hirax.net::inside out::2007年07月09日

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2007-07-09[n年前へ]

続「分業・神の見えざる手」と「ワットの復水器・調速機」 

 ワットは「経済的に引き合う蒸気機関」を生み出した。その過程を辿ってみると、興味を惹かれることが二つある。一つは蒸気機関へ復水器を導入したことで、もう一が、調速機を備えるようにしたことだ。

 シリンダという同じ場所で水の温度を上げ下げし、水を液体にしたり気体にすることで動力を得るのではなく、シリンダは常に高温に保ち、シリンダから離れて置かれた復水器で水蒸気を冷やしつつ、動力を得るように変えたことだ。同じ場所で、水の温度を上げ下げすることで水に体積変化をさせるのではなく、離れ異なる場所に温度差を設け続け、その間に水を循環させることで非常に効率良く動力を得る。それは、経済世界の「分業」を連想させる。人と人の間で、あるいは、国と国でも「分業」することで富が増大し、多くのものが生産される、というアダム・スミスの考えのようだ。ジェームズ・ワットの蒸気機関が備える復水器は、異なる場所を異なる状態に保ち続けることで、動力を得るまさにアダム・スミスの「分業」に見える。

 そして、ワットが蒸気機関に採用した「調速機」はアダム・スミスが言及した「神の見えざる手」そのものである。

 遠心調速機は回転する軸の回りのおもりが遠心力により外に振れることを利用する。蒸気機関の場合であれば、おもりの外への振れがシリンダーへ蒸気を導くバルブを閉じる方向に作用するようにしておく。出力が上がり回転が速くなるとおもりが振れ、バルブを閉じようとし、出力を抑える。出力が下がるとおもりが戻りバルブを開こうとし出力を上げる。 この逆方向の制御(負帰還)の微妙なバランスにより機関の出力を一定に保つ。機関に負荷がある場合でも作用するのでより正しくは出力よりも名前通り速度調整を行うものである。  Wikipedia 「調速機」
 蒸気機関の回転が速くなると、重りが繋がれた「手」が遠心力で上に上がる。遠心力で上がる手は、蒸気機関のバルブを少しだけ閉じる。そして、回転速度が元に戻る。そして、回転速度が低下すると、重りを持つ「手」に働く重力が遠心力に勝り、手が下がる。そして、蒸気機関のバルブを開く。そして、蒸気機関の回転速度は元に戻る。これは、まさに「神の見えざる手」である。遠心力と重力のバランスを原動力として、オーケストラをタクトで指揮する指揮者のように、蒸気機関の回転速度を制御する「調速機」、これはまさに経済活動を操る「神の見えざる手」である。「人々が自らの欲求と窮乏の追求することが、経済を発展させ富を生み出す」という、「見えざる手」と瓜二つに見える。
...he intends only his own security; and by directing that industry in such a manner as its produce may be of the greatest value, he intends only his own gain; and he is in this, as in many other cases, led by an invisible hand to promote an end which was no part of his intention.  Wikipedia 「国富論」
 アダム・スミスがジェームズ・ワットから得たものは、「技術イノベーションの重要性」だけでなく、実は「分業」や「神の見えざる手」といったものへのインスピレーションや、それらを確信するバックグラウンドでもあったのかもしれない。そんな想像をしながら、経済学と工学を繋げてみるのも面白いかもしれない。

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 from n年前へ.

何年も前の、過去の景色を振り返る。何年も先の、未来の景色を想像する。遠くにある世界を静かに眺めてみる。そして、一日、一歩だけ、前に進む。
うえをみる とおくをみるまえをみる ひとつだけすすむ。