hirax.net::inside out::2011年04月17日

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2011-04-17[n年前へ]

「放射性物質がある場所が見える目」と「放射性物質を見ないスクリーニング検査」 

 「放射線は目に見えないから怖い」という言葉を聞きます。けれど、目に見えないように思えることも、実は意外に「見る」ことができるものです。

 被災地に住む知人が、身の回りにあるたくさんのものに線量計を向け、放射線量を計っています。たとえば、一番強く放射線を発していたのは、ビル屋上の「水溜まりが乾いた跡」で、およそ20〜50μSv/h程度で放射線を発している、ということでした。公式に発表されている放射線量よりも、自分たちが使う線量計で計った結果はおよそ2倍近く大きいことが多い、ということでしたので、ここで書くμSv/h値は、その程度の違いは持つかもしれない値です。ちなみに、バックグランドレベルの計測値は0.2μSv/h程度だったそうです。

 たくさんの場所・ものを計り続けた結果、強く放射線を発しているのは、アスファルトやコンクリートの上に残る水たまりの跡や、公園に生える木の幹表面や、あるいは、(静電気で粉塵を集める性質のある)塩ビのパイプといったもので、降雨とともに地面に落ちたものが集まるような箇所とか、粉塵を集めるようなものは放射線を強く発していた、と言います。だから、たとえば、ダスキンモップのようなもので、家の中を拭くとモップに付いた粉塵から放射線が発せられていた、というわけです。つまり、「たとえば花粉のような粉塵が集まる」場所は、もれなく放射線を強く発する場所です。

 そういった「大気に漂うもの」が(何かに吸着したりして)地面に降り積もりやすそうな場所を、心の目で眺めて見つけ出してみれば、確かにそういう箇所は他の場所に比べて強い放射線を発している…というわけで、放射性物質がある場所は「見える」のです。

 事故が起こってから、雨が降った跡に地面に残る(水溜まりの跡に残る)黄色い花粉跡を眺め、「放射性物質でないか?」と心配した人が多かったといいます。そして、「それは、ただの花粉ですから心配ないですよ」という説明がされていたのも記憶に新しいところです。けれど、関東地方はともかく、風向きと降雨の組み合わせが悪かった地域では、あの花粉が集まった黄色い跡は、放射性物質が濃い場所と実は”イコール”でもあったわけです。そうした地域では、「その黄色い跡は、別に放射線を発するわけではありませんよ」という説明は、「正しくない」ということになってしまいます。

 …そういった説明を生み出す駆動力を眺めれば、それは今回の事故を生む土壌と同じではないかという気もします。

 長い休み明けの校舎にたまったホコリを、雑巾を持ったこどもたちが拭き掃除する学校もあれば、(こどもたちが登校する前に)ダスキンモップを持った大人たちが掃除する学校もあるかもしれません。…放射性物質がある場所が見える目で眺めれば、そのふたつの学校は ずいぶんと違う(こどもたちに対して違う対応をする)校舎に見えることでしょう。

 線量計を強く反応させる粉塵を集めた知人は、ケースに入れた(ケース越しに20μSv/hを発する)粉塵をズボンのポケットに入れ、「被ばくの有無」を確認するスクリーニング検査に向かいました。ちなみに、「除染が必要かどうか」のしきい値は、3月20日付けで原子力安全委員会が10,000cpmから100,000cpmに変更していて、この値は TGS-136 型 GM サーベイメータ(5cm 口径)を用いた場合の1μSv/h(10cm 離れた場所での線量率)に相当します。けれど、少なくとも知人の(ズボンのポケットに入った)20μSv/hを発する粉塵を検知することはありませんでした。腰に20μSv/hの粉塵を入れた知人は「何の問題もなし」ということで、スクリーニング検査を通過してしまったのです。

 「放射性物質がある場所」は、意外に思えるかもしれませんが、目で見ることができたりします。けれど、その一方で、「放射性物質を見ないスクリーニング検査」もあったりするのです。