hirax.net::inside out::2009年06月05日

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2009-06-05[n年前へ]

水が入った中華鍋を摩擦振動させて遊ぶ 

 夜、バッティングセンターに行くと、中華鍋(に見えた)の中に水が満たされていて、その中にコインが入っている。一体これは何なのだろうと考えていると、同行者が中華鍋の水に手を浸し、両側の持ち手部分を掌で軽く擦りだした。

 ますます、それが一体何なのか、同行者が何をしようとしているのかがわからなくなり、さらに眺めているうちに、鍋がうなり音を出し始め、水面に規則正しい模様が浮かび上がってきた。そして、遂には水面から水滴が飛び跳ね始めた。

 そこまで眺めて「なるほど、これは水が入った中華鍋を振動・共鳴させて楽しむものなのか」とようやく合点した。そういえば、ロゲルギストが「新物理の散歩道 第3集 (自然選書) 」で、水を入れた鍋を振動させた時に生じる規則正しい模様がパラメータ励振によるものだ、という話題を論じていた。

 この変な中華鍋は、鍋の持ち手部分をこすることでパラメータ励振、言い換えれば、鍋の固有振動数に応じた摩擦振動を起こさせることで、震動が加速的に大きくなっていくことを体感する「科学玩具」だったのである。

 同行者いわく「鍋の持ち手をこする手を濡らさないと、上手く水面を波立たせることができない」のだそうだ。それは、乾いた手では鍋の持ち手との間の摩擦係数が低く、摩擦振動が生じずらいからだろう。たとえば、紙をめくるとき、乾燥した指では紙をめくりづらく「指先を舐めてしまったりする」ように、あるいは、バッティングセンターなら、バットをしっかり持つために、掌につばをつけたりするように、乾燥した手のひらは摩擦係数が低いが、水で濡れすと摩擦係数が高くなるのである。

 だから、たとえばワイングラスのようなグラスに水を入れ、そのふちを擦ることで音楽を奏でるグラスハープでも、グラスのふちをこする指は濡らしておく、というわけだ。

 濡れた指先でワイングラスを摩擦振動させ、綺麗な音を奏でるのも楽しいが、中華鍋の持ち手を濡れた手のひらでひたすらこすり、水面で水滴を飛び跳ねさせるのもとても楽しい。そして、バットを握る手につばをつけるということと、グラスハープを奏でる指を濡らすということが、目的としては実は同じだ、と考えてみるのもなんだかとても新鮮だ。