp/data106.html )
- カラーフィルムの特性と色再現( http://www.mmjp.or.jp/rwicp/filmirosai.html )
- 明るさの見え方(明暗対比)( http://www.mmjp.or.jp/rwicp/data506.html )
- 色覚、眼の色に対する感じ方( http://www.mmjp.or.jp/rwicp/data509.html )
また、文中でも書いたが、「明るさとは***ということだ」と明快に答えられる方は私に是非教えて頂きたい。もし、素晴らしい答えが頂けたら、粗品(言葉通りの)を進呈しても良いと思っているくらいだ。
なお、以下のような答え方は遠慮致したい。
例1:
私 「液体と固体はどう区別するの」
A 「融点を境にして上と下」
私 「....」
例2:
私 「クジラは哺乳類、魚類どっち?」
A 「卵生まないから哺乳類」
私 「...」
1999-12-19[n年前へ]
■母に捧げるバラード
宿題は自分でやってくれぇ
今回の話は、とあるメーリングリストから始まる。仮にそのメーリングリストを"family-ml"と名付けておく。そのfamily-mlで論争が起きたのである。
メーリングリストで論争が起きることはよくある。しかし、このfamily-mlは通常のメーリングリストではなかった。実は、とある家族を構成員とするものであった。そう、この家族は専用のメーリングリストを持っているのである。そこで、この論争は起きた。
各登場人物の紹介は随時していこうと思う。
To family-**@hirax.net From 母 Subject: レポート課題がわからない みなさんお元気ですね。 大気の持つ質量あたりのエネルギーを、次の二つの例について求めなさい。 「下」 赤道付近の地表面付近の大気 「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気 結果を次のような表にまとめなさい。 さて、インドの話はいらしたときにします。大変な国ですが、行って良かったです。 母 |
この「母」はいまはやりのヤンママではない。戦中に生まれたお年の方である。去年辺りから仕事のない日に大学へ社会人学生として通うようになったのである。
To family-**@hirax.net From 兄 Subject:Re: レポート課題がわからない > レポート課題 SOSです。だれか教えて下さい。 この「母」のレポートって「弟」の得意な専門の問題じゃないの? > 高さ 1500m(=15Km) あと、15000mの間違い? 兄 |
「兄」はとあるWEBのwebmasterである。「母」の年からすれば、そうそう若くもないことがわかる。
To family-**@hirax.net From 父 Subject:Re: レポート課題がわからない >結果を次のような表にまとめなさい。 父 |
「父」はhiraxという名前を数十年名乗ってきた、元祖hiraxである。
To family-**@hirax.net From 母 Subject:Re: レポート課題がわからない 今年は地球科学概論をとった。確か昨年「兄」が次は地球科学がいいと、 母 |
確か、この「母」は去年は「応用化学」をとっていた。なぜ、そういう無理なことをしたがるのだ。
気持ちはわからないでもないが、もう少し考えて欲しいものである。
To family-**@hirax.net From 兄 Subject:Re: レポート課題がわからない > 今年は地球科学概論をとった。確か昨年「兄」が次は地球科学がいいと、 いや、私が言ったのは「どうせ習うなら自然科学史みたいなのの方がいいよ。」です。「地球科学概論」だなんて言っておりません。 >自分の責任のあることを「弟」に振ろうとしていませんか。 いや、私に責任はないと思うのですが... >だれでもいいです。「弟」、助けてくれますか? そうそう > 「弟」 兄 |
To family-**@hirax.net From 弟 Subject:Re: レポート課題がわからない >そうそう > 「弟」 地球科学概論なんだから、宇宙・地球物理専攻の人がやるべき 最近、修論のまとめで忙しいです。 弟 |
To family-**@hirax.net From 兄 Subject:Re: レポート課題がわからない > 地球科学概論なんだから、宇宙・地球物理専攻の人がやるべき しかし、これってほとんど化学工学ではないでしょうか。だから、 兄 |
To family-**@hirax.net From 母 Subject:Re: レポート課題がわからない >>> そうそう助けてやれよ > 「弟」 そろいもそろって、冷たい兄弟ですね。 母 |
うちの「母」はこうなると怖い。
