hirax.net::inside out::2012年08月16日

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2012-08-16[n年前へ]

「ビールの法則」で「白ビールの酵母・小麦タンパクの量」を見極めろ!? 

 地ビールの中でも、酵母や小麦蛋白が濾過されずにたくさん残っているビールは、それらの成分が(ビールを照らす)光を散乱させるため、白く淡い色に見えます。 だから、ヘーフェヴァイツェンビール(小麦酵母ビール)などは白っぽく色が淡く見えます。ビール内部で光散乱が生じると「白く見える」のは、照明光(白色光)がビール内部に入った後、ビール内部で光散乱が生じることにより、、ビール内の色素による光吸収が十分行われる前に(すなわちビールの色に色づく前に)、光がビール外部に出てしまうからです。 そういった光は白色のほぼ照明光そのままですから、ビールが白っぽく見えてしまいます。

 そんなヴァイツェンビールを見ながら、「ビールの色を見ただけで、酵母や小麦蛋白の量を判断できるか?」という話になりました。そこで、簡単な計算から「(単位体積あたりの)酵母や小麦蛋白の量」を求めるための方法を調べてみることにします。

 まず、簡単な思考実験から、ビール自体に色が着いていなければ、ビールの色からだけでは「(単位体積あたりの)酵母や小麦蛋白の量」は決められないだろう、ということがわかります。 なぜなら、ビールが完全に透明だったとしたら(全波長で光吸収がゼロだっとしたら)、ビール内部に酵母や小麦蛋白がたくさんあって、そこで光散乱がどれだけ生じようとビールから出てくる光は照明校と同じ白色光になってしまいます。ビールグラスの中(やグラスの向こうの景色)は不透明になりますが、「色」自体は完全に照明光と同じになってしまいます。

 また、ビールの色(たとえばビール内を光が単位長さだけ通過する際に行われる光吸収の量)がわかっていなければ、「ビールの色からだけでは光散乱の量(=酵母や小麦蛋白の量)」はわからないだろう、ということもわかります。 なぜなら、たとえば、濃黄色のビールに酵母と小麦蛋白がたくさん入っていて、光散乱が多く生じることにより「薄黄色のビール」になったとしても、その薄黄色が「元から薄黄色のビールで、光散乱が全然ない(酵母も小麦蛋白も全然入っていない)」のか「濃黄色のビールが光散乱により薄黄色に見えている」のかを区別することができないからです。

 

 ということは、「ビール自体の色がわかっている」という条件下でのみ、「ビールの見た目の色(白っぽさ)から、光散乱の量(=酵母や小麦蛋白の量)を求めることができる」という目処を付けた上で、その上で簡単な解析計算をしてみることにします。

 まず、ビールグラス近傍にX座標をとり、グラス中央を原点とします。また、グラスの高さ方向・グラス回転方向はは無視します。 この時、x軸の正の向きに向かう光量をj(x)、X軸の負の向きに向かう光量をi(x)として、ビールグラスの界面での反射を無視すると、次のような連立微分方程式を書くことができます。 この連立微分方程式の内容はとても単純で「媒質中を移動する光は、進むに連れて光吸収されたり・散乱し進行方向を変えたりする」ということを書いたものです。

 連立微分方程式中で使われている変数、sは単位長あたりの(波長毎の)光散乱率で、kは単位長あたりの(波長毎の)光吸収率です。また、Dはビールグラスの半径で、Lは外部環境光です。

 この連立微分方程式は(連立微分方程式とはいっても)i(x)とj(x)は原点対称の「実は同じもの」ですから、結局のところ、普通の微分方程式です。そうした媒質内部の現象を書いた微分方程式に、ビールグラス境界で「外部からの環境光 L が入ってくる」という境界条件を付けて(あるいは、対称性から原点でi(x)とj(x)が等しいといった境界条件を付けて)、微分方程式を解いてやると、上に書いたようなi(x)とj(x)を表す式が導かれます。

 j(x)はビールグラスの右側に向かう(波長毎の)光量を示し、i(x)はビールグラスの左側に向かう(波長毎の)光量ですから、ビールグラスを外側から見た時の(光の波長毎の)光量はi(グラス半径)=j(-グラス半径)です。 すると、上で求められた解は、「ビールグラスを外側から見た時の(任意波長の)光量=(波長毎の)ビール自体の光吸収率k と (波長毎の)ビール自体の光散乱率 sの関数」という形になっていますから、(波長毎の)ビール自体の光吸収率kがわかっているならば、ビールの「色(任意波長の光量)」を観察すれば、「(光を散乱させている)酵母や小麦蛋白の量」がわかる、ということになるわけです。

 たとえば、右のグラフは(向かって)ビール・グラス右向きに向かう光量=j(x)を、微分方程式を解いた結果から示した一例です(横軸は位置, 縦軸は光量)。向かって左側はグラス外側から環境光が入射するため(右側に向かう)光量が多く、グラス右側では(主にグラス右側から入射した光が)散乱により方向を変えて・右側に進む光が一定量あることなどがわかります。

 しかし、私たちがビール・グラスを眺める時、「色」を感じることはできても、「任意波長の光量」といったものはあまり意識しないものです。そこで、次は、こうした媒質中の光吸収を計算する基本式「ランベルト・ベールの法則(Beer-Lambert law)」を使って、ビールの(見た目の)色と酵母や小麦蛋白の量)を具体的・体感的に眺めてみることにしようと思います。

 …何しろ、ランベルト・ベールの”ベール”はBeerですから、短く言ってしまえば「ビールの法則」です。「ビールの法則」なのですから、「白ビールの酵母・小麦タンパクの量」の見極めのために使わないと、何だかもったいないですよね?

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