To family-**@hirax.net From 「妹姉」 Subject:Re: レポート課題がわからない >>>> そうそう助けてやれよ > 「弟」 >そろいもそろって、冷たい兄弟ですね。 そういうと、私まで一緒みたいに聞こえます。やめて下さい。兄妹とか姉弟 「妹姉」 |
To family-**@hirax.net From 父 Subject:Re: レポート課題がわからない 「母」がせっかく苦労してレポートをと考えているので、hiraxファミリーの 多分、「兄」や「弟」だったら、チョチョイだから。 > どうせ習うなら自然科学史みたいなものの方がいいよ。 父 |
To family-**@hirax.net From 兄 Subject:Re: レポート課題がわからない >多分、「兄」や「弟」だったら、チョチョイだから。 >今朝、「父」は物理的な意味だけは、10分間講義してあげました。 そんなに若くはない年で働きながらも、大学へ行こうとする「母」の 兄 |
さて、配達された最後の手紙が以下である。
To family-**@hirax.net From 兄 Subject:Re: レポート課題がわからない 昨日の電話など、何やらプレッシャーが感じられてきたので、適当に問題にとりかかって まずは、簡単そうな位置エネルギーと運動エネルギーから。「地球科学概論」 「問題」 「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気 「上」「下」それぞれについて 「回答」 「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気 h=15000(m) 「下」 赤道付近の地表面付近の大気 h=0(m) を代入し、 「上」 1.47*10^(5) J 「下」 0 J を得る。 運動エネルギーDは速度v(m/s)に対して、 「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気 v=20(m/s) 「下」 赤道付近の地表面付近の大気 v=5(m/s) を代入し、 「上」 200 J 「下」 12.5 J を得る。 さて、次に「A.内部エネルギーの温度に比例する部分、B.内部エネルギーの水蒸気に比例する部分」 「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気 (300-6×15)K 最後に「B.内部エネルギーの水蒸気に比例する部分」であるが、水が液体から気体に変化するときのエネルギー収支を考る。蒸発熱が2498J/gであることを考え、計算を行う。 「上」 赤道付近り対流圏界面付近の大気 水蒸気0g なお、検算も読み直しもしておりません。 兄 |
ごくまれにではあるが、「課題を解いてください」という大学生からのメールが届くことがある。そういうメールを見るたびに「うーむ...」という気分になっていたのである。しかし、まさか自分の親の宿題をやるはめになるとは。しかもこの年になって...
2000-01-27[n年前へ]
■「富士の樹海」を目指せ
磁界を可視化しよう
以前から探していた「面白いもの」を入手した。この写真がその「面白いもの」なのであるが、何だかわかるだろうか? ちなみに、大きさは「1cm×5cm」位のシートである。
これは「マグネビュアー」というものである。磁界を可視化してくれるシートだ。マイラーフィルムの間に磁性体を混入させたマイクロカプセルを入れることで、磁界に対する配向性を持たせたものだ。と、言葉でいってもなかなかわかりにくいので、磁界を可視化した写真を示してみる。何しろ、百聞は一見に如かずである。
次の写真は某ピザ店のマグネットシート(よく冷蔵庫の扉に張り付ける奴)の上に「マグネビュアー」をのせたところである。ピザ屋は私の食生活を支えていると言っても良い。私が生きているのはピザ屋のおかげである。
私の「命の恩人」でもある某ピザ店のマグネットシートがつくる磁界が見て取れるだろう。磁界が可視化されているのである。
本WEBではこれまで様々な「可視化」で遊んできた。例えば、
- 感温液晶でNotePCの発熱分布を可視化する
- ハードディスクのエントロピーは増大するか?- デフラグと突然変異の共通点 - (1999.03.28)
- 夏目漱石は温泉がお好き? -文章構造を可視化するソフトをつくる - (1999.07.14)
- 恋の力学 -恋の無限摂動 - (1999.12.21)
- WEBサイトの絆 - WEBの世界を可視化しよう- (2000.01.13)
- 夜のバットマン - 超音波を可視化しよう- (2000.01.17)
上に示した「某ピザ店のマグネットシートの表面」の磁界の様子も面白いが、もっと面白いのは「某ピザ店のマグネットシートの境界」の磁界を可視化したものである。
それが下の写真である。磁界の様子が実感できるのではないだろうか?
下に示す図はドーナツ型の磁石の周りの磁界をCUPSを用いてシミュレーション計算した結果である。この計算結果と同じようなものが「マグネビュアー」を使うと簡単に可視化できる。
普通、こういった磁界の可視化は磁気造影剤や砂鉄みたいな磁性体粒子を用いるのであるが、そういったものはどうにもハンドリング性にかける。液体や粉体などを家の中で実験に使うのはイヤである。いや、もちろん仕事で使うのもイヤであるが... そこで、この「マグネビュアー」が登場するわけだ。
それでは、その他の面白そうな磁界を可視化してみたい。磁界と言えば、やはりアレの登場だろう。もちろん、アレと言えば磁気カードである。クレジットカードや銀行のキャッシュカードといった磁気カードだ。一例を次に示してみる。こんなヤツだ。
カードの下に黒い磁気データ記録部があるのがわかるだろう。
それでは、その「磁気データ記録部」に「マグネビュアー」をのせてみよう。はたして、磁気データは可視化されるだろうか?
といっても、この写真ではわかりにくいので、「マグネビュアー」を拡大してみよう。すると、バーコードのような模様が見えるのがわかると思う。「磁気データ」が簡単に可視化されているわけである。この「マグネビュアー」と普通のスキャナーがあれば磁気データ読み取り機がなくても磁気データが読みとれるのである。
しかし、このカードに関しては内容を解析するとマズイ事情があるので、次回に「ソフマップ」のカードを題材にして磁気カードの内容を可視化してみるつもりだ。題して、
- ソフマップでお買い物 - 磁界の可視化とバーコード - (仮称)
さて、話は変わるが、私はこの「マグネビュアー」を手に「富士の樹海」を目指すつもりだ。「富士の樹海」では」方位磁針が変な方向を示すと伝えられている。そしてまた「富士の麓」ではとかく人は判断を誤りやすいとも聞く。船頭多くして船山に登ると言うが、「富士の樹海」には判断を誤った船が沈没しまくりである。
私は「富士の樹海」の真実をこの「マグネビュアー」で明らかにするつもりだ。「富士の樹海」の謎を明らかにするのである。何故、方位がそして人が判断を誤るのか、その謎を明らかにするのだ。
しかし、もしも、もしも、の話であるが、本WEBの更新が止まった際には、「富士の樹海」で私が眠っていると思って欲しい。「マグネビュアー」が役に立たないはずがないのだが、きっと何か判断を間違えたのであろう。そうそう、あくまで「富士の樹海」である。「富士の裾野」ではないので念のため...
2001-01-13[n年前へ]
■オッパイ星人の力学 第四回
バスト曲線方程式 編
先日、父から封書が届いた。二十一世紀にもなったというのに、e-mailでもなくて封書が届いたのである。これは、やはりアレだろうか。いい年にもなってるのに、クダラナイWEBサイトを立てているデキの悪い息子を厳しく叱るためだろうか?しかも、そのクダラナイWEBサイト(しかも、有害公式認定サイト)の名前が自分の名前(hirax)だったりするからだろうか?それとも、「本が出たなら送れ」とは言われても実は送りたくなかった「あの本」を、少し前に父に送ってしまったからだろうか?いや、それとも…そんなこんなでドキドキしながら封筒を開けると、記事のコピーが二つ入っていた。他には何も入っていないのである。一体これは何の記事だろう?と思いながらそのコピーを眺めてみた。すると、まずひとつは去年の12月25日付けの毎日新聞の科学欄である。二十一世紀を専門家達が予想した記事の横に「究める」というコーナーがあって、そこに「女性の胸と男性の好みの進化的関係は?」というインタビュー記事があった。そして、その記事が蛍光ペンでマーキングしてあったのである。
これは一体、どういうことなのだ?と頭の中がグルグル&複雑な気持ちになりながら、とりあえずその記事を読んでみた。すると、この記事がとても面白い。インタビュー中の
ヒトは異性をどう選ぶのか?そんな疑問から女性のバストと弾性の好みに進化的関係があるかを研究している。という東大大学院の東海林さんの語りもとても面白いし、バストサイズを5段階に変えた女性の合成写真を使い、男子学生300人にアンケートしたという実験とか、巨乳好きの性格が父から受け継いだものであるかを調べるために、父子間で性的好みが伝達されるかを調べる、などの話もとても面白い。最高である。(中略)小さいバストほど魅力的だと母に教えられて育った。しかし、大きいバストが好きな男性がいることに気付いて驚き、「なぜ」と考えたのが研究のきっかけだった。(中略)「大きいバストが本当に普遍的に好まれるかを知りたい。控えめなバストが淘汰されてしまうとは考えたくないから」と話す。
そして、父からの封筒に入っていたもう一つの記事は宇宙科学研究所の新聞の中の宇宙基地利用研究センターの黒谷氏の「Anti-Gravity」というエッセイだった。なんでも、Anti-Gravityという化粧品があって、
それは顔の皮膚のコラーゲンに皮膚がたるまないようにするというものらしい。顔の皮膚にハリをあたえて、顔のたるみを防ぐのである。顔の皮膚のたるみ元をたどれば重力のせいだから、「anti-gravity= 無重力」化粧品ということになるわけだ。じゃぁ、このAnti-Gravityを体中に塗れば、バストやヒップが垂れるという女性の悩みもなくなるのではないか、と「無重力における生物の専門家」である黒谷氏は書いていて、参考文献に本サイトが挙げられていたのである。
うむむ、世の中には巨乳の科学について進化論的に研究している人がいたり、オッパイの力学について考え(てみたりもす)る無重力生活の専門家もいるのだ。これはマズイ。油断している場合ではない。私もオッパイ星人研究をもっと真剣にしなければならない。父はきっと私に「研究の厳しさ」を教えようとしたに違いないのである。私の父はこれまでの「オッパイ星人の力学」を読んで、美味しんぼの海原雄山風に「うわあっはっ、こんなものでオッパイ星人の力学だとは笑止千万!」位のことを言ったに違いないのである。
しかし、それだけではない。「二十一世紀、小さいバスト、大きいバスト、無重力、皮膚、オッパイのたれ」というヒントを与えてくれたのである。ここまでされて何かを書かなくて何としよう。オッパイ星人研究の手は一瞬たりとも休めてはならぬのである。そこで今回は「皮膚のハリ」や「重力」を気にしながら、「オッパイのたるみ・形状」について考えてみることにした。
さて、一体バストの形状というものはどうなっているのだろう?これまでの「オッパイ星人の力学」では
- 半球モデル
- 円錐モデル
そしてもちろん、このモデルに対して不満を持つのは私だけではなくて「これらのモデルには私は納得できません。」というメールがたくさん送られてきた。それどころか、「本当のオッパイをあなたは知らないのではないですか?」という実に失礼?なメールさえ送られて来ていたのである。「それでは、参考までに本当のオッパイの資料でも送って頂けないでしょうか?」とは私は大人なので返事をしなかったが、ちゃんとしたモデルを作らないことにはこれからもそんなメールがまだまだ来るに違いないのだ。
というわけで、今回は新しいバストの形状モデルを提唱してみたい。それは「バストの内部は液体に満ちていて、その液体を外側の皮膚が支える」という
- 水風船バストモデル
こんなモデルに基づいて、バストの形状を計算するにはどのように考えれば良いだろうか?次の図が「水風船バストモデル」における内部の水と各皮膚部分にかかる力を示してみたものである。これはバストの断面をを鉛直方向に示しており、左の黒い鉛直線が胸板であり、赤い線がバストの形状を示すバスト曲線である。(ちなみに、今回はバストを二次元の断面でのみ考えている。)
赤い線がバストの形状を示すバスト曲線 |
「水風船バストモデル」における内部の水には重力がかかり、バストの下の方にいくほど圧力がかかっている。そして、皮膚に面している内部の水はその圧力を皮膚に伝える。そして、皮膚はその圧力で変形しながら水で満ちたバストを支えるのである。この時、バストの形状= 皮膚の形状を示すバスト曲線はどんな条件を満たしているだろうか?
ここで、胸板にそって下向きにY軸をとり、バスト曲線をB(Y)で表すことにしよう。上の図をよく眺めるとわかると思うのだが、バストの形状= 皮膚の形状を示すバスト曲線をB(y)とすると、バスト曲線B(y)は実はこんな方程式を満たす。
まぁ、ここでは簡単のために、係数を省略していたり、バストが本当に垂れてしまうような状況は考えていなかったりするので、ごく簡易的なバスト曲線方程式だと思って欲しい。大雑把に係数などを無視して、言葉で言ってしまえば、バスト曲線の傾きの変化はその点より上に位置するバストの重量に等しい、という感じである。自由境界におけるLaplaceの関係でも連想して頂ければわかりやすいだろうか?とにかく、この条件と適当な境界条件さえ入れてやれば、「水風船バストモデル」におけるバスト曲線B(y)は計算することができるのである。
さて、このバスト曲線方程式を一般化したり、係数をちゃんと計算したり、三次元に拡張したりということはまたいつか行うことにして、まずは適当にこのバスト曲線方程式を数値的に解いてみた。それが、例えば、次の図である。これが、「水風船バストモデル」のバストの形状の一例だ。
赤:すごくハリのあるヤングな皮膚の場合 |
この図の中でバスト形状のプロットが三種類あるのは「皮膚のハリ = 皮膚のヤング率」として三種類の値を使ってみたからだ。以前
の中でそう、もうお判りのはずだ。 「バストに関するヤング率」はまさにヤング率(Young率)なのである。実は年齢に比例する係数だったのだと書いたが、あれと同じである。今回は、年齢で変わっていくバストの皮膚のハリを「バストの皮膚のヤング率」とおいてみたのである。そういうわけで、皮膚のハリ= 皮膚のヤング率によってバストの形状は異なるわけだが、まずは眺めてみてもらいたい。以前のどうみても不自然な「半球バストモデル」等に較べて、ずっとましになっているとは思わないだろうか?特に、藍色・マゼンダのプロットなどかなり自然な形状になっていると思うのである。感受性の豊かなオッパイ星人であれば、必ずしやググッとくるハズである。
さすがに、メチャクチャ皮膚のハリがある赤色のプロットなどは松坂大輔もビックリの「超ロケット乳」になってしまっているが(といっても、この図のアスペクト比に意味はないんだけど)、今や時代は二十一世紀、宇宙へロケットで飛び出す時代だと思えば、こんな「超ロケット乳」を眺めるのもそれまた一興ではないだろうか。ぜひこの「超ロケット乳」には宇宙へ飛び出してもらいたいものである。
もちろん、世の中には「大きいことは良いことだ」という巨乳大好きオッパイ星人達もいるわけで、そんな人達のためにもう少し「大きいバスト」の場合で計算してみたものと並べて比較してみたのが次の図である。
個人の好みもあると思うが、けっこう自然な「巨乳形状」が再現できている。ちなみに、今回使用した簡易的なバスト曲線方程式ではすごく巨乳だったり、皮膚のハリが無さ過ぎてあまりにバストが垂れている場合の計算はできない。簡単に言えば、Yに対してバスト曲線B(Y)が一対一対応しないためである。が、それゆえに巨乳と言っても美乳の範囲のみ考えることができるのである。
また、この「小さいバスト」の場合と「大きいバスト」の場合の比較から、「巨乳は垂れるのよっ!だから、小さい方が良いのっ!」という世の小振りなバストの女性がよく言うセリフの妥当性も確認してみたいところではなるが、そういうことは何か危険なことであるような気もしてきたので、今回は止めておきたい。
ところで、今回の話はAnti-Gravityから話が始まっているわけだが、ちなみに「水風船バストモデル」は無重力下ではどのような形状をとるかと言えば、当然体積に対して表面積が最小となる「半球形状」になる。つまり、「半球バストモデル」は「水風船バストモデル」の重力を無視した特殊な場合であり、逆に言えば「水風船バストモデル」は「半球バストモデル」にバスト内部での重力の影響を加えて一般化したものだったのである。
今回は、とりあえず新たに「水風船バストモデル」を提唱し、そのモデルにおけるバスト曲線B(y)を解くための簡易的な方程式を考察し、それを数値的に試しに解いてみた。次回は今回行った考察を用いながら、少し違うアプローチで「オッパイ星人の力学」を考えてみたいと思う。
さて、今回の話のきっかけともなった黒谷氏らの書いた本「星と生き物たちの宇宙」は原稿のごく初期の段階で実は読ませてもらっていた。その時感想を聞かれたときは、この本はメールのやりとりで構成されているので、「なるべく著者達の私的な部分を消さないままにしておいた方が面白いんじゃないか」なんて適当なことを言っていたのだった。その著者達が書いたこの本のあとがきの言葉を最後に引用して、これからの「オッパイ星人の科学」への「戒め」と「言い訳」としておきたい、と思うのだった…
科学は応用を通じて実生活に関わり、知的追求というこころの喜びにも関わる二面を持っています...多くの人に、こころを喜ばせる科学を楽しんでもらいたいですね。 H.Hirax, A.Kurotani